第8章 喧嘩
ふぅ。
僕は便箋に向かっていた顔を上げ、首をぐるぐると回す。
少し散歩にでもでようか。
彼女に宛てた手紙は彼女との、初めての・・・あれはデートと呼んでいいのだろうか。
彼女に聞いたらなんと答えるだろう?
なんにしろ彼女と初めて帝都をまわった日まで書き進んだ。
彼女とカフェへ行き、映画を見て、それから・・・
思い出して僕は、苦笑する。
近所の公園までやってくる。
公園は賑やかな声であふれている。
子ども連れの夫婦や、サッカーや野球に興じる子どもたち。
その中にあの日の僕らのような、高校生のカップルを見つける。
ベンチに座って、お弁当を膝に乗せて、お互い笑いあっている。
彼氏の方がなにか面白い事を言ったらしく、彼女の方がひときわ表情をはじけさせて、彼氏の肩をバシッと叩く。
それを見て僕はつぶやく。
「いつだって君の言う通りだなあ。」
あの日、大喧嘩になったのを思い出して、また苦笑した。
映画を見たあと、僕らは甘味処へと行った。
そこまではよかった。僕らは映画の余韻に浸り、スイーツの感想をのべ合い、楽しい時間を過ごせた。
でも・・・
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ねえ、あなたまた花びらが髪についたわよ」
彼女がそう言って僕の髪に手を伸ばそうとする。
「だから取らないでって!」
彼女の手をつかむ。彼女の顔が険しくなる。
「どういうことなの」
「君は女の子でしょ? 軽々しく男の体に触れるもんじゃないよ。そういうのは男がすることで、女の子はそれを待っているべきなんだ」
彼女の眉間のしわがさらに深くなる。
「なに・・・それ?」
「最近さ、ハイカラさんなんて女の子が流行ってて、男勝りのおてんばな女の子が増えてきているでしょう? 僕はあれが許せないんだ」
彼女は険しい顔のまま僕の言葉を聞いている。
「女の子は男子の三歩後を歩くべし。常に夫を立てて、家庭を守る。子どもを立派に育てて、世の中の役に立つようにする。それが女の子の、女性の幸せなんだよ」
だからさ・・・
と僕が話を続けようとすると、彼女が無言で立ち上がる。僕はそれを不思議に思って見上げる。
「いい人だとおもったけど・・・あなた最低!!」
その言葉とともに、頬に痛みが走る。僕は一瞬何がおこったかわからなかったけれど、だんだんと理解が追いつくと、
「殴った? いま殴ったね? 信じられない。君はそれでも女の子なの? だいたいさ君は言葉使いからして・・・」
パン!
二発目。
僕は頬をおさえて何も言えなくなった。頭に血が上る。
彼女が冷たい目で言う。
「さよなら。もう二度と会いたくありません。でも同じアカデミーに通う以上それも無理でしょう。だからせめて話しかけないでください。目があうのも嫌です」
僕は勢いよく立ち上がり、
「そ、そ、それはこっちのセリフだよ! ああ、いいとも。君とは金輪際口をきくものか!」
彼女はそれだけ聞くと、背を向けて立ち去っていく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「バカだったよなあ・・・。いや。男なんていつの時代もバカなもんなのかもしれないけれど」
また笑い声が起こる。高校生カップルは幸せそうだった。
僕は立ち上がると、
「彼女を大事にしろよな」
口の中だけでつぶやくと、また物語をつむぎに家へと足を向ける。
執筆:朝寝雲