Chapter 05:「心友」(しんゆう)
雲を突くような高山「イヴェルア山」の山頂にて、グロウバに捕えられたラリュスを発見したエリスとジェイド。直ちに救出を試みるが、グロウバの銃口はラリュスの頭に突きつけられており、一触即発の危険な状況に陥る。
その時、黒雲をかき分けて降り注ぐ光のもとに立っていたのは、エリスのかつての「心友」であった。突然の再会に喜ぶのも束の間、4人はグロウバを追って、軍事施設内での乱戦を展開する。
死闘の果てに、グロウバの居所を突き止めたエリスであったが、彼女はそこで、運命の無情さを強く痛感することになる。
そして、それと同時に、強い決意を胸に込め、未来を守る固い約束を交わす…。
Chapter 05:「心友」(しんゆう)
ラリュスが連れ去られたと思われるイヴェルア山の山頂は、政府軍の隠れ蓑となっていた、巨大な軍事施設であった。
この山が晴れることはない。常にどす黒い雲に覆われており、太陽の光が、鈍く辺りを照らすだけの、薄気味悪い場所だった。
「ママ…!!」
「えっ…!?まさか…!?」
エリスとジェイドは、高台となった場所の岩陰から、軍事施設の中庭を眺めていた。
そこには、手足を縛られ、太い梁に縛られた、ひとりの女性と、ひとりの男がいた。
「民衆共はまだまだ抵抗を続けるつもりだな…。ひとつ、見せしめも必要だ。」
その男こそ、現イクセリド大統領「ゲルツ・グロウバ」その者である。
民衆との衝突が長期化し、その度に激しさを増す状況に苛立ちを示したためか、ついには自らが銃を持ち、戦いの指揮を執るようになっていたのだった。
抵抗できないラリュスは、涙を流しながら俯いたままだった。
エリスとジェイドが気がかりでならないが、自らが生きてここを抜け出せない限り、その心配も無に帰してしまう。
…だが、そんなラリュスの気持ちを逆撫でするかのように、グロウバは不敵な笑みを浮かべ続けた。
「おめぇんとこのメスガキはどこだ? あのガキを使えば、こんな小国など、私の手の中で自由自在なのだ…!!さぁ!如何いたしましょうか?お母さま…?」
ラリュスの頭に銃を突きつけるグロウバ。
ラリュスは涙を流しつつも、歯を食いしばってこう言った。
「…そんなことをしても無駄です…!!」
「フッフッフ…。銃を突きつけられても意地を張れるとは大した女だ。だが心配はいらない。おめぇがここにいることを知れば、あのメスガキは必ず現れるに決まっているのだからな…。」
「…そ、そうはなりません…!!」
ラリュスの虚しい叫びがこだました。するとグロウバは、銃を持った手で彼女の腹を一発殴った。
「ドスッ…!!!!」
「うあああっ…!!」
その様子を見ていたジェイドは、たまらず飛び出そうとした。
「ママぁ…!!」
「待った!ジェイド…。このままではママのところへは近づけない…。何とか施設の中を抜けて、武器を見つけてヤツの目の前に…。いい?」
ジェイドは、エリスの提案を目で了解した。
そして二人は軍事施設内へと突入した。ところが早々に、外部侵入者レーダーに感知されてしまい、敵の総攻撃を受けてしまう…。
無我夢中で逃げ回る二人は、武器格納庫から光学銃器の一種である「ピアッシング・ガン」を発見した。
これは”Unsung Dazzler”の面々が使っているレーザー光学兵器の一種だが、今まで使ってきたものとは桁違いの威力を誇り、銃の原理を発明したフォジス博士の「人を殺さない兵器」の理念を完全に無視した品であった。
「ど、どうしてこんなものが…?」
「エリス…、博士は確か、かつて政府軍に捕まっていて、色々な兵器の開発を強要された…って聞いたことがあるわ…!だから、これもきっと…」
「そうか…。その博士の力を悪用した武器がこれってことか…。だったら、それがどんな威力でどんな苦しみをもたらすか、奴らに教えてやらなきゃ…!」
「博士は…、自分の科学や発明が、殺戮の手段に使われたことを自責して、博士愛用のパソコンに遺言を遺して、自ら命を絶ったわ…。そう。博士もまた、私達のメンバーの一員だったし、私達の仲間だった…。最後に聞いた言葉は…、“科学は善にも悪にもなる。人の意志こそが、人の未来を幸せにも不幸にもするのだ…”って…。」
「そうだったのか…。博士はきっと、武器の発明は望んでいなかったんだろうな…。」
暫しの沈黙の後、二人は「ピアッシング・ガン」を手に取った。
この銃は、いわゆる「徹甲弾」と同等の破壊力を誇るレーザー光線を発射する。人を直撃すれば、その命を一瞬で奪うことは想像に難くない。
物騒な武器を持つことに恐怖も躊躇いも感じた二人だったが、激しい銃撃戦と化した施設内を生き延びるには、この銃を生命線として頼る以外に術はなかった。
政府軍の兵士は、明らかな殺意を持ってエリス達を襲ってきた。倒しても倒しても、二人には銃口を向けられてしまう。物陰に隠れ、時に瓦礫やドアなどを盾にしながら、決死の銃撃戦を展開した。
戦闘はさらに激しさを増し、装甲車両、戦車、さらにはロケットランチャーまでもが、二人を仕留めようと牙をむいてくる…。
絶望の二文字ばかりが脳内を包むが、エリスもジェイドも、互いを案じつつ、ピアッシング・ガンという、博士の遺志の宿るその銃で、暗愚と悪夢の限りを尽くす兵器群を撃破していった。
二人は致命傷こそ負わなかったが、死闘の中で服はボロボロに裂け、腕や足には無数の傷ができていた。
「ママを助けたい…。」
ジェイドはその一心で、小さな体を全力で動かし、敵の銃弾やミサイルを躱し続けた。エリスもまた、ジェイドのためでもあり、自らの未来にも繋がる戦いであることを承知していたため、無言のまま、凄まじい爆音の響く、死と隣り合わせの戦場で銃のトリガーを引き続けた。
やがて施設の外へ抜け出た。
すると、そこは激しい雷雨となっており、雨水が二人の傷口に突き刺さった。
だが、ここまで来たらもう泣いていられない。
「真の幸せを求めて倒れるなら本望だ…。」
そう、エリス達は心の中で唱え続け、敵の猛攻を凌ぐと、ようやく、ラリュスとグロウバのいる、中庭へ足を踏み入れた。
「ママ…、ママぁっ…!!」
「はっ…ジェイド…!? …ジェイド来ちゃダメ!!あぶないっ…!!」
「ズダァァァァン…!!」
ラリュスの声が響いた刹那、激しい銃声が同時に轟いた。
「ほほう…やはり来たか。翡翠の少女と、その“親友”とやら…。」
エリスはその声の方向を見上げ、憎しみをいっぱいに込めて叫んだ。
「ゲルツ・グロウバ!!…イクセリドの悪の根源が…!!」
「ハハハハハ…!!貴様は威勢だけはいいようだな。随分と我々に歯向かってきたようだが、若気の至りとはこのことなのか?」
エリスとジェイドは、すかさず銃口をグロウバに向けた。
しかし、それと同時にグロウバは、自らの持っている実弾銃の銃口を、ラリュスの頭に当てた。
「そこまでだ!!」
「ママちゃんがどうなってもいいのかなぁ?」
「銃を捨てな!!」
「・・・・・・。」
「くっ…!!卑怯なっ…!!」
「ママ…っ…!!」
大雨の叩きつける中、不気味な沈黙に包まれた。
雨の雫がエリスとジェイドの髪の毛や体から滴り落ち、傷口にしみたが、ここで迂闊な行動を取れば、ラリュスの命の保証はない。
二人は一歩も動けないまま、グロウバを睨み、雨に打たれ続けた…。
やがて、グロウバは銃のトリガーに指をかけた。
一瞬、ニヤリとほくそ笑む表情を見せたグロウバ。
だがその瞬間だった。
「ピシャァァァァン…!!!!」
「ぬわぁっ…!!!!」
どこからともなく飛んできたレーザー光線が、グロウバの銃を弾き飛ばした。
何事かと戸惑う一同。
エリスは、恐る恐る銃声の聞こえた方向を見つめてみると、さっきまで密かに中庭の様子を見ていた場所に、銃を構えたひとりの女性が立っていた。
「…間に合ったかな…?」
その姿には見覚えがある…。
何と!エリスの“心友”である、メグであった。
「メグ…!?どうして…!?」
メグから銃を向けられたグロウバは、おもむろにラリュスを蹴り、軍事施設の中へと走り去った。
「エリス…!!久しぶりだね…。」
「メグ…!!まさかあなたが…!!」
「詳しく話している暇はないわ!私はラリュスさんを助けるから、二人はグロウバを追って!早く!!」
咄嗟のことで心が迷ったが、ラリュスの縄を解くのはメグに任せ、エリスとジェイドはグロウバを追った。
しかし、入り組んだ軍事施設の内部は迷路のようであり、どこへ逃げたかも判然としない中、捜すのは困難であった。
結局、このままアテもなく捜すことは危険と判断し、メグとラリュスは、一度エリスとジェイドを呼び戻した。
「ママぁ…!!うわぁーーーーん!!」
ラリュスに抱き着き、号泣するジェイド。
改めて、育ての親たるラリュスの、暖かさを感じて涙が止まらないジェイドであった。
「ジェイド…、そして、エリスも…。二人ともひどい傷…。ありがとう…。私のために…。」
「ううん…、ラリュスさんこそ無事でよかった…。」
メグは、改めて彼女らに、自己紹介と、エリスと別れたその後のことを話した。
「実はあの後、わけあってアタシも、反政府革命団の一員になったのよ。というのも、本当は仕事を探そうとしていたんだけど、その頃には就活なんてできる世情じゃとてもなくてね…。毎日毎日、内乱と衝突の眠れない国の中にいたわ。飛行機テロの話を聞いた時には、エリスは死んじゃったんだと思ってたんだけど…、SNSで、ひとりだけ生きてる…って噂を知って、それがもしかしたらエリスじゃないか?って、思ってね。」
「…で、エリスが革命団の一員として活動してるって話を小耳に挟んで、アタシも、自分の未来のためにも、この乱れた国を建て直して、心友のエリスのために一緒に力になりたいって思ってた。」
「…今は地上も町も、かつてないほどに大乱戦になっていて、蜂の巣をつついたような騒動になっているわ。グロウバを打ち倒さない限り、暴徒の蛮行も、政府軍の攻撃も、絶対に収まりそうにないわ…。アタシは本当は、こんな戦いなんて好むキャラじゃないんだけど、心友のエリスと一緒に、幸せになりたいと思ってたから、あなたを追ってここまで来ちゃったってわけね。」
「メグ…。」
エリスは、メグを強く抱きしめた。
お互いに涙し合った。そんな美しい友情を神様が見ていたかのように、先ほどまでの大雨が、嘘のように晴れた。この「暗黒の山」に、美しい天使の梯子が架かるのは、一体、何十年ぶりのことだろうか…。
そしてメグは、エリス、ジェイド、ラリュスらと共にグロウバ討伐を決意した。
メグは、エリスと別れた後、ネットを使って様々な政府軍の情報を入手していて、このイヴェルア山に、恐るべき超殺戮兵器が配備されていることを把握していた。
恐らくそれは、今や悪の元帥と化したグロウバの、究極の切り札として用いられる可能性は高い。そうなってしまったら、イクセリドは指折り数える時間もないうちに焦土と化してしまうだろう。
それだけは、何としても食い止めねばならない…。
軍事施設の迷宮を進む4人は、メグの持っているスマホが示す「兵器格納庫」を目指し歩いていた。
恐らくだが、劣勢に回ったグロウバが逃げる場所があるとしたらそこだろう。エリス達も必ず追って来ることを知っているはず。武器に困らない所で4人を待ち構えていることは、十分に考え得る話であった。
「それにしてもエリス…。あなたもよくここまで生きてきたわね。過去には戻れないし、青春も取り戻せないとわかっていても、ホント、健気だわ…。」
…何気に放ったメグの、エリスを気遣った言葉だったが、それに対しエリスは何か、カチンと来るものを感じてならなかった。
「そ、そうだけど…、メグ!!あたしが、あなたに比べてどれだけ苦しくて悲しくて、辛い毎日を生きて来たか、本当に理解しているの!?メグって何だかいつも脳天気って言うか、平和ボケしている感じで…、あたしなんかよりよっぽど恵まれて生きているわよ!」
「ーーーそれなのにあなたは、私のことを何かと知り尽くしたかのような顔であれこれ話してくるけど、正直、あんたなんかに、あたしの苦しみに塗れた人生なんかわかるもんか…!!」
「心友なんて言っているけど、本気で私がわかるんだったら、少しは悲しい顔もできないもんなのか!?」
「あんたもあたしと同じ経験してりゃ、軽々しくあたしを慰めたり友達だって言ったりできないはずだもの!!」
「…メグ!!どうなのよ!!」
「・・・・・・。」
メグは、一瞬、表情を固くした。
メグにとって、そんな言葉がエリスから投げかけられるとは、予想外にもほどがあった。
「…エリス…。うん…。ごめんね。…確かに正直に言うと、あなたの波乱の人生は半分も理解できていないと思うわ。だけど、初めて出会った時、あなたの生きる気力が本物だってことは、しっかりわかっていたつもり。」
「…でも、エリスにそう思われていたってことは、私は…。。。」
「…私にはまだ苦しみも悲しみも足りないってことだろうね。」
「エリスに、そんなふうに見えていたってことは、疑う余地のない事実だろうね…。」
「…でも、いいんだよ…。私は、エリスの味わった地獄のような経験を、知らないのは確かだし…。」
「け、けれどね…、エリスが、私と繋がってくれたことに、何か強く感じるものがあったのよ。それだけは絶対にウソじゃないわ!」
「エリス…。きっと、自分の胸の中で、誰かの幸せと比べてしまっているのよね。…でもそんなことして虚しくないの!?幸せも不幸も、上も下も見渡したらきりがないわよ!もちろんあなたの、幸せをつかみたい気持ちを否定しないけれど、残念ながら、どんな人にもその人相応の、幸せも不幸も持って生まれて生きるしかないんだと思うわ。」
エリスは、妙にメグの表情にムカっときた。
そして、整理のつかない気持ちがあふれ出し、メグの頬を力いっぱい平手打ちしてしまった。
「バチィィィィィーーーーーン!!!!」
「…エ、エリス…。」
「あ、あんたなんかになにがわかる!!不幸の塊に埋もれた私を踏んづけて笑っているようなお前なんて、この要塞の奥底で力尽きればいいのよ!!このバカ!!」
…足早に走り去ったエリス。
呆然とするメグだったが、エリスの心はわかっていた。
状況が状況だけに、死と隣り合わせの今、自分の命が奪われるようなことがあったら、彼女は亡霊になっても永遠に後悔するしかないだろう。
それもまた、エリスにとってこの上ない不幸のひとつだ。
メグは、突然いきり立って起こったエリスの心中を、自分なりに解釈した。
「やっぱり、エリスも辛すぎるんだわ…。ここは、あえて私が彼女の全てを受け止めてあげなきゃ…。」
様々な意味で零れるメグの涙。
メグは、エリスの痛む心を慰めようとしたが、それが逆に彼女を苦しめていたと知り、自分を責めてしまっていた。
だけど…
エリスは、大切な存在。
それを失った時、悲しくないわけがない。
だからこそ、メグは、エリスを見捨てられなかった。
「女として」…そして、「心友として」…。
「エリスーーー!!」
メグに背を向けて、独りで歩いて行ったエリスに追いついた。
「メグ…!!ま、まだ何かほざくことがあるとでも…」
「…ううん。言いたいことはたったひとつだけ。」
「あなたの幸せを倍にして、あなたの不幸を半分にしたい…。だから、私はエリスについていくわ。あなたが私をウザいと思ったら、いつでも銃で撃ち殺してもいいわ。私は構わない。エリスは、嘘でも何でもない、正真正銘の”心友”なんだから…。」
…エリスは、メグのその強い気持ち、自らを思ってくれる心に、思わず大粒の涙を流した。
そして、メグを抱きしめて、大きな声で泣いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁん…!!メグ…!!」
「さぁ、泣くのはそのくらいでいいでしょう。急がないと戦況が悪くなる一方だわ。」
エリスは、黙って頷いて、今一度、メグの手を握った。
薄暗い通路を歩く二人は、特にそれ以上ケンカをするでもなく、淡々と言葉を交わしていた。
「メグ…。その銃は、レーザー光学兵器なのか?」
「うん。エリスの持ってるのと似てるわね。これは、スナイピング・ライフルだけど。」
ラリュスは、その銃をメグから借りて手に取ると、こう話した。
「やっぱり、フォジス博士の技術が見て取れるわ…。博士は、民間人が暴力に抵抗できて、なおかつ、死人の出ないようギリギリの威力の銃しか作らなかった…。このライフルも、さっきみたいに威嚇の一種として使うことが前提で、誰かの命を奪う手段では、決してないのよ…。」
…その時、ラリュスの持っていた端末に、地上からこちらへ向かっている男子メンバーの、シフィアとティアスが現在、道中で政府軍と応戦中であると知らせが入った。
「ラリュス指揮官!無事でよかった…!こちらは俺達が何とかします!みなさんはグロウバを追ってください!!まもなくそちらへ合流できます。」
「了解。ともかくも、無事でいてね…。」
しかし、この無線傍受が、敵の「索敵網」に反応してしまったらしく、突如4人は、銃を持った政府軍兵士に囲まれた。
「動くな…!!」
エリスは、強く敵兵を睨んだ末、こう語った。
「私を傷つけた者は必ず不幸になるのよ…!!それを証明させて見せるわ!!死ぬ準備をするのはあなた達の方よ!!」
「何をこの小娘が…!!うわっ…!!」
エリスは、迫り来た兵士を蹴り飛ばした。
そして、4人は蜘蛛の子を散らすかのように動き、敵兵を幻惑させた。
メグは、スマホを見ながらエリスらを、兵器格納庫へと導いた。
迫りくる追手は、ジェイドとラリュスが援護射撃して、二人の進路を確保させた。
やがて、目の前には巨大なゲートが姿を現した。それは厳重なセキュリティで守られており、彼女達の力や技術では、突破できそうにないものであった。
「くっ…!!わかってはいたが…、これは面倒なことになったな…。」
「メグ…!!何とかセキュリティを破る方法はないの?」
「…うん…、ダメ元で…だけど、この“セキュリティ解除アプリ”を試してみるわ。これは、一緒に市街地で戦っていた仲間から教えてもらったものなんだけど…。」
メグは、兵器格納庫のドアロックの解除を試みるも、簡単にはいかないようだ。」
「…はぁ…、ダメだわ…。」
…と、メグが嘆いた瞬間、突然、そのドアは開いたのであった。
「えっ…!?ど、どうして…?」
「メグ!とにかく中へ…!!」
広い空間になっている格納庫には、その片隅に見慣れない兵器が置かれているだけで、超殺戮兵器と思しきそれの姿は、見えなかった。
…すると、奥から人が歩いてくる足音がした。
「ハッハッハ…!!小娘ちゃんよご苦労だったねぇ。この場所を知られてしまった以上、生かしては帰せないことになっているんだよ。残念だったねぇ…!!」
「その声は、グロウバ!!あなたなのね!!」
「フン…!!小賢しい正義を振り翳して政府を蹂躙か。エリスとやら、貴様はどうやら、この国に置いておくわけにはいかない存在のようだな…。この前の飛行機テロの男とグルだったとも噂されているしな…。」
「さぁ…!覚悟しな…!!」
何と、グロウバは大型の銃をエリスに向けた。
そして、エリスを壁際へ追い詰め、じりじりと追い詰めて行った。
反撃のための武器を持っていないエリスは、その体を撃ち抜かれるまで待ったなしの状況だった。
「イクセリドの害虫小娘が…!!死ねぇぇぇっ…!!」
「や、やめろぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・!!!!」
「ズダァァーーーァァン!!!!」
何と、グロウバの銃から弾が放たれたその瞬間、メグは、エリスを庇って自ら凶弾の餌食となった…。
「なな…っ…!?メグ…!?メグ!!メグ!!」
「メグーーーっ…!!」
「どうだ小娘、思い知ったか!?大人や権力に抗うことが、どれほど愚かで、どれほど無駄なことか、その身に沁み込ませるがよい…。ハッハッハッハ…!!」
高笑いと共に格納庫の内部へ消えたグロウバ。
しかしエリスは、銃弾を受けたメグを必死に揺さぶることしかできなかった。
「メグ!!しっかりして!!メグ!!メグ!!」
必死に呼びかけるエリスだったが、その両手は、彼女の鮮血で真っ赤に染まっていた。
メグは心臓を撃たれており、もはや、どうあがいても、助かる方法はなかった…。
「冗談でしょ…!!メグ!!意識をしっかり保て!!メグ…!!」
メグは、最後の気力を振り絞って、エリスにこう言った。
「エリス…、ずっと、あたしたち、シンユウ…だよ。ありがとう…。」
そのセリフが終わると、メグは事切れてしまった。
「メグ…!!メグ…!!うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーん!!!!」
「嘘だ!嘘だ!メグ!何で!何で!私の目の前で…!!わぁぁぁぁぁん!!」
騒動を聞きつけたジェイドとラリュスが、エリスのもとへ駆けつけた。
「ジェイド、ラリュスさん…!!メグが…!!メグが…!!」
「…うそ…?メグ姉ちゃん…死んじゃったの…??」
「ああ…!神様…どうして…。グスッ…。」
ジェイドもラリュスも、言葉を失った。
諸悪の根源たる、グロウバを追い詰めるまであとわずか…というまさに今、メグがその悪魔の放った凶弾の犠牲となった…。
すでに眠るように横たわるメグの手を、ジェイドとラリュスもしっかりと握った。
「エリス…、こんなの、こんなの、ひどすぎるよ…!!」
「ジェイド、そしてエリス…。本当に何と言っていいか…。運命の…いや、この国の残忍さを恨む他、私にはできることがなさそうだわ…。」
暫くすると、シフィアとティアスが彼女達のもとへ合流した。
当然ながら、合流の第一声として「メグが死んだ」と聞かされて、驚かないわけがなかった。
シフィア「…そうだったのか…。メグさん、エリスを庇ったんだね。」
ティアス「エリスさん、その…、僕からも、メグさんの冥福を祈らせて頂きます。僕達はこれから、メグさんのご遺体を地上へ運びます。何とかして、空の見える場所で眠ってもらえるよう尽くしてみます。一通りのことが済んだら、僕らも再びここへ戻って、あなた達に加勢します!」
…そう言うと、シフィアとティアスはメグの遺体をそっと運び、車に積み込んで一度地上へと引き返した。
なお、エリスはその時、メグが装着していた桜のペンダントを、彼女の形見として、そしてお守りとして、自らが身に着けたのであった。
「メグ…、メグ…。あなたの無念は絶対に晴らす…!!止まない雨はない!明けない夜はない!そして、終わらない悪夢も…ないっ…!!」
「私達は“心友”だ…!!それはたとえ、魂の場所が違っていても、いつだって気持ちはひとつだ…!!」
メグの死という過酷な現実を受けたエリス。
同時に沸々と湧き出たのは、グロウバに対する、尋常ならざる敵意と復讐心である。
奴を倒さなければ、この悲劇は何度でも繰り返されるだろう。
エリスは、グロウバのほくそ笑む顔を思い浮かべ、歯を食いしばった。
ついさっき、メグに対して思わず鬱積した気持ちを吐き出して、あろうことか彼女に罵声を浴びせたり、ひっぱたいたりしてしまったことを悔やんだが、それでも自分についてきてくれたメグには、感謝の気持ちしか、ないのだった。
「メグ…。あたしが色々と不器用なせいで…。あんたに、胸糞悪い思い出を冥途の土産に持たせちゃって…本当にごめん…。ごめんね…メグ…。」
エリスは、ジェイドとラリュスの手を握ってこう言った。
「もう、悪夢は終わりにしよう…。私達が、終止符を打たなきゃ…。」
黙って頷いたジェイドとラリュス。
エリスは、心友たるメグのためにも、そして、この国に生きる全ての人々のためにも、悪魔の権力者グロウバを倒すために、太陽の光届かぬ格納庫の深淵へ、無言のまま歩いて行った…。
「メグの死を無駄にできない…!!」
「私達の絆の意味を、無に帰したくない…!!」
たとえ自らがどれほど苦しむことになるのも厭わない、頑強な気持ちを胸に、エリス達は、漆黒の地下室へ侵入した。
皆の心はただひとつ…。
「もう涙はこれっきりだ…!!」