第2章 帝都での出会い
「もう! なんでこんなに人が多いのかしら」
帝都。
この国の中心であるその場所を、私は初めて訪れていた。
故郷を出ることになった事を学友たちに話すと、皆羨ましがった。
でも私にはその感覚がわからない。
「人ばっかりで、誰も頼る人もいない。右も左もわからないこんな場所に憧れる気持ち。さっぱりわからないわ」
私は学業優秀につきということで、帝都のアカデミーへの推薦を受けた。
父も母も教師たちも、帝都の名門アカデミーへの入学をとても喜んでくれたけれど、私は内心乗り気じゃなかった。
友達との別れ。家族との別れ。慣れ親しんだ環境から、離れなくてはいけない憂鬱。そしてなにより、密かに憧れていたあの人とはもう会えなくなるのだ、という事実。
多感な年頃の私にはそれらはあまりにも重い出来事だった。
「やっぱり来るんじゃなかったなあ。失敗した。彼にいいところ見せようと思って、ちょっと本気だしちゃった。あれが失敗の始まりだったのよねえ」
どうやら私の頭脳はずば抜けて良いらしい。それに気づいたのは父が、
「こんな本難しくて読めやしない」
そう言ってほうり捨てた本を、7歳だった当時の私が嬉々として解説してあげたことでわかった。
父は不気味なものを見る目で私のことを見た。
あの目は今でも忘れない。
それ以来私は自分をセーブして生きてきた。
「それがなあ・・・。
彼に宿題を教えてあげるあの時間。楽しかったなあ。幸せだったなあ。まさか教師たちがその様子を影から観察してたとは」
父にその話が極秘に伝わり、あの日あんな目で見た父なのに、有頂天になって私のアカデミー入りを受け入れた。
そして私はここにいる。
「ああ~。うんざり!」
人込みをかきわけ、かけわけ、地図を片手にアカデミーの寮へと向かっていた。
突如視界が暗くなる。
「なに~? なんなのよこれ?」
顔に手をやる。視界を奪ったのは飛んできた一枚の紙だった。
「詩・・・かな?」
飛んできたと思われる方向に目をやる。
大きな桜の下。そこに彼はいた。
執筆:朝寝雲