第23章 事の詳細
彼女から詳しく話を聞くとこういうことだった。
彼女は研究室で一人の教授に目をかけてもらっていた。教授は立派な尊敬される人物で、彼女も彼を学問の世界の父のように慕っているという。
教授がある日難しい顔をして一枚の紙を差し出してきた。そこには僕との交際の事実と未来ある彼女があのような文学くずれと交際するのは彼女にとってよくないのではないか? との文言が書かれてあったという。
「これは本当のことなのか?」
教授が彼女に尋ねる。
「はい。私はこの方とお付き合いさせていただいております」
「そうか・・・」
教授は紙をたたんで、机に置くとしばらく窓の外を眺めていた。
そして、
「その彼とは別れてもらう」
「え?」
教授の言葉に彼女は目を見開く。
「書いてある通りだ。君は未来ある学者だ。詩人という職を悪く言うつもりはないが、それも人間性による。私は君の親代わりのようなものだ。いろいろと評判を調べたり、詩に詳しい人に聞いてみたりした。」
教授はため息をつく。
「いい話は聞かなかったよ。才能にあぐらをかいて、詩の世界は自分一人が背負っているとでも言いたい態度らしい。先達への礼を欠いた態度に、自己顕示欲を隠そうともしない。今度は活動写真の世界にも進出するらしいね。
君は・・・」
教授は疲れた顔で眼鏡を外し眉間をつまんだ。そして眼鏡をかけなおすと、
「君はあんな男のどこがいいんだ?」
教授の言葉を聞き終えると彼女は、
「昔は・・・」
そこで彼女の頬を一筋涙がこぼれる。
「昔はあんな人ではなかったのです。とてもシャイで、茶目っ気があって、そして時に大胆で。なにより私の事を第一に考えてくれる人でした。
それがいつからでしょう。私たちの心が離れていってしまったのは。
もう・・・私にはどうしたらいいのか・・・」
教授はやさしく微笑み、だが口調は厳しく言った。
「詩人とは別れてもらうよ。最近の君は心ここにあらずだったじゃないか。とても見てはいられなかった。これは親代わりであり、君の上司でもある私からの厳命だ。逆らうことは許さん。わかったね」
「でも・・・」
「わかったね?」
彼女は覚悟を決めた顔をすると、
「はい」
そう答えた。
執筆:朝寝雲




