第9章 100枚分のごめんなさい
くすくすくすくす
あれから3ヶ月。
なくなったと思われた笑い声が聞こえる。
「なによ、もう・・・。」
彼とはあれきり不思議なことに一度も会っていない。
学年も同じ、級は違えどすれ違うくらいしてもおかしくないのに。
「ねね、あなたの良い人、面白いことになってんね。」
「えっ・・・?」
同じ級友の女の子が声をかけてくる。彼女は何か面白いものを見つけたかのように笑うと、私の腕を引っ張って椅子から立たせた。
「行こ!」
「い、行くってどこへ!」
「あたし、美姫。よろしくね!さ、行くよ!」
「え、ちょっ、ちょっと!」
困惑のまま、私は彼女についていく羽目になった。
「・・・と・・・は・・・というわけですね。」
「・・・が・・・だと思うよ。」
「ふむふむ。」
渡り廊下の入り口。美姫に連れられてやってきたが、誰かが誰かと話しているようだ。その声はどこかで聞いたことあるもので・・・。
「つまり平手打ちは愛のある可能性もある、ということですね。」
「そうそう。」
「あんたは、なんてことを聞いてるんだぁぁぁぁ!」
その内容に叫ばずにはいられなかった。
3ヶ月ぶりに会う彼。
彼は私の声に驚いたのち、気まずそうな顔をした。
「この人いろんな人に聞き込みまわってて、平手打ちした女の子があなたじゃないかって噂になってんだよー。あとで話聞かせてね。じゃ、あたし、先に教室戻ってんねー。」
彼女は、楽しそうに手を降ると来た道を帰っていった。彼が質問をしていた男の子も既におらず、渡り廊下には二人きり。気まずさが私達を襲う。私は視線を窓の外に移そうとしたところで。
ドサッ。
視界の端にいた彼が消える。
驚いて彼の方へ視線を動かすと、彼は・・・。
「申し訳ございませんでした!」
「や、やめなよ!」
きれいに土下座を決めていた。
「この度はなんて君を傷つけることを!」
「わ、わかったから、とりあえず立って!」
彼をなんとか立たせ、学生服についたホコリを払ってやると彼は少し嬉しそうにした。
「もう話してもらえないと思ってました。」
「そのつもりだったけど、さっきの子が・・・。」
「その子にはお礼を告げなければなりませんね。」
穏やかな優しい声は変わらず。
すると、彼は持っていた紙の束を私に差し出した。
「100枚分あります。調べました。」
「何を?」
「あの日、君が平手打ちをした理由。僕が考え違いをしていた原因。君は、自由の象徴のような子なんですね。お転婆娘は嫌いだなんて言ってごめんなさい。」
そこには事細かくあの日の喧嘩の事と、それに伴う謝罪の言葉が並んでいた。
彼は3ヶ月、ずっと私のために動いてたのだ。
「ばっかじゃないの。ほんと、頭いいくせにばっかみたい。」
「馬鹿だからこれしか謝る方法が思いつかなかったんです。」
彼が私の涙を拭う。窓の外から新緑の葉っぱが舞って彼の髪にいたずらについた。
「「あ。」」
二人で声が被る。彼は嬉しそうに笑うと私の手を取った。
「取ってくれますか?」
「仕方ないわね。」
そっと、その葉を取ると窓の外に向けて手を伸ばした。
執筆:ネクタイ