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バレンタイン

2月14日バレンタイン・デー


 そう言えば、もうすぐバレンタインデーだ。

 バレンタインとは言ってもこの国の文化ではない。

 勿論記憶にある日本の文化でもなく、外国の文化を取り入れて、日本風にアレンジされたイベントで、今や女性から男性へ、好きな人にあげるだけでなく、“友チョコ”だったり“自分チョコ”が主流となっている。

 どちらにしてもご褒美デーだと言うのは言うまでもないだろう。

 最初にも言ったように私が今生きているこのグランフェルト王国にそのような文化はなく、他国にも無いはずだ。


 

――うーん、これは私が広めても良いのかな……。


 

 少し考えてみたが、別に広める必要はないかな。

 これを理由に普段お世話になっている人達にチョコを贈ろう!

 思い立っては吉日と、そうと決まれば早速お祖母様に手紙を認める。

 何故お祖母様にかというと、離宮の厨房を借りたいからだ。

 そして、翌日返事が来て快く快諾してくださった。

 欲しい材料はモニカ達に伝え準備をしてもらう。

 更に翌日に離宮へと向かった。

 一緒に向かうのはモニカとエメリだ。

 離宮に着くとお祖母様に直ぐ捕まってしまった。



「さぁ、急に手紙を送ってきたかと思えば、何をしようとしているのかしら? 隠し事はダメよ」



 そう言って詰め寄られた。

 ちなみにお祖父様は用事で離宮を空けているというから今この場にはいない。



「ステラ、何を企んでいるのかしら?」

「お祖母様、企むなんて人聞きが悪いですわ」



 私はそっとお祖母様にだけ聞こえるように声を潜める。

 考えていることを話すと先程までの追い詰めるような空気を一転させ、キラキラと輝くような素敵な笑顔を見せた。

 これは面白い事を聞いたという顔だ。



「ステラ、(わたくし)も混ぜてちょうだい!」

「それは、勿論ですけれど、お祖母様は料理をしたことがあるのですか?」

「ないわ!」



 ――でしょうね。



 まぁ、危険なことはないし……こういう事は皆で作るのも楽しい。

 何とかなるかな、と心の中で頷く。

 さて、場所を厨房へ移しエプロンを付ける。

 私がお願いした材料が並べられる。



「何を作るのかしら」

「今回は、二種類作ろうかと思います。ひとつは甘さ控えめのチョコレートケーキ、もうひとつはお酒が入ったお父様達向けのケーキです」

「あら。それはきっと喜ぶわ!」

「ケーキと言っても小振りで食べやすい大きさに作ろうかと思います」

「そうね。普通の大きさだと少しくどいかもしれないわ」



 お祖母様達もまだまだお若いと言っても健康の事を考えるとあまり甘すぎ、食べすぎは体に良くないし、胃にも負担が掛かる。

 やはり程々が一番だ。


 早速説明しながら作り始める。

 お祖母様と一緒に作るのは初めてなので丁寧に説明しながら、モニカとエメリ、そして厨房の料理人に手伝って貰いながら和気藹々と作っていく。

 こうして皆で作るのはとても楽しくてあっという間に時間が過ぎていった。



「出来ましたわ!」



 ケーキの最後の飾りつけも終わり可愛いプチケーキが仕上がった。

 私達は一端着替えに戻る。

 その間、離宮の侍女にバトンタッチしてお茶の準備を進めて貰う。

 後で私が王宮に持ち帰る分は別にして貰っているから安心だ。



「お祖父様、今日は厨房を貸していただきありがとうございました」

「いや。昨日からアクシィが珍しくはしゃいでいたが、その様子だと楽しかったみたいだな」

「えぇ! (わたくし)、まさか孫と一緒にお菓子作りが出来るとは思っていませんでしたが、本当に楽しくって! 菓子職人達がいつも素晴らしいお菓子を提供してくれていますが、彼等の仕事の大変さが良くわかりましたわ」

「本職の方はそれこそ職人技が光りますもの。(わたくし)は流石にそこまでは出来ませんが、今日はお祖母様と一緒にお菓子作りが出来て楽しかったですわ」



 お祖母様が終始楽しそうで私も嬉しい。

 早速取り分けて貰い、お祖父様がまず一口食べるのだけど、お祖母様はドキドキと言った感じで感想を待つ。



「美味い」

「イルに喜んでもらえて嬉しいわ!」



 お祖母様は嬉しそうにはしゃいでいる。

 あまり見ない姿に、本当にお祖父様が好きなんだなぁと私まで嬉しくて何だかドキドキしてしまった。

 その姿を見つつ、私もぱくりと一口食べると、うん、美味しい!

 二人は私がいる事をすっかり忘れているように楽しそうにしているのを見ながら食べ終わり、お茶でのどを潤す。



「うむ、此処までお酒を感じられるケーキもいいな」

「ふふ。ステラのお陰ね」

「それで、何故今日はケーキをつくりにきたんだ?」



 そこでようやく今日こちらに作りに来た経緯を説明すると、「面白いな」と呟いた。



「ステラの記憶にある行事は面白いわ」

「そこまで仰々しくはありませんが、子供から大人まで楽しんでいるのは間違いありませんわ」

「ここでも広めるつもりか?」

「うーん。それは難しいかもしれません。あちらは気軽に手作りを渡すことが出来ましたが、こちらは同性の友人同士なら問題ありませんが、異性にとなると婚約者や夫婦間でのみとなるでしょう。婚約者がいない者同士ならそこまで問題にならないかもしれませんが、あまり流行りすぎても人気のある殿方が面倒に思うかもしれませんわ」

「ほう。女性側だけでなく、男性側がどう感じるかまで考えているとはな。確かにしつこいの遠慮したいだろう」

「私はこれを流行させようとは思いません」



 私自身も流行ると少し面倒だと思ってしまうから、まぁ内々だけにしておこうと思っている。

 これはモニカとエメリにも伝えてあるので、普段のお菓子作りの一環で終わりにしたい。

 だからこの事は此処だけの秘密にしてもらった。


 離宮を後にして王宮に戻ってから夕食後のデザートとして私が作ったケーキをお茶と一緒に出してもらうと、とても好評だった。

 勿論その理由は内緒だ。

 お母様に伝わると一気に広まりそうだから、ただ私からの気持ちだと伝えておいた。

 お父様は中にお酒が入っているのが気に入ったのかとても喜んでいて、お母様は何時もと違うケーキに驚きながらも大人なデザートに舌鼓を打ち、お兄様は甘くないケーキに少し甘みのあるお茶が合うとこちらも喜んでくれた。

 フレッドにはアイスを添えて出すと、嬉しそうに食べていたので、可愛らしい姿に悶絶する。 

 喜んでいる皆の姿を見ると作ってよかったと嬉しくなる。

 その後、お兄様に部屋まで送ってもらうのだけど、珍しく部屋の中まで着いてきた。



「どうなさったのですか?」

「さっきのデザートは誰にあげるの?」

「えっと、家族以外だと……明日執務室に来る皆に、ですけど……」

「女性陣には良いけど、男性陣にはなしだ」

「いつもお世話になっているのですから、それくらいは……」

「絶対ダメ!」

「全く深い意味はありませんわ。それに、(わたくし)の手作りはお兄様達に一番にお出ししました。側近達にはついでですわ」

「……それで、急に離宮へ行ったと思ってらどうしてケーキを作ってきたの?」

「お兄様達にいつも助けて頂いていますから、そのお礼です」

「本当に?」

「本当ですわ」



 じっと睨み合う私達。

 お兄様が何かあるのではと鋭すぎて動揺しそうになるけど、ぐっと我慢し何事もないように振る舞う。

 すると、お兄様は隣に来て私の顔を覗き込む。

 こんなに、じっと見つめられると視線を逸らしたくなるが、今それをすると何かあると言っているようなものだと只管見つめ返すと、急にニコリと微笑まれた。



 ――な、何!? お兄様が怖い……!



 なぜ急に微笑んだのか不思議で何だか背筋に冷や汗をかく。



「ね、ステラ。前に約束したよね?」

「や、約束……しました。ちゃんとお兄様達に一番にお出ししましたよ?」

「そうだね。けど、マティ兄上は良いとして、女性陣以外の側近にあげるのはどうかと思うよ」

「いつもお世話になっているのですから……」

「それは彼等が側近だからね。ステラの手作りを渡す必要はないよ」

「それは、そうかもしれませんが……」

「そうだよ。何かお礼がしたいなら、手作りじゃなくて普通のお茶会でも開くか、休暇をあげるといい。手作りはダメだよ」

「もう作ってしまいましたわ」

「それは私とフレッドで頂くよ」

「けど……」

「ね?」

「お兄様……」

「ステラ」



 ものすごい圧が強い。

 それに近い!

 否とは言えず、結局残りの手作りの分はお兄様とフレッドの二人に分けることになった。

 お兄様の様子から、お祖父様達に伝えた内容を話さなくて良かったと心の奥底から自分を褒めたい。

 よくあの圧に負けず穏便に済ませた私は偉い。

 うん、よく頑張ったよ。

 寝る前のやり取りとしては中々疲れてしまい、広めなくて良かったと心底思い、この日はぐっすりと眠りにつく事が出来た。 

 

 

ご覧いただきありがとうございます。


今回はバレンタインの内容を書いてみました。

さらっと読んでいだけたかと思います。


次回作はまだ決まってませんが、本編をよろしくお願いいたします(ꈍᴗꈍ)


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