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鴉王の異世界転生  作者: 猫二匹
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2.出会い

よろしくお願いします。

閉じた瞼に日の光を感じて、目を開ける。僕は、木漏れ日の中にいた。


起き上がると、背中に重み。

肩ごしに背中を見ると黒い翼があった。

着ている服も学校のブレザーではなく、見知ったアバター装備。


「あー本当に異世界に転生したんだ…。というか、転生じゃなくて、移転? ん、どっちだ?」


周りを見渡す。

鳥(獣?)の鳴き声や葉の擦れる音などがする程度で、なんだか拍子抜けするほど平和な感じだ。


「こういう異世界転生って、急にモンスターに襲われたりするのがテンプレだよな…。あと、確か『ステータスオープン』とか言うとウィンドウが開く設定も多い…。よし、『ステータスオープン』!」


…何も出ない。

手をかざさないとダメとか?


「『ステータスオープン』!」


手をかざしてみても何も出ない。

…ステータスが存在する世界じゃないんだろうか。

まあ、いいか。気を取り直して。


「うん、そう! マジックバック! これもテンプレだよな!」


体のどこを探してもバックやポーチ、袋類が見つからない。辺りにも落ちていない。


「うおおおおお本当にアバターだけじゃないかぁぁぁぁ」


地面に崩れ落ちた拍子に背中の翼が動く。

意識して翼を動かせるようだ。もしや飛べるとか!

僕は思いっきり翼をはためかせたが、ただ疲れただけだった。

そもそも飛んだことなんてないのだから、いきなり飛べるわけない。


「女神様も転生させる世界がどういうところなのか全然説明しなかったし、つか聞かなかって僕も悪いというか、そういう雰囲気でなかったというか…」


不貞腐れてしばらく地面に転がっていたけど、とりあえず村や街を探して歩出した。


-----


「…お腹空いた…」


日が高くなってきたけど、森の木々に遮られてそれほど暑くはない。

が、とにかく喉が乾いているし、さっきからお腹が鳴りっぱなしだ。


楽しむとか以前に餓死しそうなんだけど。


草をかき分けて進むと広い場所に出た。

地面は、土が踏み固められており、どう見ても道だ。


「これを進めば街に着けるかも!」


ふと振動を感じて道の先の方を向くと砂埃を上げた黒いっぽいものが。

目視できるまで近づいてきたそれは、4頭の馬に引かれた大きな馬車だ。


反射的に逃げようとしたけど、足が縺れて転んでしまう。焦った僕は背中の翼を思い切り動かした。


ガンッと馬車の屋根にぶつかり、必死に腕を伸ばして縁にしがみつく。

馬車に轢かれずに済んだ(二度とごめんだ!)けれど、状況はあまりよくない。

激しく揺れる屋根から視線を動かすと、馬車の後ろを数十頭の灰色の狼が牙を剥いて迫っていた。


馬車の中から男が声を張り上げる。


「ニーナ! 奥で防御陣を張れ! 乗客を守るんだ! ロイ! ニーナの前に出て俺を援護しろッ!」


勢いよく馬車の後ろ扉が開いて、栗毛色の頭が覗く。手には剣を握っているようだ。


先頭を走っていた狼が咆哮して馬車に飛びつく。栗毛頭の剣が翻り、狼を弾き飛ばした。だが、狼の数は多く次々と馬車に飛びかかってくる。


馬車が狭いうえ、激しく揺れるため思ったように動けないようだ。それでも懸命に剣を振るい狼を防いでいく。


とにかく僕は振り落とされないように屋根にしがみついていた。

そんな僕の耳が小さな声が拾った。


「…じいちゃん、こわいよ……」

「大丈夫じゃ、大丈夫じゃ、わしにつかまっておれ」


子供…!?

そう思ったとき、僕の脳裏に言葉が浮かんだ。有翼族が初期に覚える魔法。

口を開くと舌を噛みそうなので、僕は心の中で思い切り叫んだ。


(ウインドカッターッッッ!!!!)


ゴウッっと風の鳴る音がして狼の断末魔。

一瞬の出来事だった。


-----


馬車はやがてゆっくりと止まった。

来た道には、さっきまで“狼”だったものが転がっている。僕はそれを直視してしまい、思わず口を覆う。


うぅ、気持ち悪い…吐きそう…


屋根の上で伸びていると、恐る恐るといった体で声をかけられた。


「お前…誰だ?」


顔を上げると栗毛頭の男。

口を開こうとした僕よりも先に、限界を迎えた腹が勢いよく返事をする。


なんだかちょっと呆れ顔になった栗毛頭が消えて、馬車の乗客達に屋根に僕がいることを伝えているのが聞こえる。

少しすると梯子がかけられ、僕は栗毛頭に抱えられて屋根からようやく降りることができた。

ああ、地面万歳。


地べたに座り込んでぐったりしている僕に水の入ったコップが差し出される。

思わず掴んで喉を鳴らして飲み干す。

水!!うまい!!!


「はぁ…ありがとう」


水をくれたのは、5、6歳の男の子だった。そういえば、この子の声を聞いて、助けたいと思ったら魔法使ってたな…


「大丈夫だった?怪我はない?」

「うん、大丈夫だったよ! じいちゃんもいたし、ハンターのお姉さんとおじさんが守ってくれたから!」

「そっか」


馬車から離れたところで栗毛頭と弓を担いだ青年、ローブ姿の女の人が商人風のおじさんと話をしている。


横顔にものすごい視線を感じて向くと、さっきの子がキラキラした目で僕を見ている。


「お兄ちゃん、ゆーよくぞくなの!」

「ゆー…有翼族? …ああ、うん、たぶんそうかな?」


女神様、有翼族で合ってますよね?


「ほうほう、有翼族とな。最近は見かけなくなりましたが、このようなところで会えるとは」


お爺さんもにこにこしながら相槌を打っている。有翼族はレアキャラらしい。


「珍しいんですか?」

「そうですな…。大戦前は有翼族の集落も数多くあったんじゃが、大戦後には減ってしまい、深い森の奥に移動したと聞いておりますわ」

「お兄ちゃんの翼は黒いんだね」

「え、ああ、黒いね」


黒はダメとか?

禁忌とか不吉とかそういう類じゃないよね?


「触ってもいい?」

「これッ! 有翼族の翼に触るなど失礼だぞッ!」

「ご、ごめんなさい…」


お爺さんに叱られてしょげてしまったのを可愛そうに思い、男の子に顔を寄せて、


「特別に触らせてあげる。強くひっぱったりしないでね。あと他の有翼族の翼は触っちゃダメだよ。約束できる?」

「うん!」


僕は翼をそっと広げる。

小さな手が羽の先をちょんと突く。


「思ってたよりも硬い…。触ってるのわかるの?」

「髪の毛に触れてるみたいな感触がするね」

「そうなんだ! ありがとう、お兄ちゃん!」


男の子は、最後に羽の先を摘むと笑顔でお礼を言う。入れ替わりに栗毛頭が近づいて来た。


「おう、魔法を使って助けてくれただろ。ありがとなッ」


栗毛頭が歯をみせて笑う。アスリートタイプの爽やかイケメンだ。


「お腹空いているのでしょう? これどうぞ」


横からローブ姿の女性が、紙に包まれた何かを渡してきた。少し垂れ目の美人。たぶんこの人がニーナさん。

で、中身は、パンに肉と野菜を挟んだサンドイッチ!


「いただきますッ」


お腹が空いて限界だった僕は、大きく口を開けて被りつく。

パンは思ったよりも硬めだったけど、お肉の味付けは濃く、炒め野菜の歯応えがいい。つまり、うまい!

異世界転生て飯まずが多い印象だったけど、この世界はご飯が美味しいみたいだ。


「…ごちそうさまでした。美味しかったです、ありがとうございました」


僕がニーナさんにお礼を言うと、ニーナさんはちょっとびっくりした後ふんわりと笑って、水を差し出してくれた。

水を飲んで落ち着いた僕に弓を背負った青年が声をかける。この人がロイさんだろう。恋愛ドラマに出てくるヒーローイケメンだ。耳の先が長い。エルフだろうか。

というか、この世界、顔面偏差値高すぎる。


「君、どうして馬車の屋根にいたの?」

「それは…」


本当のことを言うべきが迷って、言葉を濁していると横から男の子が尋ねてくる。


「お兄ちゃん、お空から落っこちちゃったの?」

「んん?

…うん、そう!! 空を飛んでてね! 落ちちゃったんだよ! …で、ちょっと打ち所が悪かったのか、記憶が曖昧な感じで…」


しどろもどろに捏造した設定を口にする。こんな稚拙な内容で納得


「そうか、大変な目にあったんだな」


した!?

栗毛頭、納得したぞ!!

ロイさんが呆れた顔で栗毛頭を見ている。


「こほん。まあ、とりあえず君のおかげで命拾いしたんだし…ありがとうね。俺は、ロイ。こっちは、グレン。そして、ニーナ。で…君の名前は…?」

「…カサネです」

「カサネね。もう少し休憩したら出発するのだけど、カサネも一緒に来るかい?」


差し出された手を掴む以外に道はなさそうだし、3人はいい人そうだ。

楽観的すぎるかもしれないが、どうしようもない。


「…よろしくお願いします」


僕はそういって、ロイさんの手をとった。

読んでくださりありがとうございます。

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