第三十話 文化祭準備⑩
毎週日曜の18時頃に投稿します。
よろしくお願いします!!
なぜ、今このタイミングで言うのかが理解できない。それに、中宮と三奈方先輩がいる空間ではずこく断りづらい。しかし、冬真はもうすでに中宮の先約が入っている。中宮の先約を破ってまで河上に付き合う必要はない。
「えーと...」
「だめ...かな...?」
(こ、断りづらい...)
今ここで中宮と回ることを知っているのは冬真と中宮本人のみ。断ったとした時、間違いなく三奈方先輩に「なんで?」と聞かれる。三奈方先輩のことだから、河上がいる前で聞くだろう。
「...考えて...おくよ...」
冬真は何か答えないといけないと思い、咄嗟に出た応えがこれだった。
「そっか......返事待ってるよ!それじゃ、奈々美はこの後予定があるから先に帰るね。」
河上はリュックを背負って笑顔で挨拶をした後、部室を出て扉がゆっくりと閉まる隙間から河上の曇った顔が一瞬、冬真の目に映った。残された冬真、中宮、三奈方先輩の周りの空気は酷く重かった。
(やってしまった...相手を期待させるようなことを言わなきゃよかった...)
冬真はさっき発言したことを深く後悔した。隣にいる中宮は何も言わず、ただ机の上にある完成した冊子を眺めている。すると、三奈方先輩が案の定聞いてきた。
「なんで、あんな言い方したの?」
「...その...なんて言うか...この空気感で断り...づらかった...です。」
「でも、やっぱりはっきりと言わないと。相手を期待させて、落とすような...」
三奈方先輩の言ってることは間違いない。三奈方先輩から軽く説教を食らった後、冬真たちは帰ることになった。三奈方先輩は鍵を閉めた後、戻しにいくついでに先生から呼び出されているらしい。
「お疲れ〜!」
三奈方先輩は冬真と中宮に大きく手を振って、職員室の方へ向かった。冬真と中宮は何も喋らずに靴を履き替えた。特に何も喋らず、ただ駅を目指す。
(き、気まずい...でも、これは俺のせいだ...謝らないと...)
「ごめ...!」
「綾人くん!」
『あ...』
「えっと...なん...ですか?」
冬真は中宮の顔を見ず、真下の地面を見ながら言った。
「ううん...先に言って。」
「あ...ああ。その、ごめん。しっかりと断れなくて...で、でも!」
「いや、いいよ。ななちゃんと回ってあげて。」
「え...」
その瞬間、冬真の心臓が大きく鼓動を打つ。
「ななちゃんに言ってなかったんだよね。綾人くんと回ること。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「とうまっちって好きな子とかいるのかな?」
河上がふいに中宮に聞く。その時、中宮は察した。少し照れながら真っ直ぐ前をみる河上の姿を見て。
「え...ど、どうなのかな?」
「みかっち知らないかぁ〜。文化祭誘ってみようかな?」
「え...」
中宮はその言葉に一瞬、足を止めた。
「え?みかっち...もしかして...」
「い、いいと思うよ!!が、頑張って!!」
中宮が必死に笑顔で河上を応援した。河上は安心したかのような表情を浮かべて、中宮の前を再び歩き出す。
(何言ってるんだろう...私。私がもう誘ったって言えば...でも...)
「何してるの〜?みかっち〜!」
気がつけば、中宮は河上との距離が離れていた。中宮は慌てて河上の距離を縮める。
(綾人くんなら誘われても...断って...くれるよね...?)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(やっぱり、そんな期待なんてするべきじゃなかった...あの時、ななちゃんにしっかり伝えればよかった...)
中宮は心の中でそう思った。
「み、美夏ちゃん...?」
「ごめんね。自分勝手で。ばいばい、冬真くん。」
「あっ...」
中宮は冬真の顔を見ずに、下り坂を駆け降りた。冬真は追える勇気もなく、ただ中宮が走り去っていく後ろ姿を見ていた。
(冬真くん...か...)
「やってしまった...」
何も考えることができず、ボーっとしていたら降りる駅を見逃してしまった。冬真の目の前で電車のドアが閉まり、ゆっくりと動き出す。
(前にもこんなあったような...最悪だ...)
ポケットからスマホを取り出し、AOMを開ける。中宮に送ったメールは未だに既読がついていない。
(どうするのが...正解なんだ...)
ポケットにスマホを入れて、次の駅に着くまで外の景色を眺める。そうしているうちに、駅に着いた。前も同じようなことがあったため、帰り方は大体覚えている。曖昧な記憶を頼りにしながら歩いていると、見覚えのある公園が姿を現した。
(この公園...ってことは...)
公園を通り過ぎようとした時、ブランコに座っている同じ高校の制服姿の女子生徒が視野に入った。まさかな と思い、バレないようにゆっくりと回って顔を確認する。
(美夏ちゃんだ...会うべきなのか...?いや、でも...)
会うべきじゃないと思い、そのまま帰ろうとした時に自販機を見つける。
(フルーツオレ...)
冬真は片手にフルーツオレを持って、ブランコに一人で座っている中宮のもとへ歩く。中宮は近づいてくる影に気がつき、ゆっくりと顔を上げた。冬真はすかさず、顔を上げた中宮の前にフルーツオレを差し出す。
「え...あや...冬真くん?」
「ど、ども。」
「なんでここにいるの?それに私、フルー...」
「これでしょ?」
冬真はもう片方に持っていたミルクティーを差し出す。中宮は驚いた顔で冬真の顔を見る。
「ほら...!」
冬真は無理やり中宮にミルクティーを持たせて、隣のブランコに腰を下ろす。そして、フルーツオレを開けて、一気飲みをした。フルーツオレの一気飲みはキツくて飲み終えた直後、顔を赤くしながらむせる。その姿を見て、中宮は笑った。
「あはは!!冬真くん、何してるの?」
「冬真じゃない...綾人だよ。」
冬真は少し照れながらも、中宮の顔を見ながら言った。
「あ...」
中宮は少し気まずそうな表情を見せた。
「俺は美夏ちゃんと文化祭まわりたい。あそこでしっかりと俺が断っておけば、こんなことにならなかったと思う。本当にごめん。」
「ふふ...何それ...告白?」
「...ある意味、告白かもな?」
冬真は頬を赤くしながら言った。
「なんか恥ずかしいじゃん...ありがとう、楽しみにしてるね!」
中宮は今日一番の笑顔を冬真に見せた。
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