第十三話 文芸部ゴールデンウィーク遊ぼうの会③
水族館に来るのは小学生低学年以来だった。家族と一緒に出掛けた時、出掛けた先で抽選会が開催されており、それに参加して2等の水族館招待券が当たった。だから、今回が水族館に訪れたのは人生で2回目だ。
「あー!この熱帯魚すごく綺麗!」
小さな水槽をまじまじ見ている三奈方先輩はどこか純粋な少女に戻っているような気がした。
「グッピーって言うそうですよ。」
「なんか熱帯魚飼いたくなってきちゃったー。」
「こっちの熱帯魚も綺麗ですよ!」
三奈方先輩と中宮は冬真を置いて先々と水族館を見回る。
(やっぱり、俺の存在忘れてるよね...)
少し悲しくなったが、ゆっくりじっくりとマイペースで魚を見回った。水族館はとても神秘的で心が癒された。魚を見て移動していると、冬真の目の前に大きな水槽が現れた。水族館に来ている人たちは全員そこで足を止めて写真を撮ったりしていた。
「あっ冬真君〜。こっちこっち!」
遠くの方で三奈方先輩が大きく手を振っていた。俺は少し早歩きをして三奈方先輩の方へ行った。
「これからイルカショーあるんだって!見に行こうよ!」
中宮も三奈方先輩の隣で目を輝かせていた。特に断る理由もないため、イルカショーをみることにした。イルカショーが行われる屋外に行くと、すでに席に座ってイルカショーを待っている人たちがいた。ゴールデンウィークということもあって子供連れの家族が多い。
「席どうしよっかな〜」
よくみると前あたりの席が空いているが、貼り紙を見る限り水がかかるそうだ。前の席に座っている人はレインコートを着用している。
「前の席は水がかかるそうですよ。」
中宮が三奈方先輩に言った。
「えー!なにそれ!おもしろそーじゃん!!」
中宮は三奈方先輩の発言に対して、目が点になっていた。冬真も同じ反応した。
「えっ、何その表情...?」
三奈方先輩が二人の表情を見て疑問に感じる。決して中宮は三奈方先輩に濡れる席に行こう と言った訳ではない。前の席は濡れるからやめましょう というニュアンスで言ったのだ。
「三奈方先輩。前はやめましょう。」
冬真の発言に対して中宮は大きく頷く。かと言って、前の席以外ほぼ埋まっている。しかし、ちょうど運良く男女のカップルが席を譲ってくれた。
「ここの席座っても良いですよ。」
カップルの男性の方が三奈方先輩に喋りかけた。
「え、そんな...」
「予約していた店の時間を忘れてて...あはは。」
「もぅ♡...おっちょこちょい!」
「や、やめろよー。人前で...」
カップルの女性は男性の腕をギュッと掴んだ。それを見ていた冬真は1発ぶん殴ってやろうかと思ったが、席を譲ってくれたということで怒りを抑えた。三奈方先輩は冷たい笑顔で
「ありがとうございます。」
ただそれだけ言った。それを見たカップルはそそくさと室内の方へ戻っていった。
「冬真君と美夏ちゃーん!ここ、空いたよ!」
一部始終見ていた中宮は少し震えていた。冬真もさっきの三奈方先輩の対応にはちびりそうになった。譲ってくれた席は文句の言いようがないほど、良い場所だった。中央の席で全体的に見ることができる。
やがて、飼育員さんがやってきてイルカショーが始まった。始めに今日活躍するイルカの名前を挙げていく。
「はーい!この子は女の子のミミちゃんです!」
そう言って飼育員さんが観客席に向かって手を振ると、ミミちゃんはヒレを出して振った。観客席からは拍手が湧いた。
「ありがとうございます!そしてこの子、男の子のジン君でーす!」
紹介されると同時にジン君は水中に潜って、大きく空中に飛んだ。あまりの凄さに冬真は目を疑った。
「すごいね!!水族館に来て正解だよ!!」
三奈方先輩は興奮していた。その隣で座っていた中宮も三奈方先輩と同じようにはしゃいでいる。
一通りのイルカ紹介が終えると、音楽とともに本格的なイルカショーが始まった。大きく飛び跳ねたり、イルカの上に乗ったりしてどのアクションも驚きと楽しさがあった。
「いやー!凄かったね!!」
三奈方先輩は映画館の時のように、背筋を伸ばして言った。
「本当に迫力が凄かったです!!」
「やっぱ、水族館来たなら見ないとね〜!」
「また見たいですね!!」
中宮は三奈方先輩と共に感動を共有している。冬真はあまりの凄さに体が動かなかった。
「冬真君〜。行くよー!」
三奈方先輩に呼ばれてハッとし、冬真はすぐに三奈方先輩と中宮の方へ向かった。
時刻は16時、18時に閉館であるためお土産屋が少しずつ混んでくる時間帯である。
「お土産見ていく?」
三奈方先輩が冬真と中宮に言った。
「見ていきましょう!」
中宮は元気よく言ったが、冬真はイルカショーの余韻がまだ残っていた。
「いつまでポワポワしてるの?」
三奈方先輩が冬真の脇腹をつっついた。
「ひゃっい!!」
いきなり脇腹を突かれたことで、冬真は変な声を出してしまった。
「そんなに今日のイルカショー良かった?」
「え、そ、そうですけど...」
「そんじゃー、また一緒にみんなで行こっか。」
三奈方先輩は嬉しそうに言って、中宮の方へ行った。
(なんか...三奈方先輩って距離感近いよな...)
お土産を見終わった後、ゆっくりと駅に向かった。冬真はこの楽しさ、充実感がもう終わろうとしていることが何故かとても心がギュッとなった。純粋に楽しめるのかと心配していた時の自分が馬鹿だったように思えた。
「また、一緒に行こうね。」
三奈方先輩は駅に向かっている最中、突然言った。それに対して、中宮は嬉しそうに
「そうですね。」
と言った。冬真もそれに続けて、
「絶対に行きましょう!」
と力強く言った。
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