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謁見前〜侯爵家にて〜

今回もルイス視点です。


 王女殿下への謁見が二日後に迫り、私はとても緊張している。

 今までに感じた事が無いくらいに、表情も強張っているのが自分でもよく分かっている。



「はぁ⋯⋯」

「ルイス、さっきから溜息ばかりよ? そんな事では幸せが逃げていくわ」

「ティナ⋯⋯ごめんなさい。そんなに溜息をついてたかしら」

「心此処にあらず、ね」

「珍しいな。何か悩みがあるのか?」



 そう聞いてきたのは同じ生徒会、同クラスのラグナル様だった。

 悩み⋯⋯は悩みではあるけれど言えないのよね。



「ラグナル様、乙女の悩みは尽きないのですわ」

「そうか」



 ティナがそう言うとラグナル様は特に追求する事をしなかった。

 あっさりしてるのよね。

 それはさておき、そろそろ集中しないと。

 今は生徒会のお仕事に集中する。

 悩んでいたとしても疎かにすることは出来ない。



「⋯⋯さて、今日はここまでにしよう」



 すっかりと会長から仕事を引き継ぎ、次期生徒会長として板についている。

 やはり流石だなと思う。

 生まれ育った環境の違いが大きく出ている気がする。

 普段気にしないような事が今は気になって仕方がない。



「⋯⋯ス、⋯⋯ルイス!」

「あっ、ごめんなさい。呼んだかしら?」



 考え事をしていたらティナに呼ばれていたようで、心配そうに顔を覗き込まれていた。


 

「何度も呼んだわ。ほら終わったから行くわよ」

「えっ? えぇ」

「二人を見ていたらどちらが年上か分からないな」



 会長はそう言った後、折角の週末なんだから早く帰るようにと皆に帰宅を促した。

 そして私は今、侯爵家の馬車に同乗させてもらっている。

 行き先はベリセリウス侯爵邸だ。

 何度かお邸にお邪魔をしたことがあるとはいえ、今迄のような訪問とは違って今回は泊まりでお世話になる為、いつも以上に緊張してしまう。

 馬車が止まりティナは従者の手を借りて降りると、次は私に手を差し伸べてくれた。

 恐縮しながらも手を添えて降りる。



「先ずはお母様の所へご挨拶にいきましょう」

「えぇ⋯⋯そうね」

「もう、ルイスったら。お母様とは何度か会っているのにまだ緊張するの?」

「それは、緊張するわ。今迄はご挨拶程度だったのに、今回はとてもお世話になるんだもの」

「こればかりは馴れるしかないものね。うちで過ごせばいい練習になるでしょう」



 ティナってば簡単に言うけれど、私からしたら住む世界が違いすぎるんだもの。

 緊張しないほうがおかしい。

 だけどティナのお母様であるベリセリウス侯爵夫人とは幾度かお話をさせていだいているし大丈夫、と思いたい。

 今迄学園で学んだことを出せばいいのよ。

 大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせながら執事の案内で部屋へ案内される。

 入室の許可が出たので中へ入るといつもと同じ様に優雅な微笑みと佇まいで私達を出迎えてくださった。



「お母様、只今戻りました」

「お帰りなさい。少し帰りが遅かったので心配したのよ」

「申し訳ありません。ルイスが緊張していたので、気分転換に少し遠回りをしてきたの」

「あら、そうなの?」



 全く気付かなかった!

 ティナの言葉に慌てるが粗相のないように侯爵夫人に頭を下げる。


 

「私のせいでクリスティナ様のお帰りが遅くなりまして申し訳ありません。そしてこの度はお世話になります。よろしくお願い致します」



 私は挨拶を飛ばして先ずは謝罪した。

 侯爵令嬢であるティナの帰りが遅いと心配をさせてしまい、申し訳なく思う。



「謝罪は必要ないわ。それにそんなに緊張しないで、と言っても難しいかもしれないけれど。今から緊張していては王宮や宮廷内で少し心配ね」

「そこは(わたくし)も心配しているの」

「心配ではあるけれど、先ずは二人共着替えてらっしゃい。話はそれからにしましょう」



 侯爵夫人の言葉で一旦部屋を出て私がお借りする部屋に案内された。

 そこは客室でありながら落ち着いた雰囲気のお部屋だった。

 ただ、庶民感覚で言えばとても広くて一つひとつがとても豪華で安易に座っていいのか悩んでしまう。

 私が悩んでいるのを他所にティナは侍女に何か指示を出していてそれが終わると私の近くにいつもと同じ様に寄ってきた。



「ルイス、(わたくし)も一旦部屋に戻るわ。貴女もその間に着替えて寛いでいて。後で迎えに来るから」

「えっ、ティナ!?」

「大丈夫よ。服は全部揃ってるし、分からないことがあれば彼女に聞いて」

「わ、分かったわ。ありがとう」

「また後でね」



 颯爽といっちゃった。

 私に侍女が付くというこの対応にどうしていいか分からない。



「ルイス様、先ずはお着替えを致しましょう。準備は整っております」

「ありがとうございます。あの、その前に。私は平民ですし、出来れば敬称はなしでお願いしたいのですけど⋯⋯」



 流石に様付けなんて萎縮してしまう。

 申し訳無さ過ぎてそうお願いをすると、嫌な顔ひとつせずにふわっとこちらが安心出来る微笑みを浮かべた。


 

「ルイス様は侯爵家のお客様です。ですがこのお部屋の中だけはルイスさん、と呼ばせていただきますね」

「ありがとうございます!」

「とんでもございません。ルイスさんが心地よく過ごしていただく為にとお嬢様のご指示です」



 直ぐに頷いてくれた彼女にお礼を言い、私が少しで居心地よく過ごせるようにと気遣ってくれたティナには感謝しなくちゃ。

 着替えは既に用意されていて⋯⋯これは私の想像出来なかったのが悪いのだけど、一人で着られる簡単なお洋服ではなくシンプルなだけれどどこからどう見てもドレスだったので素直にお手伝をお願いした。


 

 ――慣れないわ。この待遇、それにこのドレス! これ普段着なの!?



 前にティナが私にドレスを着せてみたい! と話していて断っていたのだけれど、それを今実現させられてしまった。

 着慣れないドレスに臆しつつ、落ち着けるようにとお茶を淹れてくれたので有り難くいただく。

 少ししたら話していた通りティナが部屋まで迎えに来てくれたのでほっとした。


 

「ルイス、とても良く似合っているわ」

「こんな素敵なドレスまでありがとう」

「いいのよ。この雰囲気に慣れてくれれば問題ないから。そろそろ夕食の時間だから行きましょう」

「夕食って⋯⋯もしかして皆様と一緒に?」

「皆と言っても父と多分兄もいないと思うわ」



 という事は、侯爵様以外の皆様と一緒にいただくのね。



「ルイス、最初は緊張するかもしれないけれど、慣れたら問題ないわ。父がいないだけましでしょう?」

「ティナ、そんな言い方⋯⋯」

「大丈夫よ。ルイスなら出来るわ。いつも通りで問題ないのだから」



 緊張するのは最初だけ、確かにそうだけれど⋯⋯。

 だけど、自分で頑張ると決めたのだから頑張ろう。



「お待たせして申し訳ありません」

「いいのよ」

「あら、やはりお兄様もまだ戻っていらっしゃらないのですね」

「あの子も最近は忙しくしているようね。今夜は(わたくし)達だけでいただきましょう。ルイス嬢も肩の力を抜いて楽に過ごして下さいね」

「はい、ありがとうございます」



 夫人の優しい言葉で少し肩の力を抜く。

 ティナの妹のシャーロット様はいらっしゃったけれど、国王陛下の側近である侯爵様と王子殿下の側近であるベリセリウス卿のお二方はとても忙しくされているのだとか。

 食事の間は夫人が気さくに話をしてくださったので随分と力が抜けたと思う。

 食事が終わった後はお茶に誘われたので部屋を移動する。

 食事もそうだけれど、態々食事後部屋を変えるなんてすることがないので緊張より好奇心が湧き上がる。

 お茶の準備が整った後は明日の予定の確認をする。

 明日は用意してくださった私の衣装のサイズの確認の為に朝から試着をし、それが終われば夫人自ら私の礼儀作法を見てくださるという。

 とても有り難いことではあるけれど、夫人の手を煩わせてしまうことに申し訳なく思う。

 それに対して謝罪とお礼を言うと若者を育てるのは楽しいから謝罪は無用だと言われてしまった。



「⋯⋯明日の予定で何か気になることはないかしら?」

「今の所は大丈夫です」

「分からない事や聞いておきたいことがあればその都度質問して貰って構わないわ」

「はい、ありがとうございます」



 話が一段落したところで侯爵様が帰宅されたらしい。

 ティナからそう聞いて落ち着いていた緊張感が戻って来た。

 ティナはそんなに緊張しなくても取って食われたりしないから大丈夫よ、って笑って言うけれど、ティナにとってはお父様だからいいでしょうけれど、私にとっては侯爵様でとても上の方で緊張してしまう。

 そう少し固くさせていると侯爵様が部屋に入って夫人と挨拶を交わしている。



「何をしていたんだい?」

「ルイス嬢に明日の予定を確認していたのよ」



 そう言って私に視線を向ける。



「いらっしゃい。話は聞いているよ」

「侯爵様、この度は侯爵夫人にご指導いだくことをお許しいただきありがとうございます」

「急な事で思う事はあるだろうけど、セシルに教われば問題ないだろう。それにティナも側にいることだしね、分からない事があれば⋯⋯」

「えっ!? ティナも一緒なのですか?」



 侯爵様の言葉に引っ掛かり思わず言葉を挟んでしまった。

 しかも普段通りの呼び方で呼んでしまい、その失態に慌てていると侯爵様は不思議そうにしていた。


 

「おや?」

「あっ、あの! 話を遮ってしまい大変申し訳ございません!」

「いや、ティナはルイス嬢に伝えていないのか?」

「あら、ルイスに話していなかったかしら?」

「何も聞いてないわ」



 話を遮ったことに怒るでもなくティナにどういう事かと訪ねていたが、ティナは伝えていたと思っているようだった。

 だけど私は何も聞いていない。



(わたくし)も王女殿下の側近をお受けしたのよ」

「そうだったのね! それを聞いて少し安心したわ」

「ティナ、肝心な事を言わないでどうするのですか」

「態とではありませんわ」



 態とではなくてもあの顔で言わなかったのは確信犯よね。

 学園ではきりっと女性にもモテるティナでも家族の前だとただの子供に戻るのね。

 こういう姿を見ると今まで以上に親近感が湧く。



「折角だからルイス嬢、何か聞いておきたいことはないかい?」



 侯爵様は何気なく質問をしてきたけれど、聞いておきたいこと⋯⋯気になる事は沢山ある。

 その大半は人に聞いて判断することではないと思う。



「いえ、ございません」

「ふむ、王女殿下に関して気になっているかと思ったのだけど、聞かないのだね」

「気にならない、と言えば嘘になります。ですが恐れ多くも殿下に関する事は自身の目で確認したいと思います」



 私の言葉を聞いた侯爵様はふっと笑い満足そうに頷いていた。

 試されていたのかしら。

 夫人は変わらず笑顔を浮かべていてティナはティナで侯爵様と同じ笑みを浮かべていた。



「王女殿下に明後日謁見するのですぐにどのようなお方なのかは知れよう。ルイス嬢が気にしなければならないのは側近としての心構えだ。それらは明日セシルとティナに教わるといい」

「はい、改めましてよろしくお願い致します」

「明日は朝から予定を詰めているので今日はよく休みなさい」



 段々と殿下への謁見に近づき心がざわざわしているけれど、夫人の言葉通り休まなければ頭も働かないので、とても豪華なベッドで落ち着かないけれど、今は無理やりそこを考えないようにして眠りについた。


 そして翌日、侯爵様とベリセリウス卿は既に宮廷へお出になられたという事で昨夜と同じく四人で朝食をいただき、昨夜の予定通り今から衣装の試着を行う。

 側近に相応しい装い、と言うことだけれどこんな立派な衣装だなんて⋯⋯。

 立派と言っても華美ではな仕事のしやすさ重視で布地は高級な物だと触り心地でよく分かる。



「ティナ、変じゃないかしら」

「よく似合っているわよ」

「それに作って頂いてとても助かるのだけど、お支払いはどうすれば⋯⋯」

「そこは気にしなくてもいいわ」

「けど、流石に頂くわけには」

「ルイス、こういう時は有り難く頂戴しておけばいいのよ。ルイスにとっては初めてのことだし、そうね、先行投資だと思ってこれからその衣装に合うだけ頑張ればいいのよ」

「先行投資って」

「気にしなくてもいいわ」



 所々引っ掛かる言葉があり気になるのだけれど、用意した侯爵家のティナがそういうのならばあまりしつこくしても失礼かと思い有り難く頂戴することにした。

 試着が終われば次は夫人自ら私の所作を見てくださり、大きな問題はなかったけれどお昼までしっかりと手直しをしていただき、私も真剣に取り組んだので昼食前には合格をいだいた。

 昼食後は側近としての心構えを教えて頂く。

 話を聞けばシベリウス辺境伯夫人が王女殿下時代の頃に側近を努めていたというので、その頃の経験談をお聞きし、どのように立ち振る舞うべきかを細かく教えてくださった。

 途中お茶を休憩に挟みながら、休憩という名のお茶会のマナーの再確認を交えながらなのだけれど、今日は一日とても有意義に勉強をさせていただいた。

 

 そしてとうとう謁見当日の朝がやってきた。

 朝から何故かお風呂で磨かれ服も一人で着られるのだけれどさせてもらえず、髪の毛もきれいに結って貰い何だかいたたまれない。

 準備が終わり部屋で待っているとティナがやってきた。

 彼女はやはり慣れているしとても様になっていて格好良く、自信に満ちているのがよく分かる。

 夫人も部屋へいらっしゃって褒めてくださるけれど、その言葉が今は少し重く感じる。

 時間より少し早いけれど王宮へと向かう馬車の中で、私は昨日教えて頂いたことを反芻する。

 そんな私をティナは何も言わずに見守ってくれている。



「着いたわね」

「もう!?」

「これでも少しゆっくり行くように御者に伝えていたのよ。大丈夫、さぁ行きましょう!」



 ティナはほんとに色んな事によく気付いてくれるので、とても嬉しい反面、私もそのように振る舞えるか自身がない。

 人と比べても仕方ないとはいえ、やはり気になる部分はある。

 初めてくる王宮はとても厳かでいて自分がとても場違いな場所にいるのではと思わせる。

 静かに進むこと謁見を行う部屋に着いたようで中へ入るとそこには近衛の制服を着た方々が一番先に視界に入った。

 その奥に見知った方を見つけ、ティナに促されてそちらへと向かった。



「マティアス様、ごきげんよう」

「ごきげんよう、クリスティナ嬢、ルイス嬢」

「ごきげんよう」



 そう挨拶を交わすとマティアス様は私を見て「かなり緊張をしているな」と苦笑されてしまった。

 マティアス様は殿下の従兄でいらっしゃるしこの場にいても堂々としている。

 それはティナも同じなのだけれど、また佇まいが違う。

 すると次はディオとレグリス君、そして確か風紀のクロムヘイム侯爵令息が集まった。

 レグリス君は何を思っているか分からなかったけれど、ディオは少しばかり緊張しているみたい。

 そしてクロムヘイム卿も同じ雰囲気だったけれど、やはり私程緊張しているようには見えなかった。

 時間丁度に扉から侯爵様が入っていらっしゃった。

 お会いする時と同じ柔和な表情で私達に話し始める。

 侯爵様のお話が終わればいよいよ殿下のお出ましだ。

 私は他の皆さんと同じようにさっと礼を取る。

 頭を下げているので静かな足音だけが耳に入り、それが止まると気配でお座りになったのが分かった。



「楽にしてくださいね」



 そう涼やかな声に私達は姿勢を正した。


ご覧いただきありがとうございます。


今回は謁見の前後、ルイスの視点で二話で終わります。

本編行き詰まったときにさくっと書いてます(´-﹏-`;)


何気に番外編を楽しく書いてるので、ルイスのお話が終われば違う人を書こうかと思います。

もしリクエストがあれは言っていただければと(ꈍᴗꈍ)


では次回もよろしくお願い致します。

 

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