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勧誘と思惑

黒露樹(くろつゆぎ)が立ち去った後、城の魔族と再戦が始まると警戒していたが、そんな事も無くあっさりと本当に解放された。

流石に本当に死ぬかと思った。大人数、さらに軍隊の様に統率取れた相手なんて出来る訳がない。

黒露樹(くろつゆぎ)が言っていた〈今は生かしておく〉は城の者達にも伝わっていたと言う事だろうか。

城の外に出て、ようやく周りを見渡す余裕が出てきたのでぐるりと見渡すと、城は丘の上に建っており、穏やかな風が吹き抜け、後ろには湖が見えた。丘を下ると石や岩が突き出ている荒れ地が広がっていた。


本来ならきちんと休める場所を探すべきだけど、距離が定かでない状況で連れ回す訳にもいかない。

美和(みわ)達の体調を考えると(すぐ)に移動は無理だと判断して、危険を承知で、

今だけでも城の者は追撃しない事、城の近くでは魔物達も大人しくしているだろうと、観測的希望で門から少し離れた所で休む事になった。クロ、シバ、ミヤギには最悪を想定して魔力感知や警戒はお願いしてある。

(つら)そうにしていた美和(みわ)達も少し顔色が良くなってきた。


手甲に付与した水魔法を発動させ(ちゃんと動いて良かった)、直径15cmの水球を作り、薄い空気の膜を張り水球を覆う、上部から3cmほど下辺りの膜の部分に3cmの穴を開け簡易コップの出来上がり。

全員に配り終わった頃、ボロボロになっているトル達が到着した。

遅いと文句を言いたかったけど、武器は(かろ)うじて使えるが、防具は壊れ、全身泥だらけ、擦り傷だらけの姿を見ると、止めた。

そんな姿になってまで、リョクを助けに来た事が素直に凄いと思ったから。


トル達はリョクの無事な姿を確認すると泣きながら喜んで、リョクも凄く嬉しそうだった。

トルと目が合い、1人元気な(あお)を不審に思ったが、リョクの説明で納得してくれた。

(あお)達には貸しができたな。でも、どうやって俺達より先に進めたんだ?」

うん、当然の疑問だよね。どう説明しよう?クロの特技って言って良いのかな?

言葉に詰まっていると、真司(しんじ)が代わりにそれらしい理由を答えてくれた。

「お前らは魔獣か何かに引っ掛かってたんだろうけど、クロの野生のカンで俺達は回避出来た。その差じゃないのか?」

「何だよそれ!羨ましい!」

小声で真司(しんじ)にお礼を言うと、本当の事を話して面倒な事になるよりは良いだろうという返答だった。

皆の体調が落ち着いた頃、囚われていた人達についてどうするか話し合った。

此処から近い街に行き、ギルドを通して保護してもらう方が各村への連絡がスムーズに行われるだろうと話が(まと)まったが、真司(しんじ)はこれ以上同行する事に反対した。リョクが無事だった事を考えれば、次は自分達のこれからの事を考えなければならなかった。

けれど、トル達4人だけで一般人を保護しながらの行動は厳しい事もあり、結局真司(しんじ)が折れて街まで同行する事となった。


トル達が先頭に立ち、中央に囚われていた一般の方々、後方に私達という形で警戒しながら街へ向うこととなった。

「結局私が1番役に立てませんでした。ごめんなさい」

リョクが前を歩くトル達に謝っていた。それを聞いた男女が

「そんな事はないです。私達が諦めても、貴方は何度も励ましてくれたじゃないですか。必ず助けが来るって。」

「そうだよな。あの魔力に当てられても発狂せずにすんだのは、この子が助かるって言ってくれてたからだろうな」

カガリがにやにやしながら

「なによ。1番おいしいのはリョクじゃないの?」

笑いが広がり、皆笑顔で和やかな空気が流れた。


「リョク、発狂って?何か物騒な単語が」

「さっきの黒露樹(くろつゆぎ)って人もそうですけど、魔力の強い者は圧倒的な威圧感を持ってて、対抗力、抵抗力が弱い者は存在が不安定になってしまうんです」

「え?魔力酔いの事だよね?乗り物酔いみたいなものじゃなくて?」

リョクは苦笑しながら説明を続けた。

「不安定と言うのは適切じゃないかもしれないですが、恐怖、絶望とか負の感情に染められていく状態に陥ります。長く続くと自暴自棄になり、発狂もあり得るという話です」

黒露樹(くろつゆぎ)、存在自体かなりやばい人。


真司(しんじ)美和(みわ)に抱き着いた。

「うおっ?」

「わ、どうしたの?」

二人が無事で良かった。元気な顔を見れて良かった。急に怖くなった。

「二人とも体調はもう大丈夫なんだよね。無理してないよね」

美和(みわ)は腕を離すと、びしっとデコピンしてきた。地味に痛い。そして酷い。

「いっった!」

「バカ(あお)、ちょっとは心配する側の気持ちわかった?でも、心配してくれて、ありがとう。もう平気」

「痛そうだな。あぁ、俺も平気だ」

「良かった。クロ?何か大人しいね」

『街に着いたら説明せなあかんからな』

「あ。私も二人に話ある。真面目な話」

「今じゃ駄目なの?」

「解った、トル達と別れて落ち着いたら聞こう」

「・・・・!解ったわ」

はぐれ(だね)の話は他の人には言わない様にしている。

無知を理由に騙される可能、偏見を持つ者、等々のトラブルを避ける為真司(しんじ)が提案した事。そんなに心配しなくてもトル達は大丈夫だと思うけどな。


何回か魔獣と戦闘となったが、トル達だけで十分勝てる相手だった。『これは俺達が受けた仕事だから最後くらい』と張り切っていたという事もある。

荒れ地と進むと、草原が広がり、ようやく街に辿り着いた。

街は高い塀に囲まれ、門前では検問の為、人や亜人、様々な種族の列で溢れていた。通行書や手形は持っていないと言うと、トルが手続きをしてくれた。

次回の為と思い、私達が横から覗き込んでいたので、書きにくそうではあったけど。

問題なく街に入れ、門で解散かと思ったが、トル達がどうしてお礼がしたいのでギルドで待っていて欲しいと言われ結局最後まで一緒に行く事となった。


紅の街 クニクス

流石に街と言うだけあり、色々な店や種族で賑わい、美味しそうな匂いが彼方此方から漂ってくる。ぐぅーと盛大なお腹の音が鳴り、皆の注目を集めるだけで無く、(あお)だしね、とクスクスと笑われてしまった。

賑やかな中でもお腹の音が響くってどうなの?

うにゃあ、と呼ばれ下を向くとクロにまで呆れている雰囲気なんですけど!くそぅ!

「ギルドは軽食ならあるから、もう少しだけ我慢しましょう?」

リョクが教えてくれたので、もう少し我慢します。我慢して下さい、私のお腹。


クニクス中央ギルド 

煉瓦(れんが)で造られた店構え。来客が店内に入ると、店員が駆け寄り、食事かギルドか確認し、食事は右へ、ギルドは左へ案内される仕組み。

赤と白を基調とした服装で、下は赤いミニスカート、裾に白のレースがひらひらと揺れ、柔らかそうな生地で作れてとても可愛い感じ。

「美和に似合いそう」

「えー、私はあっちのロングスカートにスリット入っている方が大人っぽくて好き」

「何、何?可愛い服の話?私も入れてよ」

「おい、カガリ。お前は仕事中って事忘れるな。じゃあ、皆さん少しお待ち頂けますか?ギルドに報告してきます、その後対応をご報告しますので」

入口を入りトルがギルドの担当者に説明すると、待合室に通された。

「トルがリーダーっぽい」

「そうなの。うちのリーダー外面だけはいいのよ」

(あお)、カガリ、後で覚えていろ」

ぶつぶつ言いながら、トルはギルドのカウンターへ今回の状況の記された書類提出に向かった。


待つだけでは暇なので、トルの後ろで見学していると呆れた顔をされた。

「別に面白いものは何もないぞ?」

「いいから、いいから」

受付担当のカウンター内は、きっちりした制服を着た様々な種族の職員が、事務処理で慌ただしく動き回っていた。

提出した書類を確認後、担当してくれた青年が、もう暫くお待ち下さい。と言ったまま、なかなか戻って来ない。

「遅いね、何時(いつ)も待たされるものなの?」

「いや、今日は混んでいるのか?」

カウンター奥のドアから、190cm程の大きな紺のジャケットに白いシャツ、ジーンズを着た周りと違いラフな服装の男性が出て来ようとして、がつっと額をぶつけていた。受け身が取れなかったみたいで、かなり痛そう。

「身長大きいと大変なんだね」

「は?」

「ほら、あの大きい人がぶつけてた」

トルは(あお)が指を指す方を見てみると、確かに額が赤くなり、苦笑い男性が此方に向かってくるのを確認すると、ぎょっとした。

「ギルド長?何でいるんですか!?」


中央ギルドの長 ユサギムは、堅苦しい事を苦手とする余り威厳のない、自称外には厳しく内には甘いと宣言する変わり者。

各地方の会議等で不在が多く、代行で副長が運営を行う為、副長が長と思っている者も少なくない。

今回、久しぶりにギルドに戻ってきたのは、高レベルの魔獣が一部の地域に多数集中すると情報が入ったきた件で、生息バランスが崩れているかの調査の為である。

トル達の提出した報告書の結果により、高レベルの魔獣出現も魔王が絡んでいる事が確定した。

だが、魔王が立ち去った事から緊急事態は回避出来たと予測し、通常の警戒態勢に戻す指示が出された。


手続きが終わり、保護した方達は無事にギルドが責任もって各村への手配を行ってくれる事になったとトルが教えてくれた。

そして現在、とても居心地の悪い状況になっている。トル達だけなら解るけど、私達までギルド長室に呼ばれ、目の前にギルド長が座っている。例えるなら、職員室よりランクアップして校長室に呼び出された居心地の悪さ。特に何も悪い事はしていない筈なんだけど、そわそわと長居したくない空気。

2階にあるギルド長室の室内はシンプル、窓側に仕事机があり、部屋の中央にテーブルとその左右に長椅子が置かれている。今わ椅子が足りないので簡易椅子が用意され、私達が使わせてもらっている。

ギルド長は皆が座るのを確認すると話を切り出した。


「さて、客人達には改めて協力感謝する。もし良ければ、もう少し協力願えないだろうか。報酬は善処しよう」

穏やかな笑顔で私達三人に向かっての言葉だった。

協力?報告書では聞いていても実力を確認していないのに?

隣でトル達は純粋に喜んでいる。

(あお)達もギルドに入るのでしたら、一緒に仕事出来ますね?」

「俺は歓迎するぜ、真司(しんじ)はもう少し鍛えないと駄目だけどな」

トルはいちいち一言多いな。真司(しんじ)は特に気にせずギルド長に質問を投げかけた。

「違ったら撤回するが、要するに危険分子となりそうだから手元に置いて監視したいと、そう聞こえたんだが」

「え?」

一瞬しんと静かになり、皆真司(しんじ)と長を交互に見る。長はふっと鼻で笑ったかと思うと、目は鋭くなった。笑顔のまま。

「トル達が気に入る人物なら平和的に話が進めると思ったんだが」

「平和的というのは御しやすいって事か?個人は良い人間でも、組織でも良い人間とは限らない」

真司(しんじ)と言ったか、組織に属した事があるならもう少し言葉を選んだらどうだ?」

「十分言葉を選んでいるつもりだけどな。始めから俺たちを監視対象と見ている人間に敬意は少ない」

「まだ、監視するとは言っていないが?」

「話によれば魔王は凶悪、そこから無事生還する時点で怪しまれるのは妥当だとは思う。けど、あからさますぎる。討伐ありのギルドに試験も無く優遇する時点で怪しいだろう」


「ふむ、見解は悪くはないが、報酬だけ貰って持ち逃げる手もあるだろうに」

「ギルド長?真司(しんじ)達はそんな奴らじゃありません!!」

「トル、ありがとう。でも今のはユサギムさんの冗談だ」

「へ?」

「大体そんな事してみろ、それこそユサギムさんの思惑通りだ。犯罪者としてギルド管轄で監視できる」

「なるほどー」

(あお)・・・・解っているか?お前も美和(みわ)も疑われているんだぞ?」

「解っているけど、真司(しんじ)は結局どうしたいの?」

「面倒事に関わるのは御免だ」

「ですよねー。でも、ユサギムさんの思惑判った上で断わるって直接言うの、それもリスク高いんじゃないの?」

「そうかもな。けれど、今言って置くのは後々、交渉材料に使う機会があるかも知れないからだ」

「な、何だよ。真司(しんじ)は自意識過剰だな。ギルド長は善意で言ってくれてるだけだろ」

「トル、報告書に(あお)達が持つ武器の事も報告したんじゃないのか?」

「それは・・・・」

()()に対する警戒じゃない、()()()()()、及び()()を持っているのが、今現在俺達だけと言う事に警戒されているんだろう」

ユサギムさんはじっと私達を見た後

「そこまで解っているなら、おかしな行動は取らないだろうな。仕方ない、今回はこちらが引き下がろう」

私と美和(みわ)だけでなく、トル達も驚いていた。トル達は思惑なく誘ってくれたのは解って良かったけど、ユサギムさんの言葉・・・今回は?次回もあるって事?・・・無い事を願います。


やっと解放され、ようやくご飯!

トル達のお勧めの店は和食に似た料理で、懐かしい味がお腹に響きかなりの量をごちそうになってしまった。

ゆっくりし過ぎて既に夕方、慌てて宿を探す事になり、何とか一室だけでも空いている宿を見つける事が出来た。

「うぅ~」

「・・・」

美和(みわ)、我儘言わない。仕方ないだろ、空いていないんだから。合宿と思えばいいよね?」

借りられた部屋にはベットが二つ、ソファが一つあり三人でも窮屈感を感じず泊まれそうなんだけど、男性と同じ部屋は嫌だと美和(みわ)が言い始めた。お年頃だしな。

とりあえず、埒が明かないので話題を変えよう。

「真面目な話をしよう、私とクロどっちが先に話する?」

「・・・どちらでも」

「私はクロの話の方が気になる」

にゃあ、とクロが返事をしてくれたのでシバに通訳をお願いした。クロがこれまでどう過ごしてきたか、そしてクロが自分の世界に戻る時に私達を巻き込んでしまった事を話してくれた。元の世界に送り届けると約束してくれたのだけれど

「補足の形だけど、私の聞いた話もいい?クロは元の世界に送れると言ったけど、問題があるんだ」

「問題?」

黒露樹(くろつゆぎ)が言っていたから本当か解らないけど。こちらの世界には魔素って言うのがあって、この世界の食べ物とか取り入れると体に馴染んで、元の世界に帰ると魔素不足で消滅するとか」

「は?なんだよそれ?」

「魔法使う時の元素の一つらしいけど」

「冗談じゃないわよ!帰れないって事と同じじゃない!先に言いなさいよ!」

「嘘か本当かは解らないんだ。でも、クロに今直ぐに送ってもらうのは危険かもしれない。当初の予定通り街へ行って、保護機関とかで確認してからでも安心じゃないかな」

本気(マジ)かよ。そんなにのんびりして、戻ったら無職なんてシャレにならないぞ」

「何なのよ、クロが確認しなかったせいじゃないの?」

「クロだって被害者だよ」

「・・・そうかもしれないけど、じゃあ誰に文句言ったらいいのよ」

結局最初の目的地から変わらないだけ。機関でなら、こちらと元の世界の時間の流れがどの位の差異かも解るだろうか。

「クロが悪い訳じゃないよ。悪いのは前の(マスター)なんだから。今日はもう寝よう。きっと頭の整理が追いつかないから、明日また考えよう?」

二人それぞれにベッドを譲り、私はソファを使うことにした。

「クロ、おいで」

にゃあ、と返事を返してくれるけど、元気無くのそのそとソファに登ってきた。流石に私と大きいクロが横になると狭いけど、今日は仕方ない。

「話してくれてありがとう。これからどうするかは、一緒に考えたら良いから。一人でよく頑張ったね」

頭を撫でながら話しかけたけど、返事は無かった。もう、寝たのかな。

クロも色々あるだろうから、また明日。


外の賑やかな声が響いている。宿の裏に面した通りで朝市が始まる時刻。もう少し寝ていたかったけれど、すっかり頭は覚醒してしまったので、諦めて起きる事にした。

「おはよう」

美和(みわ)は既に身支度を整え、元気に挨拶をしてきた。昨日は皆凄く落ち込んでいたので心配していたんだけど。

「なる様になる!とりあえず、今出来る事頑張るわ」

相変わらず、悩んでも最終的には適応する所は凄いな。後は真司(しんじ)、社会人は色々大変そうだけど。

朝ご飯に向かおうと布団を被っている真司(しんじ)に声を掛けたけど返答は無く、仕方ないので美和(みわ)とクロとで買い出しに向かった。

折角なので、朝市を見て回る事になり、ゆっくり周りを見ていて思った。

色々な種族がいるけれど、何かのイベント会場に着た印象で、異世界に来たという実感より海外旅行に来た感じしかしない。帰る方法が未確定なだけで。

あぁ、でも当初の道順と離れてしまったので、宿に戻ったら受付のお姉さんに道を聞かなければ。


ピコーン

何か私の第六感が反応!!

美和(みわ)さん」

「却下」

「まだ何も言ってない」

隣を歩く美和(みわ)に確認しようとしたら、バッサリ切られた。

(あお)のそのニヤけた顔を見れば判るわよ。鍛冶屋か道具店でも見つけたんでしょう?せめて、朝ご飯食べてからにすれば良いでしょう?」

「覗くだけ!後にしたら混むかも、だし!お願い!」

「はぁもう、私が買ってくるまでの間だけよ?戻ってきたら宿に帰るわよ?」

「ありがとう!クロはどうする?」

「飲食店はペット嫌がるかもしれないから」

「でも一人で危なくない?よし!クロは影ながら美和(みわ)を守って」

「あんたは・・・見学諦める選択肢はないのね」


呆れている美和(みわ)達と別れ、早速熱気が漏れる店内を覗くと、大当り!!

店は今まで見た中で1番大きい店舗。でも、窓からは、カウンターの店員と飾られた武器や防具しか見えない。工房は奥だろうな。やっぱり広くて、道具も見た事のないものがあったりして。

色々想像して、うきうきする気持ちを抑えながら店内に入ると、入口の右横にカウンターがあり、カタログ等が置かれ、店内の壁に剣や槍等の武器、棚や床には防具や魔道具等が所狭しと飾れていた。お値段に応じて揃えられる大型店。


「すいません、この商品はこちらのお店で作られているんでしょうか?」

「はい、オーダーメイドも承っておりますから、細部まで(こだわ)りの1品を仕上げる事が出来ます。この街でも、私どもの店が1番人気でございます」

おぉ、オーダーメイド、いい響きだ。

「工房を見せて頂きたいのですが、可能ですか?」

「申し訳ありません。手法は企業秘密となっておりますので、見学はお断りしています」

「体験なんかもありませんか?」

「申し訳ありません」

粘ってみたけど残念。やっぱり村と違って厳しいのかな。諦めて帰ろうとした時、勢い良く扉が空いた。

「責任者出しやがれ!!」

がっしりとした体格の大男が入って来た。軽装備に折れた剣をもってずかずかと店員に詰め寄った。

「1度しか使ってねぇのに、折れる不良品売りやがって!弁償しやがれ!」

「お客様、他のお客様のご迷惑となりますので、こちらでお話を伺います」

言葉は丁寧だけど、裏から警備員がやって来ると、叫ぶ男性を引きずって連れて行った。

「お客様、お騒がせしまて、大変申し訳ありませんでした。ごゆっくりご覧下さい」

大型店ともなると、色々な客がいるのだろうか。店員は手慣れた対応後、通常業務に戻っていた。窓際にいる他の客がひそひそと笑いながら話ているのが聞こえてきた。

「馬鹿だな、あの男。自分で目利きできないから悪いんだよな」

「当たり外れがあるの解ってなかったんじゃないのか?安ければ安いだけ問題があるのは当たり前なのにな」

「文句まで言って。あいつ、もうこの街で武器買えないぜ」

「どういう事?」

「うわ、何だよ。おまえ」

「話の途中ごめんなさい。武器を見に来た者です。買えなくなるって・・・」

「新米冒険者か?気をつけろよ。この店品数は多いが、外れも多い。かと言ってさっきの男みたいに店に睨まれると、裏から手を回されて他の店でメンテナンスさえ受け付けて貰えなくなるからな」

「・・・・素人に見分けつけれませんよ?」

「そこは、まぁ。頑張れ。自分で鍛えるか、目利きの奴雇うとか」

「新米。教えてやったんだから、俺たちが言ってた事、ばらすなよ?」

「言わないよ」

店を出ると、丁度美和(みわ)が戻ってきた所だった。

「どうだった?楽しかった?」

「闇が見えた」

「は?」

「急いで戻ろうか。真司(しんじ)もお腹減っているだろうし」

「??・・まぁ、いいけど」


宿に戻りドアを開けると、トル達が来ていて部屋の空気がお通夜の様に重かったのでそっと閉めた。

「何閉めてんだよ!帰って来たならこいつ等何とかしろ!!」

真司(しんじ)とドアの開閉の攻防戦が地味に始まった。

「人には面倒事に関わるなって言っておいて。何か解らないけど、検討祈る!頑張って」

「人が寝てる所をこいつ等が押し掛けて来たんだから仕方ないだろう」

(あお)。あの、ごめんなさい」

リョクの控えめな声が聞こえたので、諦めて部屋に入る事にした。話の内容は魔剣の店について詳しく聞きたいという事だったけど、前の話以上の事は何も言えないと言うと、トルはかなり落ち込んでいた。

「トル、急にどうしたの?前はカガリの方が食いついていたのに」

「不良品の事を店に連絡したら、ちょっと問題ある店の品だったんだ」

「問題?」

「はい。この街には、たまに不良品が混ざっていると噂があるお店があるんです」

「噂・・・・二つ目の通りにある大きな武器屋?」

「そう、それ!別の村で買ったから誰も気に留めなかったけど、(おろし)先がムイナグロ店だった」

「ムイナグロ?ハラグロじゃなくて?」

「俺も言いたいけど、止めとけ。武器買えなくなるぞ。で、(あお)達が買った店なら安心して買えると思って訪ねたんだ。朝からすまん」

「ねぇカガリ、まさか街で買えなくなったとか言わないよね?昨日の今日で・・・」

4人の力無く笑う姿が答えだった。うわ恐っ!!よく潰れないな。


「何よそれ!理不尽すぎない?不良品だったんでしょ?」

「大手だからなぁ」

(あお)!何とかしてあげなさいよ!」

「えー美和(みわ)さん、無茶言わないでよ。窯も無いのに」

『魔法で火力も水もなんとかなるやろ』

え?この世界窯なしで焼けるの?それって通常より集中力必要なんじゃ?

「うーん、期待はしないでよ。とりあえずトル達は、人気が無くて火を使っても良い広い場所と、武器を作る材料を用意して、壊れた装備も。それから・・考える」

「お?おう。なんだ?鍛冶職人か店に連絡とる方法があるのか?」

「材料次第」

「解った。夕方また来る。俺とタタラは材料集めて、カガリとリョクは場所の検討を付けてくれ」

「うん」

「わかった」

バタバタと4人は動き始めたのを見送った後、ちらりと真司(しんじ)を見た。

「受けたら不味いと思う?ギルドに警戒されているのに」

「色々と問題があるのは確かだけど、あいつら今の壊れた装備で仕事受ければ確実死ぬだろうしな」

「え、真司(しんじ)さん?大げさとかじゃなくて?」

「武器なしで魔獣討伐が出来ると思うか?でも、ギルドと噂の店に睨まれる事だけは覚悟しておくんだな」

「どっちを選択しても最悪じゃないか。だったら、武器作るよ、何もないよりは()()だと思ってもらおう」

「さっすが(あお)!」

「嬉しくない。でも真司(しんじ)が元気になって良かった」

「帰れなかった場合、クロの飼い主である(あお)に責任とってもらう事にした」

「え?お金なんて無いの知っているよね?」

(あお)が鍛冶屋を開いて、そこで営業として雇って貰う」

「ぷっ、いいじゃない。じゃあ私受付やるわね」

「夢があっていいけど・・・店構えるのもお金要るじゃないか」

「店は軌道に乗ってからで良いだろう。まずはトル達に装備を使った感想を口コミで広げて貰う。上手くすれば他からも直で依頼が来る。欲を言えばギルドを交渉相手にするのも良い」

「うぇ~、私の責任が重過ぎるんですけど・・・」

「最低価格だけ設定して、具体的な金額は現物見てから決めて貰う方法もあるが」

「それでお願いします。命を守る装備なんだよ、下手な物作れない」

「下手な物作る店もあるみたいだけどな。とまぁ、最終手段はそんな感じだ。帰れるのが一番だけどな」

「元の世界に戻った時の仕事は、爺ちゃんにツテがないか聞いてみるから」

「俺は鍛冶職人には興味ないぞ」

「知ってる。爺ちゃんの常連客の方の話、これもあまり期待はしないで欲しいけど」

「本人なしで話進めても仕方ないからな。で、話は元に戻るが俺達は何を用意すれば良いんだ?」

「え?」

「トル達の装備を造る話」

「何も、トル達の分なんだから彼らに用意して貰う。夕方まで自由にしてたらいいし、それよりも重大な事があるんだけど」

「え?何?(あお)?」

「なんだ?また何か・・」

「朝ごはんがすっかり冷えちゃったじゃないか!!!!」

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