第30章 関東大震災
その日起きたのは首都を直撃する、我が国史上でも有数の被害を出した震災であった。
大きな揺れとともに、建物は倒壊し、火災が発生。首都は一面焼け野原と化した。
その震災は人々の心にさまざまな印象をもたらした。
家、家族を失い自暴自棄になる人がいた。めげずに強く立ち上がる人がいた。闇市のようなものを立ち上げ商売の機会にするような人間まで現われた。
僕はといえば、立ちつくしてその建物の跡地を眺めていた。
活動写真の撮影所の焼け跡。
そこはガレキの山になっていた。
心躍らせた撮影のセットも、きらびやかな衣装、道具類も、そしてそこで働く演者、裏方そんな人々。
それら全てが失われてしまった。
思い出す。
もう一回やり直そうと。
一歩一歩。
少しずつ少しずつ。
と。
僕はみんなの信頼を取り戻しはじめていたんじゃないだろうか?
地道にやる。その事の価値を、意味をわかりかけていた。
そんな風に思っていたのに・・・。
すべて失われてしまった。
無駄だった。
大きな力の前でいつも僕は無力だ。
すべてがバカらしい。
「こんな思いをするなら何もするんじゃなかった。すべてやめて、逃げてしまえばよかった。詩からも活動写真からも、世間の評判からも。
彼女からも」
彼女?
ふと我に返る。
彼女はどうしているだろう。
災害後、僕は知人たちの安否情報を求めて奔走した。
亡くなってしまった人もいた。
無事である人もいた。
彼女が無事であることは人づてに確認していた。
無事でさえあればいい。
僕は彼女に会う勇気がまだでなかった。
立ち直ってから彼女に会うのだと決めていたから。
まだまだあわせる顔はないと思った。
でも・・・。
「会いたいなあ」
彼女の声がむしょうに聞きたかった。
彼女はこの震災をどう受け止めているだろうか。
もしかしたら親しい人を失っているかもしれない。悲しみの中にいるかもしれない。
こんな時にそばにいてあげられない自分に僕は笑った。
「僕はバカやろうだなあ。本当に、本当に」
これからどうしよう。
どうしたらいい。
誰か教えてくれよ。
誰か。
執筆:朝寝雲




