第十八話 モヤモヤ
「テスト2週間前になりましたので、範囲表配っていきます。」
あれから1週間が経ち、水瀬先生は慣れた手つきでプリントを列ごとに配っていく。
(もう、2週間かぁ...俺も本格的にやらないとな...)
そう思っていても、人はなかなか動くことができない。実際、周りのみんなはテストのような雰囲気ではない。だが、冬真の通っている高校はある程度の学力がないと、入学することはできない。その点、みんなは表では遊びに尽くしているが、裏ではしっかりとやっている。
冬真は配られたテスト範囲表に目を通した。
「先生!多いって!」
「これ間に合うの?」
「うち、やばいんだけどー!」
テスト範囲表が全体にいき渡ると、不満や不安がクラスで飛び交う。
(ちょっとこれは...まずいな...)
テスト2週間前でも、当たり前のように部活動はある。冬真はテストに焦りつつも、いつもと同じ道順で部室へ向かった。部室の扉を開けて中に入ると、中宮が椅子に座ってワークに取り組んでいた。
「三奈方先輩は?」
冬真が中宮に尋ねると、中宮は不機嫌そうに応えた。
「今日、休みだって。」
「そうか。」と言って椅子にゆっくりと座ろうとした時、
「何でそっちに座るの?」
「え?」
冬真はここ1週間前後、三奈方先輩の隣に座っていたため、いつも定位置であった中宮の隣には座っていなかった。そのせいか、中宮と対面して座るのが癖ついてしまった。
「今日、三奈方先輩いないじゃん。」
「そうだけど...」
「となりに...すわってよ...」
中宮はボソッと呟いた。冬真は中宮が何か小さな声で言ったのはわかったが、内容は聞き取れなかった。
「うん?」
「だから...」
中宮は握っているシャーペンに力が加わり、それと同時に取り組んでいたワークの手が止まる。
「隣に...座ってよ...」
冬真と中宮の間に甘い雰囲気が流れる。冬真は一瞬、聞き間違いだと思ったが、中宮の顔が少し赤くなっていることから、聞き間違いではないと察する。その途端、冬真は顔が熱くなるのを感じた。
「なん...わ、わかった。」
理由を聞こうとしたが、これは聞かない方がいいと判断した。
(も、もしかしたら、わからないところを聞くためとか...そんなことだろうな!勘違いはよせ!冬真綾人!)
冬真は何回も心の中で復唱しながら、中宮の隣に移動した。移動して椅子に座ると、再び中宮の手が動き出した。
(これじゃ、集中できねーよ!)
初めてあんなことを言われた冬真はワークの問題を取り組もうとした途端、中宮の言葉が頭の中でリピートされる。
(あー!勘違いすんな!俺!テストまで残り2週間だぞ!!)
《キーン...コーン...カーン...コーン》
学校に残っている生徒が下校を促されるチャイムが鳴る。冬真がこの時間に進めることができたのは、たった5ページのみ。
(非常にまずい...)
キリの良いところで仕上げようと、残りの問題を急いで解く。中宮は冬真の隣で背伸びした後、ゆっくりと冬真の肩にもたれた。
「へ?」
(な、なんで...も、もたれてんのー!?)
「な、中宮...さん?」
「みか」
「み、みか...さん?」
「呼び捨て...」
(は?)
「な、なんか...今日お、おかしいよ!」
いつもなら、大人しい中宮は今日に限って冬真に甘えている。こんな姿は初めてみるもので、どうすれば良いのか冬真はわからなかった。
「そう?」
中宮が冬真の顔を覗き込む。視線がしっとりとした唇に操作され、冬真は思わず息を呑んだ。
「ねぇ...綾人くん。」
「は、はい!」
(冬真君じゃなくて、綾人くん!?)
「一緒に帰ろっか。」
「う、うん。」
中宮はそう言って、ゆっくりと冬真から離れて帰る準備をした。冬真も何秒か遅れて、帰る準備に取り掛かった。
駅までの向かう道のりは、そこはかとなく雨の日と同じような雰囲気を醸し出していた。
(三奈方先輩がなんか言ったのか?なににしろ、絶対に裏がある...)
そんなことを思いながら歩いていると、いつの間にか駅に着いていた。冬真は色々考えことをしていたためか、終始無言でも気まずいと感じることはなかった。
数分待つと電車は駅に到着し、冬真は角席に座った。当たり前のように中宮は隣に座る。
(動くまで時間あるし、聞いてみるか...)
「今日さぁ...三奈方先輩に何か言われたの?」
「え、え、な、なん、なんのこと?」
明らかに動揺しているのがわかる。今日は三奈方先輩は休みであるため、おそらくAOMでやり取りをしたと予想がつく。
「どんな会話したの?」
「ふ、普通の会話だよ。」
「トーク画面見せてよ。」
「な、なんで冬真君に見せないといけないの!?」
「だよな。」と諦めて、リュックから読んでいる本を取り出す。やり取りをしているうちに電車の扉が閉まり、ゆっくり動き出す。慣性の法則で冬真の肩に中宮の肩が触れる。
(なんだろう...なぜか、既視感があるような...)
電車は冬真の最寄り駅に着いた。
「それじゃ、また明日。」
「うん。ばいばい。綾人くん。」
(綾人くんって...いつまで続くんだ...)
冬真は軽く頭を下げて、電車から駅のホームに出る時、
「なんで気づいてくれないの...」
中宮がボソッと呟いた。中宮は冬真に聞こえてないと思っているのか、冬真はバッチリと聞こえた。
(気づいてくれない...?)
どういう意味で言ったのかが、さっぱりわからなかった。家に着いても、中宮の発言がリピートされて勉強しようにも集中できず、なかなか手につかなかった。時計を見ると、長針と短針がピタリと重なり、12時を指していた。
(だめだ...何でこんな、気にしてるんだろう...)
「あーー!気になって勉強できねーよ!」
このモヤモヤは定期テスト当日まで消えることはなかった。
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