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鴉王の異世界転生  作者: 猫二匹
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4.装備を揃えよう

よろしくお願いします。

宿に行く道すがら、グレンさんがクランについて教えてくれる。


概ね、僕が知っているクランシステムと同じだ。クランに所属するかどうかはハンター次第。所属していれば、こういった遠征先の宿の手配、待機時の食事、怪我や病気になったときのベッドの提供など、クランが用意してくれる。

その代わり毎月定額納金することと、クラン指名依頼を拒否することができない。

そして、クランは紹介制だ。血の気の多いハンター達は、トラブルで街や他のハンターに迷惑をかける人も少なくない。そのため、クランは原則、所属ハンターの紹介メンバーで、かつクランマスターが認可した人しか入れないのだ。


ここまで聞いたところで、クランにはハンターでないと入れないのかと尋ねた。


「ハンターのためのクランだからな。でも特例はあるよ。所属ハンターの家族とかな。あとはクランそのもので働いている料理長とか洗濯や掃除をしてくれるミリアさんとか…」


グレンさんが指折り数える。

どちらにしても働かないと金がない。夏休みだけではあったが、コンビニでバイトしてたから、それが活かせればいいけど。そういうものでもないか…。


グレンさんの「うちのクラン話」を聞いていたら、いつの間にか宿に着いていた。


『陽だまり荘』という看板が掲げられた玄関ポーチには、色取りの寄せ植えが置かれており、グレンさんが扉を開けると、カランカランとベルが鳴る。なんだか可愛い。


宿は2階建てで、右手にカウンター、左手にテーブル席が並んでいる。宿泊客向けの食堂なのだろう。それから、簡易的なシャワー室もあるって!本格的なお風呂に入りたければ、街営の銭湯が利用できる。こういう異世界って風呂文化がないと思っていたから、さすが女神様!

(グレンさんから絶対に一人では行かないように念押しされた)


テーブル席にはチェックのクロスがかけられ、中央には玄関ポーチにあった寄せ植えと同じ花の小さな花瓶が置いてある。

全体的にメルヘンチックだ。宿の女将さんの趣味かな。


まだ日暮れ前なので、宿には僕たち以外いないようだ。カウンターのそばで待っていると、奥から


「おう、グレンか。無事に依頼こなしたぁみてぇだな」


ヤクザが出て来た。


オールバックにサングラス、首には金色のチェーンネックレス。

ていうかサングラスあるの!


「あぁん?新しいパーティーメンバーか?見かけねぇ顔だなぁ」


思わず固まる。

めっちゃ凄まれてる、怖い。


「ニンネルさん、この子はカサネ。護衛依頼の途中で会ったんだ」


厳つい顔(失礼)に反して名前は爽やかだ。

僕が怯えているのがわかったのか、ニンネルさんはカウンター下から何かを取り出し、僕の方に手を向ける。


「アメちゃん、食うか?」


手の平に乗せられたのは、薄い紙に包まれたピンクの花型のアメ。

小さくお礼をして、口に入れる。サクランボのような苺のような甘酸っぱい味。美味しい。


「護衛依頼の途中つぅことは、なんかあったんか?」

「ワイルドウルフの群に襲われたところをカサネに助けられたんだ。すごく強力な魔法を使う」

「ほぉ、この細っこい兄ちゃんがねぇ…アメちゃん、もう一個いるか?」

「…いただきます」


今度は黄色い花型だ。


「それでカサネの部屋を追加で取りたくて。空きある?」

「生憎全部埋まっちまってるから、お前らの部屋に簡易ベッド入れてやる。それで我慢してくれ」

「ああ、大丈夫だ。カサネもそれでいいな」

「急なお願いですみません、よろしくお願いします」


僕がお辞儀してお礼をすると、ニンネルさんはアメの入った瓶ごとカウンターに置き、


「アメちゃん好きなだけ持ってけぇ!」


と叫んだ。

何故?


-----


宿の夕飯にはまだ時間があるので、僕はロイさんとニーナさんと一緒に商店街に来ている。グレンさんから僕の装備一式を買い揃えるように、とのお達しだ。


グレンさん曰く、僕は容姿も相まってとても目立つ。余計なトラブルに巻き込まれないよう、無難なハンターの格好にするに越したことない、と。


お金を持っていない僕は断ったのだけど、新人ハンターの装備くらいなら問題なく出せる、と押し切られ今に至る。


「ここから先、坂の上あたりまでがハンター向けの店が並んでるんだ」


ロイさんが指差す先は、緩やかな坂になっていて、向かい合わせで店が連なっている。

道には、ハンターと思しき人たちが武器や防具を品定めしており、賑わっていた。


「迷子になるといけないから、私と手をつなぎましょうね」


にっこり微笑むニーナさん。

恥ずかしくて仕方がないけど、迷子になりたくないので素直に従う。


「具体的に何を買うのか決まっているんですか?」

「風避けのマントと革のベストと小手、膝までのブーツかな。カサネは魔法職でいいんだよね。武器はロッドかなぁ」

「今着てる服はどうしたらいいです?」

「マジックバッグを買うよ」


マジックバッグあるんだ!


「野営用の寝袋や着替えもいるからね。マジックバッグはハンターには必需品だよ。入れた物が腐らない機能付きもあるけど、高額すぎて手が出せない。それじゃ、行きつけの店に向おう」


ロイさん達行きつけの店は、坂の中ほどにある『用心棒』という武器防具の専門店だ。

中に数人ハンターがいる。また見られるのが嫌で俯きながら店内に入る。


「新人向けならこれかな」


言われるままにロイさんから革製の装備類とシンプルなシャツとズボンを受け取る。


「試着室はあっちね。ベストの着方わかる?」


腕の中からベストを引き抜き、広げる。前を紐で留めるタイプだ。スニーカーの靴紐に似ているから、多分大丈夫だろう。

小手も腕を通して2箇所ベルトで締めるだけ。


「大丈夫だと思います。着てみますね」


試着室に入り、さて着替えるか、と襟に指をかけて。

…そういえば、この装備…どうやって脱ぐんだ? ゲーム画面だと装備スロットに入れるだけだから、“脱ぐ”という行為がない。あと下着。まさか…ノーパn


…まずはズボンからいこう。ベルトは…外せるってことは、普通に脱げるな。焦ったぁ。


ズボンの下にはボクサーパンツを履いていた。一応パンツも脱げる。そして股間も確認しておく。

ちゃんとついてる、良かった…。


上着も前にチャックが付いていて、問題ない。素肌に直上着かと思っていたが、黒のタンクトップを着ていた。


アイコンだけの装備がこうやって脱げるっていうのは、面白いな。

鴉王専用装備を畳んで、ロイさんから渡されたハンター装備を着る。


試着室のカーテンを開けると、今度はロイさんがマントとブーツを渡してくれる。マントというよりもポンチョに近い。ブーツは履いたあと、紐で締めるようだ。

というか、ロイさんが持ってくる装備、サイズが割とぴったりなんだけど…。

疑問に思ってそうロイさんに尋ねると「まぁ色々とね」と言った。ウインク付きで。


それ以上聞くのは、主に精神衛生上良くない気がした。


-----


魔法職用のロッドはニーナさんと選ぶ。

ロッドや杖といった魔法職向けの武器には魔石が埋め込まれている。魔石は魔力との相性があり、マッチすると威力が上がったり、連続して魔法を使っても疲れにくくなるらしい。


「どうやって魔石に魔力を流すんですか?」

「魔石に意識を集中させて、魔力を流すイメージかしら」


ニーナさんの説明、直感すぎるよ。

渡されたロッドには、先端に青い石が埋め込まれている。これが魔石だ。

この青い石をジッとみて、なんか自分から電波が出ていくような…イメージをしてみる。


最初はただ青い色をしていた石が、徐々に澄んだ青色に変化していく。


「カサネさんは魔力操作もうまいのね」


ニーナさんに褒められた。

変化するのが面白くて、もっと魔石に魔力を流してみる。

サファイヤのような魔石からどんどん色が抜けていき、


「カ、カサネさん?ちょっと待って!これ以上はッ」


ニーナさんの焦った声にハッとなった瞬間、魔力が埋め込まれた先端ごと砕けた散った。


「あ…………」

「カサネ、大丈夫か?怪我はしてないか?」

「大丈夫です…これ、売り物…ごめんなさい…」


先端が粉々になり、持ち手だけになっしまったロッドをロイさんに見せる。


「初心者向けの安価なロッドだから大丈夫だよ。というか、魔石を砕くとかどういう魔力なんだか」

「武器に埋め込まれる魔石は、魔法を使う際の触媒にもなってるから、カサネさんの場合、魔法を使う度に魔石を砕いてしまうかもしれませんね」


『鴉王』になると、武器スロットが使えなくなり、代わり翼が武器扱いになる。その設定を女神様が採用している可能性は高い。

僕はふたりに魔法を使うにあたって武器や触媒が必要ないことを説明した。


ロイさんが若干遠い目をしている。

ニーナさんは頬に手を当てて、困ったわ、と微笑んだ。


「さすがに武器なしというのは、良くないですね…。とりあえず短剣だけでも買っておきましょう」


その後寄った道具屋で、マジックバッグと共に購入したスリコギが、僕のカモフラージュ武器になったのだった。

読んでくださりありがとうございます。

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