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鴉王の異世界転生  作者: 猫二匹
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6.ギルド依頼

よろしくお願いします。




部屋から出ると、先に起きていたロイさんと廊下で会う。


「おはようございます」

「おはよう、昨日はよく眠れた?」

「ええ…まあ…」


夜中に起きて、グレンさんの前で号泣しました。

とは言えず、曖昧に返事をする。


「顔を洗っておいで。もうすぐ朝食だよ」


ロイさんが言いながら僕の頭を撫でて、1階に降りていったすぐ、隣の部屋からニーナさんが現れる。


「おはようございます、カサネさん。よく眠れましたか?」


ロイさんとまったく同じことを聞かれて、つい笑ってしまった。

そんな僕をみて、ニーナさんが首を傾げる。


「おはようございます、ニーナさん。すみません、ロイさんにも同じことを聞かれてたので。ロイさんは先に1階に降りてます。グレンさんは…起きたときにはもういなかったんですが…」

「グレンは、朝早く散策に行くのが日課なの。時間になれば戻ってくるわ。顔は洗った? 先に朝食をいただきましょう」


ふわりと笑ってニーナさんにも頭を撫でられた。


2階に設られた洗面台で、顔を洗いながら、何故ふたりから頭を撫でられたのか、よくわからずに首をひねる。


1階に降りると、夕食と同じテーブルに3人が座っていた。グレンさんは、何故かピッチャーに直接口をつけて水を飲んでいる。


朝食は、フランクフルト、目玉焼き、ヨーグルトソースの温野菜、ジャガイモのポタージュにパン。まるでホテルの朝食みたいだ。

というか、ヨーグルトが出てきたのにはかなり驚いた。日本で食べていたものよりは酸味が強いけど、アスパラガスやブロッコリー、ニンジンの温野菜に合う。

肉はジビエだし、野菜は元の世界に近い物ばかりだ。

そういえば、単位や単語なんかも違和感なく聞き取れる。僕が理解しやすいように変換されているのだろうか。


食堂には、夕食時にいた猫耳の青年はおらず、おばさんとニンネルさんだけのようだ。

ちょうどニンネルさんがグレンさんの3皿目のおかわりを持ってきたので尋ねてみる。


「おはようございます。料理はニンネルさんが作っているんですか? すごく美味しいです」

「おう、おはようさん。気に入ったぁみてぇでありがてぇ。俺の宿だからなぁ。料理は全部てめぇで作ってる。ぼん、ちゃんと食ってるか? 食わねぇと、でっかくなれねぇぞ」


ぼん?


そういって、グレンさんのおかわり皿からフランクフルトを一個、僕の皿に乗せる。

グレンさんが哀しそうな顔をしたので、こっそりと戻してあげた。


「昨日は猫耳の男の人もいたけど…」

「近所に住んでるカヤンのことだな。夕食どきにだけ手伝いにきてぇもらってる。今居るヤグさんなぁ朝と夜だ」


ということは、この宿の内装やなんかは…


「全部ニンネルさんの趣味だね」


疑問が顔に出てたらしい。

ロイさんの台詞にフランクフルトを頬張りながら、これがギャップ萌えなのか?いや違う?


-----


朝食後、マークスさんからの依頼が入っていないか確認をしにギルドに向かう。


昨日は、こちらに向けられた視線が怖くてほとんどグレンさんの背中ばかり見てたけど、昨日ほどの視線を感じない。やっぱりかっこうが良くなかったようだ。


それならと、辺りを見回す。

ギルドまでの大通りには、市が開かれ、野菜や肉、屋台料理に雑貨など様々な物が売られている。

店員もお客も多種多様だ。異世界転生だと特定の種族が虐げられているストーリーもあるが、ここはそうじゃないみたい。

人間の女性と兎耳の女の子が仲良く手を繋いで買い物をしていたりする。獣人も人間の外見に耳や尻尾が生えていたり、顔がそのまま動物の人もいる。

ただ、翼を持った人は見かけない。


「有翼族は珍しいのかなぁ」

「そうね、体の丈夫な種族ではなく、あまり人前には出ないみたい。ただ、どの種族よりも魔力が高いので、大戦では多くの有翼族が戦って、命を落としたと聞くわ」

「マークスさんも大戦がどうとか言ってました。大戦って…?」

「70年ほど前に世界を巻き込んで大きな戦争が起こったんだ。かなりの数の犠牲者が出て、途絶えてしまった種族もある」


ロイさんが後ろから教えてくれる。


20年ほど続いた大戦は、中心となった大国がクーデターで崩壊し終結した。正確な規模は分からないが、少なくとも世界の半分以上が犠牲になったらしい。その中で有翼族も危なかったが、生き残った者達は、深い森の奥に去ったとのことだ。

他にもエルフや草人なども人が集まる場所を避けて暮らしているらしい。


「ロイさんてエルフ…なんですか?」

「エルフと人間のハーフだよ。まあ、そのせいで色々あったけどね」


ロイさんが口の端だけをちょっと上げて笑う。イケメンがやるとすごく様になるな。

それ以上聞いて欲しくない雰囲気だったので、話題をかえることにした。


「パーティー人数に制限はあるんですか?」

「大体、3人から5人が多いかな。斥候、前衛、後衛、回復専門で組むとバランスが取れたパーティーと言われてるね。俺たちだと、グレンが前衛でニーナが回復専門、俺が斥候と後衛かな。弓の他に短剣も扱えるから」

「ロイさんは器用なんですね!」

「本当は斥候が居てくれると助かるんだけどねー」


そういってロイさんがチラリとグレンさんをみる。


「募集はかけてるぞ」

「お試しで組んでもらうのだけど、最後には断られるのよね」

「なにがダメなんだろうね」


振り返りながらグレンさん。

ニーナさんが眉を下げる。

ロイさんが深く溜息を吐く。


なんかお約束っぽい匂いがするのは、気のせいでしょうか。


-----


ギルドには、マークスさんからの指名護衛依頼が入っていた。

出発は、明朝。行先は、サイガ。グレンさん達のクランがある街だ。サイガは、ここよりも大きな街で、クランの拠点も複数ある。

順調に進めば、半日で着く距離らしい。物資は、夕方買うことにして、それまでに終われる簡単なギルド依頼を受けることになった。


依頼の掲示板は、中と外にある。中の依頼はCランク以上向けだ。


ハンターランクは、Fからはじまり、E、D、C、B、A、Sと上がっていく。Bでもエミルくんが教えてくれたドラゴンが倒せるくらい強いハンターで、Aは英雄、Sともなると伝説級らしい。

現在は、Aランクハンターを有するパーティーが3つあるとか。


グレンさん達は3人ともDランクなので、掲示板は外。ランクよりも下の依頼は受けることができないので、この掲示板を見ているハンターは、DからFランクの人たち。


「時間はそんなにあるわけじゃないから、探索か討伐か」

「低階層のダンジョン調査があるといいのですけど…」

「討伐込みのばかりだなぁ」


張り出されている依頼書をひとつひとつチェックしていく。


ギルド依頼は、採取、探索、討伐、護衛、その他に分けられる。

薬草集めなんて、まんま初級クエストだ。

ゴブリン退治、キノコウォーカーの胞子回収に宿題の手伝い?畑の測量?浮気調査???

ハンターて何でも屋なのかな?


「気になるものがあった?」

「あ、ええと…宿題の手伝いとか浮気調査とかあって…」

「ああ、低いランクはそういうのが多いね。ギルド登録したばかりの頃って、13歳くらいだから、街から離れる依頼は少ないんだよ」

「ロイさんも浮気調査とかしたんですか?」

「やったやった。斥候の訓練にもなるんだけどね。俺の時は、浮気現場に依頼主が遭遇しちゃってさ。あれは二度と経験したくないな…」


ロイさんが遠い目をして呟く。

ニーナさんに…(にっこり)は聞かない方が良さそうだ。

グレンさんは、そういうの苦手そう。


「カサネ、あれから考えたんだが、少しづつでも戦うことに慣れた方がいいと思うんだ」

「グレンに聞いたよ」

「無理にとは言いませんが、何が起こるかわかりませんからね…」

「虫は平気みたいなことを言っていただろ?」


そう言ってグレンさんが掲示板から外した依頼書を僕に差し出す。


「スズメバチの駆除?」


この世界にもスズメバチがいるんだな。虫だから良いとか悪いとかではないけど、グレンさん達と一緒にいるなら、少しでも戦えた方がいいよな…。

それにスズメバチって、人も襲ってくる凶暴な昆虫だ。日本でも駆除の専門業者がいるくらいだし。

僕はグレンさんに頷く。


「足でまといにならないよう頑張ります! あ、でも僕まだギルドに登録してないですよ?」

「今日は見学みたいなものだから、カサネはニーナと一緒に見ててくれればいい」


僕の頭を一撫でして、グレンさんはギルドに入っていった。




読んでくださり、ありがとうございます。

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