表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

猫の島を歩いた時のヱセヰ

 階段の縁に、猫がうずくまっていた。

 僕が降りながら口笛を吹くと、猫は音もなくすり寄って来た。

 何か落ち着かないのだけど、決して逃げはせず、なでるとそれなりに心地良さそうだった。



 その日、僕はちょっと遠出をしたのだった。

 橋を歩いて、渡って行ける島にいた。

 そこは普段僕が過ごす都会とは異な所。

 道は狭い階段と坂ばっかりで、車も自転車もいない島。

 でも、そんな坂の途中にも民家があって、誰かの日常があったりした。

 それはもちろん人間であるけど、時にはそうでなかったりする。

 この島には猫が多く。

 彼らは我が物顔で、坂の途中やら鳥居の根元やら時にはベンチやらにうずくまったり、寝そべったりしている。

 それはきっと、彼らの日常なんだろう。



 僕にすり寄ってくるこの猫もまた、その階段の縁をいつもバランスをとって歩いているだろうことは、想像に難くなかった。

 彼は撫でるのをやめると、僕のまわりをぐるぐるまわる。すり寄ってくる。

 落ち着きはなく。しかし、離れようとはしない。

 そこには、僕に対する好奇心が感じられた気がした。僕もまたその猫に愛着がわいていた。

 …少し羨しくもあった。


 しかし、しばらくそいつと一緒にいたら、暗くなって来たので、僕は階段を降りて行った。帰路につかなければ。


 すると、猫は僕のあとをついて来た。僕に何があるのだろうか。

 少しだけ距離を置いてついて来る。ゆっくりだけど確実に。

 やがて、島唯一の車道に出ると僕は橋の方へ向かった。

 そこは先程の階段と比べると、土産屋なんかがあって、人通りもそれなりにあった。

 時間的に、橋を渡って陸に帰るらしき人が多かった。


 しかし、猫は、まだついてくる。

 橋をも渡るのだろうか。

 その先はキミの居場所じゃないだろ。キミはいつもあの坂や階段だらけの道を行き来して、踊り場で寝そべったりしてるんだろ。


 しかし、やがて、僕が橋に差し掛かると、猫は何かに言われたかのように、橋の付け根。島の入口のところで足を止め、前脚を揃えて座った。しっぽをゆらゆらさせていた気がした。

 僕を猫の目で見ていた。


 僕は手を振るかわり、二回口笛を吹いた。

 そして、橋の向こうへ。

 僕は僕の普段へ帰って行った。

 猫は猫の普段の縁に座っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ