第二十六話 文化祭準備⑥
「こ、これは違くて!!小沢さんも離れて!!」
全身に冷や汗をかきながらも慌てて離れようとするが、小沢は冬真の胸に顔を埋める。小沢が顔を強く埋めるため、小沢の柔らかい胸がより一層冬真に押さえつけられる。
(もう、俺の高校人生オワッタ...)
「ちょっ、ちょっと。やよいちゃん!」
「大丈夫だから!」
見ていた女子2人は小沢の肩を持って冬真から引き離そうとする。すると、小沢はハッとしてすぐに冬真から離れた。小沢は離れた後、硬直していたが、少しずつ状況を理解していくと、顔を赤くさせる。
「だ、大丈夫か?」
恐る恐る小沢に尋ねた。見ていた女子2人も小沢の背中を優しく叩きながら、苦笑いしている。
「だ、大丈夫...です。」
「...そうか...よかった。」
冬真は立ち上がって尻をはたいた。
「冬真君も大丈夫?」
見ていた女子2人のうち、1人が気にかけて尋ねてきた。
「え、あ、う、うん。大丈夫です...」
(確か...うん?誰だっけ...?やべぇ...わからねー...)
そんなことを思いながらも、冬真はダンボールを下ろす作業に取り掛かる。内心、この2人があんな状況になった経緯を尋ねられるのではないかと、ビクビクしながら焦っている。
「私たちも手伝うよ〜。」
小沢と見ていた2人が手伝ってくれたおかげで、簡単にダンボールを運べる状態になった。小沢と2人はダンボールを持って部屋から出て行き、冬真もダンボールを持って出る。すると、冬真を気にかけてくれた女子が待っていてくれた。
「あっ...ども。」
冬真は固い扉を閉めて、一緒に教室へ戻る。
「てか、さっき。私のこと誰って思ってたでしょ?」
「うぇ!?」
「あはは。なに、その反応!」
冬真は驚きのあまり、声がひっくり返ってしまった。
「私は夜見心、よろしくね。もう1人の方は、積田雫ちゃん。覚えてあげてね。」
「はい...」
「ところでさ...」
夜見は冬真の方に寄って、耳の近くに顔を近づける。夜見がつけている香水がふんわりと香った。その瞬間、冬真は心拍数が早くなるの感じた。
「やよいちゃんの胸、大きかったでしょ?」
「え、あ、え?は?え?」
「動揺しすぎだって〜!」
夜見は肩を軽く叩きながら、からかってくる。応え方がわからない冬真は顔を赤くすることしかできなかった。
「えっちじゃん...」
夜見はニヤニヤしながら、冬真の前を歩いた。
「遅かったじゃーん!なんかあった?」
教室に戻ると、制作チームが退屈そうに待っていた。そのうちの1人が積田に尋ねる。
「ぜんぜーん。ダンボール待ちしてただけだったよ。」
冬真と小沢のことは何もなかったかのように普通に話して、ダンボールを教室の端っこに置く。そして、積田は冬真に向かってグットポーズをした。
(ありがとうございます!!積田さん!!)
涙目になりながら、積田に両手を合わせた。
冬真は制作チームに加わり、話し合いながらダンボールを黒色のペンキで塗ったりして、楽しく文化祭ウィーク1日目を過ごすことができた。放課後は残ってやる人もいるが、まだ文芸部の文化祭準備が終わっていない。そのため、冬真は残らず部室へ向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お疲れ様でーす。」
中に入ると、三奈方先輩、中宮に加えて河上がいた。テーブルに目を向けると、河上が描いてくれた表紙が並べられている。
「おつかレタス〜。」
三奈方先輩は元気になったようで、相変わらず意味のわからないことを言っている。
「おつかれ、綾人くん。」
(うん?あやと...くん?え?)
中宮は冬真と一対一の時でしか下の名前を呼ぶが、冬真ははっきりと「綾人くん。」と聞こえた。少し驚きながらも、いつもの定位置に腰を下ろす。
「そうだ、そうだ、とうまっち。どれがいい?」
いきなり河上からテーブルの上に並べられた表紙絵を指差して聞いてきた。だが、冬真たちに送られてきた表紙絵に加えて、全く違う表紙絵が3枚並べられている。
「えーと、この3枚って...?」
「あー。これはまゆっちのだよ〜。」
(まゆっち!?へ?)
「ななっちが描いてくれたんだー!」
三奈方先輩は嬉しそうに言った。
(まゆっちって...確かに先輩には見えないこともないけど...)
冬真は苦笑いしながら、描いてくれた絵を手に取ってじっくりと見てみる。実物で見ると、どれも違う味があって選ぶのが難しい。中宮との共同短編なので、冬真は中宮に意見を聞いてみる。
「美夏ちゃんはどれが良いとかある?」
「うーん...」
中宮も困っているようで、顔を難しくしている。
「そんじゃー、河上さんに決めてもらおうよ。」
「あー、それで良いかもね。」
冬真の案に対して、中宮は肯定した。河上は驚いた表情をしていたが、絵に疎い冬真はどれが一番よくできているのかが、わからない。その上、河上は描いてくれた本人だから、一番良く出来て、選んで欲しいと思っている表紙絵があるはずである。
「奈々美だったら...これかな〜。」
テーブルに置かれた一枚の表紙絵を指差した。
「うん。俺はいいよ!」
「私もこれでいい!」
「あと、この他の表紙絵って貰ってもいいかな?」
「とうまっちが欲しいなら、全然あげるよ〜。」
「ありがとう、河上さん。」
冬真はテーブルに並べられた表紙絵をまとめ、表紙にする絵は一番上にして重ねた。
「まゆっち〜、決まった?」
三奈方先輩は結構悩んでいるらしく、さっきの中宮と同じような顔をしている。冬真も、どんな表紙絵なのか気になり、じっくりと見てみる。
(男性2人が肩を組んでいるのと笑っているやつ...もう一枚は抱き合って...うん?)
「三奈方先輩...書いてる短編のジャンルって...」
「もちろん!BLだよ!!」
「ダメですよ。書き直してくださいね。」
「なんでよ!!」
いきなり立ち上がって言う三奈方先輩に驚いて、中宮と河上は目をパチクリさせる。
「販売とかも視野に入れてるんですから...小さい子とかに...」
「英才教育だよ!!」
「えぇ...」
真剣に言う三奈方先輩に冬真は腰が引けた。
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