3.ギルド
よろしくお願いします。
馬車に揺られ、エミルくんのお話を聞いている。その隣ではニーナさんが笑顔で頷いていた。
そうそう、男の子の名前は、エミルくん。お爺さんは、マークスさん。
マークスさんはエミルくんを連れて街に買い物に行く途中で、グレンさん達はマークスさんたちの護衛だ。
エミルくんが自慢げにグレンさん達、”ハンター”のことを教えてくれた。ギルド所属の冒険者のことを一般的にハンターといい、13歳から登録ができる。ハンターにはランクがあり、依頼をこなして昇級していくシステムだ。
「強いハンターはねぇドラゴンも倒しちゃうんだよ!」
「へードラゴンかぁ…
そいえば、グレンさん達のランクは何ですか?」
「俺たちは、Dランクだよ。大体こういう護衛依頼や討伐依頼が多いな。ドラゴンなんて出会った瞬間に丸こげだ!」
グレンさんが豪快に笑う。
話をしてこの3人の関係性というか、性格がちょっとわかってきた。大雑把なグレンさんをロイさんが嗜め、ニーナさんが横で笑っている。そんな感じ。幼馴染なのかな?
「カサネの翼は不思議だな。仕舞ってるわけじゃなく、消しているんだよな」
「ええ、そうですね。今は邪魔なので消しています」
この馬車に同乗することが決まったのは良いが、荷物が積まれていることもあり、僕が座れるスペース狭い問題が発生。
僕は屋根でもいいと言ったのだが、エミルくんが猛烈に反対し、グレンさん達も良い顔をしなかった。
さてどうしたものかと頭を悩ませていたとき、僕はこの翼がスキルであることを思い出した。有翼族の翼はデフォルトだが、『鴉王の翼』はEXスキルで、何故かONOFF機能が付いている。
そこで、僕は心の中で唱えてみた。
(『鴉王の翼』OFF)
「あ、お兄ちゃんの翼消えちゃったよ!」
「うお! 消えてる!」
「ちょっと、大丈夫!」
「カサネさん、痛いとか苦しいとかありませんか?」
突然、翼が消えてしまってみんなが心配をしてくれる。悪いことしちゃったかな…
「えっと…消せるかなって思ったら消せるみたいです。(『鴉王の翼』ON)出すこともできるますね」
「…カサネは有翼族なんだよね?」
「…そのはずです」
ロイさんの視線が痛い。
女神様、僕は有翼族ですよね?
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僕の非有翼族疑惑は出てしまったけれど、馬車に乗り込むことができた。
狼に襲われるというハプニングがあったものの、日没前には目的の街に着けるそうだ。
「とりあえず、着ている物は見たこともないし、言葉使いも丁寧…。となると、カサネは貴族なのかもしれないな」
「それなら捜索願いが出されている可能性があるね。街に着いたらギルドに確認してみよう」
グレンさんの台詞にロイさんが頷く。
僕は慌てた。
「うあああああ、僕は貴族じゃないです!
絶対に違います! 違います!」
「お兄ちゃん、何か思い出したの?」
「え、あ、うん、そうだね! ちょこっとづつだけど、思い出してきてるかなぁ?
……僕はね、お父さんもお母さんも兄弟もいないんだよ。それでね…」
ごめん、父さん母さん兄ちゃん。僕は天涯孤独設定で行きます。
「カサネ! みなまで言うな!」
グレンさんが叫び、僕の両肩をガシッと掴む。痛い。
「カサネと出会ったのも何かの縁だ。俺たちと一緒に行こう! 俺が最後まで面倒をみる!」
「ええええグレンさんそんなこと急に決め」
「そうだね、この容姿だし、カサネをひとりする方が心配だよね」
「ちょロイさんまで」
「カサネさん、安心してください。私達がこれからはあなたの家族です」
「…ニーナさん」
3人はとても良い人だ。
だが、良い人すぎて逆にやばい。
エミルくんもマークスさんもにっこにこで喜んでくれている。
この世界はこういう感じなの?
それとも彼らが特殊なの?
教えて、女神様!!!
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「ありがとうございました、グレン殿。また帰りもお願いしたいと思っております」
「こちらこそ。ギルドに依頼を出されるときは、是非指名でお願いします!」
「お兄ちゃーん、バイバーイ!」
街に無事に着いた。
エミルくんとマークスさんは3日間の滞在のち、出発した街に戻るそうだ。グレンさん達も同じ街に戻るため、マークスさんに護衛依頼を指名でお願いする。
馬車はギルドが貸し出した物なので、御者のおじさんもハンターギルドに向かうそうだ。
買い物をするマークスさんと別れ、グレンさん達と街を歩く。
よく「中世ヨーロッパのような街並み」と表現されるけど、僕の場合は慣れ親しんだ「VRMMORPGの街並み」だ。それが中世ヨーロッパをモデルにしているなら、中世ヨーロッパなのか?
若干自分の思考に混乱しつつ、グレンさんの後ろをついていく。
僕の横にはニーナさん、その後ろにはロイさんと続く。どうもこの配置がグレンさん達のいつもスタイルらしい。
通り過ぎる人が僕をみて驚いた顔をしたり、二度見したりするんだけど…なんだろう…。僕が首を傾げながら顔をさすっていると、ニーナさんが近くに寄ってきた。
「どうかしましたか?」
「うーん、通り過ぎる人が僕をみて驚いたりしてたから、僕の顔が変なのかな、と思いまして…」
僕がそう言うとニーナさんはクスクス笑う。
「カサネさんの顔は変ではありませんよ。どちらかというと、可愛い?綺麗…でしょうか」
「は!? 可愛い!? 綺麗!?」
驚いた僕は、とっさにアバターの顔を思い出す。「見た目だけ族」を揶揄される有翼族は、男アバターの顔セットも可愛い系や綺麗系が多い。そのため女性にも人気があったが、とにかく苦行キャラなので、観賞用として作成するユーザーの方が多かった。
僕はその顔セットの中でも割と地味めを選んだつもりなんだけど、身長はニーナさんと同じくらい。ロイさんとは拳ひとつぶん、グレンさんに至っては、頭ひとつ分以上違う。完全後衛キャラだから、『鴉王』に覚醒しても細身で、外見年齢は16・17歳だ。ちなみに女アバターの外見年齢は、14歳くらい。
ロイさんが「ひとりで…どうのこうの」言ってたのはこのことか!
「大丈夫ですよ、みんながついていますから。でも私達から離れないでくださいね」
なんだかちょっぴり泣きたくなった僕の手を握り、にっこり微笑むニーナさんに全力で頷くしかなかった。
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ギルドは、3階建ての大きな建物だった。
入り口は大きく開け放たれ、キャンプで使うようなタープの下では、重厚な鎧を着た背の低い髭面、露出の激しい猫耳の女性、スキンヘッドの強面、手に持った杖の方がでかいんじゃないかと思う魔法使いっぽいエルフ、など、これぞファンタジーな人々が、真剣に掲示板に張り出された紙を見ている。
僕達が入り口をくぐると、中にいた幾人かが、僕をみてやっぱり驚いたり、ニヤニヤと人の悪い顔をする。
僕は怖くなってグレンさんの後ろに隠れた。
正直、まじで怖い。
グレンさんは一番左にある受付に進む。天井から吊るされた看板には、『依頼完了報告所』と書かれている。受付に座っているのは、垂れ兎耳のお姉さんだ。
問題なく聞き取れるところからも分かっていたが、自動言語翻訳チートを付けてくれてた。ありがたい。
「護衛依頼完了の報告をしたい」
グレンさんが腰のポーチから折り畳まれた紙と共に銀色のカードを受付のお姉さんに渡す。ロイさんもニーナさんも同じように銀色のカードをお姉さんに渡した。
グレンさんから渡された紙を確認すると、大きな『完了』ハンコを押して3人のカードを机に描かれた魔法陣の上に置く。
お姉さんが魔法陣に手をかざし「承認します」というと、銀色のカードが光り始めた。
「ニーナさん、あれは何をしているんですか?」
「護衛依頼の完了で得た経験値と報酬をギルドカードに刻印しているのよ。ギルドカードに一定の経験値が貯まるとランクが上がるの。報酬は『金庫受付』で現金化できるわ
」
ファンタジーな世界とはいえ、そういうのはシステマチックになっているようで、なんだか面白い。
刻印が終わり、グレンさんがカードを受け取る。グレンさんの手の中にあるカードをじっと見つめていると「カサネもギルドに入るか?」と聞いてきた。
異世界転生したらギルドだよな!とは思うものの、僕が魔法で細切れにした狼達を思い出す…
「…ギルドって絶対に入らないとダメなものですか?」
「絶対というわけじゃないが…カサネは製作とかできるか? 製作ができるなら商人ギルドという手もあるが」
ぶっちゃけ不器用だ。料理は、レンジでチンとお湯入れ3分がせいぜい。手伝いで台所に立つことはあっても、ひとりで料理をするのには不安がある。
なので、首を横に振る。
「もう少し私達と一緒に行動して、それからでも遅くはないわ」
「サイガの街には俺たちが所属するクランもあるし、マスターに相談してもいいね」
ギルドの他にクランもあるらしい。
女神様は、MMORPGをモデルこの世界を作ったのだろうか。
グレンさんからカードを貸してもらい、ひっくり返したり、明かりに透かしてみたりしていると、ロイさんがスッと僕の背後に移動した。
グレンさんも眉を寄せて僕の頭越しに後ろを睨んでいる。
んん?
「報告も終わりましたし、移動しましょうか」
「そうだな。クランが用意した宿があるから、そこに行くぞ」
グレンさんにカードを返して、僕は頷いた。あ、僕お金持ってない!
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