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Chapter 07(終):「イノチの価値」

あれから3年。平和と静寂を取り戻したイクセリドに生きるエリス達は、それぞれの人生を謳歌していた。

しかし、旧グロウバ政権の裏舞台で暗躍していた、彼の娘で、さらにその腹心的存在である「ゲルツ・レフィア」が、耽々と現ラリュス政権への復讐を果たすべく動いていることを察知した。


昔日の悪夢もろくに覚めないまま、エリス達は彼女の野望を打ち砕くべく行動するが、その過程で、数多くの驚愕の真実を知る。


レフィアと一戦を交えるも、その果てに知った事実に対し、エリス達は…??




Chapter 07(終):「イノチの価値」



 邪悪なるイクセリド国の最高権力者「ゲルツ・グロウバ」大統領が打倒され、旧アイガライヴァ連邦国家時代から続いた独裁政治は、エリス達の活躍によって、一応の決着を見た。


 その後、旧グロウバ政権は崩壊し、新たな国家のリーダーとして、チーム”Unsung Dazzler”の一員であった「イリュン・ラリュス」が、国民からの絶大な支持を受け、臨時の大統領ポストに就任した。


 彼女の政策のもと国は少しずつ豊かさを取り戻し、人々の記憶からは徐々に、かつての騒乱の様子が風化しつつあった。



 国民の願い通り、国家の平穏は続いていった。過去の貧困と紛争の教訓は一定の範囲で残されたが、誰もがこの国で、明るい未来を生きられると確信を得て疑わなかった。





 それから3年ほど過ぎた…。



 エリス、ジェイド、ラリュスは、狭いながらも明るく楽しい家庭に暮らし、エリスは19歳となった。無事に高等部を卒業し、現在は「平和幸福学」を学べる大学に通っている。まだ恋人がいないエリスだが、今はひとまず、目の前の目標をこなすことに全力を注いでいた。


 一方、ジェイドは13歳になり、現在、中等部2年生。

 もちろん、過去に反政府革命団の一員であったことは秘匿事項として一切何者にも知らせてはいない。

 あの日の恐ろしい記憶が時折フラッシュバックするものの、彼女は一歩一歩、友と交わり、平和の恩恵を忘れぬよう生きることで、次第に大人の女性らしさを身に着けていった。



 そうした静かな日々を過ごしていた頃だった…。



 ラリュスは、政府内の人事を取り纏める役目も担っており、かつての国情を踏まえつつ、新しい政権国家を築くべく、日々邁進していた。


 そんな時、とある情報筋から、不穏な噂話が彼女のもとへ届いた。


 グロウバの死と、その政権崩壊により、旧グロウバ政権従事者らは政治の舞台を追われ、今ではその行方も知れないとされていた。

 しかし、ゲルツ・グロウバの実の娘であり、現在、エリスと同じ19歳でありながら、父グロウバの腹心的な存在として、年少期から陰で暗躍していた「ゲルツ・レフィア」なる人物が、父親を亡き者としたエリス達への復讐と、ラリュスからの政権奪取を目論んで、軍備を整え、再びイクセリドを戦火に巻き込む計画を進めている…との情報を得た。


 既にレフィアは、旧政権従事者をかき集めて、着々とその機会を窺っていることがわかった。もしも、その暴挙が現実のものとなったなら、かりそめの平和は忽ち滅び去ってしまうだろう。


 ラリュスにとって、これは由々しき事態であり、見過ごせる話ではなかった。



 その日の夜、ラリュスはエリスとジェイドにこのことを話した。

 勿論、ふたりは顔色を青くしたが、一方で、グロウバの血を受け継ぐ者が、再びイクセリドを不幸と貧困のどん底に陥れる可能性は高く、憂慮すべきこととした。


 「…ゲルツ・レフィアか…。何となく知っているわ。アタシと同い年で、政治の表舞台には出ないまでも、何かにつけて、欲しいものをほしいままにしてきた陰の支配者だわ。」


 「そうねエリス…。このまま何もしないでいたら、いつかはまた、あの悪夢を呼び覚ましてしまうわ…。何とかしなければ…。」


 「そうね。エリス、ジェイド…。でもね、まだ本格的に行動を起こしていないから、民間人には出来るだけこの事実が知られないようにしないと、色々な意味で国が混乱してしまうわ。逆に言えば、今のうちに叩くものを叩いてしまえば、傷は浅くて済むのかもしれないわね。」



 エリスは黙って首をタテに振った。

 「そうね…。あまり気は進まないけれど、レフィアの野望は潰えさせておかないと、確実に不幸な未来が蘇ってしまうわね…。」



 …かくして、3人は翌朝、再び”Unsung Dazzler”のメンバーであったシフィアとティアスを呼び、これまでに得た情報をもとに、レフィアが活動の拠点としている、旧グロウバ邸を目指した。

 ここは、元々はグロウバをはじめとする、政権の枢軸を担う人物が住まう場所であり、巨額の税金を投じて建造されたそこは、邸宅というよりは、一種の要塞のようなムードであった。


 「お前ら、念のためにこれを持て!奴らは何をしてくるかわからんぞ。」


 シフィアから手渡されたのは、すでに握ることはないと思っていた「レーザーハンドガン」であった。

 相手が相手だけに、何をされるかわからないため、最低限の護身用として装備した。


 「なぁみんな知ってるか?何でも、グロウバの邸宅の建設中に、その地下から埋蔵金が発掘されたって噂があるんだ。最初はそれを、いずれ国家予算が尽きた時に使うつもりで保管していたらしいが、グロウバが政治の実権を握るようになってからは、そのカネと一緒に、莫大な税金をも蓄えられていたらしい。軍備が捗ったのもそのためだろうな。」


 「…そんな!?…そのお金で救われる人がどれだけいたか…!!」


 「エリス…。その通りだぜ。まぁ確かに、埋蔵金は自分とこの土地から出たから、誰にもくれてやらんってのはわからなくもないが、それを後ろ盾にして、国庫の守りを固めて、気が付きゃ重税地獄だったってわけだ。その当時でこそ、いずれ重税は廃止して国民に還元する…なんて言ってたらしいが、大金に目の眩んだグロウバが、約束を容易く破るのは言わずもがな…だよな。」


 「まぁどちらにせよ、元々イクセリド政府にはカネがごまんとあったってわけだ。国家の予算はカツカツだなんてウソ八百並べて、国民から取れるだけ取っていた税金も、今じゃ行方がわからないっていうがな…。」



 ジェイドが怪訝そうな表情で話した。


 「やっぱり…って気もするわ。いくらイクセリドが小さな国だからって言っても、あれだけの重税の裏に何かないはずがないもの。恐らくレフィアは、今頃そのカネで好き放題しようと思ってるに違いないわ!うん…、私利私欲っていうよりは、父親の復讐とか、ラリュスを倒して、政治の実権を取り戻そうとか…ね。」



 やがて一行はグロウバ邸に到着した。シフィアとティアスは、何かあった時にすぐ突入できるよう、外で物陰に隠れて待機することにした。

 エリス達は当初、戦うことなく、レフィアと話し合うつもりで邸宅内へ入ったが、その途端、罵声が浴びせられた。


 「来たぞ!!撃て!!撃て!!」


 「な、なにっ…!?」


 そう。レフィアの率いる旧政府軍の兵士らに銃撃を受けた。

 奴らにとって、エリス達が自らを打倒しに訪れることなど予測済みだったようだ。


 すかさず攻撃態勢を取ったエリスとジェイド。敵とは言え、出来る限り余計な殺生はしまいと、あくまでも「足止め」として、レーザーガンの出力をやや抑えて交戦した。


 その様子を、邸宅のてっぺんから見下ろしている一人の少女が、ニヤっと笑って見ていた。


 「来たな…。エリス…。フフフッ…。私はひとまず、戦いの支度をしておこうか…。」



 突然の銃撃戦を何とか凌いだエリス達だったが、今度は邸宅内のどこにレフィアがいるのか、見当もつかない様子だった。

 ほぼ要塞のような邸宅内部には、至る所に武器や防具の配備が確認された。

 どこにどんな罠が仕掛けられていても不思議はない。

 3人は慎重に邸宅内を歩き、レフィアの居所を探した。


 その途中、資料室のような場所へ入り込んだ。

 そこには、国民ひとりひとりのデータベースがインプットされたパソコンが、操作できる状態で置かれていた。


 「こ…これって…?」


 「エリス…。知ってると思うけれど、イクセリドでは、何年か前に、国民全員にナンバーカードを発行したでしょう。それは表向きには、円滑な行政の運営と手続きの簡素化…としていたけれど、実際はハード的な整備が追い付かないままで、現実には国民ひとりひとりの収入や身分を監視されていて、税金の取りこぼしを見張るだけのカメラになってたのよ。」


 「そうなのか…。あの時は、カードを作って、個人の情報を紐づけるといくらかのお金をもらえたけれど…、その実は、国民の行動を全部見張ることが狙いだったのね…。」



 エリスはそう言うと、自らのナンバーを打ち込んで検索してみた。

 すると、画面には驚きの事実が表示された…。



 「エリス・エクセリュス・リウスライア」

 「3297年11月9日 イクセリド国ロレアス市生まれ」

 「性別・女性」

 「血液型・A型」

 「出生時、国の定める期日内に出生届ならびに命名の申告なし」

 「親権者、父親“ラディア・リウスライア”と、母親“フェリュア・エクセリュス”の第一子にして長女」

 「ラディア・リウスライアは翌年2月に消息不明となり、フェリア・エクセリュスとは事実上の離婚状態となる」

 「なお、その当時、ラディア・リウスライアには、婦女暴行の罪にて逮捕状が出る」

 「フェリア・エクセリュスについての生存についてはデータなし」

 「加えて、当時の親権者の詳細も不詳。」

 「同年4月、“レアス・アルフィード”が事実上の里親(母親)となり、当人の名前を“エリス・エクセリュス・リウスライア”と再命名する」


 



 「…な、なんだって…!!あ、アタシは…、今の母親は、実の親じゃなかったっていうのか…!?」


 ラリュスが驚きながらデータを分析した。


 そこで、彼女は次のような可能性をエリスに示した。


 「きっと、エリスの本当のご両親は、残念なことに、結婚してあなたを産んだ早々に、何らかの理由で離婚してしまったようね。しかも父親に逮捕状が出ていたってことは、それなりの罪を犯したって意味だろうから、それをきっかけにした離婚だったのか、それとも、育児放棄みたいなものだったのか…。」


 「…あなたの名前も恐らく、最初の頃は何も名付けられていなかったのよ。それで、今のあなたを育てたお母さんが、その“生みの親”の名前に、“エリス”という自分でつけた名前を組み合わせて、エリス・エクセリュス・リウスライアって呼び名になったのでしょうね。」



 エリスは泣き崩れていた。

 

 「う、嘘だ…。あんな母親でも、本当の子供同然にアタシを育ててくれたのに…。ずっと、ずっと、お母さんは本当にアタシを産んだんだって信じてたのに…!!」


 「エリス…。でもこの情報が、本当なのか嘘なのか、実のところはっきりしないと思うわ。だから、事が落ち着いたら、DNA鑑定とかで、真相を確かめるのも手だと思うわ。けれど、エリス…。私も私で、あなたの本当の親じゃないけれど、気持ちとしては、実の家族のつもりで今まで付き合ってきたわ。そこだけは、どうか…信じてね。」


 「ラリュス…。うわぁぁぁーーーん…!!」



 修学旅行への参加を拒んで家出してから、一度も母親のことを耳にしていない。

 けっこうな毒親だと思ってはいたものの、エリスは自分を産んだ親であると強く信じていただけに、ショックは多大なものだった。


 なお、ついでにその母親について調べてみたところ、2年前の民衆と政府軍の衝突の際、銃撃を受けて死亡した…と記されていた。



 「お母さん…。そんな…。うわぁぁぁん…!!」


 「エリス…。気持ち、わかるよ…。あたしも、エリスに何て言えばいいかわからない…。」


 「ジェイド…。」


 「あたしなんて、出生データがないから、検索しても情報が出てこないわ。誰に、何処で生まれたのか、それさえもわからない…。親の名前も顔も全然わからない…。ラリュスが実の母親じゃないことは、ちっちゃい頃にわかってた…。でも、あたしは…、それが自分に与えられたすべてなんだって思って、あえて、深く考えなかったわ。」


 「ジェイド…。…お前は、本当に強い奴だな…。アタシは…、こんな事実、どう受け止めろって言うのか、わかんない…。」



 涙の止まらないエリスに、ラリュスはこう話した。


 「確かに、育ての親のお母さまが亡くなったこととか、本当の親がわからないことは不幸だったと思うわ。…でも、エリスはしっかり今まで生きてきたのよ。それは、簡単に自分の人生に絶望しない、強い心そのものがあるからこそだと言えるわ!」


 「私はあなたを本当の娘だと思って付き合っているわ!それはたとえ、私達が年老いてしまっても変わらない“絆”だってこと、私は誓うことができるわ!」


 「さぁ、エリス…。」



 ラリュスの手を取ったエリス。

 そのあたたかさは、今まで感じたことのない、心も体も、優しく包み込むような感覚だった。



 「はっ…!!ともかくも、レフィアを見つけなくては…!!」

 「そうだったわね。恐らく、レフィアには私達がここに侵入したことは知られているはずだわ。」


 「エリス!ここに階段があるよ!!何だか壁と同化していて、わかりづらいけれど…」



 ジェイドが、壁に隠された扉を発見した。鍵がかかっているが、エリスは力いっぱいその扉を蹴破った。


 そしてその先にあったのは、コンクリートで固められた、螺旋状の階段部屋が、地下深くへと繋がっているのであった。


 不穏な予感しかしなかったが、3人は黙ってその階段を下りた。



 そして、階段の行き着いた先には、再び扉があった。

 やはり施錠されているようだったため、エリスが再び蹴破ろうとしたが、扉は自動的に開いた。


 「…えっ…!?」


 そこに広がっていたのは、3年前、グロウバとの死闘を繰り広げた時の舞台であった、武器格納庫のような場所であった。


 少し歩くと、突然、部屋の明かりが灯った。

 同時に、女性の声が辺りに響いた。


 そう。それはまさしく、“ゲルツ・レフィア”その者であった。




 「ようこそお嬢様方…。私が“ゲルツ・レフィア”です。あなた達には随分とお世話になりましたので、間もなく私自らその御礼を差し上げようと思っていましたが、そちらからおいでになられるとは、有難き幸せですわ。」


 「…レフィア!!何をするつもりだ!!この平和なイクセリドを、なぜ壊そうとするんだ!!」


 

 「フフフ…。質問に答えてやろう。」

 「それはだな…、全ての国民が、確実に幸せになれているわけじゃないから…だ。」

 「現に私を見ろ!父親の悪政の片棒を担がされて、青春も何もあったもんじゃない!! つい半年前には、恋人だった相手が反政府革命団の手で殺された!!これでどこがどう、全国民が幸福だというんだ!?えぇ…!?」


 「そこのラリュスとやら。次の政権を担うつもりでいるようだが、こんな不平等を私が許すとでも思っているのか!?政治に逆らう連中は、理想ばかりを語る偽善者だと、父グロウバが口癖のように言っていたのがよく解るわ!!」


 「父も失って、恋人も失って…。そんな不幸な私を取り残して、どこのツラが平和だ自由だ幸福だとほざくって言うんだ!!」



 ジェイドは咄嗟に反論した。

 

 「レフィア…!!た、確かにあなたの境遇は決して幸せじゃなかったかもしれないわ。でも、だからといって、国をかき回して破滅を選ぶなんてバカなことでしかないわよ!!そんなの不幸の上塗りじゃない!!あなただって幸せを願うのなら、どんなに辛くても前を向いて…」


 「うるさいっ…!!」「ズダァァァァン…!!」



 ジェイドの頬を銃弾が掠めた。

 「えぇい!黙れ黙れ!!理屈ばかりで何もしないお前らに何がわかる!!こうなったら私自らで、父とその政権を滅ぼした復讐を果たしてやるんだから…!!」


 

 レフィアはそう叫ぶと、格納庫からロボットのようなスーツを着てエリス達の前に現れた。

 これは過去にグロウバが似たようなものを使っていたが、軽量化されていて、機動性が格段に向上しているようだった。


 「その前に…!エリス!!お前も随分と立派になったもんだな…!!ガキの頃とは大違いだ!!」


 「何っ…!?何のことだ…!?」


 「初等科1年生の頃、お前とはずいぶんとケンカさせてもらったな…。その度にどっちが悪いの正しいのでもめて、とうとう私はお前と決着の付けられないまま、離れ離れだ。あの忌々しき記憶、忘れるわけがない!!」


 「ま、まさか初等科に居た、レフィアとはお前のことだったのか…!? だ、だが、何を言うんだ!!それはこっちのセリフだ!! お前がこっちに危害を加えなければ、お互いに平和に学校生活を送れたんだ!!お前のせいでこっちはあれから、散々みんなにいじめられるようになってしまったんだ!!アタシの人生の歯車が狂ったのは貴様のせいだぞ!!あれからどれだけの辛酸を舐めさせられて、どれだけの苦しみを味わったか、貴様こそ今一度思い返せ!!」


 「ハッハッハッ…!!そう言うと思ったわ!!お前こそ、未だに素直じゃないその性格、ぶっ潰してやらないと気が済まないわ!!」


 「なんだとぉ…!!」


 「丁度いい…。お前に今まさに引導を渡してやる…!!さぁ!始めようか!!」




 レフィアは全身を装甲のようなスーツで固めているが、それは彼女の脳波で制御できるものだった。

 そして機敏に動き回るレフィアは、エリス達に容赦のない銃撃や火炎放射を浴びせてきた。


 傷を負いながらもエリスは説得を続けた。

 「やめろ!!やめるんだ…!!こんな意味のない戦いに得をすることなんてないっ!!」


 ジェイドも叫んだ。

 「そうだよ!!復讐なんて無意味だよ!!あたし達はただ、平和に話し合おうってだけなのよぉ…!!」


 ラリュスも加わり話しかける。

 「レフィア…!!確かにまだまだ国は豊かじゃないかもしれないけど、全ての人が幸せになれるのはもうすぐなのよ!!だからお願い!!こんなことはやめて!!」


 


 「うっせぇ!うっせぇ!焼き殺してやる!!粉々にしてやる!!父を倒して私を不幸にしたお前らは、地獄に落ちるが相応しい!!死ねぇ!!死ねぇ!!」


 エリス達はやむを得ず、レーザーガンで応戦した。こうなってしまうと、レフィアは聞く耳を持たないだろう。銃の出力を最大値にして、レフィアの装甲を撃った。


 だが、装甲はレーザーを弾いてしまう。


 「人を殺せない武器」と言われている、フォジス博士の発明したこの銃だが、大ピンチの今は、その遺志に逆らってでも、レフィアを止めたかった。



 「どうしたどうした!?そんな鈍らな武器で私を倒せるのか?バカな奴らめ!!」


 「いいだろういいだろう!!今まで私が味わってきた苦痛の全てを、存分に満喫してからあの世へ送られるがいい!!ハッハッハッハ…!!」



 「ラリュス!!どうしたらいいの…!?」

 「うん。エリス…!!今から地上のシフィア達に方法を聞くわ。それまでジェイドと一緒に何とか逃げ回って!!もし、奴のスーツのエネルギーが尽きたらチャンスだわ。」


 「了解!!」

 「ママ!わかったわ!!」



 「こちらラリュス…!!シフィア!!教えてほしいの!!…」



 ラリュスが情報を得るまで、時間を稼ぐ作戦に出たエリスとジェイド。

 もしもレフィアの機動スーツのエネルギーが切れたらチャンスかもしれないが、どれだけ逃げ回っても、全くその様子は見られなかった。


 「はぁ…!はぁ…!はぁ…!もう…ダメ…!」


 「ジェイド!頑張って!!アタシだって限界よ…!でも…あきらめないで!!」


 

 その時、シフィアから連絡が入った。

 「ラリュス!さっき渡した銃には、チャージショットを撃つ機能がある!スイッチをもぎ取ってその中にあるエネルギーパネルに、光を蓄えるんだ。…だが、そこには光源はないだろうし、仮にチャージできたとしても、一発しか打つことはできない…!!」


 「シフィア…。わかった!!ともかくも、試してみるしかないわ!!」



 直ちにこのことを伝えたラリュス。エリスとジェイドは、言われた通り銃のカバーをはずして、チャージショットモードに切り替えた。

 だが、懸念していた通り、この地下格納庫には、チャージショットのエネルギーを十分に蓄えられる光源はなかった。

 うっすらと内部を照らす照明に銃を翳してみたが、エネルギーは充填されなかった。


 「クッ…!!どうしろって言うのよ…!!」



 その時、レフィアの放ったグレネードが爆発した。

 「キャアッ…!!」

 間一髪回避できたエリスだったが、そこには大穴が空いた。

 そして、レフィアはその衝撃で転んだジェイドに、機銃の銃口を向けていた…。


 「フフフフッ…!!まずはおチビちゃんから“さようなら”かなぁ…?」


 


 エリスはひたすら焦燥に駆られたが、ふと、穴の開いた地面が光っていることに気づいた。

 近づいてみると、何とそれは、ここへ来るときにシフィアが語っていた、グロウバ邸の埋蔵金と、税金と引き換えにされたと思われる宝玉の数々が、鈍い輝きを放っているのであった。


 「これは…!!…うん。わからないけど、イチかバチか…やってみなきゃ…!!」



 エリスは、銃のチャージパネルをその宝玉に密着させてみた。

 すると、エネルギーがみるみるうちにチャージされ、チャージショットの発射ができるようになった。


 チャージショットは、その高威力ゆえに、一発発射すると銃が壊れてしまう。

 無論、失敗は許されない。

 だが、今や迷いも躊躇いも必要ない。

 ジェイドの命が危ない…!!


 「…さぁ、覚悟しな!!」

 

 レフィアの腕の銃口が光った。その瞬間、エリスがジェイドの前に飛び出し、チャージショットの強力な一撃を、レフィアのスーツに浴びせた。


 「ドカァァァァァッ…!!!!」


 「うあぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!」



 


 衝撃で弾き飛ばされたレフィア。ジェイドは、咄嗟にエリスに抱き着いたが、レフィアにとどめをさせたわけではなかった。



 しかし、レフィアのスーツは大打撃を受けたため、もはやただの粗大ゴミ同然であった。

 一気に劣勢に回ったレフィアは、そのボロボロな姿でヨロヨロと立ち上がり、エリス達にこう言った。



 「お前ら…お前ら…、よくも…!!!!」



 「…これが運命だというのか。そして私はそれに逆らえないというのか…??」

 「さぁ殺せ!!こんな私など殺せ!!この勝負、お前の勝ちだ!!」



 ラリュスから銃を受け取ったエリスは、ジェイドと共にレフィアにその照準を合わせた。

 不幸な生い立ちのレフィアに不憫なものを感じたが、ここで彼女を討たなければ、イクセリドは再び闇と悪夢に包まれるだろう。


 涙ながらに「殺せ!」と言って来るレフィア。しかしなかなか、銃のトリガーを引けないエリスとジェイド。3人の睨み合いが続いた。


すると、損傷したスーツが剥がれ落ち、レフィアの腹部が剥き出しになった。


それを見たエリス達は思わず驚きのあまり言葉を詰まらせた。



 「レ、レフィア…、お、お前…そのお腹…!!」


 「ウソ…!?レフィアのお腹には、赤ちゃんがいるの…!?」



 


 そう。実はレフィアは妊娠していたのだった。

 脳波で操作できる戦闘スーツを着用していたのも、母体に負担がかからないようにするためだったようだ。


 驚愕しているエリス達に向かって、レフィアはこう言った。


 

 「あぁ…。私のお腹の中には、新しい命がある…。これは、半年前命を奪われた、私の恋人との間に授かった命だ。…だが、もうどうでもいいんだ!!こんな私に幸せになる権利なんてないんだ!!さぁ今すぐ私を撃て!!赤子もろとも撃ち抜いてしまえ!!…だけど、せめて次に生まれる世界があったなら…、私はそこで、人並みほどの幸せでもいいから感じていたい…。」



 レフィアは涙を流しながら語った。

 エリス達もまた、お腹の中の赤子もろとも、銃で撃ち抜くなど、出来るはずがなかった。


 ジェイドが説得を試みた。


 「レフィア!!そんなことないんだよ!!今のイクセリドは、ちゃんと人間らしく生きるために色々なことが整備されているんだよ!!だから、レフィアだって、復讐だとかそういうことを捨てて、気持ちを入れ替えることができれば、みんなと仲良く明るく生きていくことは絶対にできるんだよ!!」


 「…だからお願いだよ!!新しい命まで捨ててしまおうなんて思わないで!!何だったら私達は、レフィアがママになるのを全力でサポートするよ!!敵味方なんて考えなければ、誰もが幸せな未来を歩けるんだよ!!本当だよ!!」


 …そこにラリュスが割り込んで話した。


 「そうだよレフィア!!あなただってイクセリドのイチ国民よ。過去は過去、今は今。これからはどんな人でも、最低限の幸せを保障された上で生きていけるのよ!もし、子育てが大変だったら私も手助けするわ!だから…、だから…!!」



 レフィアは俯いたまま泣いていた。

 

 「そ、そうなのか…。わ、わ、私は…」



 その時だった。


 エリスはおもむろに、レフィアに向かってレーザービームを一発放った。


 「ピシャーーーン!!!!」




 「ええっ…!?!?」


 驚きを隠せないジェイドとラリュス。

 まさか、エリスは聞くに堪えかねて、レフィアを…?






 しかし実際は違った。


 レフィアの体には何の被害もなかった。



 「どうだ?少しはお腹の苦しさが緩んだだろう?」



 何と、エリスは、破壊されたスーツから伸びてお腹に絡まっていたケーブルを、レーザービームで切断したのだった。



 「アタシもふたりと同じ考えだ…。10代で妊娠して、しかもパートナーを失ったとなれば、お前の悲しみも絶望も、痛いほどわかる…。アタシだってゆくゆくは、彼氏を作って家庭を持って、そして子供を設けて…って思ってる。だからこそ、一緒に女性として、これからの未来、お互いに支え合って生きるという選択肢を、選んでみる気はないか?」


 ゆっくりとレフィアに近づくエリス。

 そして、エリスはレフィアのふくらんだお腹を優しく撫でた。


 「何か月だ…?」


 「うん…、6か月…。」


 「そうか…。大事な時だ…。私達も一緒に、お前の大切な新しい命を、守っていくわ!!」



 「エリス…、うっ…うわぁぁぁーーーん!!!!」



 エリス達は、泣き崩れたレフィアを優しく抱きしめ、そして固い握手をした。





 かくして、レフィアは改心し、エリス達と共に、イチ国民として「普通に生きる」ことを決意した。

 グロウバ邸はこの後、シフィア達の手配によって武器兵器類は廃棄され、邸宅も更地にされた。

 なお、戦いのさなかに見つけた埋蔵金や宝玉類に関しては、エリスはあえて誰にも話さなかった。


 それには彼女なりの考えがあってのことだった。


 「あんなとてつもないお金は、必ず人を不幸にする魔性の存在なのだ。見なかったことにしよう…。」




 その後レフィアは、ラリュス達の住む家の近くにアパートを借り、政権従事者という肩書はすべて破棄し、ひとりの平凡な国民という身分を受け入れた。


 幸い、あの激しい戦いの後でも、レフィアのお腹の赤ちゃんは順調に育っていった。

 エリスもジェイドも、学業に余念のない日々に戻ったが、新たな友「レフィア」を持ったことにより、また新たな“未来”も拓かれ、新たな“絆”も生まれたことを確信した。




 そして、春の陽気で暖かな風の吹くとある朝…


 ジェイドが、ベッドで寝ているエリスに飛びついてきた。


 「エリス!エリス!!起きて!起きてっ!!早くぅ!!」


 「ううーん…ジェイドぉ…まだ眠いわよぉ…!!」


 「生まれたよ!!生まれたんだよ!!レフィアの赤ちゃん!!たった今生まれたんだよ!!」


 「ええっ…!?本当っ!?」



 エリスは、ジェイドに連れられて、産院へ急行した。


 そしてレフィアのいる病室へ足を踏み入れると、元気よく泣く赤ちゃんの声が真っ先に耳に飛び込んだ。



 「よくやったな…!レフィア…。えらいぞ…!!」


 「エリス…、ありがとう…。」



 「ねぇ、赤ちゃんは男の子?女の子?」


 「女の子だったよ…。ジェイドも、ありがとう…。」



 出産を見守っていたラリュスは、ふたりにこう語った。


 「本当は、出産の時かなり危ない状態だったのよ…。なかなか赤ちゃんが出てこなくて、レフィアちゃんがこのままじゃ死んじゃうかも…ってとこだったの。」


 「…でも、レフィアちゃんはあきらめなかったわ。最後までしっかりとやり遂げたわ。この調子なら、お母さんとしても、女性としても、これからしっかり生きていけるって、私は思ったわ。本当に…偉いわ…。」



 エリスは、生まれたばかりの赤ちゃんに興味津々である。

 その間に、ジェイドはレフィアにこんなことを尋ねていた。


 「ねぇ、赤ちゃんの名前、なんて付けるの?」



 レフィアは思わず恥ずかしそうにして、「ひみつ…」とごまかしたが、ラリュスはこう続けた。


 「あら、名前は赤ちゃんにとって、お母さんからの人生初のプレゼントなのよ。しっかりとした名前を付けて、一緒に楽しい家庭で暮らしていきましょうね。」



 「う、うん…。」



 「この国がこれから、明るい未来と共に成長することを願って…、そしてそれが、永遠に続くことを願って…。」



 「決めたわ! 名前は、“永遠”を意味する…、“エターニア”!!」



 エリス達は称賛した。

 「いい名前だわ!この子が大きくなる頃には、きっと今よりも、国は豊かになって、誰もが人間らしく生きられる世界になっているはずよ!」


 ジェイドも笑顔で…

 「そうだよ!戦いとか衝突じゃ何の幸せもつかめないわ。だから、二度と争いのないこの国で、みんなと一緒にステキな未来を生きようね!!」


 ラリュスも微笑みを浮かべて…。


 「さぁ!レフィアママさん!頑張ってね!子育てで躓くことがあったら私にお任せよ!私は子供を産んだことはないけど、ジェイドをここまで育ててこれたわ。エリスのことも、ジェイドのお姉ちゃんみたいに…ね。レフィアちゃん、そして、エターニアちゃん…、愛と幸せの国、イクセリドへようこそ…。」



 レフィアは涙を流して喜んだ。

 それはかつての憎しみの涙ではなく、心からの歓喜を意味する涙だった。



 それからエリス達は、決して裕福ではないものの、活き活きと日々を過ごせる、充実した生活を実現していった。


 過去の痛みはもうない…と言ったらウソになってしまうけど…。



 結ばれた絆と、訪れた幸せ。



 その価値は、どんな大金も品物も霞んでしまうような、彼女達だけの宝物だった。





 永遠の絆を誓って…。





 ある日…。

 エリスは、ジェイドにこう話した。


 「友達じゃ…いやだ…。」



 「えっ…!?え、エリス…??」



 戸惑うジェイドだったが、エリスの瞳を見つめた彼女は、全てを悟った。



 「うん…。これから…よろしくね…。」



 翡翠の瞳を見つめたエリスは、そっと彼女を包み込んだ。




 そう。ふたりは、結ばれた。


 「友達」ではなく、人生の「パートナー」として…。




 ふたりの心の繋がりは、もはや、単なる「友情」を超えたものになっていた。



 この事実は、彼女達の周りの者しか知らない。


 そしてまた、国の人々も、騒乱のイクセリドを解放した真の立役者がエリス達であることを、誰も知らない…。


 女性同士の結婚には、未だにイクセリドに於いても賛否があるものの、それはこれから「時代が」受け入れてくれるようになるだろう…。





 彼女達にとっては、それが本望だったのだ。




 決して弛まない絆がいまここにある…。




 それは、波乱の日々を乗り越えてきたふたりへの、神様からのご褒美だったのかもしれない。




 「永遠の平和を願って…。」






               -THE END-





ここまでお読みいただきましてありがとうございました。

このストーリーは全てフィクションですが、実際の舞台として、某国の内乱や、現代日本の貧困などを取り入れて執筆いたしました。


女の子が主人公でありながら、恋愛要素のない小説ということもあり、個人的にも「踏み込んだ」一作としてここまで書き上げてきました。

序盤の「社会の闇」的な描写は、まさに、現代の日本でリアルに起きている、歪んだ人々の心と、それが生まれている世情の実態を赤裸々に表現してみました。

際どい表現もありましたが、実社会のリアリティの表現を重視してのことです。どうかご理解ください。

(特に一番最後の、エリスとジェイドについては、”同性婚”という、現代社会で取り沙汰される機会の増えている事象について、このストーリー全体の”結論”を示したものだと考えています。)


次回の作品についてはまだ未定ですが、しっかり構想を練ってから、どのような小説を書くことにするか、しっかり考えたいです。


最後までお読み頂きました皆様に、心から感謝申し上げます。




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