第7章 初デエト
「帝都の街並みってこんなふうになってんのね。街全体がきれいだわ。」
「綺麗過ぎてたまに不安になりますよね。」
「不安?どうして?」
答えは返ってこない。
「筆が乗りそうだなあ。」
なぜか不穏な空気を纏わせながら。どこか遠くを見て彼が言う。気になってその視線の先を追うと桜並木があった。
「わぁ、きれい。」
「あれ?儚い女じゃない!じゃなかったでしたっけ?」
「やかましいわよ、あんた。」
目を細めて楽しそうに笑う。さっきまでの不穏さはどこへ消えたのかというくらい不思議な男だった。
桜並木は穏やかに春風と踊っている。
ひらひらと舞い落ちて来た花びらが彼の髪につく。
それを取ろうと思って手を伸ばすと、その手を掴まれた。
「取らないで。」
「えっ。」
さっきから言ってる意味が分からない。
彼は、ふっ、と表情を緩めると自分の髪についた花びらをまた風に遊ばせた。
「活動写真はお好きですか?」
おすすめなんです、と身分の差がある恋のお話を彼は勧めてきた。色恋に疎い私でも知ってるような有名なお話。地元には活動写真の劇場が無いため見そびれていたが、人気のようで長く愛されている作品だった。
「恋なんてして、何が楽しいのかね。」
「閉幕までその態度が続くか楽しみですね。」
スクリーンに配給会社の文字が踊り、幕が上がる。
袴を着た女学生がスーツを着た社会人と恋に落ちる話。
女学生は彼から借りた小説に心を動かされ、彼女のために帝都からいなくなろうとする彼を引き留めようとする。
両思いの二人。手を取り合って・・・。
冷たい手が私の手を取った。
「なんで、繋いで・・・!」
「なんとなく、こうしたくて。ほら集中してください。」
整った顔が暗闇でしぃーっと人差し指を立てて言う。それにどぎまぎしながら、スクリーンに視線を戻す。
心臓がドキドキして仕方ない。
なんで、こんな男に!と思いながら活動写真に意識を集中させた。
「うぇぇぇ、ほんとよくてぇぇぇ。」
「開幕前の威勢はどうしたんですか。」
ボロボロ泣きながら感動する私に、かれはハンケチーフを取り出すと丁寧に拭ってくれた。その優しさに甘えていると、彼は嬉しそうに笑った。
しばらくして泣きやんだ私は、次の企画を練る。
「あなたに誘われて活動写真に来たけれど、次はどうしようかしら。」
「どこへでもご案内しますよ。」
「そうね・・・。」
執筆:ネクタイ