第25章 一筋縄では行かない
そこは、帝都のど真ん中にこんな場所があったのかと思わせるような、森の中にぽつんとそびえ立つ、3階建ての建物だった。
その異様さに、入口の前に立つ僕は圧倒されていた。
フミハル社は芸能人のゴシップから、文芸誌まで手広く扱う出版社だ。出版界でも大手に分類されるそれが、このような場所にあったとは意外だった。
そして美姫はフミハル社を訪れていったいどうしろと言うのだろうか?
とにかく僕は入口に足を踏み入れる。
中は外見の印象と違い、いわゆる想像通りの出版社であった。
正面に受付が座り、左手には机が何セットか並んでいる。編集者らしき人物と原稿を持ち込んだと思われる作家志望の若者が難しい顔で原稿を睨んでいる。
受付の女性に、美姫の紹介で来た旨を伝えると少々待たされた後、眼鏡をかけた、人生に疲れているというような顔をした担当の男性が顔を見せた。
「ああ、あんたか。美姫さんから話は聞いてますよ。この忙しいのに時間作るんだからありがたいと思ってくださいよね」
担当の男は、あからさまにいやいやといった顔で、入口横のスペースへと僕を促す。
「で、要件ってのは? なんなの?」
「は?」
彼の言葉に僕は間の抜けた声を上げる。
「は? じゃないでしょうが。うちに何をしてもらいたいっての? 美姫さんは詳しくは話してくれなかったからさ。噂の詩人くずれを行かせるからよろしく頼むってそれだけ」
なるほど、そういう事か。
自分でなんとかしろ、そう言った美姫の言葉が思い出される。
材料は与えてやる、これをどう料理するかはお前しだい。
お手並み拝見・・・いやこの絶望的な状況をどう切り抜けるのか見せてみろという事だ。
困惑した顔の担当に、一人合点のいった僕は、では何ができるのかと考えた。
そしてすぐ答えは出た。
僕の持っているものそれは、
「御社の雑誌で詩を書きたいのです。この詩がどんなものになるのか、それはまだわかりません。この詩はある女性にあてたものです。
僕の持っているものといえば、下手な詩を書くこととあの人への想いだけだと気づかされたのです。
僕は人生をかけてこの詩を完成させたいと思います。どうかよろしくお願いします!」
深々と頭を下げた僕に、担当はにやりと笑った。
そして
言う。
「だめに決まってる」
執筆:朝寝雲




