ボロアパート26
「お仕置きする…。」
そうは言ったけどその子がどこにいるかもわからないし、どうやったらお仕置きになるのか私には全然わからなかった。
「お母さん。これからどうするの?」
「えっ。…そうだなぁ。死んだら人ってどうするんだろう?」
「え?私にもわかんない。どうするんだろ。」
「お母さんも初めて死んだからわからない…わね。」
物凄く真剣な顔でお母さんは言う。
「どこか行きたい所とか、会いたい人とかに会うのかな?」
「あ、そうね。そういえば仕事がどうなったのかとか、家がどうなったのかとか気になるわね。」
「おウチに戻ってみる?」
「うん。そうしましょうか。」
お母さんと手を繋いでおウチまでの道を歩く。
ずっとこうしたかったんだ。嬉しいな。
もうすぐ私達のおウチ。
…ん?誰かいる。あれって。
スーッと近寄ってきたその誰かは私と同じ顔をしていた。
「あっ!貴方!」
お母さんが声を上げる。
ニヤァっと笑ったその子が、お母さんの背中を押したんだとすぐにわかった。
「お母さんの事、押したのあなたでしょ?悪い事したらいけないんだよ?お仕置きなんだから!」
私が大きな声で言うと
「オシオキ…?ワルイ、コト?」
真っ暗な目をこちらへ向けて首を傾げた。
鈍い骨の鳴る音が響く。
ゴキッ…ゴキッ…
「ワタシ、ワルイコト?ナンデ?ネェ、ナンデ?」
鈍い音をさせながら私達に近づく。
「だ、だって!お母さんの事押したでしょ?そのせいでお母さん死んじゃったんだよ!?」
「ママ、苦しそう…だった。クル、しいのカワイソウ…。」
「え?苦しそうって私のお母さんが?」
「…確かに苦しかったかもしれない。」
「お母さん?」
「茜は見てないかもしれないけど、お隣に住んでた人に酷いことされたの。それで家に帰りたくなくなっちゃって。」
「そうなんだ。…今も帰りたくない?」
「うん。ちょっと怖いかな?」
「ワタシ、ママ、を助けた…。」
その子はボソボソと喋り続けている。
やっぱり普通じゃない。変な子。
「ねえ。貴方のお名前は?」
突然、お母さんが聞く。
「な、まえ…?ワタシ、私の名前は…?マ、よ。」
「ん?なぁに?」
「ま、ヨ。…麻世。……私の名前は、麻世。」
「麻世ちゃんかぁ。いい名前ね!」
一瞬、元の麻世ちゃんの顔が見えた。
可愛らしいクリクリの髪にパッチリとした目。
ニッコリ笑った顔がとても可愛かった。
でも、またすぐに元の顔に戻ってしまった。
下を向き何かブツブツ言っている。
「コ…ろす。アイツ、ユルサナイ。」