表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
槐安のフテラ  作者: 佐々木 律
ひとりと独り
14/23

五歩,

アネスの考えは、こうだ。




まず水面までガウンを連れ、そこで今現在酸素を保っている膜を壊す。


次にアネスが水中へ戻り、竜巻そのものを水面下まで誘導する。


ミレー本体を探り出し、風によって作り出した風を彼に与えるという流れである。




「だが、最後の行程は私には出来ぬ。」


アネスは背にガウンを乗せ、膝を伸ばす。


「今の私は、風を操ることにすら限界がある。恥ずかしいことに、今現在この膜を保つことで精一杯だ。だからガウン、次は躊躇するな。」


「え?」


彼女の返事を待たずして、アネスは地を蹴った。



猛スピードで水中をかけていくアネスを、竜巻の奥の光が見つめている。




次の瞬間、鋭い水の刃がまるで本物の刃物のように、アネスらに向けまっすぐに飛ばされた。



それらをさすがの眼で回避し続けるも、人間一人を背負っている状態では厳しいものがあるのだろう。


アネスは数本の刃によって傷つけられてしまった。



今の風は盾にはなり得ない。ガウンは、アネスの言葉を思い出した。



「アネス!」


「頭を上げるな、私なら問題ない。」


膜をすり抜けていった赤色が、濁った水を色づけていく。


一瞬たりと表情を歪ませないアネスに、ガウンは苦痛を感じながらも従った。



ほんの数秒でたどり着いた水上は、まさに天井のすぐ傍であった。



「まずいな。」



想像していたより、遥かに空間が狭すぎる。


いつの間に水位が上昇していたのか、当初見ていた窓も水に埋もれていた。


これではイチかバチかの作戦を施行することすら難しい。



「この状態でミレーを連れては来れぬ、あまりに危険だ。別の方法を考えねばならない。」


「天井を壊して、空間を広げるのは?」


「駄目だ。上空の意思を持った霧をミレーが吸収しようものなら、もう為す術は無くなる。」


この時間すら惜しいというのに。アネスは悔しさで顔を歪ませる。





「じゃあ、下の壁を壊そう。」



突然の提案に、アネスは目を丸くしガウンを見つめた。


「ミレーが霧を吸わなければいいのだとしたら、ミレーを水から出さずに水位を下げればいい。」


「下の階に水を流すということか。」


頷くガウンに、アネスは下を見つめる。



凄まじい速さでこの部屋にたどり着くまで、ガウンは視界こそ確実で無かったが、上昇した感覚は掴んでいた。


今いるこの部屋は、確実に一階ではない。



いや、待て。アネスは再びガウンに向き直った。


「ミレーを下の階へ落とす方が早いかもしれん。」


「竜巻の真下を開けるってこと?」


「そうだ。否が応でも〈滝〉ができるだろう。」


暴走によって力が散漫している今、見たところこの水は重力には逆らえない。


穴が開けば、下に勢いよく全て落ちていく。


「何より、そうすれば私がミレーをわざわざ導く手間も省ける。」


「急ごう、もう細い声も聞こえなくなってきてる。」



そうと決まったが早く、壊れかけた膜を直したアネスは、ガウンを背に乗せ水中へと戻った。




「ガウン、ロンフォスを手に持て。あやつの刃も利用させてもらおう。この水流の勢いに私が乗る、おまえはこの勢いのまま地を壊せ。」


最初の破壊だ。アネスは軽く笑ってみせた。


大丈夫だと、安心させようとしているのだろうか。ガウンは迷いなくロンフォスを構える。



ミレーは、先程よりも多くの刃を飛ばしてきている。


しかし、既に焦燥を振り払ったガウンが、それらからアネスを護った。


広がる竜巻が作り出す流れに乗り、アネスの風が水を帯びていく。




また、聴こえた。


先程から、途切れ途切れに旋律が奏でられているのが分かる。


私の心には、しかと届いているぞ。ガウンは、竜巻に向かって瞳でそう訴えてみる。



彼もきっと今、痛くて苦しくて、もがくことしかできないのだろう。


それでも尚、必死に存在を叫んでいる。




ミレー自身も、未だ諦めてはいない。



では、尚更その手を引かなければならないではないか。


私はもう、苦痛を見たくはないのだ。




「ガウン、今だ!」



この〈破壊〉は、自分の征義の道に通ずるのだろうか。



そのような雑念を置き捨て、ガウンは地に槍を突き立てた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ