扉の真実
もう直ぐ街に着けると言う理由で、今までの道中と違い足取りは軽い。
早朝に村を出発し、何事もなく夕方には街へ辿り着く事が出来た。
この街も高い城壁で囲まれ、門で検問を行っていた。
違う点は城壁の上にも兵士が警備している点。大きい街になる程、争いも多く警備も厳重になっていた事。
検問の長蛇の列に並んでいると、苛立ちを見せた後ろの人達が揉めていた。
「揉める程、元気があって凄いよ」
「蒼って偶に年齢不詳な発言するわよね。なんでそんなに覇気がないのよ」
「情熱は鍛冶で使い切っているから」
「理解できないわ」
後側の揉める声が次第に大きくなっていき、少し心配になって来た時、城壁の上にいたはずの兵士が2名上から降りたというよりも、降ってきた。
ズドン、ズドン
大きな音が響くと共に、土煙が立ち上がり、煙が晴れた時には揉めていた2名は兵士に取り押さえられていた。
「何であの高さから降りて平気なの?」
「さぁ、魔法か何か?」
騒ぎを起こしていた人達は連行されていった様だが、遠くてはっきり見えなかった。
「何だい。嬢ちゃん達、自動人形の事知らないのかい?」
前に並んでいた恰幅の良いおじさんが教えてくれた。この街の兵士の半数は自動人形で補っている。
それだけでなく、店番の者も自動人形が対応している店舗が増えてきているという話だ。
「おじさんは、やっぱり血の通っている人と商売したいな。値切り交渉も出来やしない。けれど、売る側になれば、客が多い分、捌けるから来てしまうんだけどね」
「へぇ」
「どうだい?何か入用なものはあるかい?おじさんの店は何でも揃っているよ」
「え?」
「いや、間に合っている。それに検問を通る前に、商売を始めるのは問題なんじゃないのか?」
「あ、保護者の方?冗談ですよ。まぁ、街に入ったら寄って下さい。安くしときますよ」
それ以降、おじさんは黙ってしまった。カモにされそうになった?
「保護者・・・そんなに老けて見えるのか?」
「そ、そんなこと無いわよ。ねぇ蒼?」
「うん。それに、ほら。順番がそろそろ回ってくるよ。気を取り直して行こう」
検問の係員も、先程聞いた自動人形が無駄な動きは無く、素早く手続きを行っていた。
「でも自動人形って、ちょっと怖いわね」
「そう?デパートとかAI店員いたじゃない。あれと一緒じゃないの?」
「無表情だしな。怖いと言うのも解らなくもない」
「そういうものかな」
門を潜ると、さっそく香ばしい食べ物の匂いが漂って来た。どうして入口の近くはこうも食べ物の店が密集しているのか、街に入った早々に散財しそうな勢いだ。手持ちが無いからしないけれど。
道の両側には食べ物だけでなく日用品を扱う店も多く並んでいた。
長い道に多くの店があり、一日では回りきれない程の広さがある。
きゅるるるるっ
変な音が響いた。真司と美和はちらりと見ると、苦笑いを浮かべる蒼を見て確信。犯人は蒼のお腹。
「ばれたので宣言します。お腹が減りました」
「もう。機関に行くのが先よ。営業時間、解らないんだから」
「そうだな、此処まで来て閉まっていたら困る」
「・・・・はい」
多数決に負け、人が多い大通りに向かい、店の人に道を訪ねながら漸く辿り着いた。
保護機関の建物は城を除いて他の建物より数倍整っていた。
5階建ての建物、1階の壁には大きな窓が取り付けられ、外からも室内が見え、受付と客用の長椅子が6つ程置かれていた。入口には両扉の自動ドアが設置され、床には絨毯が敷かれていた。これは、土足で入店出来るか迷うから止めて欲しい。
受付は自動人形では無く、機関の制服を着た柔らかく笑う女性が担当していた事には安心した。
室内には多くの人達がおり、人間以外も見られた。様々な世界から迷子になった者達で溢れている現実を目の当たりにした。
受付に向かうと、用紙とペンを渡され、長椅子の所で自己申告書を書くように指示された。
1)名前
2)出身地
3)どの時代から来たか
4)この世界ではどの辺りから来たのか
5)特技
6)現在の財力
7)今後の希望
特技?現在の財力?疑問に思える項目もあったけど、3人はとりあえず、空欄を作らず埋めた。蒼、美和、真司は特技・財力はなし。と書いていた。
「蒼?」
「だって、私が出来ると言って信用してもらえないだろうし。財力は底を尽きたのは本当。真司は書けた?」
「特技・・・仕事の斡旋が目的か?初めから残る事が前提?」
「真司―、もしもーし」
「ああ、すまん。俺もなしだな。ここで通用するレベルが解らん」
「じゃあ、まとめて提出してくるね」
受付の担当者に申告書を提出すると番号札を3つ渡され、それを持って3階の305号室へ向かうよう指示された。
「申し訳ありませんが、ペットや使い魔は1階で待たせるよう指示をお願いします」
「駄目なんですか?」
「決まりなので、ご了承下さい」
「クロ。ちょっと待ってて」
にゃあにぁあと鳴き続け、前足で服の裾を掴み放してくれない。人も多い場所なので、シバの通訳は頼みにくい。
「困ったな」
「お客様?何故命令なさらないのですか?時間が掛かるようでしたら、後ろの方を先にお通しいたしますが」
「いえ、大丈夫です。今行きます」
クロは店員の言葉を聞くと、引き下がってくれた。一人で待つのは不安だろうけど、我慢してもらうしかない。落ち込み、垂れ下がった耳も可愛い、けど。
「ごめんな、クロ。明日は遊んであげるから、今日は留守番よろしく。急いで戻ってくるから」
頭をわしゃわしゃと撫でてから、急いで美和達の後を追った。
エレベーターも完備されている。機械ではなく、魔道具で動いている物だと説明され、揺れや振動が全く感じない事に蒼達は驚いた。
3階の指定された部屋に向かい、ノックをして室内に入ると、3席用のテーブルと椅子が並べられ、多くの人達が座っていた。
ぐるりと見渡すと年代はバラバラだけど、一階と違い人間だけが集められた部屋だった。
奥の方には、機関の制服を着た男性職員と不自然に大きな扉が目に付いた。
「開いている席へお座りいただけますか?それではそろそろ説明に移らせて頂きます」
良く通る声の職員は話し始めた。
「先程書いて頂いた用紙を元に振り分けさせて頂いています。理由は簡単です。各世界によって言葉も、文字も違うからです。稀に問題なく会話出来る方もいらっしゃますが、全てではありません。ですので、此処ではしっかり理解できるよう自分達の世界の言葉や文字で説明させていただきます」
「単刀直入に言いますと、まだ戻る方法が見つかってはいません。」
室内がざわりとした。希望を抱いてようやく辿り着いた答えに、納得出来ない者がほとんどだった。蒼達は事前に知っていたが、職員に断言されると、やはりショックは隠せない。
1人が質問する、個人差で問題ない人はいなかったのか。
答えは、結局実例はなく、成功して帰還した話も確認出来なかった。
1人が質問する、特技や希望欄を書かせた意味はなんだと。
答えは、今後の活躍によって、帰還方法が解明された際に優先してお知らせする為。
「帰還方法が解明されるまでは、希望者に仕事をご紹介させて頂きます。ご自分で開業される方にもご相談を受け付けています」
「活躍って・・・役に立たなければ教えて貰えない?」
「そのような事はありません、あくまで優先的。一斉にお知らせする事は出来ませんから」
「活躍方法は?」
「機関に貢献して頂ける職業を基準とさせて頂いております」
周りの人達の質問に対してマニュアルの様に淡々と職員は答えていく。蒼は以前、真司が機関はボランティアではないだろう、と言っていた事を思い出した。頭では理解していたが、だんだん、足元を見られている様で不愉快になってきた。実際そうなのだろう。
「言葉でいくらご説明しても納得は出来ないでしょう。こちらをご覧ください」
職員は部屋にあった不自然な扉を見るよう指示し、手にはネズミが抱えられていた。
「扉を開けますが、決して席から移動などなさらない様、お願い致します。もし破れば、こちらも相応の対応をさせて頂きます」
念を押す職員に対して、部屋の人達は訝しげに思ったが、頷いた。
職員が開けた扉の先には、蒼達の見慣れたビル、道路、車、信号が見えた。絵では無い。車が動き走っている。では映像?
「そして、こちらのネズミ。生命体では無く、魔力を集めた模造品ですが」
ぱんっ、と扉の向こうに投げると、コンクリートの上を歩き始め、数秒後、形が崩れ灰となって消えた。
「・・・っ!」
「と言うことが、魔素のない空間では存在できない結果です。ご自身の安全を考え、軽はずみな行動は避ける事を推奨いたします」
「ふ、ふざけるな!!扉の向こうは元の世界なんだろう。俺は帰る!!どけっ!!」
恰幅の良い老人は職員を押しのけ、扉のノブに手を掛けようとした瞬間、天井から自動人形が現れ老人を取り押さえ、別室へ運ばれていった。
連れて行かれた者は無事なのかと心配する者もいたが、
天井?!ずっと上で待ってたの?忍者?!?蒼は論点がズレた感想を抱いていた。
「お騒がせ致しました。説明は以上となります。今後のご相談は常時受け付けておりますので、お気軽にお越し下さい」
職員は一礼すると退出したが、説明を受けた者達は誰も暫く動けなかった。
もしかしらた、と淡い期待はもう持てないと断言され、泣き出す者、立ち上がれない者と様々な反応だった。
蒼は落胆はしていたが、絶望はしていなかった。他の者達と違い一人ではないという事もあるが、まだ可能性はゼロでは無いはずだから。
「美和、真司。大丈夫?」
蒼は言葉を一言も発しない2人を心配して、おそるおそる声を掛けた。
「大丈夫じゃない。これからの生活どうしよう?」
泣くかと思っていたけど、美和の切り替えの早さは健在でケロッとしていた。
「以前に冗談で言っていた蒼の店を開くか」
真司も気持ちを切り替えれた様だ。
「冗談だよね」
「さあな、とりあえず出るか」
「真司さん、機関に相談しに行くの?」
「いや、少し様子を見たい」
「様子?」
「蒼はクロの様子を見に行かなくて良いのか?」
「あ!ごめん、先に降りてる」
蒼は慌てて部屋を出て、近くにあった階段を駆け下りて行った。
「蒼ってば、階段じゃなくて、エレベーターで降りれば良いのに」
美和はエレベーターが来るのをのんびり待っていたが、ふと、真司が元の世界と繋がる扉をじっと見ている姿が気になった。
「真司さん。様子って、機関の人達が信用出来ないの?」
「元々何の為に扉が用意されていたか気にならないか?」
「元々?」
「帰りたい人物が作ったのか、この世界の者があちらに行く為に作ったのか」
真司は考え込んでしまい、会話が途切れ動かなくなった。
ポーン
エレベーターが上がってきたので、思考の迷宮に入ってしまった真司の背中を押し乗り込んだ。
「蒼も真司さんも集中力有りすぎなのよ。」
美和は呆れながら、真司を引きずり蒼の元へ向かい、遅くなったが、夕飯を取りながら今後の話を進める事にした。
今後と言っても、真司が機関の対応方法を少し見てみたいと言うので、その間の滞在する資金をどうするか、と言う話なのだ。
資金集めとしては、真司の薬、蒼の鍛冶作品となるが、その為には材料集めが必要になる。
「やっぱり、ギルドに登録?材料の集められる場所とかは聞きたいし。以前の湖みたいに、色々あればいいけど」
「そうね。危険の低い仕事なら大丈夫かしら?」
「明日、ギルドに行ってみるか。加入条件があれば、諦めて自力で材料を探す事になるけどな」
「その時は、その時で」
「蒼も美和も元気で助かる」
「「?」」
早朝、ギルドへ向かい登録申請を行うと、あっさり通り三人は驚いた。
真司は加入と退会について確認していたが、どちらも希望する日に処理が行われると説明され、契約書を確認してもそのように書かれていた。
ありがたいのだけど、管理体制は大丈夫なのか心配になる。
それとも、危険を冒してまで加入する者はおらず、それだけ人手不足なのか。
「依頼は掲示板に張っていて、星が多いほど高レベルと。あ、これ良いんじゃない?星1の薬草集め」
思った以上に素材集めの依頼は多く、何件か依頼を繰り返していく内に、どの辺りで必要な材料が入手できるのか、把握出来るようになってきた。
ギルドの隣にある酒場の客層は冒険者が多く情報交換に適していると冒険者達に聞いたが、蒼と美和は未成年なので、真司に一任している。
その間、蒼と美和は保護機関の対応を見学していた。
「普通だよね」
「普通よね」
真司が心配する様な悪質な対応は特に見られる事は無かった。
「やっぱり、真司が心配しすぎなんだよ」
「そろそろ戻る?」
「そうだね。明日もはや・・・」
蒼はすれ違う人とぶつかり、直ぐに謝ろうと振り向くと、目の前に黒露樹が驚いた顔で立っていた。
「・・・・・・っ!」
蒼は黒露樹の驚く顔は珍しいなと思いながら、放り投げられた事を思い出し、少しむっとした顔になった。
「蒼の知り合い?」
「こちら黒露樹、この子は私の友達の美和」
「はじめまして。黒露樹さん」
「え、ええ。はじめまして」
「黒露樹さんの用事終わりました?一緒にお茶でもどうですか?」
「美和?」
「私は・・・」
「さ、行きましょう。美味しい店を知っているんです」
美和は黒露樹の返事を待つ前に、半ば強引に連れて行った。蒼も慌てて後を追い、微妙な空気の中、三人でお茶をする事になった。
美和の指定した店はオープンカフェになっていて、店内も白を基調とした色合いで明るい雰囲気。それぞれ注文の品が届き無言のままお茶を飲んでいると美和が切り出した。
「じゃあ、黒露樹さん。聞いちゃいますけど」
「なにかしら」
「何で蒼を殺そうと思ったの?」
ぶはっ、蒼は思わず吹いてしまった。黒露樹は動じずお茶を飲んでいる、さすが。
「何やっているのよ蒼、汚いわね」
美和は呆れながらテーブルを拭いてくれているが、吹いた原因は美和の言葉なんだけど。
「あなたに関係は無いわ」
「そうですね。でも蒼の友人として聞く権利はあります」
「別に殺すつもりは無かったわ。信じないでしょうけど」
「ドラゴンさんの味方して欲しかったんですか?」
「・・・・っ」
「それじゃあ、諦めて下さい」
「そんな事言われなくても・・・・」
「蒼は両方の味方をします。どちらか一方だけは無理です」
「は?」
「よし、私からは以上。蒼も何か言ったら?宣戦布告でもいいわよ」
「美和?仲直りさせるつもりとかじゃなかったの?」
「やだな。そんな期待してないわよ。でも、もやもやしているより、言いたい事言って喧嘩した方がいいわよ」
「黒露樹さんも、言いたい事あったら、今ですよ。会えるタイミングなんて、そうそう無いんだし」
「あなたは蒼の味方ではないの?」
「味方ですよ」
黒露樹は困惑していた。この美和と言う少女の目的がさっぱり理解できない。
「死ぬかと思った。物凄く腹が立ってる。擦り傷痛かったし!美和達が居なかったら死んでたし!」
蒼は一言発すると次々と不満が言葉になって出てきた。
黒露樹も少しむっとした表情になり、ぽつぽつと言い始める。
「蒼は警戒心が足りないのよ。誰彼なついて。そのくせどうして魔族の心配はしないのよ」
「頑丈だからだろ。まず弱っている方を心配するだろ」
「何よ。頑丈だったら、被害者でも味方してくれないって事?」
「そんな事いってないだろ!」
段々声が大きくなり、通りにいる人達も振り返るほどだった。蒼も黒露樹も周りの目に気が付き少し声のトーンを抑えた時。
「すいませーん、日替わりケーキ3つお願いしまーす」
呑気な美和の声が響いた。
「この空気でケーキ頼む?普通」
「蒼はいらない?」
「いるけど」
「蒼の友人だから仕方ないわね」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味よ」
再び空気がピリピリしてくると、ケーキが届いた。
「「・・・・・」」
蒼と黒露樹は無言で食べ始め、美和は二人の姿をのんびり眺めながらケーキを口一杯にほおばっていた。




