お月見
今夜は満月。
離宮の窓から見えるお月様は真ん丸でとても綺麗だ。
そういえば、記憶で言うならば今夜は十五夜ね。
お月見と言えば月見団子!
懐かしいなぁ。
あれってこっちにある材料で作れるのかしら。
けど、団子粉って見たことないわね。
そもそもあるのかな。
それにあんこも聞いたことないわ。
そもそも小豆ってあるのかな。
考えたいたら余計に食べたくなってきちゃった!
はぁ⋯⋯食べたいなぁ、和菓子。
「溜息ついてどうしたの?」
「きゃあ!?」
「あはは! 吃驚した?」
「したわ! もう。毎回驚かせないで⋯⋯」
現れたのはお馴染みのエストレヤだ。
急に耳元で話しかけないでほしい。
「で、何で溜息ついてたの?」
「考え事をしてたの」
「考え事って何の?」
「記憶での事よ。今日はね、あちらでは十五夜って言って別称は中秋の名月。旧暦の八月十五日の月、秋の真ん中の月の日なのよ」
「けど真ん中って十五じゃないの? 今日は違うよね? それに月も違うよ」
「満月って必ずしも十五に来るとは限らないからね。それに、旧暦の話だから今は今月よ」
「で、満月なら何かあるの?」
「あるよ。昔からの風習でね、豊かな実りの象徴として満月を鑑賞し、お供物をして収穫の感謝や祈りを捧げるの。それで、月見団子やススキを供えるんだけど、その月見団子を考えてたら食べたくなっちゃって」
「それって美味しいの?」
「美味しいよ! もちもちの中にあんこの組合せは最強よ! だけど、材料が今のこの世界にあるかどうか⋯⋯」
「その材料って何?」
エストレヤの目が輝いて材料を聞かれたので教えると「ちょっと待ってて!」と一言残して消えた。
あるの? 期待しちゃっていい?
と思いつつもあまり期待せずにお月様を眺める。
ほんと綺麗だなぁ。
暫く月を眺めていたらエストレヤが戻ってきた。
「お待たせ! ねぇ! これで合ってる?」
そう言って出してきたのは私が話した材料だった。
あるんだ!
私は一つずつ確認するが、うん、合ってる!
作りたい!
今から厨房へ行っても良いかな⋯⋯
怒られそうな気もする。
明日まで我慢する?
あーけどせっかくのお月見!
「何悩んでるの? 作るんでしょ? じゃあ行こう!」
エストレヤがいつものようにそう言うと一瞬後には離宮の厨房へ着いていた。
流石にもう誰もいないわね?
「大丈夫誰もいないから!」
「まぁいっか。沢山作ってお祖父様達にも食べていただいたらいいかな」
「いいと思うよー」
「姫様、お待ち下さい!」
急に声が割って入ったと思ったらルアノーヴァが珍しく出てきた。
「姫様、お身体を冷やしてはいけませんのでこちらをお使いください」
「ありがとう」
ルアノーヴァが上着を掛けてくれたので着ると、私はじっと彼を見つめるとそれだけでたじたじになって後退りする。
「い、如何されましたか?」
「ね! ルアノーヴァも一緒に作りましょう!」
「えっ、えぇ⁉ いえ、僕は⋯⋯」
「嫌?」
「いや、とかではなくて⋯⋯」
「ノルヴィニオもいるでしょう? 一緒に作りましょう!」
「楽しそうですね。ぜひご一緒させていただきます」
「えぇ⁉」
「ルアノーヴァ、無理にとは言わないわ」
「いえ! あの、で、ではお手伝い致します」
うーん、まだ仕事以外の時って中々馴れてくれないのよね。
まだまだ掛かりそうね。
「エステル! 早く作ろうよ」
「分かってるわ。⋯⋯それにしてもいっぱい持ってきたわね。どこから持ってきたの?」
「それはー⋯⋯」
「それは?」
「秘密だよー!」
うん、そんな気がしたわ。
さて、気を取り直して早速作ってみよう!
私は皆に指示を出しながら作る。
作っていると他の皆の気配もしたので呼ぶと、影の皆が全員揃った。
呼んでおいて何だけと、交代で休んでたのではないのかな?
そう疑問に思っていたら、ノルヴィニオが呼び出したのだとか。
私が皆を誘ってお菓子作りをするからと呼んだみたいだ。
そんな大層なことしないんだけど、けどこうして皆でわいわい言いながら作るって楽しい!
何気に皆器用だし、お団子も綺麗に丸になってる。
そして沢山のお団子が完成した。
エストレヤは見てるだけだったけど、所々で助けられた。
精霊を便利に使うってどうかと思うけどね。
完成したので、厨房をまた皆で綺麗に片付ける。
後片付けもきちんとしてこそよね!
それからエストレヤに部屋に戻してもらって、テラスに出て月見団子を、テーブルに供える。
うん、いい感じね!
「エステル楽しそうだね」
「楽しいわ! だって影の皆と楽しくお菓子作りが出来たし、エストレヤも一緒で、こうして皆でお月様を見ながらゆっくり出来るなんて想像してなかったから。あっ、けど皆は? 私強引だったかしら?」
「まさか! そのようなことはありませんよ」
「そうです! 姫様と一緒に過ごせるなど中々無いことですよ」
「ノルヴィニオが私達を呼んでいなかったら恨んでいましたよ」
「アステールの言う通りです。姫様と一緒にお菓子作りができ、こうして夜空を楽しむなど中々無いことですから。とても光栄です」
「我々は幸せですね。主と共にこうして穏やかな一時を楽しむことができるのですから」
ノルヴィニオから始まって皆嬉しそうにしているのを見ると、良かったと思う。
楽しいし、幸せだなぁ。
暫く皆と月を鑑賞したあと、早速お団子をいただきましょう!
「皆で作ったお団子、食べましょう!」
「我々もよろしいのですか?」
「当たり前よ! 皆で作ったんだから皆一緒に食べないとね」
そう言って私から一口頂く。
うん! 味見はしてたけど程よい甘さのあんこが美味しいわ!
いつの間にかセリニが皆の分のお茶を用意してくれていたので頂く。
本当は緑茶がいいんだけどね。
そこまで贅沢は言わないわ。
皆もお団子を美味しそうに食べているのを見るとこっちまで嬉しくなる。
こんな日がいつまでも続けばいいのにな。
そう想いながらお月見を堪能したのだった。
そして翌日、私は案の定お祖父様に呼び出されていた。
「おはようございます、お祖父様」
「おはよう」
いつもより低い声での挨拶に疑問が浮かぶ。
「何かありましたでしょうか?」
「あっただろう?」
じっと見るお祖父様の目が怖い⋯⋯
やっぱり昨夜のことがバレたかしら。
バレないほうが可怪しいよね。
ここ離宮だし、お祖父様にも影がいらっしゃるんだから。
「⋯⋯お祖父様、勝手なことをしてしまい申し訳ありませんでした」
「で?」
「⋯⋯あの、お祖父様達の分も作りました!」
私はモニカに頼んで持ってきてもらう。
昨日作ったお団子。
お祖父様とお祖母様にお出しすると、何も言わずに早速口にしていた。
「ほぉ。これは⋯⋯ふむ」
「まぁ! もちもちしていて、この中の、何かしら⋯⋯初めていただくけれど、外の生地にあっていて美味しいわね」
良かった。
お団子は気に入ってもらえたようね。
それでもお祖父様の表情は優れない。
やっぱり遅くまで起きていたから?
うるさかったかしら。
「ステラ」
「はい!」
「次は、コホンッ⋯⋯私も誘いなさい」
「えっ?」
「聞こえなかったのか?」
「あっいえ、聞こえましたわ! はい。次はお祖父様もお誘いしますね」
聞き間違えかと思ったらそうじゃなかったのね。
まさかお祖父様から誘ってほしいと言われるなんて思わなかった。
今もお祖母様から誂われているわ。
だけど、そうね。
今度はお祖父様とお祖母様もお誘いしよう。
私が次の会を思い浮かべていると、お祖父様達もつられて微笑んでいた。
ご覧頂きありがとうございます。
番外編その2はお月見のお話。
和菓子って美味しいですよね(。>﹏<。)
洋菓子も好きなんだけれど、あんこは安心感があります。
ダイエットの間食にも洋菓子より和菓子が良いらしいので嬉しい限り。
2023年9月29日のお月様はとても綺麗な真ん丸。
お月見の日に晴れて綺麗なお月様を見る事ができて素敵な夜になりました。
次回の番外編も楽しんでいだけたら嬉しいです。