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黒露樹と火竜

ルルサ村。

目的の街とは、一日程歩く距離に位置する村。

街に近い為、品揃えは多種に揃っており、在庫がある分価格設定は良心的と評判が良い。

村の中の道は色違いの石を敷くなど、綺麗に整備され、住宅は三階、四階建てと、高い建物が多く見られる。

今まで立ち寄った30〜50人規模だった村とは違い、1000人以上の人口で、宿や施設も充実しており、多くの旅人や業者の人達で賑わっていた。


大通りから3本目の筋を、右へ曲がった角の青色の屋根の宿に、(あお)達は泊まる事が出来た。

金銭的な面で今回も3人同室となったが、美和(みわ)は反対する気力もなく眠りの淵に落ちた。

室内は、煉瓦の壁、小さなテーブル、大柄の人用なのか、ベッドはかなり大きい物が2つ。格子窓の為科顔を出して外を見る事は出来ないが、日が良く入りそうな部屋だった。ベッドは美和(みわ)と私が1つ、真司(しんじ)が1つ使う事にした。


コンコン

(あお)達が借りている部屋のドアが叩かれた。

音で(あお)は目が覚め、寝ぼけながらドアを開けようとするとシバに止められた。

テーブルに置いていたナイフがカタカタと一人でに動き、(あお)の元にポンッと飛んでくる光景はややホラーに近い。

『ほんまに厄介事呼びよるな』

「え?もうファイに見つかったゃった?」

『もう1人厄介な方』

「もう1人?」

ひそひそとシバと話していると、廊下にいる人物は痺れを切らし、物騒な言葉を投げた。

「自分で開けるか、私にドアを壊されるか選びなさい」

黒露樹(くろつゆぎ)の声?でも、以前と違って魔力ただ漏れ感がないな。


カチャリとドアを開けると、目の前には黒髪、紺をベースに牡丹の花柄の着物を着た日本人形の様に整った顔立ちの女性が立っていた。

黒露樹(くろつゆぎ)・・・どうして此処(ここ)が解った?何か用?」

「ご挨拶ね。一向に保護機関に来ないから心配して迎えに来たのよ?」

「で、本当は?」

「暇だから、(あお)達の絶望する顔を見に来ただけ。まだ街に着いてなくて良かったわ」

ふふっ、と嬉しそうに柔らかい笑顔を見せた。

良い笑顔で人の不幸を見に来たと言われても・・・本当に暇なんだな。

「でも、皆まだ寝てるから、出直して下さい」

「なぁに?魔王を前にしてその言葉」

『怖い者しらずか!消されたいんか?』

黒露樹(くろつゆぎ)は気にしなさそう」

「ふふっ、本当に変な子供よね。異界の者は皆、魔王くらい怖くないのかしら」

「いや、怖いよ?魔獣とか魔族とか」

「まぁ、そんなどうでもいい事は良いわ。(あお)は起きたんだから、少し付き合いなさい」

出直してと言ったのは、スルーされてしまった。


クロに美和(みわ)達の事を頼もうとしていたら、拒否されたので、とりあえず、ミヤギを美和(みわ)の隣に置いて、何かあれば叩き起こすなり、何とかする様対応を頼んだ。

(あお)を心配しなくても、ちゃんと今日は帰してあげるわよ?」

クロは黒露樹(くろつゆぎ)を警戒したまま、(あお)の隣を歩いている。

城では美和(みわ)達の側に居たので、黒露樹(くろつゆぎ)の姿は見ていないはずなのに、本能的に警戒対象と判断している。

野生の勘や、においとかだろうか。

「クロ?大丈夫だよ?多分・・・」


宿の外に出ると黒露樹(くろつゆぎ)はおもむろに(あお)の手を取り、空に飛び上がった。

クロは慌てて建物を駆け上がり、屋根の上を走り追いかけたが、あっという間に(あお)達は見えない距離まで飛んで行ってしまった。

クロは村の端まで追いかけていたが、くるりと向きを変えて街の中へ走り始めた。


(あお)は、足が地面を離れ浮遊感を感じると、次の瞬間息が出来ない程急上昇していった。

やっと停止したと思い、目を開けると先程まで目の前にあった村は既に見えない距離にあり、一変して火山口の上に浮かんでいた。

「なにー?ちょっ・・・・なんで浮いて・・・」

(あお)でも驚く事があったのね」

「人を何だと思っているの!そんな事より!何で浮いて・・・下、火山口?」

山の様に盛り上がっている部分があるが、先端となる中央には窪みがあり、大量の黒い煙を出していた。辺りには草木は一切なく、岩塊が広がるのみ。黒露樹が球体の結界を張っている為、窪みから発生する熱量や煙、灰等で息苦しくなる事は無かった。

黒い煙は生物の様に上空へ登っていく光景は恐怖を覚えた。

此処(ここ)に何しに来たの?」

「見学よ。そろそろかしら」

先程まで吹き出していた黒い煙が徐々に消えていく。

すると、奥の影が盛り上がり始め、前足、後足、尾、身体、翼、頭と徐々に形が整うと、影が薄れ、赤い肌が見えてきた。慟哭と共にドラゴンの姿が現れた。

元の世界では空想の生物が、こちらでは現実に存在している。鋭い爪、身体と同じ位大きな翼、額には二本の角が生えていた。

正確な大きさは不明だが、空中から見ても姿を確認出来る位なのだから巨大なのだろう。

付近の人影を比べても20倍は大きい。


「・・・って、え?ドラゴン?人もいるの?」

「何を驚いているの?」

「いや、あんな所に人が!危ないよ!」

黒露樹(くろつゆぎ)は呆れた顔をして言った言葉で、ようやくこの場所にいる理由が解った。

「彼らにとって危険は覚悟の上よ?冒険者の仕事で、火竜を倒すために来ているのだから」

「討伐依頼?」

「そう。だから、どちらが勝つか見届けに来た。でも、見学も一人だと退屈だから、(あお)を誘ったの」

「誘うって、拉致でしょ?何も説明なかったじゃないか」

「あら、そうだったかしら。本当はお茶菓子なんかも用意したかったのだけれど、埃っぽい場所だから、止めたわ。お茶はまた今度にしましょう」

「次は事前に説明をくだ・・・」


ドォォォン

気が付けば下では既に戦闘が始まっていた。

5~10人のパーティーが6つあり、魔道師、剣士と様々な職業の者達が攻撃を絶え間なく繰り出している。中には負傷する者もおり、回復役も懸命に対応していた。

攻撃魔法で火竜の気を引き付け、剣士達近距離攻撃、弓での遠距離攻撃を与え、火竜へのダメージを与えていた。双方とも傷を与え、自らも傷を負っていく。

「あの火竜は何か悪い事でもしたの?」

黒露樹(くろつゆぎ)はじっとこちらを見たまま答えなかった。何か変な事を聞いただろうか。


グァアァァアア

火竜は火を吐き冒険者達焼き払う、冒険者達は直ぐに回復を優先させるが、万全の状態には至らなかった。負傷者が増え、闘える者が減っていく。

だが、火竜は攻撃を止める事はなかった。尾で近くにいる冒険者を薙ぎ払い、口から火を吐き遠距離にいる魔道師達に攻撃を加えた。

ただ見ているだけでも状況は切迫していっているのが解る。歴然とした戦力差。

だんだんこの戦いは不毛にさえ思えてくる。

「何で逃げないの?もう勝てないよ!・・・・黒露樹(くろつゆぎ)は止めないの?」

「意外と他の者と同じ感想なのね。(あお)

「え?」

「何故、闘う?何故、逃げない?そんなのは、冒険者にも火竜にも譲れないものがあるからでしょう」

「・・・・っ、でも」

「彼らは覚悟を持って闘っている、命がけの。お互いの望みが平行線で終着点が一つだけなら闘うしかない。第三者が手を出したり、口出しするのは傲慢よ」

「それは・・・」

「じゃあ、(あお)は今まで努力して、あと少しで手に入りそうな時に、知らない人があっさり手にした後、可愛そうだから(あお)にあげると言われたら嬉しい?」

「・・・・・・・・」

「ふふっ、下らない。変わった考えが聞けるかと思ったから、誘ったのに。残念だわ」

「え?」


黒露樹(くろつゆぎ)は掴んでいた(あお)の手を強く握り直すと、ぽんっと物を投げるように、無造作に蒼を投げた。軽く投げられた様な感覚だったが、(あお)は弾丸の速さで飛ばされていった。

「っ!」

あっという間に黒露樹(くろつゆぎ)の姿は見えなくなり、(あお)は高速で横に飛ばされている状況となった。顔に当たる風は痛いし、目も空けられない、出来る事と言えば、顔の向きを変えれば多少息は出来る事くらい。


勝手に連れてきてこれかぁ!!

火山口側に投げ込まれないだけ、マシと思いたいけど、結局時間の差。

下の火竜に炭にされるか、投げ出された勢いが失速して、地上に叩きつけられるか。

文句を言いたいがそれどころでは無い、平行感覚が狂い始め、徐々に耳鳴りが強くなる。

『おい!何とかせな、やばいやろ!』

(あお)の意識が遠くなりかけ、シバが慌てた声で叫んでる。意識を戻し、本当に大変な状況を再確認する。

黒露樹(くろつゆぎ)()()。とは言っていたが、()()()()()。とは言っていなかった。

危機感の無さが自業自得と言う事か。こんな所で何も出来ずに終わるのか。

「なんて思えるかー!」

確かに第三者だけど!他と同じ感想って何!

徐々に近づく死の恐怖より、黒露樹(くろつゆぎ)に腹が立っていた。傍観者気取り?良いよ、勝手にすれば。だけど、巻き込むな!変な期待して、想像と違うからぽいって、ふざけんな!


元の世界と違って、此処(ここ)は何でも有りな世界。何か助かる方法があるはずだ、考えろ。

手甲に意識を集中する。地面に直撃時に爆発を起こして爆風で衝撃を軽減するか、大量の水を作りスポンジの代わりにするか。

がくんっと失速し、地面が近付いてくる。不安定な浮遊感がある時は、地面が恋しくなったけど、今は全く嬉しくない。

助かる方法、迷うなら両方試せば良い!怪我はどの道、避けられない!

火の魔力をシバに、水の魔法を手甲へ集中させる。

『同時かよ!こんな時にほんまに器用やな!』


火の塊を地面に叩きつけようと、腕を下ろそうとした時、下ろす前に六本の矢が向かってきた。

地上から誰かの攻撃かと矢を防ごうとするが、何か違う気がする。

矢は(あお)を中心に広がり、丁度真横を通過する瞬間、光の線が広がり、矢同士繋がり蜘蛛の巣の形状が出来上がり、巣の網にかかった状態で落ちていく。

いくらかは緩やかな落下となったが、止まったわけでは無い。

美和(みわ)が来ている?(あお)は安堵と疑問を抱いたが、直ぐに切り替え現状打破に集中する。

美和(みわ)が近くにいるなら、下手に爆発は起こせない。じゃあ、水?

続いて違う魔力の流れを感じ、真下を見てみると、岩場の土が不自然に動き出した。

土の中から草が生え、樹が育ち始め、みるみる成長し大樹が何本も生っていた。

「え?まさか・・・・っ!!!」

ベキッベキッボキッ

頭を腕で守りながら大樹の中を突っ込み、枝のお蔭で落下は減速し地面に届く寸前で止まった。死亡フラグも回避出来て、骨折も免れたけれど!

「いたたっ!冗談なく痛い!!」

あちこちが擦り傷、服も引っかけボロボロとなっていた。マシであっても痛いものは痛い。

(あお)!!」

美和(みわ)真司(しんじ)とクロとミヤギがいた。皆の姿を見るとほっとして泣きたくなる。

ごんっ!!!

「痛っ!!」

けれど、例のごとく美和(みわ)の鉄拳を後頭部にもらった。冗談で無く、本当に泣く。

どごん!!

「ぶえっ!」

クロが体当たりしてきた、心配かけたのは私だけど、手加減して欲しい。

「多少の怪我は我慢しなさい!本当にいい加減、学習してよ!!心臓がいくつあっても足りないじゃない!!」

美和(みわ)はご立腹。後頭部のたんこぶは美和(みわ)作なんだけど、毎度、何も言い返せない。

「ごめんなさい。でも、美和(みわ)ありがとう。真司(しんじ)も助かったよ。ところで、なんで二人が此処(ここ)に?村から大分離れているんじゃ?それとも近所だった?」

(あお)が誘拐されたって、クロが知らせてくれたのよ。この場所にも連れて来てくれたの。ちゃんとお礼言いなさいよ」

「クロが?」

「俺は朝、腹を思いっきり踏まれて叩き起こされたけどな」

「はは、私はその声で起きたけど」

『村を散歩途中に、(あお)が魔族に攫われたって聞いたときは驚いたわよ。いくら多種族の出入りがOKだからって、白昼堂々するなんて。これだから魔族は好かれにくいのよね』

(あお)、誘拐されていたのに、何で空から落ちてくるのよ。ミヤギが教えてくれなかったら、大怪我じゃすまなかったわよ?私も真司(しんじ)さんも、間に合ったから良かったものの」

「ミヤギもありがとう」

『いいわよ。(あお)に何かあったら美和(みわ)が悲しむものね』

「えーと、ドラゴンがいる場所に拉致されて、用済みになったから放り投げられた」

「「はぁ?!」」

『意味解らないわね。後でちゃんと説明しなさいよ』

「説明って・・・」

『いつも通り、(あお)は相変わらず面倒くさい人物に好かれると言う事は解るけれどね』

「ちょ・・!何それ、人聞きの悪い!」

「ドラゴンって?!(あお)。無茶な事してないでしょうね」

「してないよ。・・というか、出来ないよ」

(あお)?」

「とりあえず、一旦村へ戻るか。(あお)も無事だし、腹減った」

「そうよ。朝ご飯も、お昼ご飯も抜きなのよ。早く帰りましょう」

クロは何か文句を言いたそうだったけれど、なだめて魔法陣を展開してもらって、村へ移動した。


火山の上空で黒露樹(くろつゆぎ)は戸惑っていた。

(あお)を誘ったのは、ほんの気まぐれ。言葉を交わす内に少し楽しくなっていたのは事実。

けれど、手放してしまった。人間がこの高さから放り投げて生きている訳が無いと解っていて。

いつも通り言葉を交わしていたはず、けれど途中から気持ちがざわつき始めた。

何に対しての苛立ちなのか、感情が動くなど久しぶり過ぎて理解できない。

暫くその場で呆然としていると、地上にいるドラゴンに呼ばれた。

「久しいな。黒露樹(くろつゆぎ)、先程まで一緒にいた人間はどうした?」

「気が付いていたの?別に、興味なくなったから捨てただけ」

「そうか」

「相変わらず、この場所を守っているの?いい加減、帰って来ない男のことなんて忘れて、好きな場所へ行けばいいのに。とうとう消えるかと思って見に来たら、結局しぶといわよね」

「ふん。人の事は言えんだろう」


遙か昔この地には魔族の村があった。この世界を立ち去った男に、ただ一言<この地を頼む>と言われ、村が無くなった後も律儀に守護している火竜。

もう誰も彼の事を覚えている者など残っていないにも関わらず。

時は経ち、竜族も他国との交流を持つ為、人の姿を選ぶ者が多くなり、現在は人の姿が竜族、ドラゴンの姿の者を魔族と分類している者が多い。

そして今回、「火山を起こし天災を撒き散らす悪の魔族を討伐」となった。

「下らない。火山活動も止めたらいいのよ」

「それは出来ん。熱を大地に回さなければ、地が死ぬ。そろそろこの地にも草木を育てたい。蒼之助(そうのすけ)が戻ってきた時、悲しむ。奴は花が好きだったから」

昔から何を言ってもこの火竜は耳を貸さない。馬鹿の一つ覚えの様に蒼之助(そうのすけ)に尽くしている。

「勝手にすればいいわ。せいぜい一人で待っていなさいよ」

「一人ではない」

「他に誰がいるのよ」

黒露樹(くろつゆぎ)

「ふざけた事を言うなら消すわよ」

「今日久しぶりに此処へ来たのは、我を心配して来た。黒露樹(くろつゆぎ)が無駄に人間を殺さないのは、昔、蒼之助(そうのすけ)が言っていたからだ」

「違うわよ。全部暇つぶしだもの」


「そんな事より、黒露樹(くろつゆぎ)いつもと違って大人しいな」

「私はいつも大人しいわよ」

「あの変な人間を捨てた事を後悔しているのか」

「・・・・っ」

大きい図体して、他人の機微に鋭い所が嫌い。

「変な人間って何で知っているのよ」

「我を見て、敵意や畏怖を向けてこなかった」

「闘い中、そんな事まで気づくなんて、相変わらず変態ね」

「我を恐れないのは、蒼之助(そうのすけ)黒露樹(くろつゆぎ)、そして先程の変な人間。貴重だ」

「けれど、人間は人間よ。攻撃されたあなたを見て<何か悪い事したのか?>と心配していたけど、決着が着きそうになると<助けないのか?>よ」

「それの何がいけない?」

「・・・・」

そうね。何に腹が立ったのかしら。黒露樹(くろつゆぎ)は頬に手をあて思い返してみる。


黒露樹(くろつゆぎ)の願いは叶わない」

「私はまだ何も言っていないわ」

「あの人間に我の心配・・魔族の味方でいて欲しかったのだろう。それは無理だ。蒼之助(そうのすけ)は魔族だが、あれは人間なのだから」

火竜の言葉にどきりとした。あぁ、だからあの時腹が立ったのか。

名前が似ていて、懐かしく思った。

気配が似ていて、嬉しく思った。

魂の色が全く違う事から別人だと解り、落胆した。

けれど、気になり話しかけていたのは、何処かで期待していたのか。

これでは火竜の事を言えない。過去の男に引きずられていたという事なのだ。

「悪い事ではない」

「悪くはない?滑稽すぎるわ」

「蒼之助が知ったら喜ぶ」

「・・・・・・・」

この馬鹿火竜と一緒なんてもの凄く嫌。蒼之助(そうのすけ)を喜ばせるのはもっと嫌。


蒼之助(そうのすけ)は変わった魔族だった。黒服しか着ないし無頓着と思えば、性格は裏表なく陽気で、嵐の様に周りの者を巻き込み騒ぎを起す人物。策略や計算で人を振り回しているのかと、疑うくらい彼の周りはいつも多くの種族の者達が囲み賑やかだった。

「暇だろ。ちょっと付き合え」

軽く誘うが、絶対にちょっと所のレベルではなかった。なのに、大変すぎて泣き出す者はいても、断わる者はいなかった。馬鹿火竜を筆頭に。

一箇所には留まらず、長い白髪をなびかせ、いつも走り回っている後ろ姿は印象的だった。

あの日、暫く会わなかった蒼之助(そうのすけ)は、ふらりと訪ねてきた。

「俺ちょっと、異世界にいってくるよ。元気でな」

蒼之助(そうのすけ)が向かおうとしている世界には魔素がないと言った。何を馬鹿な事を言っていると呆れた。子供でも知っている。魔素の無い世界に行けば、どれ程能力が有能でも機能が低下し、いずれ消滅すると。

「仕方ないだろ。惚れた女が人間で、帰りたいって言うんだ。叶えてやりたいだろう」

言っている事は解った。けれど、不可能。この世界に馴染んでいるなら、その女も消滅する可能性だってあるでしょう。みすみす危険を冒す必要が有るとは思えない。

「まぁ、それは俺が何とかするとして。挨拶はしておかなきゃ、皆俺が居なくなったら泣くだろうしな」

自意識過剰。泣くのは火竜くらいでしょう。あっけない終わり方、お似合いね。蒼之助(そうのすけ)が消えた所で何も困らないわ。

「勝手に終わらすなって。はは、相変わらず、毒舌だな。じゃあな、他の奴らにも挨拶してくる」

それきり、蒼之助(そうのすけ)の噂も姿も見なくなった。


異世界を渡って無事で済む方法が有ったのか、無かったのかも、誰も聞いてはいなかった。

魔族一人消えた所で世界が変わる訳でもないけれど、彼を知る者は何か物足りなさは感じていた。

その証拠に何の対策も無いまま蒼之助(そうのすけ)を追って、異世界の扉を通り消滅した者が何人かいた。馬鹿だと思う反面、そんな馬鹿な行動を取れる位の思いが羨ましくもあった。

そして、それを彼が知ったら、喜ぶのか、悲しむのか。


「我はそろそろ眠る。黒露樹(くろつゆぎ)も無理はするなよ」

「無理なんてしていなわ。暇なだけ」

「そうか」

火竜は身体を丸くし、赤い肌を岩陰の色と同化して眠りについた。

気配を完全に絶ち一見岩と見分けがつかない。

再び冒険者達が攻撃を仕掛けて来るまで、眠り続けるつもりなのだろう。

そっと、火竜に触れる。ひんやりと岩と変わらない体温となっている。

「火竜、あなたはその生き方は幸せなの?」

私には理解できないけれど、火竜にとっては幸せなのだ。蒼之助(そうのすけ)との約束を胸に生きている事が。どれ程、冒険者に疎まれ、攻撃を繰り返されても。それは呪いと何が違うのだろう。

「はぁ、勝手にすればいいわ。私も勝手にするつもりだし」


黒露樹(くろつゆぎ)はふわりと空に向かって上昇した。既に日は落ち空には月が姿を現していた。

月明かりだけが広がり、星が良く見え静かな空間は黒露樹(くろつゆぎ)にとって落ち着けて好ましい。

そのはずなのに、今は落ち着かない。ふと、手を見る。

後悔しているのだろうか、自分が待っていた者は冒険者となって立ちはだかる程の強者。

「違うわ。気にする程の事ではないのよ。今まで通り・・・」

この感覚は知っている。蒼之助(そうのすけ)が去った時に感じた虚無。

彼程ではないけれど、(あお)を気に入っていた事は認める。

けれど、きっと何も変わらないわ。また、新しい玩具を見つければ良い。

黒露樹(くろつゆぎ)はのろのろと保護機関へ向かった。


(あお)は村に戻る途中で皆に今回の出来事を説明した。

村に到着すると真っ直ぐに食堂に向かう事になり、予算内を思案しながら注文した。

「生き返る!!美味しい!!!」

「食えれば何でも良い」

「落ち着きなさいよ。食べ物は逃げないわよ」

「そういう美和だって、両手にパン確保してるじゃないか」

「いいでしょ。お腹すいてるのよ」

テーブルの上には質素だが、量は多めの料理が並び、あっという間に空の皿に変わっていった。

「さっきの話の黒露樹(くろつゆぎ)さんだっけ?ドラゴンさんと知り合いだったんじゃないの?」

「え?」

「知り合いが倒されるかもしれない状況で、口出し出来ないんでしょ?私は一人で見届ける勇気はないかなと思って」

「でも、それなら私を誘わなくても」

黒露樹(くろつゆぎ)は王様だったよな。向こうで言うと、会社の社長が部下に弱さを見せられないだろ?関係無い(あお)だらか呼ばれたんじゃないのか?」

「うんうん、それで、ドラゴンさんを味方してくれないのは面白くなかったんじゃない?放り投げるのはやり過ぎだけど」

「なんだよ。私が悪いっていうの?」

「別に悪くはないだろう。意見の食い違いなだけで、会社でもよくある」

真司(しんじ)はどうしてる?そんな時」

「話し合って妥協点を見つける。次会った時話してみれば良い、平和的に出来るなら」

「むぅ・・・」

()()()が一番難しそうなんだけど。先の話は置いておこう。

「現実的問題を一つ。もう夕方だね。ご飯代払ったら、もうお金無いよ。宿代どうする?」

「薬の売れ次第だな。とりあえず、道具屋に行くか」

「薬?なんかごそごそやっているなと思ったら、薬作っていたの?材料は?」

「湖にあっただろう。大量に」

「あぁ、真司(しんじ)が壊れた時の」

「壊れたって言うな」

「そうよ、失礼よ。ちょっと、不審者だっただけで」

「もういいから、行くぞ」


真司(しんじ)は道具屋の店内へ向かい、(あお)美和(みわ)は店の外で待っていた。美和(みわ)は店に向かって手を合わせてお祈りを始めている。

「むむっ、お願いします。神様、仏様、真司(しんじ)様。野宿は嫌です」

美和(みわ)さん・・・・」

「解っているわよ。無駄な事って言いたいのよね?でも、何とかして欲しいの!虫は嫌なの!!」

カランカラン

店のドアが開き、ドアの上の部分に付いているベルを鳴らし、真司(しんじ)が店内から出てきた。

「待たせたな。次は宿を探しに行くぞ」

「やったー!!真司(しんじ)さん、えらい!!」

野宿は避けられ、無事に宿へ泊まることが出来た。


本日の格安宿の室内は、人が一人通れるスペースを空け、左右に二段ベッドがあり四人泊まれる部屋。横向きの長方形の窓があるだけで、他には何も置かれていなかった。

此方(こちら)の世界は、どの宿にも冷蔵庫はもちろん、自販機が無い事が不便。出店で買った水も暫くすると冷たさが無くなる。水魔法が出来るから氷は作れるけど、手間が掛からない方法があれば良いけど。

一息つくと、(あお)はカバンの中から鍛冶道具を取り出し、手入れを始めた。落ち着かない時は、鍛冶作業以外では、この作業が一番集中できる。

「相変わらず、重そうな荷物よね」

(あお)はいつも持っているのか?それで筋肉を鍛えているとか?」

「鍛えていないし、いつもじゃないよ。美和とテスト対策した後、爺ちゃんの家に行く予定だったから持っていただけ」

「明日帰れるかもしれないのは、嬉しいけど。両親は心配しているだろうな。(あお)の家は爺様も、でしょう?」

「心配より怒っていると思う。なんて説明しよう」

「説明。そうよね、異世界へ行ってました、と言っても頭打ったと思われるだけだろうし」

「うーん」

「おまえら、明日早く出るんだから、さっさと寝ろ」

真司(しんじ)ってお母さんみたい」

「ぷっ・・・」

「誰が、母だ。考えるのは明日にしろ、寝坊しても俺は知らんからな」

毛布をかぶり真司は眠り始めた。蒼と美和は慌てて眠りに着く。

明日、本当に帰る方法が無いのか、可能性が低くても有るのかが解る。色々考えていても仕方がない。保護機関で何かが解れば良いな。


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