第4章 学生生活の始まり
あれから数日。
くすくすくすくす
笑われている。
くすくすくすくす
気のせいなんかじゃない。確実に笑われている。
それはそうだ。田舎出のお上りさんの私が、入学式当日に横抱きされて整列済みの入学式会場に突入してきたのである。
それも私を抱えていたのが、よりにもよって彼ときては・・・。
嫉妬もあっただろう。田舎出をバカにする気持ちもあっただろう。
アカデミー生活は一日目からつまずいた。
早くみんなこの件を忘れてくれればいい。そんな風に思いながら、廊下を時に露骨に指さされて笑われながら、俯きがちに自分の教室へと向かっていた。
その時、
「あ! おはようございます」
そんな声がかかる。聞き間違えようもない。一瞬だけはいいなと思った彼の声。顔を上げるとはたして彼がニコニコと笑いながら私を見ている。
「・・・・・・。」
私はまた視線を下気味にして、彼を無視して歩きだす。
「あれ? 聞こえなかったのかな。おはようございます!」
「・・・・・・。」
私は歩くペースを早める。
「え? なんで? 無視されてる? おーはようございまーす」
「・・・・・・。」
「あれ。これ完全に無視されてるよね」
彼は心底不思議そうな声でつぶやいている。
「あの、僕なんかあなたを不愉快にさせるような事しましたか?」
「・・・・・・。」
執拗に無視をきめこむ私。
彼は足を止める。彼と私の距離が離れていく。しばらく歩いて、さすがにやりすぎたかと気になって振り返ると、あからさまに落ち込んだ様子で私の方を見ている彼がいる。
私は、
「あー、もう!!」
と一声だすと、彼の方へととって返す。
とたんに表情を明るくする彼。
「おはようございます!」
「おはよう・・・。
ってあんたねえ、あんたのせいで、私がアカデミーでどんな扱い受けてるかわかってんの?」
厳しい口調で彼をにらみつける。
彼は不思議そうな顔で首をかしげる。
わかってないんだ。あれ、この人の素の行動なんだ。
「わからないってんなら見てなさい」
女子二人組が向こうからやってくるのが見える。だんだん近づいてきて私たちに気づくと、くすくす笑いながら横を通りすぎて行く。
「こうゆうわけよ!」
彼はしばらく考えた後・・・
「もしかして芸人さんかなにかですか?」
「ちゃうわ!」
ってこのやりとりが昔田舎で見た漫才そのものじゃないか。
私はがっくりと肩をおとすと、
「いいわ。あなたとは一度じっくり話す必要がありそうね。今日の放課後あいてるかしら? ちょっと時間ちょうだい」
「いいですが・・・。」
彼は不思議そうにうなずく。
その時、朝会のベルが校舎に鳴り響く。
「あ、時間が・・・」
彼がつぶやく。
私は猛ダッシュで教室へと向かう。
・・・あんな事二回もされてたまるか。
執筆:朝寝雲