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卒業式 〜ヴィンセント視点〜

187話から190話のヴィンセント視点になります。


 今日はとてもよく晴れている。

 季節は春で心地いい風が吹き気候も穏やかだ。

 春は学園の卒業式があり、私の側近の内、アルヴィンとヴィルアムの二人が学園を卒業する。

 八歳のお披露目以降から二人は側近として私を補佐し支えてくれているが、学園では上級生の先輩であり、その二人が学園を卒業するのは少し感慨深い。


 本来なら今日は休みだが、明日卒業式の為に準備があるので昼から学園へ向かう。

 今日一日休日としたので、久し振りに自身の宮殿でゆっくりと過ごす。

 ステラじゃないけど、読みたい本が溜まっているのでそれを読もうと庭園のお気に入りの場所へと向かう。

 木の下でじっくりと本を読むこの時間が好きでたまにこうした時間を過ごしている。

 

 昼食の時間だと呼びに来たので食堂へ向かうと、フレッドはいたがステラの姿が見えない。

 


「ステラはまだ来ていないのか」

「はい。珍しいですよね」

「まぁ、遅いという事は図書館じゃないかな」

「姉上らしいですね」

「そうだね。もう少し待とうか」

「はい!」



 フレッドはにこにこと邪気のない笑顔で言うが、弟にまで言われてしまうなんてね。

 私も人の事は言えないが、ステラには負ける。

 程なくして少し慌てた様子で食堂に現れた。

 何をしていたかを聞けばやはり図書館で本を読んでいたと言う。

 予想通りだ。

 そして昼からも図書館に行くのだと楽しそうにしている姿を見ると安心すると同時に妹の嬉しそうな表情は此方も嬉しくなる。

 フレッドはお祖父様の課題を仕上げるというのだから、その調子で頑張って欲しい。

 お披露目を迎えれば色んな貴族にその行動言動が見られるから今の内に色んな知識を身に付ける事が自分を護る事になる。

 フレッドはこつこつと頑張る性格だからあまり心配はしていない。



「お兄様はお昼から何をされるのですか?」

「明日の卒業式の準備をする為に学園へ向かう。本当はステラと一緒に行けたらよかったんだけどね」

「仕方ありませんわ。(わたくし)の分までお願いします」

「勿論だよ」



 表情が残念だと語っているけれど、本当に口に出して我儘を言わない。

 早くステラと共に堂々と学園へ通いたいな。

 私が学園へ行くのを見送りに来てくれたステラとフレッドにまた帰ってきてからと挨拶をして馬車に乗り込む。

 今日迎えに来たのはレオンだ。

 宮廷からこっちに来たようだ。



「ステラ様は寂しそうにしていらっしゃいましたね」

「言葉にはしないが、残念に思っているだろうな。本当に、我慢させてばかりだ」



 ステラは何も言わないが、きっと色々と思う事があるだろう。

 だが何も文句を言わない。

 たまに言ったとしても些細な、可愛いらしいものだ。



「今日は何をされていらっしゃたのですか?」

「ステラか? 何時も通り、王宮の図書館に入り浸っているよ」

「何処にいても変わらないですね」

「あぁ。昼からも籠るだろうね」

「目に浮かびます」



 レオンはくすくすと笑う。

 シベリウスに行った後はレオンが一番近くにいたのだと彼自身から聞いている。

 レオンとは同い年、従弟という事もあり側近の中では一番気安いから余計にステラと同じ時間を過ごしていたと聞くと羨ましく、軽く嫉妬を覚える。

 よく苛立ってはレオンに八つ当たりをしたりもしたが、レオンは何も言わずにただ受け止めてくれた。

 彼には色んな意味で感謝している。

 


「もうすぐ学園に着きますよ」

「さっさと終わらせて帰ろう」

「ヴィンス様は先程分かれたばかりだというのにステラ様にお会いしたいんですね」

「会いたいな。折角の休みだというのに……」

「そうですね。早く準備を終えたら早く帰れるでしょう」



 準備といっても会場の飾りつけは園芸部と装飾部で力を合わせて行っていて、風紀は卒業生が何事もなく楽しめる様に見回る為、その確認を行う。

 広報は今年度の卒業パーティーの様子を記録し纏め、生徒会としては当日の進行の確認に、会場内、各社交会から報告を受ける。

 連携は大事なので、地味にやる事が多い。

 今回も早く終わらそうとしたが、結局他の社交会との兼ね合いもあり、昨年と同じような時間に終った。

 王宮に戻るころにはすっかり辺りがほの暗くなっていた。

 夕食時、昼間同様にステラが少し遅れてやってたのを見て、父上が読書に没頭していたのかと聞くと、やはりその通りで筆頭侍女のモニカに引き離されたようだ。

 昼からも相変わらずずっと本を読んでいたらしい。

 団欒の時間、私はステラに昼間の生徒会の活動を伝えた。

 その中で昨年の不測の事態を話すと嫌そうに顔を顰めていた。

 可愛い顔を顰めてもステラの可愛さが無くなる事は無い。

 笑いたいのを我慢しつつ、この時間を楽しんだ。


 翌日、ステラが見送りにホールまで出てくるのを見て驚いた。



「ステラ、見送りに来てくれたの?」



 私が話し掛けると、ステラからお願いがあると言われた。

 何かと思えば、お世話になったからとアルヴィンとクラエス卿への祝いの言葉を預かった。

 やっぱりステラは優しい。

 クラエス卿は別として、ヴィーに祝いの言葉等要らない。

 彼奴を変な方向に喜ばすだけだ。

 それを思うと少しばかり腹立たしい。

 だが、ちゃんと伝えると約束する。

 嫌われたくないしね。


 学園に着くと先ず生徒会室へ行き、全員が揃えばこれからの流れを再度確認し、私達は二手に分かれ会場と学園正面入り口で卒業生を出迎えるのだ。

 私は会場へと向かい、最終準備を整える。

 


 ――今回は何事もなく無事に終わって欲しいな。



 側近の二人の晴れ舞台だ。

 余計な余興は御免被りたい。

 時間が刻々と近づくにつれて卒業生達がホールに集まってきた。

 今日、クリスティナ嬢は兄であり私の側近であるヴィルアムのパートナーを務める為、この会場に相応しいドレスの装いで二人一緒に入場した。

 その後、私達生徒会の側までやってきた。



「ヴィル、卒業おめでとう」

「殿下、お祝いの言葉を頂戴し、ありがとうございます」

「ヴィーとは会ったか?」

「まだ来ていないようですよ」

「珍しいな」

「そろそろ来るかと思います」



 ヴィルはそう話し扉へと視線を向けると、その言葉通りにアルヴィンが従妹と入場してきた。

 従妹だけあり二人は似ていた。

 そして直ぐにこちらにやってくる。

 学園の生徒会長、いや、もう違うが彼が私達の元に来ると、会長が代表でアルヴィンにお祝いの言葉を贈る。



「エドフェルト卿、ご卒業おめでとうございます」

「ありがとう。何だか不思議だな。皆に送られるなんてね」



 少し照れ臭そうにしているが、その表情は嬉しそうだ。

 こんな姿は滅多に見る事が出来ないので不思議な感覚を覚える。

 アルヴィンが私の元へ挨拶に来たのでステラからの伝言をこそっと伝えると、やはり嬉しそうに顔を綻ばせていた。



 ――このニヤケ顔を殴ってやりたい!



 私の殺気を感じたのか一瞬表情を戻したが、すぐ嬉しそうにしていたのを見ると、これは私を誂っているのだろう。

 後で覚えていろ、と心の中で呟く。

 その後生徒会の皆と少し雑談をした後、学友の元へと向かったが、クリスティナ嬢は私達の近くに待機した。

 今の所は問題なく、そろそろ学園長達が陛下を伴って入ってくるだろうから周囲に目を光らす。

 時間丁度に学園長が姿を現すとすっとお喋りをやめ、辺りは静かになった。

 皆壇上へと視線を向けている。

 学園長の話しを聞きながら周囲へ気を配るが、陛下が入ってくる時は私達生徒会も皆頭を下げた。

 そして学園長の言葉で視線を上げると、まさかの光景に目を見開く。



「ステラ!?」



 驚き過ぎて思わず声に出てしまったが、口の中で呟く程度の為周囲には聞こえてないだろう。

 それは彼女の側近のマティ達も驚いているところを見ると皆知らなかったようだ。

 ふと陛下と目が合うと、してやったりという意地悪な瞳を一瞬見せると、これは陛下の仕業なのだと理解した。

 そしてとうのステラは、私をみて瞳を輝かせているところを見ると、陛下の意地悪な提案を嬉々として受けたのだろう。

 


 ――困った妹だな。私を驚かせるなんて。



 ただ、周囲の動揺は凄かった。

 流石に陛下のお言葉を頂いている時は静かだったが皆陛下より王女が気になって仕方がないという様子がありありと窺える。

 気に障るのは害虫共がステラを見チラチラと見る事だ!

 こそこそと話し声が聞こえる。

 陛下が話されているのにそれに集中していればいいものを!



「ヴィンス様」

「なんだ」

「お顔、怖いですよ」

「顔には出してないだろう」

「僕の目は誤魔化せませんよ。ステラ様が好奇の目に晒されているのが気に食わないのでしょう?」

「当たり前だろう! 害虫共の目を抉ってやりたい⋯⋯」



 ついつい本音が漏れる。

 さすが気実行はしないが気持ち的にはそうだ。

 ステラをいやらしい目で見る虫は全て排除してやりたい。

 私に注意してきたレオンも心情は同じ気持ちだというのは顔を見れば分かる。


 陛下のお言葉が終われば卒業生達はダンスや会話に興じるが、変わらずちらちらとステラを見ている目が鬱陶しくてたまらない。



「ヴィンス様いけませんよ」

「分かっている!」

「それにしても皆ステラ様がいらっしゃるのを知らなかったんですね」

「聞かされてないな。十中八九、陛下の仕業だろう」

「マティ兄上達も知らなかったのは意外です」



 本当に徹底している。

 マティ達に話したとしても漏れることはないだろうが、外へ漏れたら大事になっていただろうからな。

 誰にも話さなかったのだろう。



「皆、王女殿下がいらっしゃって普段以上に浮ついた雰囲気だが、私達は徹底して風紀部と連携して周囲に注意するように」

「「「はい!」」」



 帰ったらゆっくり話そう。

 今は会長の言った通り、周囲へ注意し見回ることに専念する。

 ちらりとステラのいる方を見ると、父上や侯爵達と楽しそうに話に興じている。



 ――まぁ、ステラが楽しそうだからいいか。



 卒業式も中盤に差し掛かる頃、陛下達が退室された。

 その後会場内はそのままホールで楽しく話に花を咲かせる者、最後に社交会の集まりに参加する者、早ければ帰る人もいる。

 人数も減り後は教師陣に任せ、生徒会も割り当てられた一室へ向かう。

 私達が先に部屋で待っているとヴィーとクラエス卿が揃ってやってきた。



「ごめん、少し遅かったかな?」

「いえ、そのようなことはありませんよ」



 相変わらず生徒会で見せる様子を最後まで軽く話すアルヴィン。



「改めて、無事に卒業をむかえられたこと、お慶び申し上げます」

「ありがとう。今迄先輩達を見送る方が多かったが、こうして送られる立場になれば、感無量だな」

「えぇ。感慨深いですね」



 二人共少し感動しているようだ。

 ヴィーほ飄々としているが、クラエス卿は少し目が潤んでいる。



「会場は問題なかったか? まさか王女殿下がお出ましになるとは思わなかったな」

「私達も知らされていませんでしたが、会場内は殿下を気にされる方が多く見受けられましたけれど、大きな混乱はありませんでした」

「まぁ、良い年して馬鹿騒ぎする奴はいないだろう」

「去年おりましたよ。お忘れですか?」

「あぁ、そういえばそうだったな。あれは不快だったな」



 そう一言話した後、雰囲気を明るくするように直ぐ思い出話に切り替えた。

 楽しく話をしていると急に扉が開き、誰が来たのかと思えば遅れてきたのはハセリウス先生だ。

 いつもと変わらない様子で扉を開けたまま話す先生に疑問が浮かぶ。



「それで、何故そのように入口で立ってらっしゃるんてすか?」

「あぁ、悪い悪い、お前達にお客様だ」



 そう言ってすっと脇に避けて頭を下げた。

 入ってきたのは私にとっては見慣れた可愛い姿だ。


 

「ステラじゃないか!」



 思わず声上げて駆け寄りぎゅっと抱きしめる。


 

 ――あぁ、本当に私の妹は可愛いな。



「ステラ、父上と出席する事を私に黙っていたなんて悪い子だね」

「お兄様に内密としておくのは陛下のご提案ですわ。(わたくし)はそれに乗っただけです。驚きましたか?」

「あぁ、とても驚いたよ。全く、可愛い事をしてくれるね」

「ふふっ、大成功ですわね。今日迄お兄様にバレないか、ずっとドキドキしていましたわ」

「全く気付かなかった。そにれしても父上が羨ましいよ。今日の装いは父上とお揃いだよね?」

「如何ですか?」

「とても良く似合っている。ステラが可愛すぎてこの先不安だ」

「陛下達も同じ事を仰っておりましたわ」



 ――やっぱり虫よけが必要だな。

 


 周囲の状況を忘れステラと会話を楽しんでいると、妹の護衛兼補佐の侯爵から制された。

 渋々話を中断し、皆にステラを紹介する。

 ウィルマ嬢やリアム達は少し慌てていてが他の者達はすっと礼を尽くす。

 それを見てステラは内心複雑だろうが表には一切出さずに王女として接する。

 アルヴィンとクラエス卿の二人に直接目言葉をかけるも、今はお互い学生ではなく身分を優先しての対応だ。

 ステラが公務の一環で訪れているのだから仕方ないといえば仕方ないが、他の者達には学園へ通うようになればシアの時と同じ対応で良いと一声かけると、ステラから直接そうお願いをした。


 ステラはマティに気軽に声を掛ける中、侯爵がそっとステラを扉から隠す位置に移動した。

 何事かと思ったら誰か来たようだ。

 ノックもそこそこにこちらの返事も待たずに入ってきたのはこの学園の教師の一人だった。



「失礼します。此方に侯爵様がいらっしゃるということは王女殿下もいらっしゃいますよね」



 挨拶もなしにステラへ用があるという。

 それだけで不審で不敬で用心する相手だと案に言っているようなものだ。

 これには侯爵が対応するも、相手の用件はステラが行っている学園の改革の内新学科の事だった。

 まさかまだ内々の事だというのにこのような場で発言するなど⋯⋯、本当にもう何年も働いているいい大人なのかと聞きたい。

 それだけではなく、ステラを軽んじる発言、許せるものではない。

 ステラを庇うようにそっと動きながら妹の様子を見ると、不愉快、不可解に思っているようでその視線は冷ややかだ。

 しかも黙っているとその様子は父上そっくりで、さっと生徒会皆の様子を見れば、ステラの様子を見て息を飲んでいる。

 まぁ、シアと外見や声が違い別人だと、シアと中々結びつかないだろう。

 さて、目の前の教師をどうするか⋯⋯、そう思ったとき、すっとステラが動いた。



「侯爵、そこまでです」



 そしてそっと侯爵より前へ出た。

 まさかステラが前に出るなど思いもよらなかったのかたじろぐ。

 あの様子では責任者は王女だと知っていても、実務は違うと思っていたのだろうか。

 ステラは毅然とした態度で、しかし先程の表情とは違い物柔らかに相手に名を問いかける。

 そして話があるなら朝一で執務室に来るよう命じる。

 普段は優しくて、優しすぎるのが気になるが、こうして状況で対応を一変させられるのは流石だと自慢したい。

 自慢はしたいが⋯⋯。

 


「王立学園の教師があんなんだとは情けないね」

「全くですわね」



 賺さずステラが同意する。

 ステラが後ろを振り返り、皆に謝罪するがステラが謝る事ではないのだけれどそれがステラの良い所でもある。

 そして今の話しの口止めを行った。



「お兄様、(わたくし)はそろそろ陛下の元へ戻ります」

「分かった。此処で会えて嬉しかったよ。帰りも気を付けて」

「お兄様もお気を付けくださいね」



 あんな不愉快な事があったので、ステラは父上の元に帰るという。

 本当はもっと皆と話をしたかっただろうに。

 ステラを見送りながら先程の教師を思い出す。


 

『あの教師を見張れ』

『姫様の影が既に見張りについております』

『え? あぁ、ステラも気付いていたのか』

『如何いたしますか?』

『それなら構わない』



 私が影と言葉を交わしていたら、ヴィーが近くまで近づいていた。



「殿下、お気になる事でも?」

「いや、後で話す」



 ヴィーと言葉を交わしている内にハセリウス先生がこの場を収める。

 先程の話が皆に伝えられるのは来年の初めになるだろうと。

 それまでは口外禁止だと、先程のステラの言葉通り守るようにと伝えるが、ステラの側近以外、特にウィルマ達は何か気になっているようだ。



「ウィルマ嬢、何か気になる事でも?」



 アルヴィンが彼女の様子にそう声を掛ける。



「先程の施策の件は答えられないけれど、他の質問だったら答えられるよ」

「いえ、あの、大したことではないのですけど⋯⋯」



 そう前置きし、少し躊躇ったがやはり気になるのか質問を口にした。



「王女殿下は、学園を休まれている間、ずっとお仕事をされていたのですか?」



 何かと思えば、そこが気になったのか。

 ちょっと拍子抜けだ。



「学園を休んでいるからといえど、遊んでいるわけではない。妹は勉強に加えて執務と王妃殿下と共に慈善活動を行っているからそれなりに多忙な毎日を過ごしている。今回卒業パーティーに顔を出したのも公務の一環だから先程も学生として、生徒会の一員としてではなく、王女として接していたわけだしね。本人は何も感じていないが予定は毎日詰まっているよ」



 そう答えると側近以外驚いたようだ。

 まさかとは思うがステラが毎日のんびりとしているのだと思っていたのだろうか。



「そんなにお忙しくされているのですか?」

「王女として当たり前の事を行っているだけだから、それ程驚く事でもない」

「そうなのですね⋯⋯」



 驚きからどこか尊敬するような眼差しに変わり、ステラに対して噂と違い印象が変わったのならいい事だ。

 まぁステラとシアが同一人物だと知れ渡っているから噂など嘘だと分かっているだろう。



「先程の殿下は、アリシア様の時と様子が全然違って驚きました」

「外見に加えて声も違うから当たり前じゃないか?」

「それはそうですけど、そうじゃなくて、纏う雰囲気? が全然違って別人みたいで⋯⋯」

「まぁ、何も知らなかったら別人に思うだろうけど、王女殿下がアリシア様の本来の姿であるのは事実だよ」

「辺境伯令嬢として過ごしている時はそれに見合った所作をしていたから、戸惑うのは無理ないかもね」



 暫くは戸惑うだろうが、ステラの側近が多くいるこの生徒会では、それも直ぐに馴染むだろう。



「例年通り、来月に交流会を開く。殿下、王女殿下をお誘いしてもよろしいでしょうか?」

「構いませんよ。寧ろステラが喜びます」



 言葉通り、ステラは喜ぶだろう。

 最初は彼等に遠慮するかもしれないが、マティアスやクリスティナ嬢がいれば問題ない。

 それよりも、今はあの教師だ。

 帰りの馬車の中、何故か目の前にはヴィーとヴィルがいる。



「お前達は何故私と共にいるんだ?」

「何故って、我々は殿下の側近ですから」

「今日くらいそのまま邸に戻ればいいだろう。私はそこまで心狭くない」

「存じています。ですが、先程の件は見過ごせません」

「先程ヴィーに聞きましたが、王女殿下に対して不敬な態度だったと」



 あの場では大事にしなかったが、学生の身としてではなく、公務として訪れていた為、本来ならあの場で処断していた。

 あの場を全て侯爵に委ね、あれを拘束すれば簡単な話だった。

 だがステラがそれを望まず、自ら前に出ただけではなく、直接話を聞くとまで言った。

 その瞬間、あれはすっと身を引いた。

 感情の渦がすぅっと引いて行ったように、少し穏やかさを取り戻した。

 あの様子は奇怪だ。

 前に話していた闇の者が絡んでいるのだろうか。



「ヴィンス様」

「ん、あぁ悪い」



 取り敢えず、二人に先程の事、私が感じた事の可能性について伝えたうえで、明日、侯爵が近くにいるが特にヴィルには何か理由を付けてステラの元へ行くように命じた。


 

 ――何事も無ければいいが。



 侯爵や影達が側にいる限り、早々大事にはならないだろうが、心配でならない。

 大事な妹のことだからな。

 無事に終わればいいが⋯⋯。

 馬車の外を見ながら明日何事も起きない事を願うばかりだ。

 

ご覧いただきありがとうございます。


久し振りの番外編です。


本編の更新はもう少しお待ちくださいませm(_ _;)m


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