第3話 カッツェ
毎日投稿11弾です。
カッツェの話は今回で完結です。
よろしくおねがいします。
そして、儀式当日がやってきた
カッツェは、寝坊してしまい走っていた。
昨夜遅くまで船の調整をしていたからだ。
グアランの儀式では、村の海岸から沖にある孤島までを往復するレースが行われる。
往復で計約40キロほどの距離を泳ぐのだ。
村の若者達は孤島に用意されている真珠のピアスを取ってきて、また村へと戻ってくる。
そのピアスを村まで持ってきて、長老から付けてもらうことができれば、晴れて一人前のグアラン族とみなされるのだ。
泳ぎきれないものは落第となり、また次の年に挑戦することになる。
そのレースでの成績が、個人の実力を示す絶好の機会であり、今後の人生にも直結する重要な試練だった。
「カッツェ! ようやくきたのね!」
「カナヅチくん、もう来ないのかと思ったぜ」
ガメルとコココがいた。
「さっさと位置につけカッツェ! もう始めるぞ!」
朝早く、先に会場に来ていた父が怒鳴った。
儀式が始まろうとしていた。
カッツェは、事前に船を停めておいた桟橋まで走った。
船に乗り付け、海岸のスタートラインまで移動する。
「お、おいおい、カナヅチくん、まさか船で儀式に参加する気じゃねぇだろうな!?」
ガメルが騒いだ。
「うん、そうだよ。規約上は船に乗ってはいけないなんてこと書かれてないはずだ」
カッツェが答えた。
「そんなこと許されるか! グアランの歴史ある伝統的儀式なんだぞ! 規約に書かれていないのは、そもそも船に乗ろうなんてやつがいなかったんだよ! 乗っていいとも書かれてないだろ!?」
ガメルが声を荒げた。
会場がすこしざわつき始める。
周囲の視線がカッツェへと集まった。
たしかに、規約には乗っていいとも書かれていなかった。
こんなことなら、船を作る前に確認しておけばよかった。
「長老! こんなことが許されていいんですか?」
ガメルが長老に聞いた。
「いいよ」
長老が言った。
「はじめ!」
号令の合図が鳴る。
レースが始まった。
全員、一斉に飛び出した。
ガメルも、直前まではその取り巻きたちと悪態を吐いていたが、レースが始まってからは真剣そのものだ。
ガメルもコココも、同年代の若者たちがこぞって泳いでいく。
カッツェも帆を貼り、船を全速前進で進ませた。
波と風を読み、船を走らせる。
その見事な航海術により、その速度はほかの参加者たちにも負けていなかった。
前半20キロ地点、トップ集団が孤島へとたどり着いた。
トップを争っているのは、コココ、ガメル、ガメルの取り巻き、そしてカッツェだった。
島へ着いた面々はそれぞれ自分用の真珠のピアスを握りしめ、急いでまた海へと戻っていく。
泳ぐのには体力が必要な分、後半になればなるほどカッツェが有利だった。
このままいけば、優勝を狙えるかもしれない。
カッツェは集中して前だけを見据えていた。
そのとき、ガメルとその取り巻きたちは、なにやら目配せをしあっていた。
後半はレースを迎える。
残すところあと5キロ程度だ。
ガメルたちは、かなり疲れてきているはずだった。
「カッツェ! お前、なかなかやるじゃないか!」
ガメルが言った。
「だが、カナヅチくんが船でこんな沖の方まできて本当に大丈夫かな? こんなところで船が壊れでもしたら大変だろうなあ」
ガメルがニヤニヤしながら言った。
悪意のある笑みだった。
突然、舵がきかなくなる。
後ろを見てみると、ガメルの取り巻きたちが舵を押さえていた。
「カッツェ! お前みたいな奴に一位の座を渡すわけにはいかない!」
ガメルが言った。
カッツェは、自分がガメルたちとこうしてレースできるのがなぜか少しうれしかった。
「ああ! こっちこそ、絶対負けないぞ!」
カッツェは用意していた小型の水流銃を取り出した。
ボタンを押し、水流を噴射する。
鋭利な水の線が、ガメルの取り巻きに命中した。
「ぐあ!」
「コバンザ! ……ぐあ!」
次々と命中させ、残るはガメル一人。
「行くぞガメル!」
カッツェが勢いよく水流弾を発射する。
「クソ! 見てろよ!」
ガメルはそれを喰らう前に水中へ潜った。
ガメルは、なんとその持ち前の馬鹿力でカッツェの船底を素手で破壊し大きな穴を開けた。
浸水してどんどん船が沈んでいく。
「へへへ、これでもうゴールできねぇだろ! じゃあなカッツェ! 楽しかったぜ!」
そう言ってガメルは船から離れていった。
「ちょっと、ガメル! それは流石にやりすぎでしょ!? カッツェは泳げないのよ! 溺れたらどうするの!?」
すこし離れたところを泳いでいたコココが近づいてきた。
「大丈夫! コココは自分の泳ぎに集中して! 僕は大丈夫だから!」
カッツェは叫んだ。
ガメルの攻撃には驚いたが、焦ってはいなかった。
グアランの儀式では、こういった参加者同士の潰しあいがルール上黙認されている。
潰しあい、騙し合い、そういった話はよく聞くものだった。
そうでなくても、船での航海にはトラブルがつきものだ。
カッツェは非常事態への準備を怠っていなかった。
とりあえず、船を直さなければならない。
修理用の部品をいくつか積んでおいた。
すぐに直せるはずだ。
カッツェは急いで作業に取り掛かる。
コココは心配そうにカッツェを見つめていたが、カッツェが自分で穴をふさぎ始めたのを書くんんすると、やがて村のほうへと泳ぎ始めた。
その泳ぎは本当に優雅で力強いものだった。
カッツェはコココを見送って、穴を塞ぐ木材を打ち付け始める。
レースはもう終盤にさしかかっていた。
こうなったら、あの作戦を実行するしかない。
カッツェは先日の魚雷をセットした。
海岸沿い。
レースを見守る大人たちは静かに海の方を見つめていた。
カッツェの父は、静かに海岸を見ていた。
「おお、見えてきたぞ!」
沖の方で、泳いでいる二人の姿が見え始めた。
コココとガメルだ。
二人は同程度の速度で泳いでおり、息を持つかせぬ緊張が伝わってきた。
カッツェの姿はなかった。
「俺が一位だ!」
ガメルがさらに加速する。
コココも負けじと速度を上げる。
優勝はこのどちらかだろう。
会場がわっと盛り上がった。
カッツェの父は不安に襲われた。
走り出しの時点では、カッツェもこのグループに含まれていた。
途中で、なんらかのトラブルが起きたのだろうか。
「カッツェは……」
カッツェは泳ぐことができない。
もしもどこかで船が沈んだら一貫の終わりだった。
父は最悪を想定して、遠くの海を見つめた。
そのときだった。
ドッカーン!
爆発音が沖の方から響いてきた。
驚いて見てみると、カッツェの船がものすごい速度でこちらへ向かってきていた。
ドカン! ドッカン! ドカン!
船は爆発を繰り返し、その推進力によって船はすさまじい加速をみせていた。
「カッツェ!」
父が叫ぶ。
船はみるみるコココとガメルの間を通り抜け、海岸へと吹っ飛んできた。
カッツェと船が、勢いのまま砂浜へと放り出される。
父が駆け寄る。
カッツェがボロボロになりながら砂浜へ倒れ込んだ。
その右手には、真珠のピアスがしっかりと握られていた。
「ほんとに大丈夫? 手を離すけど」
コココが言った。
「うん。頼むよ」
カッツェは全身の力を抜いた。
水の中では、力みすぎないことが重要だった。
全身に冷たい感触がある。
以前はこの感触に浸かると気分が悪くなったが、今度は大丈夫だった。
むしろ、心地よく感じた。
体が水の中にぷかぷかと浮いているのを感じた。
水はもう怖くなかった。
「おっとっと!」
3秒だけ。3秒だけ浮くことができた。
「大丈夫! 少しずつ、少しずつ慣れていけばいいから」
そう言ってコココが微笑んだ。
広い海。大きな太陽が二人を明るく照らしていた。
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