第十六話 手料理
一通りゲームを終えて、時計を見ると19時の5分前だった。
「え!もうこんな時間!?」
三奈方先輩は驚いて、自分のスマホで再確認した。ゲームに夢中になっていて、時間という存在を忘れていた。楽しい時間はあっという間に過ぎていくというのはこういうことだろう。外を見てみると、空の奥がまだ少し明るかった。
「そろそろ、おいとましないとね。」
春崎先輩がそう言ってゲームコントローラーを地面にゆっくり置いた。
「そういえば、冬真君の両親ってゴールデンウィークなのにお仕事なの?」
「いや、してないと思いますよ。まぁ、住んでませんし。」
「え...僕、悪いこと聞いちゃった?」
すごく申し訳なさそうな顔をする三奈方先輩に対して、冬真は少し微笑んだ。
「いやいや、言い方悪かったですね。ここに一人で住んでいるというだけです。」
その場にいた中宮、三奈方先輩、春崎先輩は同時に目を点にした。冬真はそんなことに気づかず、コップにジュースを注ぐ。
「え?綾人君、一人暮らししてるの?」
春崎先輩は驚いた表情で冬真に尋ねた。
「そうですけど...」
コップに入れたジュースを一気飲みして、テーブルに置く。確かに、高校生が一人暮らししているのごく稀だろう。しかし、冬真にとってそれほど驚くことではなかった。
「か、家事とか全てやってるの?」
今度は中宮が冬真に尋ねてきた。
「まぁ〜ね。」
「ご飯ってどうしてるの?」
「基本的に自炊かな...たまに、コンビニ弁当のときもあるけどね。」
その発言に対してまた、中宮、三奈方先輩、春崎先輩は目を点にした。
(てか今時、料理できる男子はいくらでもいるだろう...)
「そんに驚くことですか?」
『驚くことだよ!!』
3人が目を大きくしながら言った。
「いや〜、冬真君の手料理かぁ...」
三奈方先輩がいかにも今、作って欲しそうな雰囲気を出す。流石に晩御飯前に作って食べせる訳にはいかない。
「ダメですよ。晩御飯前なんですから。」
「それなら、大丈夫だよ。」
「え?」
「いやー本当はね〜。冬真君の家で遊んだ後、3人でご飯食べに行く予定だったんだよ。」
中宮と春崎先輩の方をみると、苦笑いしていた。冬真は深く息を吸って吐いた。
「いいですけど、人に出せるようなレベルじゃないですよ。」
「いいの!?」
三奈方先輩は子供のようにはしゃいだ。冬真はゆっくりと立ち上がり、冷蔵庫の中にある食材を確認した。
(うーん...足りないよなー...)
できるだけ食材を無駄にしたくないので、冬真が一人で使える量だけをいつも買っている。そのため、4人分を一気につくれる食材がない。
「食材足りないんで、買ってきますね。」
そう言ってポケットに財布とレジ袋を入れると、「私たちもいくー!」と三奈方先輩が言った。
スーパーに着くと、カゴを持って3人で食材を見た。
「なんかこうして買いくるの夫婦みたいだね〜。」
三奈方先輩が冗談で言ったのかわからないトーンで言ってくるため、少し戸惑った。
「わぁ、一夫多妻だー。」
春崎先輩が便乗してくるあたり、冗談ということに確信がつく。
「そんなことより、アレルギーとかあります?」
冬真は食材に目を通しながら聞いた。
「僕、ピーマン嫌い。」
「私はプチヴェールが苦手かな。」
「特にないよ。」
三奈方先輩は子供みたいにピーマン嫌い、春崎先輩は初めて聞く名前を言うし、真面目に答えてくれたのは中宮だけだった。
「まぁ、ないってことですね。」
冬真は確認してから、カゴに食材を手際よく入れていった。なんせ、クラスの誰かに冬真が女子3人と買い物してる場面なんて見られたらめんどくさいからだ。
(誰にも見られませんように...)家に帰ってくるまで、終始願った。
冬真は手洗いうがいをした後、エプロンを着用して買ってきた食材を取り出した。
(とりあえず、食材を切るかぁ...)
〜冬真クッキング〜
再度手を洗い、玉ねぎ、にんじんをみじん切りにする。そして、ベーコンも細かく切る。そしたら、フライパンにオリーブオイルを垂らして、火をつける。フライパンが熱くなったら、切った玉ねぎ、にんじん、ベーコンを入れて焦げないように火を通す。全体的に火が通せたらバターとケチャップ、ライスを入れて、炒める。
次は、卵を割って白身がなくなるまで溶き混ぜる。フライパンに油を全体的に馴染ませて熱し、溶いた卵を入れる。中心を箸で4、5回ぐるぐるとかき混ぜた後、さっき作ったライスを乗せてゆっくりと端から卵をかぶせる。
最後にケチャップをかけると、冬真特製のオムライスができる!!
(4人分って結構疲れるなぁ...)
作り終えた後、冬真は料理人のすごさを実感した。
「お?完成した?」
三奈方先輩はリビングからキッチンの方へ顔を出して話しかけてきた。
「できましたよ〜。」
そう言ってオムライスをテーブルに運ぶと、3人は冬真の手料理を見て感嘆した。
「本当に作ったの?」
春崎先輩が冬真に尋ねた。すると、冬真が答える前に三奈方先輩が応えた。
「ちゃんと作ってたよ〜。」
「え?見てたんですか?」
「そりゃー、異物混入しないか、見てただけだよ。」
「しませんよ!」
笑いながら、じょーだん だって〜 と言った。
『いただきまーす!』
3人はスプーンでオムライスを口に運んだ。その時、謎の緊張感に襲われた。いつも作っているとはいえ、冬真好みの味になっている。
『お、美味しい!!』
3人とも口に合ったようで全員完食してくれた。その後は、皿洗いを手伝ってもらい、時刻は21時前だった。
「今度こそ、おいとましないとね。」
春崎先輩は時計を見ながら言うと、中宮と三奈方先輩は帰る準備をし、外は暗いので駅まで送り届けることにした。余計なお世話かもしれないが、何かあってからでは遅い。
「綾人君、わざわざありがとね。」
「いえいえ、そんな。」
春崎先輩は笑顔で言ってくれた。
「次会うのは学校だねー。」
悲しそうにいう三奈方先輩に少し笑ってしまった。中宮は冬真の目を見て、
「冬真君、ありがとうね!」
と言ってくれた。その時なぜか、ドキッとした。
3人は大きく手を振って改札口を通り、帰っていった。冬真も家に帰ると、さっきまでの賑わいがなく、そこはかとなく心寂しかった。テーブルの方に目を向けると、何か紙のようなものが置かれていた。
(なんだこれ?)
よくみると、1000円札と手紙が置かれており、その手紙を開けてみると、達筆で書かれていた。
『手料理ありがとう!
美味しかった!
真雪より』
(三奈方先輩って......篤実だな。)
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