カプセル
遠い未来か、実は過去のこと…。
機械化がピークに達していた頃…。
その日のプレゼンはマスコミなども呼ばれ、大規模に行われた。
「さあ、皆様ようこそ今日は弊社のプレゼンに起こし下さいました。
今日私が紹介するのはこの『オフィス=カプセル』。弊社の科学技術の粋を集めて開発された物を、ついに製品化にこぎつけることができました。
これのすばらしい所は…」
この企業が開発した『オフィス=カプセル』は、簡単に言うと、『仮想仕事場』をネットを通じて創るものであった。
このカプセルの中に入り、スイッチを入れると、脳神経に信号を送ることで、まるで本物のオフィスにいるかのような錯覚に陥る…だけではなく、実際にオフィスで仕事をするのと同様に、実際には動くことなく、やるべき仕事をこなすことが出来るというのだ。
この、オフィス=カプセルの普及により、社会人はみんな在宅『勤務』が可能になり、今あるようなオフィス=ビルは次々と消えていった。
各職業別ソフトウェアも次第に増えて行き、いつの間にか仕事は家でやるもの…となった。
そして、需要が頭打ちになった同社が次に開発したのは、子供向けソフトウェア、つまり、仮想教室であった。
同じカプセルだが、このソフトウェアを起動すれば、子供は家にいながらにして学校へ通えるのであった。
外気汚染が進行しているこの時代、子供をあまり外に出したがらない親は歓迎し、これもまた普及して行った。
もちろんそれぞれ導入当初は批判もあった。…しかし、これのすごい所は仮想世界の中の人々は元々でいう同僚やクラスメイトであり、実際生活と何ら変わらないもの…と思わせる点であった。
やがて、人々は、ルーティンの多くを仮想世界のなかで行うようになった。
この状況に拍車をかけたのが、ネット上にできた、仮想世界『ツヴァイテ=レベン』であった。これは、既出の各仮想空間とリンクし、全ての日常生活をその中で送ることができる、まさに『世界』であった。
これにより、人々はカプセルから出る煩わしさから解消された。 たくさんのカプセルが、世界中に並んでいる…。
その後、新たに生まれた子を自動的にカプセルに入れ、生まれた瞬間からその世界に生きられる装置を、誰かが仮想世界上で開発した。
百年が経った。
初めて『ツヴァイテ=レベン』が現れた頃の人はもういない。生まれた瞬間からカプセルに入った人々ばかりになった。きっと、地球上のどこかに、たくさんのカプセルが並んでいる…。
当然と言うべきか、彼らは自分たちが生きているのが仮想世界だとは知らない。それを伝える人はもう皆死んでしまったから…。
ある(仮想世界の)会社に於いて。
「今日のプレゼンは気合いいれて行かなければな。我が社一代をかけたプロジェクトの製品かだからな。」
「社長。ディスプレー用の完成品は、ステージのこのあたりでよろしいですか?」
「うむ。いい感じだ。これはコンピュータ産業の一つの革新となるだろう。」
ステージの右側に、人が入れるくらいの卵のカプセルが設置された。
終わることなく、最初に戻る。