1.異世界転生しました
よろしくお願いします。
ー『鴉王の魂』を取得しました。『鴉王』に覚醒しますか?
バイザーに浮かんだシステムテキストに僕は叫んだ!
「もちろんイエスッ!!」
ー音声による承認を認識しました。ユーザーID:カサネの『鴉王』への覚醒を開始します。
ーレベル上限を解除しました。
ーステータスに覚醒ボーナスを付与しました。
ースキルツリーを更新しました。
ーEXスキル『鴉王の翼』を取得しました。これによりアバターの見た目が変わります。
などなど。
長かった…いや本当に長かった…つか、運営クリアさせる気ゼロだろ、これ
僕はステータス画面に表示されているアバターを指でくるくる回す。
白い翼が一回り大きい黒い翼に変わっており、装備もスッキリとした物に変更されていた。詳細を見ると『鴉王』の専用装備らしい。
僕がプレイしているVRMMORPGは、リアルタイムアクションバトルと多彩な種族、広大なシームレスエリアが売りで、サービス開始から5年が経った今も全世界でユーザー数を増やし続けている人気ゲームだ。
選択できる種族の中で僕が使っているのは、有翼族の男だ。種族中高いMP・魔法攻撃力・魔防御力を持っているが、HP・物理攻撃力・防御力が種族中最低。つまり完全後衛特化なうえソロ最弱。ユーザーからは、「見た目だけ族」などと揶揄される不遇種族。
さらに有翼族の不人気に拍車をかけているのが、上位種族への覚醒システムだ。
他の種族は、レアアイテム収集や高難易度クエストのクリアなど、まあそこそこ難易度は高いのだが、有翼族の覚醒条件は、
「ソロでEXボスを50体撃破」
ソロ最弱なのにしかもEXボスというこれまたレアボスを50体も!!!
運営、有翼族嫌いなのか!!!
とはいえ、有翼族の上位種族「鴉王」は全種族中ぶっちぎりに壊れた性能を誇る。
アバターへの覚醒更新が完了したので、さっそく性能を試そうかな…よし、高レベルダンジョンに行くか!
僕はウキウキとダンジョンへワープした。
結果、ソロ練習で何度も周回している高レベルダンジョンを10分足らずでクリアした。有翼族のときはレベルMAXでもアイテムばんばん使ってクリア制限時間の120分ギリギリだったのに…
バランスブレイカーすぎるだろ…これ。調整入るて絶対…
朝方近い時間だし、もう寝よう。
学校から帰ってきてから色々触るぞ!!
くぅーーーー、嬉しいッッッ!!!
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夜更かししたせいで、授業はすべて夢の中で受けることになったが、想定内です。持ち帰りの課題を出されたのは、想定…外です。
信号待ちでスマートフォンにインストールしているコンパニオンアプリを起動し、アバターを確認する。
にやにやが止まらないんだけど。
今日はどこ行こうかなー。サブクエスト進めてないのあったから、それやろうかなー
あー楽しみすぎてやばい!
スマートフォンを見ている視界の端に道路を転がるボールみたいな物が映る。
「僕の!」と幼い子供の声が下の方から聞こえ、顔を上げると、幼稚園くらいの男の子が道路に飛び出していた。
そこに対向車線から車が来るのが見える。
危ない、という誰かの声。
男の子の背を突き飛ばす僕の腕。
悲鳴。
衝撃。
ブレーキ音。
熱い。
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「おめでとうございまーーーす! 自分を犠牲にして子供を救った貴方に素敵なプレゼントをあげまーーーす!!」
「は?」
目の前には、超絶美人がクラッカーを鳴らしている。白い肌、髪は金、瞳は空色。全体的にキラキラしていて眩しい。
「え、ここどこ??? 誰?????」
「そうだね〜ここは、いわゆる天国?てやつで、私は女神様かね〜?」
いや、僕に聞かれても…
容姿に反して口調が軽い。
というか天国? 僕、死んだってこと?
「道路に飛び出した男の子を庇って、キミは車に轢かれちゃったんだよ〜。覚えてる?」
…覚えてる…
僕はがっくり項垂れた。
帰ったらゲームの続きをしようと思ってたのに…
「あ、男の子はどうなった? 無事?」
「うん、無事だよ〜。手足を少し擦りむいたくらいかな〜。まあ、キミは全然無事じゃないけどね〜」
きゃらきゃらと、女神様が明るく笑っている。何がそんなに楽しいんだ…
「すごいんだよ〜。跳ね飛ばされた勢いで飛んでった先のトラックにも轢かれちゃったんだよね〜。ピタゴ(自主規制)的な。もう、ぐっちゃぐっちゃ〜あはははは」
「笑えないよッ!!!」
涙目で女神様を睨む。
「ごめん〜ごめん〜。なかなかお目にかかれない死にっぷりだったからつい〜」
なにがついだ!僕は死んでるんだぞ!
死んでるんだ。
そう、死んだんだ…
鼻の奥がツンとして、目から涙が溢れる。
「あ〜ごねんね、そうだよね、突然、人生が終わっちゃうなんて受け入れられないよね。でもね、キミのおかげで幼い命は救われたんだよ。キミはすごく良いことをしたんだよ」
女神様がどこからかハンカチを取り出し、僕の涙を拭ってくれる。
「だからね、キミに私からプレゼントがあるんだ」
「…プレゼント?」
「そう! 巷で流行の異世界転生だよッ!」
パンパカパーンとファンファーレが鳴り、女神様の背後で扇状の電飾が光る。
どっから出した、それ。
「どう! 嬉しいね!」
嬉しい、は確定なんだ。
満面の笑みで僕の手を握り、迫ってくる女神様。高い顔面偏差値に慣れていないので、思わず頬が熱くなる。
美形の笑顔、破壊力たけぇ。涙が引っ込む。
「い、異世界転生とか、そういうのって、チートとか貰えるやつ?」
「そうそう、それ! ハーレムも魔王も勇者もなんでも選びたい放題だよ! やったね!」
「やったね、じゃないし。ハーレムは別に…魔王も勇者もちょっと…」
僕はふと昨日覚醒したアバターを思い出した。サービスを開始してから『鴉王』になるため、ギルドにも入らずフレンドも作らず、ずっとソロでやってきた。
やっと遊べると思ってたのに…
「…キミが思い出してるのってコレかな」
女神様の手のひらに画面にヒビが入ったスマートフォン。僕のだ。
モニターには、直前まで見ていたアバターが表示されている。
「ふんふん、ゲームのアバターか。レベルにスキル…ほうほう…なるほど、これは使えるな…」
女神様はスマートフォンの画面を操作して、なにやら呟いている。
僕のスマートフォン、返してほしいんだけど。
「よし、これで行こう!」
女神様は勢いよくこちらに向くと、ビシッっと僕を指さした。
「プレゼントは、キミを私が作った世界に『鴉王』として転生させること! 受取拒否不可、クーリングオフ制度なし!
ゲームのステータスそのままだと整合性がとれないから都合よく調整。私の世界にも有翼族がいるので、まあ〜なんとかなるでしょう〜」
そう言うと、女神様の手の中にあったスマートフォンが光の球に変わった。
ちょ!僕のスマートフォン!
元スマートフォンの光の球は、ふわふわと浮いたが、すーっと僕の中に吸い込まれていく。
慌てて僕は体を確かめる。
「大丈夫よ〜。魂を適合させただけだから、痛いこともないよ〜」
女神様の言葉に顔を上げる。
そこには、先ほどまでとは違い、柔らかな微笑をたたえた『女神』がいた。
「キミは尊い行いをした。その心根のままに私の世界を楽しんでくれ」
女神様から光が溢れ、僕は強く目を瞑った。
こうして僕は、16年という短い生涯を閉じたが、女神様の計らい(?)で異世界転生をしたのだった。
読んでくださり、ありがとうございます。