懐かしい人影
ケーキを食べ終わった後も蒼と黒露樹の言い合いは続いたが、初めに我に返り、口論を止めたのは黒露樹の方だった。
両手で顔を覆い隠していたが、耳は真っ赤になっていた。
さっきまでの勢いが無くなった黒露樹を蒼は少し心配になったが、黒露樹は絞り出した声で言った。
「こんな子供みたいな姿、部下には見せられない」
「ぷっ・・・確かにお城の人達が知ったら驚きそうだな」
「煩いわね。大体どれだけ言い合うのよ。疲れたから帰るわ」
「そうね。お腹一杯だし、私達も帰ろうか」
「あなた、そんなに細いのによくあれだけ食べられるわね」
美和は黒露樹と蒼が口論している間、気が付いただけでも3つのケーキを食べていた。
「久しぶりのケーキだったので、つい」
「私は久しぶりに怒ったから疲れたわ」
「黒露樹も疲れるんだ」
「そうよ。悪い?」
黒露樹は蒼を見て呆れた。
口論中は常時怒っていた割に、今の蒼の顔は笑顔になっていた。よくも、コロコロと表情を変えられるものだ。蒼も美和も今までの人間と違って調子が狂う。
畏怖の念を向けられる事があっても、普通に会話などあり得なかった。
「美和は私が何者か聞いていないのかしら?」
「聞いてますよ?魔王さんですよね。大変そうな職業ですよねー」
「職業って」
少女に職業で片づけられてしまった。魔王の威厳がない?いいえ、蒼の友人だもの、変人なのよ。
黒露樹が伝票を持ち会計に向かうと、美和が慌てて自分が払うと言い出した。
子供に払わせる訳にはいかないと断り、店を出た所でクロと呼ばれてた使い魔と、横に立つ人間の男性が待っていた。
使い魔がカフェで姿を見せないと思っていたら、仲間を呼んでいたのね。一人増えた所でどうでも良いのだけれど。
「何かしら?言いたいことがあるなら聞いてあげるわ」
「俺は蔦谷 真司と言います。お名前は?」
「黒露樹」
「黒露樹さん、今度食事でもどうですか?」
「はぁ!?いい加減にしなさいよ」
「黒露樹さん?」
「あんた達は何なのよー!!」
黒露樹は叫びながら空高く飛び去って行った。
その姿を呆然と見送る真司とクロ。
「うーん、真司さんの好みは黒露樹かぁ。でも間が悪かったわね」
飛び去った空を見ながら美和が呟いた。
「え?女子会をしていたんじゃないのか?クロが引っ張ってくるから来たけど、俺が割り込むのも悪いから待っていただけで・・」
「ごめん。私と黒露樹が喧嘩をしていました」
その状況から店を出た時に真司が声を掛けた。上手くいくものも、行かなくなる状況で。
「・・・・・・・」
がくりと、膝を付き、うな垂れる真司。なんだろう。帰れないと言われた時より落ち込んでいる気がする?
「そっとしてあげなさい。蒼」
「え?でも」
「復活したら帰ってくるわよ。クロも帰るわよ」
にゃにゃあ?クロは美和と真司を交互に見ながら、おずおずと美和の後ろをついて行った。
蒼も出来ることは無さそうなので、美和達の後ろを追いかけた。
夜空の中、飛びながら黒露樹は荒れていた。
蒼が生きていた事は喜んでも良い。けれど、蒼の周りはどうして変な人間が揃っているのか。調子が狂うどころではない。美和もそうだが、あの真司も予想外の言葉ばかり並べる。
話をしすぎて、感情が動きすぎて、たった一日でこんなにも疲れるなんて思いもしなかった。
黒露樹は噴火口まで降り立ち、八つ当たりも兼ねて火竜を叩き起こした。
「何用だ?この間会ったばかりだが?」
「火竜が気に留めていた人間が生きていたわ」
「そうか。黒露樹、だから嬉しいのか」
「私じゃなくて。あなたが気に留めてから知らせただけよ。じゃあね」
「ああ、そういえば」
黒露樹がくるりと向きを変え飛び立とうとした時、火竜は思い出した。
「何よ」
「蒼之助が此処に立ち寄ると言っていた」
「ふぅん」
「楽しみだ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。今なんて言ったかしら?」
「楽しみだ」
「ふざけないで!蒼之助と連絡取っているの?その前に生きているの?何で火竜だけ?」
「よく息が続くな」
「いいから答えなさいよ!!」
「手紙が昨日転移されてきた。我はこの地に居たから一番に知れた」
確かに火竜以外、皆住居を変えたり、放浪していたり自由にしている。この世界にいても皆の位置は把握できないのだから、向こうに居る蒼之助に解るはずもない。
けれど、釈然としない。今まで何百年も音信不通だったくせに、一通の手紙だけなんて。
「何の為にこっちに来るつもりか聞いているの?」
「家族が迷子。向こうに居なかった。次はこちらを探す」
「最近、異世界からの迷子は多いものね。歪が大きくなったとか噂もあるわ」
そういえば、蒼も迷子だったわね。蒼之助に聞けば元の世界に戻る方法を教えてあげられるかもしれない。
「火竜。蒼之助が来たら、私に教えなさい」
「黒露樹も蒼之助に会いたい」
「そうよ。蒼之助に用があるの。忘れないでね」
「解った。呼ぶ」
「ふふっ」
「黒露樹、機嫌直った」
「・・・別に暇つぶし」
方法が解れば蒼達は帰還出来る。帰ってしまう。けれど、喜ぶだろうか。
空を見上げて願うこと。
本日、蒼はギルドへ、美和と真司は保護機関へ訪れていた。
蒼はギルドの掲示板の前で唸りながら仕事を探していた。
「今日は仕事なしか。仕方ない、クロ採取場所に行こうか。何か面白い物が見つかればいいな」
外に出ると、赤い着物を着た黒露樹が待っていた。
「暇なの?」
「相変わらず、礼儀がなっていないわね」
ふふっと小さく笑い、いつもの彼女だった。けれど、着ている着物が明るいと雰囲気が変わって見える。
「その着物似合うね」
一瞬驚いたが、直ぐに戻り当然の事言わないでと怒られた。
「それで、本当にどうしたの?今からクロと材料の採取巡りに行くけど、黒露樹も一緒に行く?」




