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第178話 公表、そして動き出す人たち

 アメリカ経済の中心地、ニューヨーク。

 西海岸やテキサスなどには数多くの先端企業が本社を置いているものの、世界的企業や国際機関の本部が集まるこの都市はいまでも世界経済の中心として一線を画している。

 そのニューヨークのさらに中心、マンハッタンにある高級ホテルのホール。

 陽斗たちがテキサスで動物と戯れているその時、重斗とジェイク・フォレッドという日米の経済2大巨頭はホールに集まった多くの人々から視線を集めていた。


 ここに居るのは世界でも上位1%以内に入るほどの資産を持つ機関投資家やグローバル企業のCEO、国際機関の役職クラスなどそうそうたる面々が100名ほど。

 見える範囲でメディア関係者の姿はなく、カメラを向ける者もいないが、なによりふたりの一挙手一投足を見逃すまいとでもするように瞬きすらせずに注がれる視線に、重斗とジェイクは顔を合わせて苦笑を浮かべる。


 予定時間になりホールの扉が閉じられると、スタッフとみられる男性が、まずジェイクにマイクを手渡した。

『突然の呼びかけにこれほどの方々が集まってくれたことを感謝する。今回発表する内容はあくまで私的な事柄ではあるが、諸君らは私と長い付き合いなので伝えておくべきだと思ったのでね』

 私的な事柄といってもフォレッド家は世界でも屈指の大富豪であり、その当主であるジェイクの言葉は、それが単なる雑談の中であっても経済に小さくない影響を与える。

 それがこうしてわざわざ人を集めて発表するとなれば些細なことと聞き流せるわけがない。


 小さなざわめきのあと、会場は囁きひとつ聞き逃すまいと静まりかえる。

『私もすでに老人と呼ばれる歳になって久しい。なので、これまで様々な事情から先延ばしにしてきた私名義の資産を誰に残すかを決定した』

 ジェイクの言葉の直後、息を呑むような音が響き、すぐに消える。

『年内に私の娘、アンジェリーナに所有する金融資産の30%と不動産の40%、その娘ジャネットに金融資産の20%と不動産10%、資源権益の40%を移す予定だ。尚、日本の投資家であり私の友人でもある皇重斗氏にふたりの後見人を頼み了承を得ている』

 その言葉にホールは一際大きな喧噪に包まれた。


 これまで色々と噂されながらも後継者を明言していなかったジェイクの突然の宣言。しかも、後見人に一族と関係ないどころか国籍すら違う重斗が就くという。

 遠く離れた日本という国ではあっても世界でも指折りの資産家として知られる重斗が血縁でもないフォレッド家の後継者の後見人となる。

 当然ジャネットが未婚の若い女性であることで出席者は彼女と存在だけは把握している重斗の孫との関係を想像するが、それはジェイクが即座に否定した。


『孫娘と皇氏の孫は良い関係を築いているがそれは婚姻に繋がるものではない。むしろライバルとして互いを高め合う関係となるだろう。それに、皇氏が後見人と言ってもアンジェリーナとジャネットも大人だ。あくまで後ろ盾として相談を受けるだけだ』

 ジェイクがそう言うと、出席者のひとりがおずおずと手を上げる。

『それではMr.スメラギとフォレッドファミリーとの関係はどういったものになるのでしょうか』

 質問をしながらその男性が見ているのは重斗のほうだった。

 そこでこれまで黙っていた重斗が口を開く。


『これまでと何も変わらんよ。ただ、ジャネット嬢は孫の友人だから心穏やかに過ごす手伝いをするというだけだ』

 淡々とした物言い。

 ただ重斗の断固とした口調に、その台詞が言葉だけではないことを察した出席者たちはその理由を各々想像しつつもそれ以上訊ねることができなかった。



『なんだと!? 私は何も聞いていないぞ、どういうことだ!』

 アメリカ西海岸にほど近いオフィスで男が手に持ったスマートフォンに向かって怒声を上げる。

『とにかくフォレッド家の顧問弁護士に連絡して確認しろ!』

 それだけ言って電話を切ると、すぐに別のところに掛ける。

『私だ。すぐにテキサス行きの飛行機を手配しろ。できるだけ早くだ……チッ! 仕方ないそれで良い。到着に併せて車も用意しておけ。そうだ』

 荒々しい口調で通話を終え、苛立たしげにスマートフォンをデスクに乱暴に置いた男に、若い男性が声を掛けた。


『父さん、今の電話は? どうかしたの?』

『あのもうろくジジイ、財産の半分を年内にアンジェリーナとジャネットに譲ると言い出したらしい!』

 その言葉に、息子が驚愕に顔を歪める。

『じゃ、じゃあ、グランパは後継者をそのふたりにしたってこと!?』

『おそらくそうだろう。生前信託までするかはわからないが、親父の性格だ。他の兄妹や孫にはほんの少ししか分配しないかもしれん』


 アメリカは日本と違い、財産の遺留分というのが認められていない。

 財産は全て故人の遺志によって分配されるのが当然とされ、若くても遺言を書いておく人が多いくらいだ。

 これは個人の決断が尊重されるからなのだが、そのため、正式な手続きを経て相続や譲渡を受けると、たとえ親族でも異議を唱えることができない。

 当然、複数の兄妹が居て、そのうちのひとりだけが財産を受け継ぐことになれば不公平感からトラブルに発展することも少なくない。

 

 日本の場合は仮に誰かひとりに遺産を残すよう遺言したとしても、配偶者や直系の卑属(子や孫)、尊属(親祖父母)は一定の範囲で財産を受け取る権利があるが。

 ちなみに、男の言う生前信託とは、資産を生きている間に相続人に譲渡して所有権を移した上で、譲渡人が引き続き権利を行使することだ。こうすることで亡くなった後に円滑に相続を行うことができる。


『そんな! フォレッド家の事業にほとんど関わっていないのに財産だけ受け取るなんて許せないよ! 父さんはどうするつもりなの?』

 憤る息子の姿を見てようやく冷静さを取り戻したのか、男は息を整えて首を振った。

『明日の朝一番で親父のところに行って撤回させるつもりだ』

『だったら、他の親戚にも声を掛けた方が良いんじゃないかな。グランパも子供と孫全員に反対されたら強引なことはできないはずだよ』

 その言葉に男は少し考えてから頷く。


『確かにそうだな。アイツらもこれに関しては協力するだろう。もっとも、上手くいったらまた煩いだろうが』

 そう言って再びスマートフォンに手を伸ばした。



 夕日が差し込んでいる高層マンションのリビングで、40代くらいの女性が電話を耳に当てながらワイングラスを傾けている。

 ブロンドの髪に露出の多い扇情的なドレスを着た女だ。

『そう。もちろん協力するわ。お父様の決定には私も納得できないもの。ええ。それじゃテキサスで』

 通話の切れたスマートフォンをテーブルに置き、女は紙巻きタバコのようなものを加えて火を着ける。

 立ち上る紫煙と独特な刺激のある甘い香りがリビングに広がる。


『僕にももらえるかい?』

 電話が終わったのを見計らったように男性がリビングに入ってきて、女性の隣に座り、腰に手を回す。

 こちらはブラウンの髪に青い目で、どこか軽薄そうな印象の整った顔をしている。

『良いわよ。あんっ、ふふ、今日はダメよ』

 女性の手から火の着いた大麻タバコを受け取りながら半身をなで始めた男の手を引き離す。


『仕事かい?』

『ちょっとね』

 短く答える女の目に、怒りの感情が交ざっているのを感じて男は大人しく手を引っ込めた。

『貴方に怒っているわけじゃないわ。呆けた老人がつまらないことをしようとしているからよ』

『僕に手伝えることはある?』

『明日のヒューストン行きのチケットをお願い。それと、例の連中に繋ぎを取っておいて』

 女の言葉に、男は口笛を吹いて目を酷薄そうに細める。


『良いのかい? あの連中は他国から流れてきた犯罪者集団だよ。男でも女でも、奴らに散々遊ばれて無残な状態になるけど』

『別に構わないわよ。血が繋がっているといっても仲が良いわけじゃないし、どうなろうと気にならないわ』

『怖い怖い。けど、そんな危険な君だから魅力的なんだけどね』

『うふふ、貴方も、私を裏切らない限りどれだけでも贅沢な暮らしをさせてあげるわ。そのためにも……』

 女はそこで言葉を切って、男の顔を引き寄せた。


というわけで、今回はここまでです。

当然訪れたトラブルの予感に、何やら不穏なものも……

さて、陽斗と重斗がどう動くのやら


んで、とうとう本作の書籍版第4巻が先週金曜日に発売になりました!

本屋さんにはライバルとなる本がこれでもかと並んでいて、不安はつきませんねぇ

とにかく売れなきゃ打ち切りという綱渡りは相変わらずなので、一冊でも多く買っていただきたいです

もはや毎日神頼み状態w

何とか書籍のほうも完結までしっかりと書き上げたいと思っています


それはともかく

これからも頑張って書き続けていきますのでどうか応援よろしくお願いします!

でわ、また次週までお待ちください。


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― 新着の感想 ―
[一言] 飛行機「なんて事だ、もう助からないゾ♡」
[一言] 最新巻、買いました[なろう]のストーリーより、成る程こうきたか、の展開に非常に面白く拝読しました
[一言] ジジイの方もお前らどうなっても構わん思ってるゾ☆
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