第3章 衝撃的な出来事
「えっ・・・!」
桜の木の下で制服を着た若い男。一瞬故郷にいたあの人だと思って動揺する。私のこと妹ぐらいにしか思ってないあの人が、こんな帝都のど真ん中のアカデミーまで来てくれるはずがない。分かっている。そしてそれは私に残酷なまでの事実を突きつける。
「すいません。綺麗なお顔にこんな走り書きを・・・。」
「走り書き?これが?」
その男は果たして故郷の彼ではなかった。が、整った容姿に丁寧な物言い。アカデミーの女学生は放っておかないだろう。そして私の顔面に飛んできた紙は、よく見ると丁寧な言葉と文字で書かれた詩のようだった。その言葉にドキリとする。
「素敵な詩ね。」
「恋をしたことがないので想像して書いてみたんですけど、僕的には納得いかなくて・・・。」
「ふうん?片思いの気持ちがよく書けてると思うけど。」
「そんな上辺じゃ駄目なんです。」
容姿とは違い、引っ込み思案で意気地のない男なんだろうか、と私は推測して彼の会話を聞いていた。周りにたくさんいた学生たちはもう構内に入ったようで、桜の木の下には彼と私だけになる。彼の声は聴いているだけで心地よくて、ぼんやりと桜の木に視線を投げながら聞いていた。
「すいません、初対面の方にこんな話・・・!」
「いーんじゃん?話したい奴に話すのが一番いいよ。」
「優しい方ですね。この桜の木みたいだ。」
「やめてよ。桜なんて散って終わりじゃん。私、そんなに儚い女じゃない。」
「ははは。面白いですね。」
こいつずれてんじゃないのと思って険しい目を向ける。それに気づいた彼は両手を上げてまた笑った。それがなんだか可笑しくて私もつられて笑った。
「おーい、お前ら入学式はじまるぞー!」
教員が校舎のほうから声を掛ける。時計塔を見ると確かにもう入学式が始まる時間だった。
「まずい。どうしよう!」
「荷物をもって僕につかまって。」
「は?」
「ちょっと触るよ。」
「はあ!?」
言われるがまま荷物を持った私に彼はどうするのかと思うと・・・。
「よっ、ん?目方軽いですね。ちゃんと食べれてますか?」
「まってまってまってまって!」
「行きますよ―つかまっててください!!」
「うそでしょおおおおお!」
横抱き。
あろうことか私を横抱きして颯爽と走り出したのである。
バクバクと心臓が鳴って仕方ない。
入学式の会場まで、私は身動き一つできずにいた。
執筆:ネクタイ