第31章 明日はない
「おい、にいちゃん、ここは人通りがあるからうずくまるならそっちの細道入んな。」
見知らぬ老人に肩を叩かれる。
震災で騒がしいまちなかで、唯一その人の周りだけが時間を止めたようだった。老人に促されるまま、裏路地に入る。危ないとかなんとか考えている余裕はなかった。
「なんでぇ、またあんなとこおったね?」
どこか聞いたことのあるイントネーション。まさかな、と思いつつ老人の問に答える。
「仕事場も燃え、彼女は帝都の外に避難してます。仲間は亡くなったり無事だったり。」
「うんにゃあ。」
「僕、もうどうしていいかわかんなくて。」
「うんにゃあ。」
「・・・彼女にも合わせる顔がない。」
「それは違う。」
ほんわかと聞いていた老人がきっぱりと断言した。
それに驚いた僕はすっと顔をあげる。
「この震災で分かったろう?絶対的な明日はないんだよ。会いたい人には会えるときに会いに行かなきゃ。」
「でも・・・。」
「汽車代はあるかね。」
老人は知らない土地の名前を駅員に告げると片道切符を受け取り、1枚を僕に投げてよこした。
「どこに行くんですか。」
「孫のところ。」
「いや、僕初対面ですし・・・。」
切符切りに切られた切符のあとをなぞりながら、なんとなくこの老人がなんとかしてくれるんじゃないかなんて甘い考えが浮かんだ。こんなんだからこんな時まで僕はダメダメなのだ。でも一度あの大混乱の帝都を離れるのは正解な気がしている。少し頭を冷やそう。
そう思っていたら、僕は睡魔に襲われた。
夢の中で葉桜が揺れている。
彼女が僕の頭についた葉っぱを取っている。
これは100枚の謝罪文を渡したときだろうか。
そんなこともあったなあ・・・と懐かしく思ってると場面が反転。
彼女が泣いている。
僕は尋ねる、何故泣いているの?と。
彼女は口を開いてーー。
「あなたのせいよ。」
「はあっ!!」
なんだか悪夢を見ていた気がする。隣の老人はあくびをしながら寝れたか?と聞いてきた。曖昧に返事をしながら窓の外を見る。焼け野原から一転、新緑の世界が広がっていた。だいぶ遠くまで来たようだ。
「次、降りよるよ。」
汽車を降り、老人について歩いていく。
僕は生まれも育ちも帝都だからこんな大自然を歩くことはなかなかなかった。
「先生、こんにちはー!」
「はいはい、こんにちは。」
すれ違う子どもたちが老人に先生と言っている。
何も知らずについてきてしまったが、この老人は一体・・・。
「ここがわしの家じゃよ。休んでもろて。」
「えっと。」
「おじいちゃん!どこ行ってたの!!」
それは、聞き慣れた声。
夢にまで会いたいと思った声。
「なんで、あんたが・・・。」
「孫息子連れてきた。」
「いや、えぇ・・・!?」
竹箒を振り上げて子どもたちを相手にする彼女がそこにはいた。
執筆:ネクタイ




