猫の島を歩いた時のヱセヰ
階段の縁に、猫がうずくまっていた。
僕が降りながら口笛を吹くと、猫は音もなくすり寄って来た。
何か落ち着かないのだけど、決して逃げはせず、なでるとそれなりに心地良さそうだった。
その日、僕はちょっと遠出をしたのだった。
橋を歩いて、渡って行ける島にいた。
そこは普段僕が過ごす都会とは異な所。
道は狭い階段と坂ばっかりで、車も自転車もいない島。
でも、そんな坂の途中にも民家があって、誰かの日常があったりした。
それはもちろん人間であるけど、時にはそうでなかったりする。
この島には猫が多く。
彼らは我が物顔で、坂の途中やら鳥居の根元やら時にはベンチやらにうずくまったり、寝そべったりしている。
それはきっと、彼らの日常なんだろう。
僕にすり寄ってくるこの猫もまた、その階段の縁をいつもバランスをとって歩いているだろうことは、想像に難くなかった。
彼は撫でるのをやめると、僕のまわりをぐるぐるまわる。すり寄ってくる。
落ち着きはなく。しかし、離れようとはしない。
そこには、僕に対する好奇心が感じられた気がした。僕もまたその猫に愛着がわいていた。
…少し羨しくもあった。
しかし、しばらくそいつと一緒にいたら、暗くなって来たので、僕は階段を降りて行った。帰路につかなければ。
すると、猫は僕のあとをついて来た。僕に何があるのだろうか。
少しだけ距離を置いてついて来る。ゆっくりだけど確実に。
やがて、島唯一の車道に出ると僕は橋の方へ向かった。
そこは先程の階段と比べると、土産屋なんかがあって、人通りもそれなりにあった。
時間的に、橋を渡って陸に帰るらしき人が多かった。
しかし、猫は、まだついてくる。
橋をも渡るのだろうか。
その先はキミの居場所じゃないだろ。キミはいつもあの坂や階段だらけの道を行き来して、踊り場で寝そべったりしてるんだろ。
しかし、やがて、僕が橋に差し掛かると、猫は何かに言われたかのように、橋の付け根。島の入口のところで足を止め、前脚を揃えて座った。しっぽをゆらゆらさせていた気がした。
僕を猫の目で見ていた。
僕は手を振るかわり、二回口笛を吹いた。
そして、橋の向こうへ。
僕は僕の普段へ帰って行った。
猫は猫の普段の縁に座っていた。