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実家に帰ったら甘やかされ生活が始まりました  作者: 月夜乃 古狸


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222/227

第222話 バースデーパーティー、そして……

「な、なんか、緊張するな」

「らしくないわね。ほら、背中が曲がってる!」

「痛っ! わかったってば、叩くなよ」

 皇邸の隣(実際は敷地内なのだが)にある迎賓館の車止めの前に停まったマイクロバスから騒々しく降りてきた和志と智絵里。そしてそんなふたりを見て笑っている巌の3人だったが、改めて建物を見上げて思わず大きな溜め息を吐いた。


「ね、ねぇ、私の服、っていうか、見た目全部、大丈夫かなぁ」

「大丈夫、だと思う。というか、それを言ったら俺なんて制服だぞ」

 話には聞いていたものの、まるで高級ホテルのような迎賓館の建物に怖じ気づいた智絵里と和志にひとつ肩をすくめ、巌が先に立って扉を開けた。

「ちょ、大隈、まだ心の準備が」

「か、髪を整えさせて!」

「大丈夫だ。それより待たせる方が失礼じゃないか?」

 至極もっともな指摘だったため、結局巌の後に続いたのだった。


「いらっしゃい、大隈君、荒三門君、東条さん。来てくれてありがとう」

 三人が建物に入ると、いつもの朗らかな笑みをさらにパワーアップさせて陽斗が出迎えた。

 その場違いなほど嬉しそうな陽斗の姿を見て、和志たちもようやく少し落ち着いたようで、息を整えてから揃って頭を下げた。


「あ、あの、陽斗先輩、た、誕生日おめでとうございます」

「おめでとうございます!」

「先輩、お久しぶりです。その、妹からもおめでとうって伝えてほしいって。それと、また遊びに来てくれって言ってました」

「ありがとう! うん、また大隈君のお家にも行かせてもらうね」

 

「えっと、こ、これ、大したものじゃ、本当に大したものじゃないんですけど、俺たち三人からプレゼントっていうか」

「あ、あはは、陽斗先輩に渡すのはちょっと恥ずかしいくらいなんですけど、受け取ってください。あ、選んだのは和志君です」

「あ、ずるいぞ、俺に責任被せんなよ」

 きっと一緒に買いに行ってワイワイ言いながら選んだのだろう。

 その気持ちを陽斗が喜ばないはずがない。


「ありがとう、荒三門君、東条さん、大隈君も。すごく嬉しいよ。今日は沢山食べて、楽しんでいってね」

 陽斗は笑みを深め、和志たちを奥に案内する。

 といっても移動するのはほんの少し。

 陽斗がホールの扉の前に立つと、メイド服の女性が開いてくれ、奥にはピアノの優雅な旋律が流れる華やかな空間が広がっていた。


「あ、羽島先輩だ」

 智絵里が小さく呟く。

 その通り、ホールの片隅に置かれているグランドピアノを弾いているのは陽斗の友人である華音だ。

 ここのピアノがお気に入りの彼女は、今日も来るなりほんの少し陽斗と言葉を交わしてからそそくさとピアノの前に陣取って、気の向くまま、好き勝手に弾きまくっている。

 まぁ、一応お祝いの場だということは弁えているようで、明るく楽しげな曲を選んでいるようだが。


「お前たちも来たのか。生徒会は順調か?」

「あ、会長、じゃなかった天宮先輩。ご無沙汰してます。受験は終わったんですか?」

「天宮とセラさんも無事合格したんだって!」

「なんで西蓮寺が答えるんだ。まったく、当事者の僕たちより喜ぶなんて、親じゃあるまいし。ほら、主役がいつまでもフラフラしてどうする。四条院が探していたぞ」

「え? わかった。それじゃ、荒三門君たちも楽しんでね」

 壮史朗に促され、陽斗は和志たちからのプレゼントを大切そうに抱えながら離れていった。


「奥に居るのって錦小路琴乃さんだよな。生徒会長だった鷹司先輩も一緒にいるし、すっげぇよな」

「穂乃香様は当然だし、天宮先輩のところも名家だしね。入学したばかりの頃、和志君ってば家柄でさんざんイキってたけど、またお家自慢してみる?」

「そう言えば荒三門は最初の頃かなり偉そうだったな」

「頼むから古傷をグリグリしないでくれって! ウチなんてここの人たちと比べたら一般家庭と大差ないから」

 和志を智絵里と巌が揶揄っていると、壮史朗がクスリと小さく笑った。


「荒三門もずいぶんと変わったな。中等部の頃は生意気で向こうっ気が強かったが、高等部に来てから謙虚になった」

「陽斗先輩のおかげです。陽斗先輩の言葉って、なんか心に来るんですよね。重いっていうか、ストレートに突き刺さってきて。っていうか、天宮先輩だって中等部の時は人を寄せ付けない感じだったじゃないですか」

「そうなのか? 確かに厳しいことを言うなとは思ったけど」

 和志の言葉に、高等部に入学してからしか壮史朗のことを知らない巌が意外そうに目を見開く。

 生徒会に所属していたから接点は多かったが、巌の印象では多少つっけんどんだが指導は的確で面倒見が良いとしか思っていなかったのだ。


「僕もアイツのおかげで少しは変われたんだろうな。ただ、一番変わったのは西蓮寺自身だぞ。入学した時は弱々しくて自信なさげに人の顔色ばかり窺っていたからな」

「私が最初に会ったチャリティーバザーの時はそんな感じでしたね。ひたすら可愛かったけど」

 壮史朗が懐かしむような顔で言うと、智絵里も思い出したのかクスクスと笑う。

「俺にとっては最初から頼りになる先輩でしたけど」

 巌も第一印象は小さな先輩というだけだったが、すぐに陽斗の芯の強さを知り、家の問題まで解決してくれたので最初から尊敬していた。


 それから和志たちが他の人とも挨拶していると、ホールに重斗の声が響いた。

『本日は陽斗のためにようこそ来てくれてありがとう。食べ物、飲み物はたっぷりと用意してあるので、一緒に陽斗の誕生日を祝ってほしい。そして、これからもどうか良い関係を続けてくれると嬉しく思う』

 続けて、重斗からマイクを受け取ったのは穂乃香だ。

 同時に、幾人ものメイドが招待客にクラッカーを配っていく。

 

『それでは、皆さんもご一緒にお願いしますわ』

 穂乃香がそう切り出し、全員でハッピーバースデーの歌を歌い、それが終わると同時に一斉にクラッカーが鳴らされた。




「疲れました?」

 パーティーが終わり、皇家のメイドたちが手慣れた様子で片付けていくのをぼんやりと見つめていた陽斗は、穂乃香にそう声を掛けられて首を振る。

「ううん。楽しかったし嬉しかったなって思って」

 そう返す陽斗の顔は本当に幸せそうな柔らかいものだ。


「皆さんも楽しそうでしたわ。荒三門さんも最初は緊張していたようですが、智絵里さんに引っ張られて他の方とも打ち解けて冗談を言い合っていましたし」

 今回の誕生日パーティーは親しい友人だけを招いたカジュアルなものにした。

 琴乃や雅刀といった先輩たちが数人と壮史朗と賢弥、セラ、華音という同級生たち。そして和志たち後輩が数人。

 皆、陽斗と親しくしている友人たちだ。


 もちろん陽斗の誕生日を祝いたいと思っている人は他にも沢山居るが、大人たちが居ては気軽に楽しむことはできないだろうと歳の近い人たちだけでパーティーをすることになった。

 ただ、今回は18歳&高校卒業という節目でもあり、後日改めて大勢を招いた晩餐会が催される予定となっている。


「でも、やっぱり毎日のように会えた人と離れちゃうのは少し淋しいな」

「そうですわね。大学が別だったり、暮らす場所が離れてしまうのは仕方ないことですけれど。でも、きっと大丈夫ですわ。これまで築いてきた絆がなくなるわけではありません。彼らが困っていれば陽斗さんはどこに居ても力になろうと思っているでしょう?」

「うん」

 穂乃香の問いに、陽斗はいささかも躊躇うことなく頷く。

 その言葉どおり、仮に陽斗に両親や重斗から受け継いだ資産などまったくなくても、友人が困っていれば懸命に力を振り絞ることだろう。

 穂乃香はそんな陽斗を微笑みながら見つめる。


「そ、その、穂乃香さんもそろそろ帰らなきゃいけないよね?」

 彼女に見つめられ、陽斗は顔を赤くして目を逸らし話を変える。

「はい。これからまた実家に戻ります。淋しいですけれど、あと2週間の辛抱ですから」

「あはは、そんなこと言うと彰彦さんが泣いちゃうよ」

「せっかく新居が完成して荷物も運んだのに、せめて3月いっぱいは家に居てくれなんて我が儘言うんですもの。このくらい言っても罰は当たりませんわ」


 皇邸の敷地内に完成した穂乃香用の部屋、というか建物はもういつでも入居できるように準備は整っている。

 が、親としては娘とギリギリまで一緒に居たいと思うのは当然のことで、卒業式の翌日に穂乃香は通学用に借りていた部屋を引き払い、実家に帰っていた。

 今日は陽斗の誕生日を祝うためにわざわざやって来たが、終われば帰らなければならない。次に来るのは3月の終わりだ。

 といっても、それまで会えないわけではなく、穂乃香の母、遙香から家に招待されているし、3月後半には東京で早速のクラス会を行う予定となっている。


「あ、あの!」

「はい? 陽斗さんどうかなさいました?」

 帰るためにホールを出た穂乃香を見送るために一緒に歩いていた陽斗が、不意に足を止めて穂乃香に向き直る。

「えっと、もうちょっとだけ遅くなっても良い、かな」

 顔を真っ赤にして、目は泳ぎまくって、それでも何かを決意したかのように言う陽斗に、穂乃香は少し驚いた様子だったが、すぐに柔らかく微笑んで頷いた。


 ふたりは迎賓館の建物を出て、庭園の方に足を進める。

 時刻はすでに20時を回り、庭を照らす優しい灯りが邪魔することなく細い月と星が空を彩っていた。

 陽斗と穂乃香は無言のまま、しかし手はしっかりと繋いでゆっくりと歩き、建物からは木々がブラインドになった場所にあるガゼボで足を止める。

 灯りは少なく、静まりかえったその場所は、普段なら少し恐さを感じるかもしれないが、陽斗は自分の心臓の音がうるさくてそんなことを気にする余裕は無い。


 ガゼボの中央で陽斗は穂乃香と目を合わせる。

「あ、あの」

「はい」

「ぼ、僕はこれから先もずっと穂乃香さんと一緒に居たい」

「はい」

「その、こ、恋人としてもだけど、その先も」

「! はい!」

「穂乃香さんは凄い名家のお嬢様で、その人と一緒に居るためには、その、ちゃんと形式を整えなきゃいけないって」

「そう、ですわね」

「だから、僕と、将来を共にしてください! 僕は、穂乃香さんと一緒にふたりで幸せになりたいです」

「はい……はい、はい! 嬉しいです!」


 たどたどしく、薄暗い中でもはっきりわかるほど顔を真っ赤に染めて一気に言い切る陽斗に、穂乃香は何度も頷く。

 そして陽斗はポケットから小さな箱を取り出し、穂乃香の前で開けてみせる。

「……着けていただけますか?」

「う、うん」

 穂乃香に促され、陽斗は彼女の左手の薬指にそっと差し込んだ。

 陽斗が持つ資産を思えばあまりにシンプルで小さな指輪だった。


 穂乃香の柔らかく優しい眼差しのような淡いピンクの宝石をあしらったプラチナのリング。

 それは陽斗が中学時代にしていた新聞配達の収入の残りをはたいて用意したもの。

 誰かに与えられたお金ではなく、自分の力で稼いだお金で買ったものだ。

 今の陽斗はもちろん、屈指の名家である四条院家の令嬢に贈るものとしては不相応な安物ではある。

 けれど、陽斗にとって今できる一番心のこもった想いの結晶。


 もちろん穂乃香がそれを知るわけもない。

 だが、

「……綺麗。ふふ、可愛いですわ。それに、陽斗さんの気持ちがこめられていて、今までいただいたどんなプレゼントより素敵です。ありがとうございます。それと、これからよろしくお願いいたします」

 穂乃香は薬指のリングを愛おしそうに指でなぞり、胸にかき抱いた。



 余談だが、日付が変わる頃ようやく帰宅した穂乃香は、彰彦が叱る気が失せるほどだらしない顔をしていたとか。



前回、もうすぐ完結という告知をしたところ、沢山のコメントをいただきました

読者の皆様のおかげで最後まで頑張れそうです

もう少し、まぁ、閑話もあるのでまだしばらくはお付き合いください

それと、それが終わればすぐに新作も投稿開始しますので、これからもどうか古狸の作品を楽しんでいただきたいです



というわけで、今週も最後まで読んでくださってありがとうございました。

そして感想を寄せてくださった方、心から感謝申し上げます。

数あるWeb小説の、この作品のためにわざわざ感想を書いてくださる。

本当に嬉しく、執筆の励みになっております。

なかなか返信はできませんが、どうかこれからも感想や気づいたこと、気になったことなどをお寄せいただけると嬉しいです。


それではまた次週の更新までお待ちください。

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