観察日記
その日一番のニュースは、新型のインフルエンザウイルスが世界中で大流行し始め、近年まれに見る罹患者数、死者数を記録したと言うものだった。
今回のこのウイルスの特徴は、何と言ってもその感染力、そして生命力だった。クラスに一人感染者がいれば、たちまちクラス中に伝染する程の空気感染力で、一度かかってしまうと、適切な処置をほどこしたとしても、解熱に二週間はかかるのだとか。
さて、その頃、植物を研究している学者の中で話題になっていることがあった。
遺伝的にそれほど似通っている訳でもないいくつかの種子植物の種が、異常に硬くなっているのだという。
特に、裸子植物では顕著で、マツの種に至っては電動ドリルでも傷がつかないほどだそうだ。
また、これはまだ観察段階なのだが、これらの種子は高い耐熱性や耐圧性などをもち、過酷な環境では、出芽はしないのに、その形や機能を保ったままであることが出来るかもしれないという。
これは植物研究の世界ではかなり特異な出来事だったが、先のインフルエンザのニュースの影に隠れて、一般人に広まることはほとんどなかった。
その後、生物学界では様々な特異な出来ごとが、あらゆる種類の生物でおこっていった。成虫昆虫の激減、魚類の異常繁殖、鳥類、爬虫類の卵の異常硬化など、数をあげればキリがない。
学者たちは、その原因を日夜調べたが、誰もそれら一連のできごとに納得の行く解を与えることはできなかった
そんな矢先、その日は起こった。
経済、石油、宗教、国のエゴなどあらゆるものがおりまざった戦争が泥沼化し、ついにその日、同時に四つの核が世界をつつみこんだ。
人々は地球滅亡という言葉を思い浮かべながら、その歴史を閉じた。
しかし、滅亡したのは専ら人類と一部の種の生物にすぎなかった。多くの生物は、本能的な意味で気付いていた。その日が近付いていることに。人間がいつのまにか発していたなにかをメッセージとして受けとり、その日の為に自らを変異させていた。
人間だけが、その変異の意味にきづけなかった。変われなかったということだ。