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サムエルの出会い〜試験編〜


 今日から早速訓練が始まる。

 訓練の前にのどのような日程で訓練を受けるか予定を教えられる。

 週に半日休みがあるものの、それ以外はずっと訓練をつむようだ。

 週に二日と半日は座学で残りの四日間はみっちりと体力作りに武器全般と魔法の訓練らしい。

 初めは日中が中心だが、訓練に慣れてくると夜に行われることもあるという。

 説明が終わると早速訓練の開始だ。

 俺達二人は初めてだから最初は二人で徹底的な体力作りからで朝から夕刻まで休憩を挟みながら続くが、これが次の日、また次の日になるとその休憩も少なくなっていった。

 想像していたよりも過酷でご飯を食べ、風呂に入りながらも寝てしまいそうになるが布団に入るとそれこそぐっすりだ。

 他の人達と会話を交わすことすら無くなっていく。

 何かを言われているが疲れすぎていて上の空だ。

 朝起きれずにいるとそれこそ本気で叩き起こされる。

 座学を受けている最中も勿論気は抜けないのだが⋯⋯連日の訓練で話を聞いてるだけで寝てしまいそうになる。

 ただ、少しでもふらっとするとすかさず攻撃されるのだが、座って講義を受けるという事はとても眠気を誘う。

 それを気力を振り絞って受講する。

 一番苦労するのはマナーの授業だ。

 口の利き方から始まり所作やテーブルマナー、歩き方も直される。

 それは本当に細かい所まで見られているので、結局のところ毎日毎日緊張の日々だ。

 最初の頃は本当に大変でうんざりして投げ出したくもなったけれど、それも慣れてきた頃には自然と振舞えるようになった。

 そうなってくるとまた新しい訓練が追加され、抜き打ちの試験もあり毎日本当に気が抜けない。

 そして新たに訓練が追加される事に慣れてきた頃、次は何を学ぶのだろうと内容を見れば毒に関してだった。

 これには驚いた⋯⋯、というか死ぬのではないかという恐怖に震えた。

 始まってみれば自身の身体に耐性を付けるのは勿論の事、味や毒の作用、そして解毒の薬学を学ぶ。

 これはマナーや訓練等が霞むほどに一番辛かった。

 一度受けた毒の作用を知るのに直ぐに解毒剤を飲むことも出来ず、数時間苦しむこともあり、毒の名と物を覚えなければ何度も飲まされる。

 だから俺もテオドルも必死になって覚えた。

 本当は逃げ出したいと何度も思ったけど、弟も頑張っているのにそんな弱音は吐けない。

 何よりもただ一人で戦っているのではないという事がこの施設の良い所でもあった。

 仲間意識が強いのだ。

 解毒剤を飲んでも暫く辛くて起き上がれなければ仲間が介抱してくれ、励ましてくれる。

 分からない事を質問しても快く教えてくれる。

 だから俺もテオドルも頑張れた。

 毒物の訓練の他にきつかったのが夜間の隠密訓練や戦闘訓練だ。

 本当に多岐にわたり訓練を受けた。

 そんな生活が一年、また一年と過ぎて行き、気が付けばここに来て五年も経っていた。

 五年も経てばこの生活にも慣れ、色んな事が分かるようになってきた。

 俺が成長するって事はテオドルも成長しているわけで、幼い頃から俺にひっついてきていたのに自分の考えを持つようになっていた。

 兄としては少し寂しいけれど、これもテオドルが立派に成長していると思うと素直に嬉しい。

 俺達を此処に連れてきたノベール様は相変わらずいてたりいなかったりだけど、たまに此処にいると訓練に参加される。

 ノベール様は本当にお強くそして容赦のない厳しさ⋯⋯と言うと優しく聞こえる。

 実際は⋯⋯やめとこう。

 ノベール様でこんなに強いのに長ではないなんて、長というのはどれほどお強いのだろう。

 気になるから一度質問をしたら、長に会えるのはまだまだ早いと一蹴された。

 それからまた時が過ぎ、一緒に訓練をしていた者達も試験に合格し、一人前となり仕事に従事する事が出来ると、俺達に激励して去って行った。

 俺達が成長すると自然に後輩が出来るわけで、俺達の下には三人も後輩がいて、今度は俺達が面倒を見る立場で教える立場となっていた。

 そして漸く十四歳の誕生日を迎え暫くした頃、テオドルより先に俺が試験を受ける事が許された。

 年齢に関係なく、その実力が認められたものが試験を受ける事が出来る。

 落ちたら再度訓練のやり直しで更なるきつい訓練が待っている。

 先輩の中でも試験に落ちている人が何人もいる事は知っているが、俺は一度で合格したい。

 勿論全員がその気持ちで挑んでいるのは痛い程分かってはいるが、そう強く思う事は悪い事でもないし、試験への意気込み、そしてその先にある仕事が一体どのようなものなのか早く知りたくもあった。

 そして自身の実力がどこまで通用するのかも試したい。

 何よりもこの外の世界を見てみたい!

 早く仕事がしたいという気持ちと今迄謎だったこの施設の意味、長の事、すべての事を知りたいという欲求と外の世界に出たいという気持ちが勝っていた。

 だけど先輩方も一度の試験で合格するのは稀だと、確かに俺が知っている人で一度で合格したのはたったの一人。

 後は二、三回試験を受ける人が多かった。歴代で見ても合格率は低い。

 試験は一週間。

 此処で習った全ての事が試される。

 一日の試験を合格しないと二日目には進むことが出来ない仕組みなので、中々に厳しいのだ。

 しかも試験勉強なんて出来ない。

 即日試験が始まるのだ。

 俺の場合は今日告知され明日から始まる。

 試験前日の夜、珍しくテオドルと長く話をした。

 

 

「兄さん、明日からの試験頑張って」

「ありがとう、頑張るよ」

「必ず一度で合格して先に仕事して俺を待ってて。絶対に俺も直ぐに追いつくから」

「分かった。テオドルも試験が受けられるように応援している。⋯⋯まぁそれも俺がまず受からなきゃ意味ないか」

「兄さんは一度で受かるよ、絶対」

「なんでお前が自信満々だんだよ?」

「それは俺の兄さんだから。俺にとっては小さい頃から兄さんは憧れだったから。今もそれは変わらないけど、昔とは少し違うかな。兄さんを超したい気持ちと一緒に仕事をしたい気持ち、何よりもずっと背中を追いかけたいし追い越したい気持ちがある。兄さんが先を行っていると、俺も兄さんの後を追いかけもっとずっと強くもなれる。勿論追いかけるだけじゃ駄目なのは分かっているし俺自身が自分で強くならなきゃいけないのも分かってる。だけど、兄さんがいるから頑張れるのもほんとうのことだから」



 俺が頑張る事でテオドルの活力にもなっているってことか。

 ここまで言われてしまっては何が何でも頑張らなければならないな。

 テオドルの為にも、俺自身の為にもな。

 明日からの試験に緊張していたのがテオドルの言葉で緊張がとれた。

 俺の弟は凄いな。



「テオ、明日から必ず毎日合格する。約束するよ」

「俺はいつも兄さんを応援してる」



 テオドルとの話は俺にとっては力になる。

 兄弟っていうのはいいな。

 テオドルがいてよかった。


 そして翌日早朝から試験が始まった。

 俺は一日を合格するために全神経を試験に注いだ。

 今まで学んだことを全て出し切る。

 試験中はテオドルも俺には話し掛けない。

 俺が全集中して挑んでいるのが分かっているからだ。

 一日の試験が終わるとその日の夜に合否が言い渡され、翌日に挑むことができる。

 初めに貴族のマナーをこの国の歴史から今の国の状況を、世界の情勢を、一般教養、そして戦闘能力、隠密力、最後は毒物だ。

 戦闘力と隠密力は二日間に夜通し行われた。

 夜に行動することもあるからだ。

 それからの翌日の毒物の試験は心身的にかなり厳しいものがあった。

 下手したら本当に死ぬのではないかと感じるほどだ。

 疲れている時に毒を煽るものではない。

 それ以前の問題ではあるが。

 そして一週間に渡る全ての試験を終えた。

 まだ毒が完全に抜けきっていない状態でノベール様のお部屋に呼ばれたので吐き気を堪え、重い身体で向かう。

 ノックをし許可を得られたので「失礼します」と中へと入るとそこにはノベール様と知らない二方がいらっしゃった。



「まだ身体が辛そうだな」

「いえ、大丈夫です」



 本当は寝ていたいが気丈にそう返す。



「気概は十分だな。表情も変えずによく耐えている」

「兄上、彼の弟も中々使い物になるかと。まだ試験は受けさせていませんが」

「お前の観察眼はよく当たるからな。期待できそうだ」



 話があるなら早く終わらせてほしい、そう切実に思う。

 時間が経てば経つほど立っていられる自信が無くなる。

 だがそれもきっと試験のうちなんだろう。



「名はサムエルと言ったか。先ずは一週間の試験をよく耐えきったな。結論から言うと試験は合格だ」



 ──合格⋯⋯良かった。



 長から合格と聞いて力が抜けそうになるが目の前に長と思しき人物とその子供といっても既に成人はしていて、長を若くした感じで良く似た人物もいたので気は抜けず、また力を入れる。



「合格したのでこれからは仕事をしてもらうことになる。が、その前に気になる事があるだろうから、まず紹介しておこう。こちらはアルバル・ベリセリウス侯爵、そして次期侯爵のエリオット・ベリセリウスだ」



 やはり思った通りだった。

 ノベール様に紹介いただき、俺は二人に貴族式の挨拶ではなく、雇用主への挨拶をする。



「さて、ここからは合格した者だけにお前達の役割を説明するが、体調はどうだ?」

「問題ありません」

「では続ける。これからお前が仕えるのはこの国、グランフェルトだ。国の為に影として役目を全うするのがお前の役割だ。そのお前達の管轄がベリセリウス家でその長が侯爵でいらっしゃる。暫くは、長の命で動いてもらうがその腕が認められれば今後王族専属の影に抜擢される事もあり得る」



 成程、それで正義の味方といった説明だったのか。

 確かに国に仕えるのなら心配していたようなことはないだろう。

 別に王族専属の影とかに興味はないからそこはどっちでも良いが、テオドルを犯罪の道に連れ込まなくてよかったと心の底から安心する。



「興味なさそうだな」

「彼が考えている事といえば、弟のことでしょう」

「さっき話してた弟か?」

「そうです、兄上。弟思いですからね。弟を犯罪に手を染めさせずに済んで安堵しているだけですよ」



 ──ノベール様は俺達と初めて話した時の事を覚えているのか!?



「覚えているぞ」

「!?」

「何驚いてるんだ? 顔に書いてあるぞ」

「失礼致しました」



 驚きすぎて気が抜け、顔に出てしまっていたようだ。

 長といえば面白そうに俺達の会話を聞いていただけで、特に不快に思ったわけではなさそうなので安堵する。



「これを見ると、お前に勧誘された時も犯罪をさせる為だと思ったようだな。そこは安心しろ。お前達にやってもらうことは逆に犯罪の調査や王族の護衛が主な仕事だ。犯罪をさせる為ではない。だが、覚悟を持って事に当って貰う必要はある。今後の予定だが、まずは明日侯爵邸へ来てもらう。詳しいことはそれからだ。今夜は休んで身体を万全にしておくように。以上だ」

 


 長からの話が終わり、部屋を後にする。

 まだ気を抜くわけにはいかないが、足に力が入らない。

 弱音を吐くわけにもいかないから自力で部屋になんとか辿り着き、ベッドへどさりと身体を沈めた。



 ──はぁ⋯⋯疲れた。明日までにこの毒が抜か切るといいが⋯⋯。



 そう思いながら重たい目を閉じた。


 どれぐらい寝ていたのか、辺りはもう暗く、部屋の灯りも灯されていなかった。



「兄さん、目が覚めた?」

「テオ?」

「うん。話は聞いたよ。合格おめでとう」

「ありがとう」

「体調はどう? 何か食べる?」



 俺はベッドから起き上がる。

 さっきよりは全然大丈夫そうだ。



「少し貰おうかな」

「これ飲んで少し待ってて」



 そう言って渡されたのは何とも形容し難い色の飲み物だった。

 見た目はあれだがこれはこれで体力が回復するんだから不思議だよな。

 見た目通り味は殺人的に不味いが⋯⋯。

 ここ数年飲んできたが未だになれないその飲み物を俺は一気に飲み干す。


 

 ──吐きそうだ⋯⋯。



 ある意味毒より毒々しいが、これで体力が回復するならこれからも飲むだろうな。

 この後味の不味さに項垂れているとテオドルが戻ってきた。



「お待たせ。はい、体力付けたほうがいいでしょ。食べられる?」

「食べれるよ。テオ、ありがとう」

「本当は皆でお祝いしたかったんだけど、兄さんかなり消耗してたから起こさなかったんだ」

「そうか」

「兄さん、明日にはもう仕事が始まるからにここを出るんでしょう?」

「それも聞いたのか」

「うん。もう皆知ってる。ノベール様が話してくださったから。いつも合格者が出たら知らせてくれるの、兄さんも分かってるよね?」



 分かってる。

 先輩達の合否もノベール様がいつも俺達に教えてくださっていたから。

 それも、俺みたいに大体寝込んでるときに。

 テオドルをちらりと見やると、何処が寂しそうにしていた。



「テオ⋯⋯」

「兄さん、試験前にも言ったけど、俺すぐに追いかけるから。だから⋯⋯」

「分かってる。お前は俺に出来ないことができるからな。直ぐに追いつくだろう。テオにがっかりされないように仕事先でも頑張るよ。だから、早く追いついてこいよ」

「約束するよ」



 俺とテオドルは約束を交わした。

 仕事に関してテオドルにはまだ言えないし俺にも未知の世界だ。

 だが、弟に幻滅されないように、追いついたら俺が胸を張って教えられるように頑張ろう。



「そろそろ寝ようか」

「うん。おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」

ご覧いただきありがとうございます(◡ω◡)


今回は訓練から試験編でした。

次回はエステルの護衛からの影になるまでのお話しです。

一応三部作予定なので次回でサムエルの番外編は終わる予定です。

また次回も楽しんでいただけたら幸いです。


本編も併せてよろしくお願い致します。


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