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イト

人は無数の糸に絡めとられて生きている。


運命やら関係やら何やらの糸に。


ある日男は夢を見た。蜘蛛の糸をひらりとかわして自由にひらひらと飛ぶ夢を。

夢の中でこんな言葉を思い出したと言う。

「これは僕の夢なのか。それとも今迄僕が現実と信じていたものが、この蝶の見る夢なのか…。」

男は感じた。蜘蛛の糸に絡めとられた『現実』になんの意味があるのだろう。と。




目が覚めると男は再びたくさんの糸に絡められていた。少なくとも彼はそう思った。

彼は自分を捉えている糸が見えるような気がした、


男は決心した。いつかはこのいまいましい糸を一つ一つ解放し、いつかは自由に世界を生きると。






その日男は、遅刻ギリギリの時間に会社についた。

オフィスのドアを開けると部長が顔をしかめて彼をにらみ付ける。


「相変わらずギリギリだね。君は。君は早目の行動と言う言葉をしらないのかね…全く……」

遅刻はしていないにも拘らずこの嫌味。

それが終われば既に用意されている山のような仕事、定例会議、休憩時間かと思えば、上司からの休日の誘い…。普段の日々にあきたらず、休日すら奪う『会社』に絡めとられた男。彼はその夢から早く覚めることを決心した。



次の日、彼はその場に来なくなった。『会社』の夢から覚めたのだ。





その日、男の家に彼女がやってきた。彼は自分の愛する彼女は自らを絡める存在ではないと信じていた。


甘かった。


一度始めてみれば繰り返される『愛してる』。お互いがお互いを愛することを強制するかの如き『愛』を男は捉えてしまった。


彼は彼女の愛に絡めとられていた。


小指を切ってしまいたい気なった。と言う。


その後彼は彼女とつながっているもの糸を全て切った。それを『夢』だと決め付けた彼にとって『想い』の糸を断ち切ることはむしろ必然であった。



女すら切った彼だから、友人との糸など切るのはいともたやすかった。


彼は全ての人との糸をそのはさみで切った。これで大丈夫だろうか…僕は自由になれただろうか……。



その時だった。

つけていたテレビは今日のニュースを伝えていた。

その日の政治家の失言、その日の殺人事件、その日のスポーツの結果。

その度に彼の思考はいろいろなことを考えていた。

「こいつは…なぜ人がどう反応するか気をつけてものを言わないのだろう…

うわ、通り魔なんて恐ろしい…気をつけないと……

また、あのチーム負けたのか…もう今年の優勝は無理かな……」

気付いたのは半刻後



僕は情報に絡めとられていた。

思考は世間がながす一方通行の情報に従属してしまう。これでは自由になんてなれない…。



彼はテレビとパソコンを棄て、新聞を解約した。


その後彼が聞いた音。すっきりした部屋で聞いた音。


一秒ごとに刻まれる、壁に掛かった時の音。彼の生活に規則を与える(とき)の音。生活を縛る刻の音…。


彼はついでに、刻の判るものを全て棄てた。…現代世界は実に多くの多くの糸で人を縛っている。

人間、情報、時間…そして、

彼は冷蔵庫の上の財布を見た。

…そして、お金……


ここにいては、この現代世界にいては、僕は糸を全て断ち切ることは出来ない…







それから何日かがたって。彼はどこかの島にいた。どこの島かは彼が知られるのを拒んでいるから言えないが…。

そこは社会から隔絶された所。彼は現代社会の糸から解放された。



ここには自分を縛るものは何もない。自分だけの自然なありのままの自分だけの時間が流れている。


僕は、自由になった。




と思っていたけれど…。

僕は僕の意思に関係なく、食を欲し、睡眠を欲す。無理をすれば体は疲れ、つまずき転べば血を流す……。


僕は『生』に絡めとられている……それならば………。

目の前には広大な海が広がっていた。

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