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プロローグ どうしようもないバカ


楽がしたい。


好きなことで生きて行きたい。


他人の金で焼肉が食べたい。


そんな人間なら誰しもが思うことを実現するべく、働き手の確保のために召喚術と死霊術を極めた男がいた。


この物語はそんなどうしようもない男と、その可哀想な手足たちの、ほのぼのスローライフの物語である。



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「....っちゃま!ホローぼっちゃま!朝食の時間ですぞ!起きて下さいませ!」


かなり低い、それでいてよく通る声が安眠を妨げる。


「ぼっちゃま!今日の朝食もぼっちゃまの好きな焼肉でございますぞ!さぁ新鮮なうちに起きて頂きましょう!」

焼肉というパワーワードを耳に、少しずつ意識が覚醒する。


開いた眼には布団を引き剥がそうとする男が映った。


「あぁ〜...グラディスか。おはよう。よく寝たなぁ...ン"ン〜...」


「全く、どうしてぼっちゃまはそんなにも怠惰なのです!我が配下にはそのようなものは1人もおりませんぞ!この調子では我が野望の成就も叶いませぬ!」


「ぼっちゃまはやめてくれ...。それとお前の野望を俺に勝手に押し付けるな。」


最早お約束ともなった会話を終え、着替えを済ましてもらい、食堂へと向かう。



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食堂は大いに賑わっていた。吠えているもの、賭けを楽しんでいるもの、朝から酒を煽っているもの。食堂という言葉よりは酒場という表現が正しいこの場所は、憩いの場所でもある。ただそこに居るものたちは皆、異様な姿をしていた。手が多数生えて居るものや翼があるものは序の口、どう見ても卵にしか見えないものや顔が宙に浮いているだけのものも居る。ここに居るのは総称して魔物と呼ばれる異形種であり、中には亜人と呼ばれる人間に近い見た目のものもいるが、全体としてはかなり少ない。見た目はおどろおどろしいが、そこにいるものたちの目は爛々と輝いていた。


「ホローぼっちゃまの入室である!喝采せよ!」


聞くものの耳を震わせる、地獄のうなり声のような、声が轟く。あれほどまでにうるさかった食堂は静まり返り、そして次にはち切れんばかりの歓声が巻き起こった。


「閣下万歳!ホロー閣下万歳!」


魔物たちの視線の先には立派な衣服に身を包んだ青年が立っていた。その隣には豪華なもこもこのローブを着た目つきの鋭い男が控えている。手を軽く挙げ、ひとしきりの歓声が鎮まると青年は口を開く。


「あー、えー、みんな、普段からご苦労。今日も元気に働いてくれ。何かトラブルがあったらグラディスかハンマに、美味しいものや面白いものを見つけたら俺に伝えてくれ。以上」


「閣下万歳!ホロー閣下万歳!」


青年の言葉が終わるとともにまた歓声が吹き荒れる。

それもそのはず、その青年はここにいるものたちにとって恩人であり救世主であり、王なのだ。


その歓声は青年の姿が消えるまで続いた。



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「ねぇ、毎度思うけどあの挨拶いる?めんどくさくてたまらないんだけど。お前王だったんでしょ?なんとかしてくれよ。」


食堂の最奥、その個室に席を下ろした青年はうんざりした顔でぼやく。


「何をおっしゃいます!ぼっちゃまが直々に話をされるからこそ、我らは喜んでぼっちゃまの手足となれるのですぞ!」

食卓の準備を整えつつ、男が答える。


この男、名前をグラディスといい、今でこそ執事のようなことをしているが、かつては世界を恐怖と混乱に陥れた存在、『魔王』の初代、元祖なのである。最近は主人の服の裁縫と家庭菜園が日課になっている。


「はぁ...偉いやつを蘇らせたらその分楽できると思った俺がバカだったのか...うめぇ!うめぇ!!やっぱり他人の金で食う焼肉はうめぇ!」


そして焼肉を美味しそうに貪るこの男、魔王を蘇らせるという人類にとって傍迷惑な行動をとったこのバカこそ、史上最高の死霊召喚士、ホロー・ア・レイジネスであり、『蘇らせるのが偉いやつなら部下もいっぱいいてそいつらみんな使って楽できる』というアホな考えで魔王城跡に忍び込み、ボロ切れのようになっていた魔王の装備を触媒に、魔王本人を蘇らせてしまったどうしようもないバカである。座右の銘は『好きなことで生きていく』。



「まぁいいや、焼肉食ったらまた寝るから、面倒ごとは全部お前たちがどうにかしてね。昼寝終わったら勇つべみて焼肉食って風呂入るから。」


「なっ!こうしている間にも勇者連合が動いているのですぞ!そのような姿勢で世界征服という悲願が達成できるものですか!」


この初代魔王、ホローが自分を蘇らせた理由を、『世界征服を共に歩むため』と勘違いして疑わない。そして自分の存在意義を『ホロー様のすべてのサポート』と信じてやまない、ある種の狂信者である。


「あと勇者連合だっけ?あんなアホどもに関わる気は無いぞ。俺は好きなことで生きていくんだ。」


「なるほど...やはりぼっちゃまは我らのことを第一に考えてくださるのですな、心配してくれるなど恐悦至極に至る思いでございますぞ...」


「なんか会話噛み合ってなく無い?まぁいいや、明日は外に出るから付き添いよろしくな」


「御意でこざいます...ついに世界に進出なされるのですな!我が軍も盤石の体制、共に世界を手に入れましょうぞ!」


「いやちょっと欲しいものがあるだけだから。変な捉え方するの頼むからやめて。」



会話の噛み合わない朝食は一時間半続いた。



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現在、世界は光の時代とよばれ、勇者連合なる組織が幅をきかせている。各国の勇者とそれに連なるものが数多所属しているのだが、主な活動内容が、『新たに世界に魔王が生まれた瞬間に連合総出でボコボコにする』という、ヒーローものの劇場版のような、どっちが魔物だかわからない組織なのだが、人間や亜人の国が最盛期を迎え、人類の敵の魔物に同情するものもなく、魔物たちの中にももはやその動きを止めるものはおらず、闇に生きるものとっては最悪の時代を迎えていた。


そんな中幸運にも究極の死霊術で魔王すら簡単に蘇らせたバカの出現は、魔物たちにとってまさに天からの光、神の降臨、伝説の始まりなのである。

しかもこのバカ、初代魔王だけでは飽き足らず、めんどくさがりやのくせに以上な執着心でたった1人で魔王の遺品を掻き集め、7代までの魔王を蘇らせるというとんでもない偉業もとい異形を成し遂げ、先日12代目の魔王の座に認定された稀代の天才(愚か者)である。




あ、申し遅れました、私、ホロー様の身辺警護及び魔王城の監視、防衛を仰せつかっております、六代目魔王『影のミスト』と申します。以後お見知り置きの程を...。

さて、バカと魔王の生活は、どうなっていくのでしょうか...今後ともお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。


そしてこのことは、くれぐれも、どうかホロー様にはご内密に......。






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魔王名鑑



No.1 初代魔王 闇黒王グラディス



世界に初めて混沌をもたらした伝説の中の伝説。

豪華な漆黒のローブを見にまとい、悪魔の角を生やした世界を闇に包もうとした張本人。

その声は聞くものの聴覚を奪い、闇の世界に引きずり込む。闇魔法と重力を扱う能力主体とした戦法を取り、対策をせずに戦闘したが最後、無限の闇に閉じ込められてしまうという。

初代勇者は女神から下賜された耳栓と光の盾と無重力の具足を用いてこれを無効化、一方的に討伐したとされる。

絶命の際に発した言葉

『こっちの攻撃全部通らんやん、チートやめて!』

はあまりにも有名。

ステータスはMPと賢さが格段に高く、力とHPが低い。バッドステータス無効、闇魔法吸収、光魔法脆弱化を持つ。


主な配合方法

グラディスの右腕×グラディスの左腕 特異配合


好きな言葉 世界征服




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