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ルイスの家族

今回はルイスの家族が登場します。

本編の218話の後のお話です。



 ティナと仕事が一緒になる週末はいつも馬車で自宅近くまで送ってくれるのはとても有難い。

 遠回りになるのに申し訳ないと最初の頃は遠慮したりもしたけれど、結局いつも甘えている。

 そして今日も当たり前のように自宅へ向かっている馬車の中、私は手元にある品々を傷付けない様、慎重に抱ええていた。


 

「ねぇ、ティナ」

「どうしたの?」

「これ、持って帰ったら流石に驚くわよね」



 視線を下に向けたまま、ティナに問いかけた。

 


「それは、驚かれるでしょうね。ヴォルゴート産のガラス製品はとても有名だから。けどステラ様にお仕えしているのだからそれ程驚くこともないでしょう?」



 ティナはそう言うが、そもそもそこが問題なのよ。

 私がステラ様にお仕えしている事を両親に話していない。

 口止めはされていないけれど、平民の私が王女殿下の側近と周囲にバレては大事になる。

 勿論平民の多くも努力して学園で学び、宮廷で働く人は多くいる。

 だけど学生の身で王位継承権を持つ殿下にお仕えしてるという事は周囲から好意的な目で見られるとは限らない。

 色んな目的で私に近づこうとする輩が増えるだろう。

 さすれば家族にも迷惑がかかる。

 


「ルイス、大丈夫?」

「あっ、えぇ、大丈夫よ」

「その割には浮かない顔よ。何を隠しているの?」



 ――ティナは鋭すぎるわ。



 何か確信を持ってそう聞いてくる。

 顔に出しすぎた。



「それが⋯⋯」

「何を言っても言いふらさないわ」

「そんな大層なことじゃないわ。実はね、両親に王女殿下の側近になったとは伝えていないのよ」

「やっぱりそうなのね」

「やっぱりって、知ってたの?」

「今日の様子で確信したのよ。ヴォルゴート産のガラス製品なんて持って帰ったら怪しまれるわ。そこを気にしているのでしょう? けれど、ステラ様の側近だと知られても問題はないわ」

「分かっているわ」



 それは分かっているんだけどね。

 御者から着いたとの声がかかり、お礼を伝え自宅に向かうが、これも当たり前のようにティナが付いて来る。

 特に疑問に思うことなく自宅に招き入れると勝手知ったる家のソファに座るので私は卓上に製品を置き、お茶を準備する。

 一息ついたところでティナが声を掛けてきた。


 

「おば様達に話さなかったのは周囲への影響を考えたのね。おば様は騎士団の職員で、おじ様はS級ランクの冒険者。そして貴女が学生の身で王女殿下の側近だと周囲に知られると面倒なことになるのね」

「ティナの言う通りよ。ちょっと、どんな状況になるか分からないわ。あまり両親に迷惑を掛けたくなくて黙っていたんだけど、これはもう話すしかないわよね」

「そうね。今日おば様は何時も通りの時間に帰宅されるかしら?」

「えっ? えぇ、多分そろそろ帰ってくる頃かしら」

(わたくし)が説明するわ」

「そこまでしなくても」

「ルイスが頼りないとかではないのよ。それとは別に話があるの」

「話って?」

「それはおば様が帰っていらしたらお話するわ」



 それから程なく帰ってきたのは父だった。

 こんなに早く戻ってくるなんて珍しい。



「今帰った」

「お父さん、お帰りなさい」

「あぁ、ただいま。おっ、ティナ嬢も来てたのか?」

「はい、お邪魔しておりますわ」

「狭いとこだがいつでも歓迎だ⋯⋯っとそれは?」



 そういってまじまじ卓上に並べられた品々を観察する父。



「ヴォルゴート産のガラス製品だな。しかもかなり上質じゃないか。どうしたんだ?」

「あー、お母さんが帰ってきたら一緒に説明するわ」

「ふーん? 令嬢がいるのもこれのせいか? それともルイス、お前ようやく話す気になったのか?」

「えっ?」



 その言葉にどきっとする。

 父は何か黙っていることがあるんだろうと語っている。

 私が話さなかったことがバレている⋯⋯?



「流石ですわね。S級屈指の冒険者であるおじ様は鋭いですわ」

「煽てても何もでないぞ」

「期待しておりませんわ」



 父のティナへの態度、本当にいいのかしら。

 何時もながらヒヤヒヤする。

 初めて会ったときからこんな調子で初めの頃は注意していたけどそれももう諦めた。

 何年もの付き合いだから。

 けど、侯爵様に知られたら怒られるだけじゃ済まない気がする。



「ただいまー」

「あっ、お母さん、おかえりなさい」

「あら? あなたもう帰っていたの? それにティナ様もいらっしゃい」

「おば様、お仕事お疲れ様です」



 母はさっと荷物を片付けて私達の所へ戻って来た。

 


「それで、皆集まってどうしたの? それにそれ、とっても綺麗ね」



 母も卓上に並べられた品をまじまじと観察している。

 それを何故かドキドキしながら母が口を開くのを待つ。



「ねぇ、これって⋯⋯? どうして国内随一のヴォルゴート産のガラス製品が家にあるの!? えっ、見間違いじゃないわよね!? どういうこと? まっ、まさか⋯⋯買ってきたの!?」

「買えるわけないじゃない!」

「そうよね! ヴォルゴート産と言えば上から下まで色んな製品があるけれど、此処にあるのって上も上じゃない? だって、安いものと全然質も見た目も細工も全然違うわよね!?」



 母の興奮度合いが凄い。

 どことなく言葉がおかしくなっている。

 それだけこれが此処にある事が不思議って事。



「落ち着け。興奮しすぎだ」

「だって! 凄いわよ。本当にどうしたの? あなたが持って帰って来たの?」

「俺じゃない」

「そうよね。ティナ様がこれらを?」

「違いますわ」

「えっ、じゃあルイスなの?」

「そうなんだけど。その前に、二人に話していない事があって⋯⋯」

「あら、漸く教えてくれるのね!」



 母にも隠し事がバレていたらしい。

 私が衝撃を受けていると、ティナがくすくすと笑っているのが見えた。

 


 ――他人事だと思って⋯⋯。



 一息つき心を落ち着ける。



「実は、私⋯⋯、王女殿下の側近を引き受けて今殿下にお仕えしているの」

「あぁ、そうなのか」

「あら。じゃああの時悩んでいたのはその事だったのね」

「驚かないの?」



 あまりに普通なので逆にこちらが驚いてしまう。

 驚くというか拍子抜けだ。



「いや、驚いているぞ。という事は奴と関係があるのか⋯⋯」



 最後は何と言ったか分からず、父は何かを考えているようだったが、それに反応したのはティナだった。



「流石おじ様。気づいていらっしゃったのですね」

「ん? あぁ。奴はティナ嬢の差し金か?」

「いいえ、違いますわ。彼等は王女殿下の命で動いております」

「ほう」



 今の言葉はどういうことなのか。

 ステラ様の命で動いている⋯⋯?


 

「おじ様は殿下の事を何処までお知りに?」

「噂程度しか知らんな。あぁ、けど去年の年始めの事件でシベリウスに丁度居合わせた同業から話を聞いたぐらいだ。まだシベリウス令嬢の時の話しだな」

「それは、(わたくし)も詳しくお聞きしたいですわ!」



 ティナが前のめりに父に詰め寄る。

 流石に驚いて仰け反る父。

 画角が奇怪だ。

 父は大柄で見た目が、まぁ凶悪顔。

 なのにどこをどう見ても綺麗な令嬢であるティナが詰め寄るって⋯⋯。

 はっとしたティナは何事もなかったかのように居住まいを正したのはさすがとしか言いようがない。



「あら、失礼しましたわ」

「い、いや。驚いた。ティナ嬢も子供らしい表情をするんだな」

「おじ様ったら。(わたくし)はもう成人しましたわ」

「俺から見たらまだまだ子供だ」



 だから、そのやり取り!

 本当にやめて欲しい。

 願わくば侯爵様が知る事ありませんように!



「その話はまた今度じっくりと聞かせてくださいませ」

「あぁいいぞ。で?」

「殿下はまだ公にお戻りになられたばかり。それだけでなく、王女殿下は、殿下だけではないのですが王族は何かと狙われやすいのです。お戻りになられたばかりですし、その殿下の側近ともなれば、それも平民のルイスは更に標的にされます。それを危惧された殿下はルイスを護る為に動かれたのですわ」

「そうだったの? そんな事一言も⋯⋯」

「流石に伝えないわ。殿下は日常生活を憂いなく普通に過ごしてほしいと願っていらっしゃるもの」



 ――そこまでお考え下さっていたなんて。



 一体どれ程の事をまだお小さい身でありながら考えているのだろうかと、やはり王族の方は一味違うのだと改めて思う。



 ――あれ?


 

「あ、ティナ。ちょっと確認したい事があるんだけど」

「どうしたの?」

「もしかして、初めて殿下と謁見した時の衣装って⋯⋯」

「何の事かしら?」



 ――やっぱり‼



 惚けてるけど私の推測はあっていると言ってるようなものよ。



「気にする必要はないわ。あの時も伝えたけれど、必要経費よ」

「で、でも! 必要経費って、なんか違う気がするわ!」

「殿下にお礼は伝えなくていいわよ」

「だけど⋯⋯」

「殿下がお戻りになられたの急遽決まった事。それにより側近となる者も急遽選別指名され、その負担は大きい。特にルイスにとってはね。それらに配慮した形なのよ。だから有難く頂戴しておけばいいのよ」

「本当にそれでいいの?」

「いいのよ。気になるんだったらそれ相応の働きをすればいいのだから」



 それは、言われなくてもそうするけど。

 平民同士でもそういったことはあるけど、相手は王族であって同じと考えられない。

 それに絶対に金額が凄いはず!

 知りたくないけど⋯⋯。



「ルイスったら生真面目ね。誰に似たのかしらね」

「ちっぽけなことを気にし過ぎだ。それに金持ってるやつが経済回さないとだろう」

「それはそうだけど! どうしてそう平気なのよ!?」

「お前が真面目に考えすぎなだけだ。王女様はお前の上司で上司が部下を気遣うのは当然だろう? 上には義務と責任がある。王女様はそれを実行しただけの話しだ」

「そうよ。殿下はとてもいい上司だわ。下の者を気遣わない者達も沢山いるというのに。真っ先に貴女の心配をしていたのよ」

「この話は終いだ。で、肝心のこれの説明は?」



 話が脱線しすぎて本来の話が未だだった。

 というか、父のステラ様への態度にヒヤヒヤする。

 絶対会わせられない!

 会うことないかもしれないけど、いくら内々の話だからと言ってその言い方はどうなの!

 父の言動にもやもやしていたけれどふと我に返れば結構時間が過ぎていた。



「ティナ、時間は大丈夫なの?」

「あら、もう真っ暗ね。うちのご飯で良かったら食べていく?」

「よろしいんですか?」

「いいぞ。まぁ貴族様の晩餐みたいにはいかないがな」

「気にしませんわ。ではお言葉に甘えます」

「ならあなた話を聞いていて。私はご飯作りながら聞くわ」



 ――そんな感じでいいの? 適当過ぎじゃない。



 うちの両親に呆れる。

 いつものことではあるけれど、ティナも全く気にした様子もない。

 まぁティナが良いならいいんだけど。

 あぁもう本当に侯爵様に知られない事を祈るわ。

 漸く本題に入り、その後夕食を食べた後ティナは帰って行った。

 なんだかとても長い一日だった。

ご覧いただきありがとうございます。


ふとルイスの家族とのやり取りを書きたくなり書いてみました。


次回の主人公は誰になるか。

また、少し時間が開くかと思いますが、楽しみにしていだけたらと幸いです。


よろしくお願い致します。


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