十三歩,
頭を抱えるエレルの後につき、ガウンは部屋を出る。
扉の向こうは外ではなく、まだ建物の中のようだ。
細い廊下を進み始めて数秒、エレルは右に曲がる。
そこには、下へと続く階段があった。
地下へと下がっているのか、自分がいた部屋が二階以上の高さにあったのかは分からないが、明暗の差は無い。
響く足音に加え、何処かから唸り声が聞こえる。
付いてくるべきではなかったのだろうか。ガウンは緊張から息を飲む。
エレルは、一つの扉の前で歩みを止めた。
ドアノブに手をかけたかと思えば、勢いよくドアを叩き開く。
「ユノア!人のものを勝手に持ち出しては駄目でしょう!」
雷でも落ちるような怒声を浴びていたのは、若き青年であった。
部屋の中は油と鉄の匂いで充満しており、大きな機械音が休みなく鼓膜を刺激してくる。
奥の中心にある巨大な円形のものは一体何だ。全ての動力が流れ込んでいるようだが。
青年は太さも大きさも様々なパイプの間で、小さく丸まっている。
「だって、気になるじゃないか。あんな変な武具なんて、見たことないんだから…」
聞き覚えのある、気だるそうで、必要最低限しか出さない声。
彼の名は、ユノアというらしい。波がかった薄い茶色の髪の毛は、右目を覆っている。
「眠っている間に取るのは、ただの犯罪だぞ。まさかとは思うが、さっきの爆発音はそれに使ったんじゃないだろうな。」
どうやらそのまさからしく、ユノアはドレアラから目を逸らす。
「どうして何も考えなかったの?見たことのないものをどうやって弁償するつもり?」
「ち、違うよ。」
迫ってくるエレルとドレアラに、ユノアはたじろぎながらも潔白を主張した。
「いや、爆弾を乗せたのは嘘じゃない、本当だから申し訳ないとは思ってるけど…ちゃんとあそこの台を見てよ。」
彼の指差す方向は、部屋の丁度中心部。
その上には、黒い煙を上げながらも輝く、ガウンのロンフォスが横たわっていた。
「何をしてもびくともしないんだ。切断は勿論、火の中に放り込んでも、急速な温度差を与えても駄目だったから、最終手段で爆弾を使ってみたんだけど…」
「お馬鹿。」
エレルは、躊躇なく青年の頭を叩く。
「それはあくまでも結果でしょ。何ともなくお返しできるから良かったものの…ちゃんと謝りなさい。」
ガウンの目の前に引きずり出された青年は、彼女の頭二つ分程上にあった一から頭を下げた。
「ご、ごめんなさい、勝手にこれ取って…」
「取っただけか?」
「取って、その…色々と負荷を与えて、ごめんなさい…」
エレルとドレアラも、ユノアに並んで頭を下げた。
現状理解はできていないが、モンドもガウンに謝罪をした。
「いや、そんなに謝らなくても平気。無傷で返してもらえたし、私自身助けてもらった身だから、責められない。」
顔を上げたエレルとドレアラは、どこか不服そうな顔をしている。
何に納得がいっていないのだろうか。
「いえ、それでは駄目よ。あなたを助けたのは、あなたに懇願されたからじゃないもの。運良く罪とならなかっただけで、この行為は許されるものじゃないわ。何か、他に私たちにできることはない?」
「息子の過ちは、親の責任でもある。このままでは、俺たちが納得できない。」
だから、何に納得を求めているのだ。今度はガウンが頭を抱える番らしい。
その後ガウンがどう訴えても彼らの主張は変わらず、ガウンはとりあえずこの油臭い部屋を出ることを提案した。
階段の途中で、ガウンはふと重要なことを思い出した。
「聞くのを忘れてたんだけど、ここは一体何処なの?」
「ここは、リスィアだよ!」
ガウンの右手をいつの間にか掴み拘束していたモンドが、元気に答える。
「そう、ここは忘却口リスィアよ。テクノル砂丘の下、南側に位置しているわ。」
まさか地下にこのような澄んだ空気が通っているとは。ガウンは思わず目を見開いた。
「あの砂の下に、暮らしているの?」
「そうだ。砂の下って…おまえさん、テクノル砂丘を知らないのか?」
無論知るはずもなく、ガウンは首を横に振る。
これまた珍しい旅人もいたもんだと、ドレアラは驚いている。
階段を上り終え、先程の部屋とは反対方向に廊下を進む。
すると、随分と天井の高く開けた部屋に出た。
テーブルや植物、釜戸等を見るに、ここは彼らの居住スペースにおける中心部なのだろうと考えがいく。
「さ、座って。飲み物でも飲みながらお話しましょ。」
時間はあまり無いと言ったことを、忘れられたのだろうか。
ガウンは再度それを伝えようとしたが遅く、既にテーブル上にはコップが五つ並べられている。
「テクノル砂丘は、非常に広大な人工の砂丘よ。何かしらの乗り物が無ければ、幾晩を過ごしても水には辿り着けない。」
エレルが岩の奥から取り出してきた黄色の飲み物は、香りからして甘く、ガウンの嗅覚を奪った。
一口飲んでみれば、そこらの木の実と比較して何倍も濃い甘味が下を襲う。
かといって、その甘味はくどい訳ではない。
あのスープといい、彼らはそのような食糧を元に生活を営んでいるのだろうか。一気に飲み干す前に、ガウンは慌ててコップをテーブルに置く。
「ガウンは、一体何処から来たの…?」
ロンフォスから興味が湧いたのか、ユノアはガウンの顔色を恐る恐る覗き込んでいる。
「私は、ミレーの橋の向こうからこちらに来たの。元々住んでいたのは、その先にある森。」
「ミレーの橋だって?」
その単語を述べた途端、彼らは身を乗り出した。




