第27章 とある記事
『売れっ子詩人、本誌にだけ語った挫折と苦悩の日々』
記者 本日は貴重なお時間を頂いてありがとうございます。
詩人 いえいえ。天下のフミハル社の雑誌に載れるなんてこちらこそ光栄です。
記者 先生の詩の世界での活躍は周知の事実でありますが、今度は銀幕デビューをはたされるそうで。ますます活動の幅を広げていかれますね。その若さで見事なものです。
詩人 恐縮です。実際新しい世界へ飛び込むのは私も喜び半分、不安半分といったところで毎日落ち着かない日々をすごしていますよ(笑)
記者 それはそうでしょうね(笑)
詩人 詩の世界にしてもそうで、先達の見事な技芸を見ていると自分はまだまだだなと痛感させられますし、果たして私がこの境地にたどり着く日がくるのかと暗澹たる気持ちになることもあります。
記者 それは意外ですね。先生はもっと自信にあふれた方かという印象を受けていたのですが。
詩人 (笑って)ぜんぜんそんなことはないです。最近ではそうでもなくなりましたが、デビュー前の私を知っている知人は、今の私を見てみんなびっくりしていますよ。
記者 なるほど。何が先生を変えたのでしょうか? やはり作品が評価されだすと変わってくるものですか?
詩人 そうですね。多くの方が、私の詩を読んで人生を考えさせられたと、感想を送ってくださいますから、そういうファンの方のお手紙を読んでいると、自分も詩人としてまんざらでもないと思いますね。たまにたいへんなお叱りのお手紙を頂く事もあって、そういう時は落ち込みますが(笑)
記者 まあいろんな考え方の方がおられますからね(笑)
詩人 ですがそんなお叱りの声の中にこそ成長の種が潜んでるものですから邪見には扱えません。
記者 それはりっぱな心がけですね。
詩人 そう。耳に痛い事を言ってくれる人がいるうちが華ですよ。
記者 先生にもそういう方が身内におられるのですか?
詩人 (しばし沈黙)・・・います。いや、いたと言った方がいいのか。
記者 と言いますと?
詩人 私の・・・大事な人です。かけがえのない、大切な。でも私はそれを失いました。
記者 それはどういう・・・?
詩人 全ては私の増長が招いた事です。
記者 ・・・。
詩人 彼女は私に詩を教えてくれました。彼女と過ごす喜び、悲しみ、怒り、おかしみ、それらは詩に憧れて、しかし書けなかった私の目を開いてくれたのです。
そんな彼女をむげに扱うなんてどうかしていました。ですが時計の針は戻りません。彼女は去っていきました。
最初彼女は私に助けを求めました。脅されていると。助けて欲しいと。私は大馬鹿でした。話がそこまで及んでいてもどこか現実的感を欠いた話に思えて・・・。
私は何も手を打ちませんでした。
結果、彼女は去りました。なにがどうなったのか、脅されていると言っていた張本人の所にいま彼女はいます。
彼女からの一つの復讐なのかもしれません。もっとも私に痛手を与える選択でした。
記者 そのようなことがあったのですか。よく本誌に打ち明けてくれましたね。
詩人 ええ。ですがもう全て終わってしまったことです。願わくばこの記事が彼女の目に届き、贖罪がはたされることを。そして自分を傷つける選択を今すぐやめて欲しいのです。
記者 きっと届きますよ。元気をだしてください。
詩人 (無言で涙を拭く)
執筆:朝寝雲




