第三話 部っ友
冬真は落ち着いて、文芸部の人が座るのを待った。その時、冬真の心臓はとても大きな音を鳴らしていた。お姉さんボイスの人は冬真と対面に腰掛ける。
「本当に遅くなってごめんね!僕は文芸部の部長、二年の三奈方真雪です。」
「い、一年の冬真綾人です。」
「単刀直入に聞いちゃうけど、文芸部に入りたい?」
三奈方先輩はニコニコしながら聞いてきた。
「一応、そのつもりです。」
「実は文芸部、今のところ僕一人なんだ〜。」
「え?」
三奈方先輩の発言が冬真の頭の中でリピートされる。よくよく考えてみると、文芸部の部活体験に来ている一年生は冬真のみ。そこから、文芸部の不人気さを感じられる。
「僕も一年の頃、驚いたよ。文芸部には部員が一人もいないって言われてさ。」
「それでどうしたんですか?」
「どうしたもの何も、仕方なく一年から部長を務めたよ。部長って言ってもやることないんだけねどね。」
三奈方先輩は少し舌を出し、頬を緩めて言った。
「あっ、文芸部のことを説明する前にお手洗い行ってきていいかな?」
「ぜ、全然大丈夫です!」
冬真は下手くそな笑顔で答えると、三奈方先輩は少し戸惑いながらも部室から出ていった。
(トイレまで尾行して確かめるべき...なのか...?)
誰がどう見ても、顔が整っている男性にしか見えない三奈方先輩。単に声が女声だけなのかがよくわからない。男子生徒の制服に対して、名前は女の子。どう整理したら良いのか、冬真は頭を抱えた。
(——好奇心が勝ってしまった...)
冬真は悩んだ末、気になりすぎてトイレまで尾行することにしたが、尾行するのが遅く、三奈方先輩がどちらのトイレに入ったか確認することができなかった。しかし、入るところを見ていなくても必ずどちらから出てくる。それを狙って角から身を潜めていた。
(こんなことしてるところ、見られ——)
「何しているの、冬真君?」
(ちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)
冬真は反対からくる三奈方先輩に気づかず、激しく動揺する。
「い、いや、別に...自分もと、トイレ行きたくて...あはは...」
誰にでもわかる見苦しい言い訳をして、その場を乗り切ろうと図る。
「そうなの?ここからだと、あっちの方が近いんだよ〜。」
三奈方先輩は歩いてきた方を指さす。
「そ、そうなんですか!ありがとうございます!」
冬真はその場から逃げるように三奈方先輩が指差した方へと早歩きで向かう。三奈方先輩の言う通り、突き当たり左側にトイレが姿を現した。男女トイレ前の足元にはスリッパが三つ置いてあり、その真ん中だけのスリッパが少しずれている。
(これは...どっち...なんだ...?)
冬真はトイレから部室までのほんの少しの距離が、まるで朝早くから家を出て学校まで行くかのように、気と足が重かった。ゆっくりと近づく部室。その中には三奈方先輩が座って待っている。
(絶対に怪しまれた...最悪だ...5分前に戻りたい...)
そんなことを思いながら、部室の扉のドアノブに手をかける。冬真が開けようとした時、部室の中から声が聞こえてくる。冬真は開けず、扉に耳を近づける。
「美夏ちゃんね!それじゃ、これからよろしくね!」
「よ、よろしくお願いします...」
三奈方先輩と一年生の女子、美夏と話しいてる。「よろしく」と三奈方先輩が言っている時点で、美夏は文芸部に入るということがわかる。
(盗み聞きなんてよくないよな...)
「はぁ。」
大きなため息をして、扉を開けた。
「遅かったね〜!」
「あは、はは...えっと...そちらの方は?」
冬真は苦笑いをしながら、椅子に座っている美夏の方に目線を向ける。盗み聞きをしているため名前は知っているが、知らないふりをする。
「中宮美夏ちゃん。4組の子だって〜。」
「な、中宮美夏です。よろしくお、お願いします...」
美夏は軽く冬真に挨拶をする。
「冬真綾人です...よろしく〜...」
冬真も同じように軽く挨拶をして、椅子に座った。
「ってことで!今日貰っていると思うんだけど、入部届のプリントを出してください!」
「俺はまだ、入るって決まってないですよ。」
「いやいや、入ってもらわないと困っちゃうな〜。」
隣にいる中宮はリュックからファイルを取り出し、部活の入部届を出した。冬真もそれを見て、自分だけ取り出さないのは違うと思い、渋々入部届を出した。
「じゃー記入してくれるかな?」
三奈方先輩はテーブルの端っこにあったボールペン二つを取って渡した。中宮は黙々と記入しているが、冬真はゆっくりとペンを動かす。幸い、親のハンコがなければ入れないので、記入したところで入らなくても良い。
「記入できたら、スマホ出してほしいかな。」
「スマホで何するんですか?」
冬真は疑問に思いながらスマホを取り出す。
「グループAOM作ろうと思ってね。」
(え?嘘だろ...これ入ったら絶対に入部しないといけないやつじゃん...)
三奈方先輩はドヤ顔をしながら、冬真の方を見る。冬真はそれに対して、下手くそな笑顔をつくりながらゆっくりとAOMを開ける。少し遅れて、中宮もAOMを開ける。
『ピコン』
冬真はこの音を聞くと、なぜか背筋が伸びる。三奈方先輩と中宮はその不思議な行動に首を傾げた。
「これでいいね。今日からよろしくね!」
冬真と中宮はちょっとだけ頭を下げる。冬真は今から入部しなくてもいい口実を探しているが、思いつかなくて諦めた。
「今日は別に帰っていいし、本読むなり好きにしてくれていいよ。文芸部ってほぼ活動してないし。」
それは文芸部として活動してるのか?と冬真は心の中で思ったが、今からすぐに帰るのはめんどくさいので今読んでいる本の続きを読んだ。中宮はスマホをジッと見ている。
冬真はもう一度入部しなくていい口実を考えたが、考えるだけ無駄だと感じ、集中して本を読むことした。
最後までお読み頂きありがとうございます!!
18時頃に第四話投稿予定です!!
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