旧友の集まり
体中の痛みで目が覚めた。天井から漏れた光のおかげで自分が少し周りが見える。壁には大きな空洞がいくつも見られた。自分達が落ちていた所は少し開けた空間がある。もう少しずれていたら亀裂にはまり、さらに下に赴くことにぞっとした。生存者、蒼の他に三名。重症者は無く、皆自力で立ち上がれる軽傷。
元の世界なら救援を待つことも出来たけど、こちらの世界は自己責任。何とか地上に上がる方法を見つけなければならない。
「さっきは、ありがとう」
「え?」
突然お礼を言われ、何の事か怪訝そうに相手の顔を見る。先程、落ちていく彼を掴もうとして一緒に落ちた事を思い出した。
結局、助けられなかったのだからお礼を言われる事ではない。それでも、彼は助けようとしてくれた事が嬉しかったと言っていた。
年は同じくらいだろうか、名前はクライ、鍛冶見習い。赤い髪、赤い瞳、コロコロと表情を変える所から素直な性格だと感じた。
クライと自己紹介をしていると、残り二人の大人は何やら揉めている様だった。
こんな状況だし、協力して地上に向かった方が得策だと思い、蒼は恐る恐る大人達に声を掛けた。
「あの、お話は地上に出てからにしませんか?協力して地上に向かいませんか?」
「ふざけるな!何でこいつと!俺は好きにさせてもらうからな」
「こっちだって願い下げだ!後で泣きついても助けないからな」
大人達はそれぞれ違う空洞に進んでいった。呆気に取られていると、クライが教えてくれた。あの二人は違う親方に所属していて、あまり仲が良くないらしい。
緊急事態なのに?と問うと、クライは肩をすくめて苦笑いした。落ちた真上を登れれば一番確実なのだけど、目の前の岩の材質はつるつるとして足場がない。
天井まで距離がある為、登りきるのは難しそうだ。先程の大人たちの様に空洞を通って地上を目指すしかない。
クライに過去に地下に入った人が居たか確認すると、聞いたことはないと残念な答えが返って来た。
空洞は無数にある為、一つ一つ潰して行くしかないと覚悟を決めて歩き始めようとすると、視界の端に何かが映った。
「子供?」
「え?俺らの他にいたのか?」
空洞の1つから白いフードを被った小さな子供がいた。見習いにしては小さ過ぎるような?
じっと見ていると、その子供はくるりと向きを変え走り去っていった。
疑問は残るけど、蒼もクライも小さい子をこのまま置いていけないと判断し、後を追った。
暫く細い道を走ると、大広間の様に開けた空間に出た。薄暗かった道とは違い、周りにある水晶が光を発し空間を照らしていた。
奥には場違いな一軒家が立っており、家の前には先程の子供が座っていた。蒼とクライは驚きその場から動けなかった。
「え?地下って人が住める場所なの?」
「そんな訳あるかっ!人は住めるわけないだろ」
では、あの子供は?自分達の様に巻き込まれた訳ではない?それとも、人に見える別の何か・・・。
『さっさと逃げんかい!!アホか!!』
「!」
「え?蒼?の声じゃないよな」
蒼はクライの手を取り、直ぐにその場を離れようとしたが、バンッ!と見えない壁が前を塞いでおり、蒼は思い切り顔面を打ちつけた。
涙目になりながら目を凝らすと、何者かによるドーム状の結界が張られていた。
「・・・・・っ」
「だ、大丈夫か?」
「そ、そんな事より、逃げ・・・」
蒼は両手で顔を覆い痛みを堪えながら、よろよろと立ち上がる。警戒しながら家の方を確認した。蒼が視線を扉の方に向けると、丁度扉がゆっくりと開き始めていた。
蒼の青ざめた顔を見て、クライも落ち着かない様子で尋ねた。
「おい、蒼?何か不味い、どの道にも進めなくなってる。それにさっきの声」
「定番だよ。定番にひっかかったよ、どうすんのこれ!」
「蒼?」
「ほら、擬態を餌に自分の食事を引き寄せる植物とかあるでしょ?」
「そんな怖い植物知らねぇよ」
「人は住めない・・・じゃあ、質問です。人じゃないなら?」
「・・・俺ら餌?」
「違う事を祈るよ」
家の中から黒いフードを被った長身の人物が出来てた。子供はフードの人物に駆け寄り、そして蒼とクライを指さし、確認すると同時に叫び出した。
「うきゃぁあぁあぁ!!なんで、なんで面倒なモノ拾ってくる?!サリリュナ!!さっさと捨ててきなさい!」
「せっかく落ちてきたのにもったいない。ご飯だよ?」
膝を抱えて小さくなっている。声から男性の様。フードの男性は無害そう?予想外に子供の方が有害の様。
じいちゃん、どうしよう?洞窟内で戦った事なんてないし、地形に圧倒的な有利な敵から逃げられる?
ぐるぐると思案している蒼とは違い、クライは一歩踏み出し青ざめながらもフードの人に話しかけた。
「あの・・・邪魔したりしないから、見逃がしてもらえないでしょうか?」
「・・・逃がすのは駄目だ。あいつに見つかると厄介だ」
「あいつ?見たことは誰にも言いません!」
「ふざけるな!人間の言葉が信用できるか!!」
「だからマグ、好き嫌いしないで食べなきゃ」
フードの男性はマグと呼ばれ、子供はサリリュナと呼ばれている。会話は噛み合っていない様に見えて、共通点は消す事。物騒な人しかいないのか。
『嫌やなぁ、蒼が食われてもうたら、俺この地下に置き去りや・・。やっと日の目見た思うたのに』
「怖い事言っている余裕あるなら、一緒に足掻いてよね」
「蒼!何さっきから独り言を言っているんだよ!お前も頼めよ!」
「・・・・・・マグさんに、サリリュナさん。魔族ですか?」
「何だ?お前・・・・嫌な気配がする」
「マグってば、ごはーん」
「悪いけれど、食料は他を当たってくれるかしら?」
女性の声と同時に、パキンと金属が割れる様な音が鳴り、結界が壊れ、ふらりと頭上の空洞から黒露樹が現れた。
「「黒露樹!?」」
蒼とマグは綺麗にマモった。同じ魔族なら知り合いかもと思った蒼だが、想像以上に黒露樹の顔の広さに驚いている。魔物全員知っていそうな勢い。
黒露機は音もなく降り立つと、蒼の前に立った。
「蒼ったら、私を放っておいて何を遊んでいるの?随分偉くなったわね」
「誰かさんたちがはしゃいで巻き込まれただけですけど?」
「それよりも、あの子は何隠れようとしているのかしら?」
黒露樹は蒼の無事を確認すると、くるりと後ろを向きマグとサリリュスの方を向いた。
マグはサリリュスを抱えて物陰に避難しようとしている所だった。先程の物騒なやり取りは?
「あなた、旧友に久しぶりに会ったのにその態度は無いんじゃない?」
「う、うるさい!!人が静かに暮らしていたのに!何でお前がここに来るんだよ!まさか、あいつも・・・・」
「蒼之助は引っ越したって聞いていないの?まぁ、こんな所にいたのなら無理はないわね」
「嘘だ!あいつの差し金だろう!そうでなければお前がこんな所にいるはずがない!」
「はぁ、どうでも良いわ。蒼、お腹が空いたわ。帰ったら何か用意しなさい」
喚き散らすマグに対して、冷ややかな目を向けた黒露樹は興味が削がれ、視界から外した。
「え?友達じゃないの?あ、あと、地上に上がれるならクライも一緒に・・」
「友達ではないわ。知っているだけ。クライって誰よ」
名前を呼ばれたクライはびくっと身体を揺らし、少し離れた所で青褪めていた。
「クライ?」
「蒼・・・何で平気な顔して話してるんだよ」
「?」
「面倒な人間ね。さっさとしなさい。置いていくわよ」
「か、勝手に出ていくな!あいつが此処へ・・・」
「そうそう、いい知らせがあるわよ。近々、蒼之助が遊びにくるらしいわ。楽しみね。隠れていても直ぐに見つけるでしょうね」
「ひぅ・・・・・」
「マグ?ご飯いっちゃうよ?」
黒露樹の言葉を聞いたマグは冷や汗を通り越し顔色が土色に。状況が理解できないサリリュナののんびりとした声だけが残った。
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ファイは現在とても困っていた。黒露樹を怒らせた結果、氷漬けにされた。まぁ、それは時間が掛かるけれど壊せる。
問題は今、とてもトイレに行きたいという事。外は熱帯地域の割に氷は一向に解けない(魔法生成だし)、だけど氷の中は冗談抜きで寒い。
何時もなら、手加減されるのは面白くないのだが、今日だけは手加減して欲しかった。
ふと、外に人影が近寄って来た。人間が面白半分で壊しに来たのか。後で相手してやるとして、今は氷の術式を壊す事に集中しなければ。
作業を再開しようとした瞬間、氷があっさり砕けた。今まで固定されていた体は安定感を失い、地面に叩きつけられた。
「ぶはっ」
「何一人で遊んでるんだ?ファイ。とうとう、そっちの道に行ったのか?」
「どっちの道だよ!誰だ・・・・あ?」
砂だらけになった顔を払いながら、人影に目を向けると、知っている人物が立っていた。
「蒼之助・・・・何まだ生きてたのか?」
「おいおい、久しぶりの挨拶がそれか?酷いな」
ファイは蒼之助と会った第一の感想、むかつく。
昔と違い、かなり年老いていたが、鍛えられた身体、魔力の質を目にすると腹立たしさが込み上げる。
「あっちの世界は魔力無いんだろう?何で前より・・・俺より強くなっているだよ」
「驚くほど無いぞ。いや、こっち来たら魔力戻ってな。こりゃ、あっちに戻る時また大変だ」
「おっさん、何しにきたんだよ。用事手伝ってやるから、さっさと帰れ」
「おぉ、戦闘狂が丸くなったもんだな。用事も大事なんだが、黒露樹知らないか?」
「黒露樹なら・・・」
「来る途中、黒い壁が見えてな。邪魔だから壊してしまって。中にいた奴らに聞いたんだが、あれって黒露樹が作った結界だったんだなぁ」
「げっ?」
「後で怒り狂いそうだし、あやまらんとなぁ」
「壊したですって?!?」
蒼之助とファイは突然聞こえてきた女性の声に驚き、声の方を振り向いた。少し先の亀裂の隙間から緑色の球体がふわりと上がって来た。
球体は地上に着地すると、上部からすぅっと溶けていき、中の人影が姿を現した。黒露樹はつかつかと蒼之助に近寄り、胸倉を掴みかかる。
「壊したって、どういう事?」
「心配するな。ちゃんと直した」
「あなたは何でそう大雑把なのよ!壊す前に気付きなさいよ!」
「すまんすまん」
「はぁ、もう。それで?わざわざ何?人探しなんて無謀な手伝い、しないわよ」
「火竜に聞いたか・・・・うん?あぁ、人探しは良いから、別の事手伝ってもらう」
「はぁ?手伝わないって言って・・・」
蒼之助は少し離れた場所で座り込んでいる蒼とクライを見てニヤリと笑った。
「蒼、思ったより元気そうだな。いつ帰ってくるんだ?ばあさんが心配してるぞ」
遊びに夢中で帰る時間を忘れた子供に諭す様な口調で話し始めた。蒼は、何故、黒露樹と知り合いなのか?と状況が呑み込めなかった。
隣にいたクライは警戒するように蒼から距離を取った。
「蒼・・・・蒼も魔族なのか?」
「ち、違うよ!じいちゃんも人間だし、知り合いなだけ・・・え?知り合い?じいちゃんはこっちに来た事あるの?」
「ふむ、坊主は蒼の友達か?」
「っひぅ・・・」
クライは蒼之助と目が合うと、顔面が蒼白になりガタガタと震え始め、気を失ってその場に倒れた。
「クライ!?ねぇ、しっかりして!なんで・・」
蒼はクライを抱え込んだまま、どうすることも出来ずにいた。じいちゃんが話しかけただけ。その前に会ったマグが何かしていたのだろうか?
黒露樹が、あっ と思い出したように教えてくれた。
「心配ないわよ。魔力酔いね。蒼之助、もう少し魔力抑えなさいよ。人間には辛いらしいわよ」
「俺か?おぉ、すまん。久しぶりだから制御忘れてた」
「え?何で?じいちゃんも魔力あるの?」
「あ~、とりあえず、街に戻るか。拾っていく人間はその子供だけか?」
「大人もいたけど、自力で何とかするでしょう」
「お?あとは後ろに隠れてるマグと弟子も手伝え」
「・・・っひ!」
「呆れたわね。わざわざ様子を見に来て、あっさり見つかってるじゃない」
「ふ、ふざけるな!手伝わないからな!お前のせいで、どれだけ俺が大変だったか・・・」
「あ、はいはい。とりあえず、街な。蒼は自分で歩けるか?」
「・・・・・・う・・・うん」
「俺を無視するなぁぁぁ!」




