第22章 涙の理由
「・・・なんで泣いているんだい?」
彼女に見とれていた僕は、はっと我にかえって訊ねた。
「別れようと思って。」
彼女が耳を疑うようなことを言った。
そしてそのまま玄関を出ていこうとする彼女を引き止めた。
「なんで急にそんなこと!!」
「急でもないわ。」
「僕達はうまくいってただろう!?」
「そんなことないわ。だって。」
「だって、あなた。今の私を見ていないもの。」
ドアを開けた途端、美しいと思った彼女の涙。
その理由は。
「そんなことない!僕はいつだって・・・。」
そこまで言いかけて僕は彼女をつかむ手を離した。
「私の話、最後に聞いた日覚えてないでしょう?」
「昨日の私の顔、思い出せないでしょう?」
「助けてほしいって私の言葉、寝ぼけて忘れちゃったでしょう?」
「私のこと、好きって言ったの最後はいつ?」
「あなたは、もう私を見てない。そんな人と居る必要なんてないの。だから別れます。」
涙の理由は。
何者も寄せ付けない絶望。
「・・・何があった。誰に何を言われた。」
だけど、僕は彼女の瞳が一瞬揺れたことに気づいた。
もし気付なかったら、また彼女を手放していただろう。
僕は玄関を上がりしっかりと彼女を抱き寄せて、そのままお姫様だっこにして、抵抗する気のなさそうな彼女を抱きしめたままリビングのソファーに腰掛けた。
彼女はため息を一つ吐くと、苦笑いをした。
「昔のあなたならもっと困惑したのに。」
「何年君を見ていると思っているんだい?」
「ふふ、それもそうね。あのね。」
「学者を続けたいなら、作家の恋人をやめろって脅されているの。」
執筆:ネクタイ




