第16章 君との進展
「ミス・コンテスト?」
彼女が不思議なものを聞いたという様子で、首をかしげた。
「はい。校長が新しく始めようとしている、外国の学校のイベントらしくて」
僕らの学園はアカデミーと呼称する。それは校長が、外国勢に劣らぬ人間性を育て上げるをモットーに、アカデミーを立ち上げた事に由来する。
アカデミーでは日本の伝統を学びつつ、海外の文化も積極的にとり入れてきた。
交換留学も活発で、アカデミーの校舎を歩いていると、輝くばかりの金の髪の毛を揺らしながら闊歩する、外国の生徒もちょくちょくみかける。
彼女と歩いていると、すれ違うそういう生徒を横目に見て、彼女が密かにため息をついているのを、僕は知っている。
どうやら田舎の出身であることがコンプレックスであるらしく、帝都どころか、花の都や、アメリカンドリーム、そういう華々しい出自を持つ彼女らがそれを激しく刺激するらしい。
「出てみたらどうでしょう?」
ミス・コンテストの内容を詳しく説明し、そう彼女に提案した。
僕らはアカデミーの3年になっていた。
これが最後の文化祭。最後の思い出にそのイベントは最適に思えた。
「はぁ・・・」
彼女がバカバカしいと言わんばかりに声をもらす。
「そんなもの私が出てどうするのよ。恥かいておわりでしょ?」
これだ・・・。
彼女はどうも自分を過小評価しがちな傾向にあるのを、折に触れて見せてきた。
僕らの関係性は、3年という月日が親しいものにしてくれていた。
彼女に絵のモデルを頼んだ時も、ダメでもともとという気持ちだったのに、
「モデル? いいわよ」
とあっさりと承諾をとりつけた。
出会った頃の僕らの関係からしたら考えられない事である。
だが、僕は時に自分でも驚くような大胆な行動をとれる一方で、もどかしくも彼女との関係性をそれ以上には深められないでいた。
体育祭ごとにおこなわれる、借り物競争一つとってもそうで、一年、また一年。
それは様式美といえば聞こえはいいが、マンネリのような部分もでてきていた。
故に、勇気を出す必要もなく、僕らはぬるま湯につかるような・・・
・・・恋愛をしていた。
思えば、冗談めかさずに彼女に好きだという気持ちを伝えた事があったろうか?
おそらくない。
僕らはこの友達以上恋人未満というぬるま湯に心地よさを感じてしまっていた。
危機感もなく。
考えてみると自分のバカさ加減にあきれるが、美姫が、
「あなたどうする気なの? もうすぐ卒業なのよ? そしたら今までみたいに会えなくなるのよ? 本当どういうつもりなの?」
すごいけんまくで僕に詰め寄ってきて初めてその事実の重さに気づく。
卒業。
それはまったく遠い未来の話ではなく、もうすぐ目の前に迫った、現実だった。
彼女は進路をどうする気なのだろう。僕はその話題を避けた。おそらく無意識的に。
なにしろ忘れてはいけない。彼女はアカデミーを主席で卒業間違いなしと言われる才媛なのだから。
僕らが話し込んでいると、教師たちに進路相談室に呼ばれていくという場面がたびたびあった。
そんな時、僕は現実を直視せずに、詩の世界に逃避するのだった。
ミス・コンテストを彼女にススメてみよう。
それもそんな逃避の一つだったのかもしれない。
いい思い出ができたらいいな。
そしたら・・・
そしたら・・・
君がいなくなっても、きっと僕はやっていけるから。
執筆:朝寝雲




