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槐安のフテラ  作者: 佐々木 律
放浪砂丘
20/23

十一歩,

「ほら、旅人だって!嘘じゃないもん出てきてみてよ!」


影の前に降り立ったは、細身の少年。



「旅人だって?こんな時期にか。」


次に降りてきたのは、少年とは比べ物にならない程筋肉質で背の高い男。



「えぇ~…放っといて早く家帰ろうよ…」


まるで寝起きのようなかったるい声の主は、小さな穴から上半身しか出していないようだ。



「まぁまぁまぁ、こんなところに一人でいるのは危険だわ。私たちの家にいらっしゃいな。」


先程の大きな男に抱き抱えられながら地に足つけたのは、ガウンと似た長いコートを羽織った女性であった。



警戒により、ガウンは彼女の手を取らずに立ち上がる。



慣れた目に写ったのは、褐色の肌に赤い瞳を持った四人の男女。


髪色はそれぞれで微妙な違いがある。


背にある太陽の光など無くとも、皆の目は輝いているようだ。





「太陽…?」



あぁ、忘れていた。もう夜は明けているんのだった。




長かった昨日がはっきりと今日になったことに気がつき、ガウンはその場に崩れ落ちた。



思わず名を叫びそうになったアネスは何とか言葉を飲み込み、ガウンのコートの深くへと潜る。



「た、倒れちゃった!」


どうしよう、と慌てふためく子供の声が聞こえる。


「とりあえずトープに乗せるぞ。もしかしたら脱水かもしれない。」


水ならば先程存分に浴びてきたがな。アネスは必死にガウンの胸元を叩く。


「えぇ、連れてくの?」


「ここで見殺しになんてできないでしょう。さぁ飛ばすわよ。」


まったくもって人の話を聞かない者たちだ。一切声を発していないアネスは不服そうに息を吐く。




コートの隙間から彼らの動向を覗くと、何やら冷たいものの中にガウンは担がれて入っていく。


何だここは。鉄か何かか?自然の香りが一切しない。


中は明るいが、太陽の光とはまたそれも異なる。



息を凝らして気配も殺して周囲を眺めていると、突然耳を劈く音が響いた。


がちゃんという音は、先程この者たちが出てきた穴が閉められたのだろうか。



次は、地震のような揺れに襲われた。まったく、気が休まらない。




そこから先、誰かがガウンの身体を支えていたのか、コートが視界を埋めたまま動かなかった。





揺れが収まった時、再びがちゃんという音が響いた。どうやら目的地に到着したらしい。


ガウンは未だ目を覚まさず、再び男がアネスごと担いで外へと出る。



空気が変わったことで、アネスも外に出されたことに気がついた。




何だこのヒトの気配は。


先程までと比較して、確実に同空間に存在している者の数が増した。


皆が皆で声を発しているため、それぞれの会話の内容はあまり分からない。



そろそろ疲れてきたな。アネスが耳を閉じようとした時、先程の聞き覚えがある声を聞いた。


「この子、旅人みたいなのよ。今は気を失ってるわ。一旦私たちの家で預かることにするから、誰かお水を持ってきてくれない?」


私が水を、私は食糧を、私は衣類を。これまた、王政のような従いようじゃあないか。


何とも面倒な者に捕まったかもしれないと、アネスは少々頭を悩ませていた。



どうやら屋根のある建物に入ってすぐ、ガウンはベッドなるところに横に寝かされた。


喉の動く音がする。水を飲まされているのか。



身ぐるみ全て剥がされる可能性も考慮していたアネスから見て、まさにこれは救助されている状態であった。


面倒なのか、聖人に近いのか。これまた理解できないことが増えてしまった。



「少し寝かせてやろう、呼吸が落ち着いた。」


「そうね。まったく、何日もろくに食べてないのかしら。この細さは異常よ。」


「隈すごいなぁこの人…徹夜とか俺絶対無理…」


「早くお話してみたいなぁ!」


母親のように女性は少年を窘め、男が皆を連れて部屋を出て行ったようだ。




そうか、疲れていたのか。それもそのはずだ、昨日からガウンは一睡もしていないのだから。


アネスは、自分を責めた。睡眠も食事も必要としない自分に合わせ、ガウンの行動を制御してしまったからである。


根本的に自分とガウンは異なるという、基本的なことを失念してしまうとは。


さっそくミレーの忠告が刺さる。



今は、寝かせてやろう。


良い夢を見せてやることはできぬが、目覚めてくれるだけで今は良い。




アネスはガウンの心に語りかけることをやめ、自分も真似事をするように丸くなって目を閉じてみることとした。




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