休息日
変な人間に好かれたい訳では無い、心から。なのに、この世界に来てから会う人間はまともな人が少なすぎる気がする。美和には類は友を呼ぶ、と言われたけれど、そんな事は絶対ないはず。それで言うなら美和も同類となる。
トル達に押し付ける形で帰って来たけど、大丈夫だっただろうか。
次回会う時があれば、もう一度謝らなければ。
宿に戻り一息着いたのでこれからの相談。
「とりあえず、どうする?今、出発すると野宿になるけど」
「嫌!!」
「ですよね。でもファイとかギルドとか・・・」
「とりあえず、様子を見るか。クロは知っている場所には飛べるんだよな?だったら、今日はこのまま休んで、最悪奴らがこの宿まで来る事があれば、何処か他の村に飛んで貰おう」
「クロ、それで大丈夫?」
にゃあ、と返事されシバの通訳が入り問題ないというので明日の早朝出発予定となった。
宿の人に道順を確認すると、どうやら峠の村から次に向かうはずだった村は逆方向にあり、此処から向かうには、平原を通り、湖が見えたら左方向に迂回する形になるそうだ。
順調に行っても途中で野宿する事になると聞き、宿で支払を済ませた後、街を出る前に市場で必要な物を買う事になった。美和は最後まで野宿に反対していたけど。
「クロに、峠の村に戻ってもらえば・・・」
「あっちから向かっても多少距離は近づくだろうけど、野宿は避けられないって話だよ?」
「うー、虫除けとか売ってないかな」
「荷物になるから最小限の物しか買えません。あと、二人ともこれ」
2人に食事1食分の程の金額を渡す。ファイに邪魔されなければ、何か売れてもう少し余裕があったかも知れないのに。
「何だ?何を買ってくればいいんだ?」
「それは二人が買いたいもの買って良い分。節約はするべきだけど、し過ぎはストレスになるよ。こんな状況だし」
「やった!いいの?返さないわよ?」
「いいのか?」
「道中の食糧はこっちで用意しておくから。買い終わったら戻ってきて、あまりにも遅い時はクロに呼びにいかせるから」
了解、と市場の入口で解散した。蒼は目的の店を見つけ簡易食を購入し、入口に戻ろうとすると、通りの隅で座り込んでいる小さな子供を見つけた。
しゃがみこみ子供と目線を合わせてから、迷子かと質問すると違うと答え、泣き出しそうな顔で理由を教えてくれた。
「こわれちゃった」
小さな手にはブリキで出来た恐竜?の様な物があり、右足の部分が外れている。
「ああ、これくらいなら直るよ」
「本当?お兄ちゃん、直せるの?」
下を向いていた顔は笑顔になり、こちらを期待の目で見ている。お兄ちゃんじゃないんだけど。
危なげなく壊れた部分を直し子供に返した。ありがとう、と笑顔になったから良しとしようか。一部始終を見ていた目の前の店主に呼び止められる。
店前で邪魔だと文句を言われるのかと思ったが違っていた。時計も直せるか聞かれただけだった。少し調子が悪い程度だったのでカバンの中の道具で十分直せる範囲だった。一つ二つと直し続けると市場の店主達は面白がって、あれは、これは、と色々な人が様々な物を持ってきた。
修理に出すと何日も掛かってしまう為、多少不便だが、完全に壊れるまでは使い続けているそうだ。1つ直すたびに駄賃として何か置いて行かれ、食べ物や小物で結構な量が手元に残った。
にゃあ、とクロが呼びに来てくれた。あっという間に時間が経っていたようで美和達はもう戻っているだろう。
「すいません。友人を待たせているので、帰ります」
「何だい。残念だね」
「どれなら直せないものが出るまで見たかったのに」
「また来いよ。ぼうず」
ぼうずじゃないんだけど。今度、間違われない服装を美和に見繕ってもらおうかな。
人込みを掻き分け、入口へ向かうとやっぱり美和と真司は既に戻っていた。
「そんなに買ったの?」
「買ったわけじゃなく・・・」
面白がられた結果が手にある訳だけど。
「物々交換?」
「何で疑問系なのよ」
「とりあえず、そろそろ出るか」
「ま、また歩くのよね。車とかあったら良かったのに」
「あっても乗るお金ないよ?」
「分かっているわよ。言ってみただけ」
本日も晴天。街を出ても近くには人が行き交っていたが、暫く歩いても草原だけが広がり、遠くにちらほらと動物が見える位で、人は全く見当たらなかった。休憩できる施設も、陰になる場所等はもちろん無く、じりじりと日の光が肌に突き刺さって来る。タオルを被り直射日光は避けるが、気温は誤魔化せなかった。
風魔法で涼もうとするが、暑さで集中力は落ちているので、早々に諦めた。
「蒼は暑さに慣れているんじゃないのか?」
「楽しい暑さと、ただ暑いのは全然違う」
「気持ちの問題か」
前方にようやく小さくはあるが林が見え、少し陰の所で休む事にした。体力が落ちたのか、気温が高いからなのか、予定の距離を歩けないでいる。暑さでぼうっとした頭で、空を見ていると鳥が数羽見える。
この暑いのに元気だな、と思っていると、空に旋回していた鳥が徐々に近付いて来た。そして、段々大きさがはっきりしてきて理解した、鳥ではなかった事に。
鳥の恐竜?翼竜?くちばしを持ち後頭部は鋭く斧の刃の様に鋭く伸びており、体長は7~9m程あった。
周りに同じ様な生物がいる事から群れで行動しているのだろう、それなのに一羽だけ用も無く下りてくる訳も無く、十中八九捕食の為だと理解した。理解したくないけど。
「ちょっと!少しは休ませなさいよ!」
「林の中に入れ!!」
林の中に入ると木々が邪魔になるからか、林の近くには飛んで来ずに旋回を繰り返している。中に居れば一時的に安全かも知れないけれど、今度は外に出れなくなった。
「ミヤギと美和で何とか出来ない?」
「嫌よ!あんな怖い顔してるけど、生き物のよね?殺すのなんか嫌よ!」
「そうじゃなくて、捕獲とかテイム・・・ペットとして手懐けれないかな」
「ペット?可愛くない」
「行ける所まででも運んで貰えたら良いなと思っただけです」
「!!・・・ミヤギ何か方法ないかしら?」
『あんた達・・・無理よ。矢で落とせても、野生動物とどうこう出来ないわよ』
「「やっぱり駄目かー」」
魔法世界なんだし、有りかと少し期待してみただけです。
「じゃあ、どうしようか?夜まで待てば立ち去るかな?」
『夜行性の生物はいるけど、あれよりはマシじゃないかしらね』
「いるの!?」
『そりゃおるやろ。この辺りは、日中は攻撃的やけど、夜間は大人しいのが多い』
「早く言って!!出会わなくて良かったぁ」
『闘わんの?』
「ファイと同類にしないで下さい」
そこはきっちり誤解を解かなければ、私は必要ない戦いは避けたいのです。
横を見ると、さっきから大人しくしていると思えば、怪訝な顔付きで真司は木々の隙間から空の生物を見ていた。
「どうかした?」
「なぁ、あの一匹だけ変な飛び方してないか?」
木の陰に隠れながら言われた方向を見てみると、さっき急降下して来た一匹がまた他と違う動きをしていた。言われてみれば周りの仲間を追いかけているような感じがする。そして、あと一点気が付きたく無い個所に気が付いてしまった。
「あー、頭の部分をよくご覧ください」
美和と真司も気が付いたのか、無言で林の奥に隠れるように移動した。
名前が解らないので「翼竜」とする。その翼竜の後頭部に手を掛け首の部分に人間が跨っていた。
もし、騎士の人が騎乗している姿なら、何処か警備のため、闘う為に移動するのだと、敬意や称賛を抱いただろう。けれど、目の前には笑いながら他の翼竜を追い立てているファイの姿があった。
ギルドに捕えられたはずなのに、どうして此処にいるのか?どうやって乗った?従えている方法は?疑問に思う点は山程あるけれど、今関わるのは絶対に避けたい人物。
私達が向かう目的地は知られているのだから、結局最後には顔を合わせるだろうけど。
でも、関わるのは最小限にして、無事にやり過ごせる事を祈ろう。出発は夜に決まり、交代で仮眠を取る事になった。
ファイはギルドには目もくれず街を出た。
ギルドの人間は、徒党を組んでいる時点でファイの遊び相手には向かない。自らの判断で動くのなら、それなりに強いのだろうけれど、敵にまで指揮の声が響き次の行動が予想出来てしまう。
段々と鬱陶しくなってきたファイは、ギルドの者を潰しに掛かろうとも思ったが、それを実行すると、後から蒼が知った時、本当に相手をして貰えなくなるので止めた。
今、ファイがギルドに対して鬱陶しいと思っているのと同じ様に、蒼が自分の事をそう思っているのは解っているし、それはそれで面白いから良いのだけれど、完全無視は避けたい。折角全力出しても勝てない相手を見つけたのだから。
ギルドの団体が気を失って静かになった所で、風魔法を使い空から追うことにした。
街周辺には魔物避けの結界が張られていたので静かだったが、その加護が無くなると、とたんに賑やかになってきた。縄張りに侵入したファイに対して威嚇と警戒を込め翼竜は次々と集まり攻撃を始めた。ファイにとってこの位のレベルの生物なら、傷を負わされる事はないので、無視しようと思ったが、止めた。くるりと向きを変え翼竜の群れに向かった。
空を飛べばあっという間に目的の街に付くが、蒼達は徒歩なのでそうはいかない。最悪、街で暫く待たなければいけなくなる。それは暇だ、街の中にファイにとって興味がある事があるとは限らない。ならば、寄り道の一つとして、時間が掛かりそうな翼竜を配下に置く事を試し始めた。
群れを持つ野生動物なのだから強者と認めさせれば良い。
力の差を見せると、それぞれの性格が見て取れる。
委縮し立ち去る、更に好戦的になる、興味を持つ。どうせなら、自分と同じ変わっている奴が良い。
興味を持って近寄る翼竜の頭に跨ると、初めは嫌がり振り落とそうと旋回したり、急降下、急上昇を繰り返し試すが、一向に落ちないファイに根負けして大人しくなっていた。
「意思疎通が出来ないのは難点だな」
大人しくなったのは良いが、行きたい方向に飛ばない。手綱とかあれば解りやすかっただろうか。
とりあえず、翼竜の後頭部を掴み方向を指示する、急いではいないからのんびりとコツを掴めば良い。
日中じりじりと痛いくらいの日差しだったのが、嘘のように夜になると気温が肌寒い位にまで下がっていた。林を出ると街頭はなく、月明かりだけが頼りの道を進むことになる。
「二人とも足元気を付けてね、草に隠れて石とか出てるから」
「蒼だけ何で見えてるんだ?」
「蒼の実家が山奥で、ほとんど街頭なしなのよね。慣れよ、慣れ」
「なるほど」
「何?田舎には田舎の良さがあるんですよ?」
「何も言っていないだろ」
「美和に散々言われたからな。虫いるとか、都会だっているだろ」
「あんなにぎっしりいないわよ」
「ぎっしりなのか?」
「・・・・ぎっしりです。でも自販機とか明るい所に集まるだけだよ?」
暫く、無言が続いた。
がさりと草が揺れ、びくりと一斉にそちらを見ると、大きな甲羅を持った生物がゆっくり歩いていた。亀・・にしては大きい、高さが1m以上はある。今は動きがゆっくりだから、避けれそうではあるが、実際警戒された時の動きが予測出来ない。目を凝らして周りを見ると、単体では距離は離れているが、結構な数がいる、群れの中を通る形になるようだ。
「シバ、この亀みたいなのは攻撃してこない?」
『こいつらは目の前に立たんかったら心配ない』
「立ったら?」
『突進してくる』
「だそうです。気を付けて行こう」
蒼達は、はらはらしながら横を通り抜けて行くが、シバの言うとおり巨大亀っぽいのはもりもりと草を食べ続けているだけで、他の生物には全く関心がないように見えた。
目の前に立つと自分の食事の邪魔をされたと勘違いして突進してくるらしい。
食い意地全開の生物。でも、好戦的ではない事は何よりだ。
「大人しいと、可愛く見えるわね」
「可愛い?もふもふないのに?」
「蒼の基準はそれだけなの?真司さんは可愛いと思わない?」
「俺に振るな」
無事に巨大亀の群れの中を抜けると湖が見えた。これを頼りに迂回、やっと半分進んだ事になる。
湖には周りの木々や空の月が鏡に映るように綺麗に映し出され、月の光が淡く光り幻想的に見える風景だった。
「異世界っぽくない!でも凄く綺麗だから良し!!」
蒼は思わずガッツポーズをとっている。
「蒼のセリフって色々台無し。でも綺麗ね、これでホタルとか飛んでたら文句ないのに」
「写真に撮りたい位綺麗だな。やっぱり人が来ない場所だからだろうな」
三人はゆっくり歩きながら幻想的な風景を楽しんだ。
ふと真司の姿が見えない事に気が付いた。
「あれ?真司は?湖に落ちた?」
「そんな事になってたら、大騒ぎしてるわよ。違うわよ、あそこ」
水場ともなると様々な草木が生い茂っており、薬草の宝庫となっていた。真司は夢中になり草花を調べていた。
「あぁ、くそ!明かりがあれば」
美和は雷魔法で弓の先に小さい球体を作り、照明の代わりを作ると、意外と明るく2m程先まで見渡せた。
「直ぐに点けてくれれば良かったのに」
「しょうがないでしょ。ホタルで思いついたんだから」
「何でも良い!助かる!少しだけ移動するのを待っててくれ」
蒼が脱線するのはよくあるが、真司がするのは稀なので二人は大人しく湖を眺めて待つ事にした。
「草花見てテンション上がるって、よっぽど好きなんだな」
「蒼は真司さんよりハイテンションになっているけどね」
「あれより?・・・・気を付けます。たぶん無理だけど」
「無理でしょうね。今更」
「今更言うな」
うきうきしながら真司が戻ってきた。普段見かけない姿なので若干気持ちわ・・・いや、楽しそうで何より。
「こっちの薬草の効能とかって何で調べるの?辞書とか無いのに」
「??蒼がくれた腕輪に表示されるぞ?」
「「え?」」
そういえば前に結界解いてくれた時も説明が何とかって。真司は草花に手をかざし腕輪の上を右にスライドさせるとPC画面の様にデジタル文字が表示され、名前、特徴、効能が説明が記載されていた。
「なんて便利な!」
「作った本人の言葉じゃないな。意図して作ったんじゃないのか?」
「違うよ。確かに持ち主の助けになる物を作りたいって思ってるけど、こっちで作るとキラキラした何かが集まってくるんだよね。で、その後ぱんっ!って出来上がる」
「「さっぱり解らない」」
「はもらないでよ」
『キラキラってアホっぽい表現やな。たぶん魔力やろうけど』
「アホって言うなよ。魔力?それは使えるイメージをして作った。でも、自分が知らない情報表示するのは?」
『この土地の魔力をその腕輪で解りやすく変換しているんでしょ?蒼ってばやれば出来る子よね』
蒼は、ミヤギに褒められてちょっと嬉しくなって、にやけそうになったが、次の瞬間青ざめた。
「蒼?どうかした?」
「やばい!変な作業手順に慣れない様にしなきゃ。爺ちゃんに出禁されてしまう」
「爺さん?・・・蒼の師匠だったか?」
「そうです。やばい!浮かれすぎた!こっちでの創作はほどほどにしなきゃ」
「やばいと言いながら、ほどほどなのね」
暫く進み、真司が脱線し、また進み始める、その行動を何度か繰り返して、湖を離れる頃には朝になっていた。真司は悪かったと気にしていたけど、蒼は常に脱線しているから気にするなと皆が言っていた。
完全に湖から離れる前に木々の影で仮眠を取り、再び歩き続け、村の宿にたどり着くと、三人は爆睡して暫く起きれなかった。




